17 / 20
17.成長
しおりを挟む
帰り道。
日が暮れてしまって橙色の空も徐々に黒く染まりつつある。
春はまだ完全な夜に至るまでは少し時間が掛かる。
以前も通りかかった例の空き地――木造さんの姿はない。
その代わりに、別の人影があった。
それは、立てられたいわゆるママチャリの自転車を見つめる鼎ちゃんだ。
何やら深刻そうな顔をしている。一体どうしたというのだろうか。
「むっ、董弥」
「やあ鼎ちゃん、何してるんですか?」
「いや、その……」
口籠っている。
自転車をちらちらと見て。
これは、つまりは、そういうことでしょうか。
「まさか、自転車乗れないんです?」
「そ、そんなわけあるかいー! わたしはなんでも叶えられるんだぞー!」
「だよねえ~」
「……まあ、自身に関しては万能ではないのだがの。はあ、認めるよ、認める」
「何を?」
「わたしは自転車に乗れない」
「何か小説のタイトルっぽくキリッと言ってみせましたね」
深々とため息をついていた。
そもそも鼎ちゃんが自転車に乗ってすいすい操作している姿が想像できないな。
というかこれまで自転車に乗る機会は――ああ、無いか、無さそうだ。
にしても自分自身には願いごとはできないのかな。
それとも何かしら制約や条件でもあるのだろうか。どうであれ、とりあえず鼎ちゃんが自転車に乗れないというのは分かった。
「じゃあ、練習しましょうか」
「うむ……」
不安そう。
「けれどどうしていきなり自転車に乗ろうと?」
「董弥も自転車を持っているだろう? わたしが自転車に乗れれば休日に二人で自転車を漕いで遠出をするということも可能になるではないか」
「なるほど、それは魅力的ですね」
想像してみた。
二人で笑顔を浮かべながら自転車を漕ぐ光景を。
……ちょっとした幸せを感じる光景だ。是非とも実現させたい。
「昔は二人乗りオッケーだったのに今は駄目なんだものなあ」
「少し古い青春漫画などではよくあるワンシーンだったんですけどね」
「人類はなんでもかんでも規制して、貴重な青春や文化をも規制してしまっている。これはいかんものよ」
「とはいっても安全のためだったりと規制にも様々な理由あってこそですから」
鼎ちゃんは自転車のスタンドロックを解除して引いていく。
「ご飯前まで少し練習するのだ」
「練習しましょう、後ろ支えますよ」
「うむ」
ママチャリは親戚から借りたのだろうか。
サドルに跨り左右に揺れる鼎ちゃんを、キャリア―を押さえて支えをしてあげるとした。
「そういえばこんな時間にどこに行っていたのだ?」
「ん? いやただの散歩ですよ」
「ふーん、散歩かあ」
「ええ」
嘘をついてしまった。
罪悪感が心臓を突く。けれど春音さんからは鼎ちゃんには内緒にと言われているし本当のことは言えない。
「じゃあ少し漕いでみましょう」
「ちゃ、ちゃんと支えているのだぞ」
「支えてますよ、安心してください」
鼎ちゃんはペダルをゆっくりと漕ぎ始めた。
最初の駆け出しは問題なし、ただしやはりちょっと左右に揺れて自転車の漕ぐ感覚にすぐには慣れない様子。
「ぬ、お、おっ~……」
空き地はそれほど広くはない。
ぐるぐると回るしかないが練習にはもってこいだろう。
「どうです? 大丈夫ですか?」
「今のところは大丈夫だ~、でもまだ、まだ離すでないぞっ」
「ええ、分かりました」
一周、後ろを支えながらゆるやかに周った。
二周目、三週目とこれまたまだ左右に揺れる鼎ちゃんの様子からして危なっかしいので支えてやり、一先ずは漕ぐという感触は理解したようだ。
「ふむ、自転車……興味深い」
「乗りこなせると移動が楽でいいですよ」
さりげなく支えを解いてやると、鼎ちゃんは見事に一人で漕いでいった。
「まだ支えてるかー?」
「支えてますよー」
「そうかー」
「いや嘘です」
「えっ!?」
すると後ろを振り向いては、驚いてそのまま横倒れしてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐぬぬ……今一人で漕げたのかわたしは」
よかった、怪我はないようだ。
「そうですね、俺の支えなんて必要なかったんです」
「心の支えとしていつも支えておくれ」
「それはいつでも」
もう一度鼎ちゃんは立ち上がってサドルに跨った。
まだ心は折れていない。
「今度は支え無しでいくぞ!」
「見守ってます」
「見ておれい、ぬぉおっ」
声の勢いとは裏腹に緩やかにペダルを漕いでいく鼎ちゃん。
左右のふらつきは危なっかしく、思わず手を伸ばしそうになったがぐっとこらえた。
徐々に安定していっている。
「おお、漕げてますよ!」
「そうか! ふふんっ、やはりわたしはなんでもできるのだぁ!」
拍手を送る。
鼎ちゃんの自転車デビューの日だ、今日はお祝いだね。
「よぅし、このまま家までゆっくり走る、ついてくるのだ董弥!」
「お供します」
鼎ちゃんと軽く並走する。
すっかりコツを掴んだようだ、俺は結構自転車乗るの苦労した記憶があるのだが、鼎ちゃんは数十分程度で乗りこなせちゃうとは驚きだね。
といってもまだ若干危なっかしく揺れるので油断は禁物だ。
「にひひっ、今度二人で自転車を使ってどこか行こうなっ」
「ええ、是非とも」
鼎ちゃんの成長を見られて何よりである。
日が暮れてしまって橙色の空も徐々に黒く染まりつつある。
春はまだ完全な夜に至るまでは少し時間が掛かる。
以前も通りかかった例の空き地――木造さんの姿はない。
その代わりに、別の人影があった。
それは、立てられたいわゆるママチャリの自転車を見つめる鼎ちゃんだ。
何やら深刻そうな顔をしている。一体どうしたというのだろうか。
「むっ、董弥」
「やあ鼎ちゃん、何してるんですか?」
「いや、その……」
口籠っている。
自転車をちらちらと見て。
これは、つまりは、そういうことでしょうか。
「まさか、自転車乗れないんです?」
「そ、そんなわけあるかいー! わたしはなんでも叶えられるんだぞー!」
「だよねえ~」
「……まあ、自身に関しては万能ではないのだがの。はあ、認めるよ、認める」
「何を?」
「わたしは自転車に乗れない」
「何か小説のタイトルっぽくキリッと言ってみせましたね」
深々とため息をついていた。
そもそも鼎ちゃんが自転車に乗ってすいすい操作している姿が想像できないな。
というかこれまで自転車に乗る機会は――ああ、無いか、無さそうだ。
にしても自分自身には願いごとはできないのかな。
それとも何かしら制約や条件でもあるのだろうか。どうであれ、とりあえず鼎ちゃんが自転車に乗れないというのは分かった。
「じゃあ、練習しましょうか」
「うむ……」
不安そう。
「けれどどうしていきなり自転車に乗ろうと?」
「董弥も自転車を持っているだろう? わたしが自転車に乗れれば休日に二人で自転車を漕いで遠出をするということも可能になるではないか」
「なるほど、それは魅力的ですね」
想像してみた。
二人で笑顔を浮かべながら自転車を漕ぐ光景を。
……ちょっとした幸せを感じる光景だ。是非とも実現させたい。
「昔は二人乗りオッケーだったのに今は駄目なんだものなあ」
「少し古い青春漫画などではよくあるワンシーンだったんですけどね」
「人類はなんでもかんでも規制して、貴重な青春や文化をも規制してしまっている。これはいかんものよ」
「とはいっても安全のためだったりと規制にも様々な理由あってこそですから」
鼎ちゃんは自転車のスタンドロックを解除して引いていく。
「ご飯前まで少し練習するのだ」
「練習しましょう、後ろ支えますよ」
「うむ」
ママチャリは親戚から借りたのだろうか。
サドルに跨り左右に揺れる鼎ちゃんを、キャリア―を押さえて支えをしてあげるとした。
「そういえばこんな時間にどこに行っていたのだ?」
「ん? いやただの散歩ですよ」
「ふーん、散歩かあ」
「ええ」
嘘をついてしまった。
罪悪感が心臓を突く。けれど春音さんからは鼎ちゃんには内緒にと言われているし本当のことは言えない。
「じゃあ少し漕いでみましょう」
「ちゃ、ちゃんと支えているのだぞ」
「支えてますよ、安心してください」
鼎ちゃんはペダルをゆっくりと漕ぎ始めた。
最初の駆け出しは問題なし、ただしやはりちょっと左右に揺れて自転車の漕ぐ感覚にすぐには慣れない様子。
「ぬ、お、おっ~……」
空き地はそれほど広くはない。
ぐるぐると回るしかないが練習にはもってこいだろう。
「どうです? 大丈夫ですか?」
「今のところは大丈夫だ~、でもまだ、まだ離すでないぞっ」
「ええ、分かりました」
一周、後ろを支えながらゆるやかに周った。
二周目、三週目とこれまたまだ左右に揺れる鼎ちゃんの様子からして危なっかしいので支えてやり、一先ずは漕ぐという感触は理解したようだ。
「ふむ、自転車……興味深い」
「乗りこなせると移動が楽でいいですよ」
さりげなく支えを解いてやると、鼎ちゃんは見事に一人で漕いでいった。
「まだ支えてるかー?」
「支えてますよー」
「そうかー」
「いや嘘です」
「えっ!?」
すると後ろを振り向いては、驚いてそのまま横倒れしてしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐぬぬ……今一人で漕げたのかわたしは」
よかった、怪我はないようだ。
「そうですね、俺の支えなんて必要なかったんです」
「心の支えとしていつも支えておくれ」
「それはいつでも」
もう一度鼎ちゃんは立ち上がってサドルに跨った。
まだ心は折れていない。
「今度は支え無しでいくぞ!」
「見守ってます」
「見ておれい、ぬぉおっ」
声の勢いとは裏腹に緩やかにペダルを漕いでいく鼎ちゃん。
左右のふらつきは危なっかしく、思わず手を伸ばしそうになったがぐっとこらえた。
徐々に安定していっている。
「おお、漕げてますよ!」
「そうか! ふふんっ、やはりわたしはなんでもできるのだぁ!」
拍手を送る。
鼎ちゃんの自転車デビューの日だ、今日はお祝いだね。
「よぅし、このまま家までゆっくり走る、ついてくるのだ董弥!」
「お供します」
鼎ちゃんと軽く並走する。
すっかりコツを掴んだようだ、俺は結構自転車乗るの苦労した記憶があるのだが、鼎ちゃんは数十分程度で乗りこなせちゃうとは驚きだね。
といってもまだ若干危なっかしく揺れるので油断は禁物だ。
「にひひっ、今度二人で自転車を使ってどこか行こうなっ」
「ええ、是非とも」
鼎ちゃんの成長を見られて何よりである。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる