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結の星痕
受け入れ
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「何、それ……。嘘でしょ?」
信じられない、とシェアトの絶望的な声が漏れる。
王室の一室に何とか全員を集め、先程アウラから言われた言葉を伝えると、辺りはしん、と静まり返ってしまった。
「フォーさんは知っていたのですか?アウラさんの容態について」
冷静なベイドの問いに、フォーマルハウトは静かに頷く。
「僕も、彼女の計画を知ったのは最近ですが、おそらくデジアルに記憶を奪われた事で、急速に悪化していったんだと思います」
「苦肉の策、という事ですか……。ルクバット、アウラさんはもう自分は長くないと、そうはっきり仰ったんですね?」
「……うん。壊したい衝動を、抑えられないって。だからせめて、俺に終わらせて欲しいって」
話ながら涙声になるルクバットは、そのままうなだれる。
「そんな……」
その様子を見ていたシェアトも、目一杯に涙を浮かべ、首を左右に大きく振って否定する。
「そんなの無理に決まってるじゃない。だってここまで一緒に頑張ってきたのに、最後の最後にそんな事言うなんて、あんまりだよ。私にはそんなの、耐えられない!」
最終的にシェアトは大粒の涙を流し、そう叫びながら部屋を出て行ってしまった。
そしてグラフィアスも、
「……ま、俺がどうこう言っても進まない話だな。結果が決まったら教えてくれ」
とだけ言い残して、部屋から出て行った。
残されたルクバットは落ち込んだまま呟く。
「……俺、アウラの事なら何でも知ってると思ってたけど、本当は何も知らなかったんだな。フォーさんの方がこんな大事な話を知ってたなんて……。やっぱり、俺じゃアウラの支えにはなれなかったのかな?」
「それは違いますよ」
塞ぎ込むルクバットに、すかさずフォーマルハウトが否定を入れる。
「僕がこの事を知ったのは生まれ持った能力のせいで、事故みたいな物です。お二人はお互いを本当に思いやっている。だからこそ、言えなかったんですよ。言えばどんな答えが返ってくるか分かっていたから、こんなギリギリまで黙っていたんです」
「……アウラは、ずるいよ」
ふてくされたように絞り出すルクバットの言葉に、ベイドが静かに賛同する。
「そうですね。潔いとはあまりに言い難い話です。ですが、これをどうするか決めるのは、最終的にルクバット。貴方です。短いですが考える時間も与えてもらえたのですから、しっかりと答えを出した方が良いでしょう。その時、力を貸してほしいというのであれば、私もお供しますよ」
「僕も。アウラさんと約束しましたから。彼女を邪竜になんか、絶対にしたくありません。必ず助けたい」
フォーマルハウトもそう言葉を添えるが、ルクバットからは明確な返事は無く、
「……ありがとう、二人とも」
とだけ残して、とぼとぼと背中を丸めて部屋から出て行った。
†
「うーん。やっぱり、ちょっと酷だったかな?」
そう独り言のように呟く。
「ちょっとどころではなく、かなり残酷だと思いますよ?」
それに答えたのは、傍らに控える風の聖霊。
「そうだよね。……でも、これで良いんだ。こうやって退路を断たないと、何も前に進めないから」
「貴女がそう言うなら構いませんが、それでも随分と傲慢なやり方でしたね」
「そうかな?……そうは思わないけど」
聖霊のため息にも似た嫌みに、特に何の疑問も抱かず返す。
「まあ良いでしょう。……それで?この後始末はどう処理するつもりですか?今回の件で、貴女は多くの人の期待と心を切り裂いた。その罪を、どう贖うつもりですか?」
「罪だなんてそんな、大げさだな。私はただ、皆を傷付けたくないし、自分だって見失いたくないだけなのに。……一応私も、被害者なんだけどな」
「そうかもしれませんが、皆を裏切った事に変わりはないでしょう?いい加減にけじめを付けないと、彼女が不憫です」
聖霊が目を配るのは、祠の出入り口。
そこから仕切りに、自分の名を呼ぶ声が風に乗ってこだまする。
時折嗚咽が混じる、女性の悲痛な叫びが、何度も何度も自分の名を叫んでいる。
「強力な結界を張っていますからまず進入する事は不可能ですが、いずれ彼女の身体が保たなくなる。その前に、彼女の痛みを癒やす事から始めないといけませんね」
聖霊の言葉に耳を傾け、静かに頷く。
「……うん。そうだね」
信じられない、とシェアトの絶望的な声が漏れる。
王室の一室に何とか全員を集め、先程アウラから言われた言葉を伝えると、辺りはしん、と静まり返ってしまった。
「フォーさんは知っていたのですか?アウラさんの容態について」
冷静なベイドの問いに、フォーマルハウトは静かに頷く。
「僕も、彼女の計画を知ったのは最近ですが、おそらくデジアルに記憶を奪われた事で、急速に悪化していったんだと思います」
「苦肉の策、という事ですか……。ルクバット、アウラさんはもう自分は長くないと、そうはっきり仰ったんですね?」
「……うん。壊したい衝動を、抑えられないって。だからせめて、俺に終わらせて欲しいって」
話ながら涙声になるルクバットは、そのままうなだれる。
「そんな……」
その様子を見ていたシェアトも、目一杯に涙を浮かべ、首を左右に大きく振って否定する。
「そんなの無理に決まってるじゃない。だってここまで一緒に頑張ってきたのに、最後の最後にそんな事言うなんて、あんまりだよ。私にはそんなの、耐えられない!」
最終的にシェアトは大粒の涙を流し、そう叫びながら部屋を出て行ってしまった。
そしてグラフィアスも、
「……ま、俺がどうこう言っても進まない話だな。結果が決まったら教えてくれ」
とだけ言い残して、部屋から出て行った。
残されたルクバットは落ち込んだまま呟く。
「……俺、アウラの事なら何でも知ってると思ってたけど、本当は何も知らなかったんだな。フォーさんの方がこんな大事な話を知ってたなんて……。やっぱり、俺じゃアウラの支えにはなれなかったのかな?」
「それは違いますよ」
塞ぎ込むルクバットに、すかさずフォーマルハウトが否定を入れる。
「僕がこの事を知ったのは生まれ持った能力のせいで、事故みたいな物です。お二人はお互いを本当に思いやっている。だからこそ、言えなかったんですよ。言えばどんな答えが返ってくるか分かっていたから、こんなギリギリまで黙っていたんです」
「……アウラは、ずるいよ」
ふてくされたように絞り出すルクバットの言葉に、ベイドが静かに賛同する。
「そうですね。潔いとはあまりに言い難い話です。ですが、これをどうするか決めるのは、最終的にルクバット。貴方です。短いですが考える時間も与えてもらえたのですから、しっかりと答えを出した方が良いでしょう。その時、力を貸してほしいというのであれば、私もお供しますよ」
「僕も。アウラさんと約束しましたから。彼女を邪竜になんか、絶対にしたくありません。必ず助けたい」
フォーマルハウトもそう言葉を添えるが、ルクバットからは明確な返事は無く、
「……ありがとう、二人とも」
とだけ残して、とぼとぼと背中を丸めて部屋から出て行った。
†
「うーん。やっぱり、ちょっと酷だったかな?」
そう独り言のように呟く。
「ちょっとどころではなく、かなり残酷だと思いますよ?」
それに答えたのは、傍らに控える風の聖霊。
「そうだよね。……でも、これで良いんだ。こうやって退路を断たないと、何も前に進めないから」
「貴女がそう言うなら構いませんが、それでも随分と傲慢なやり方でしたね」
「そうかな?……そうは思わないけど」
聖霊のため息にも似た嫌みに、特に何の疑問も抱かず返す。
「まあ良いでしょう。……それで?この後始末はどう処理するつもりですか?今回の件で、貴女は多くの人の期待と心を切り裂いた。その罪を、どう贖うつもりですか?」
「罪だなんてそんな、大げさだな。私はただ、皆を傷付けたくないし、自分だって見失いたくないだけなのに。……一応私も、被害者なんだけどな」
「そうかもしれませんが、皆を裏切った事に変わりはないでしょう?いい加減にけじめを付けないと、彼女が不憫です」
聖霊が目を配るのは、祠の出入り口。
そこから仕切りに、自分の名を呼ぶ声が風に乗ってこだまする。
時折嗚咽が混じる、女性の悲痛な叫びが、何度も何度も自分の名を叫んでいる。
「強力な結界を張っていますからまず進入する事は不可能ですが、いずれ彼女の身体が保たなくなる。その前に、彼女の痛みを癒やす事から始めないといけませんね」
聖霊の言葉に耳を傾け、静かに頷く。
「……うん。そうだね」
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