流星痕

サヤ

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結の星痕

一呼吸

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 急用があると言うグラフィアスに、仕方がなく着いていく。
 本当なら今すぐにでも謁見を終えてこの国から出て行きたいというのに、それを差し置き、国を離れて久しいこの男に、一体どんな急用があるというのか。
「おい、本当にすぐ終わるんだろうな?」
 グラフィアスの目的が分からず、イライラしながら尋ねる。
 彼は何も答えずに城から外へ出て、そのまましばらく真っ直ぐ歩き、人気の無いちょっとした広間で立ち止まった。
「……?こんな所に、何の用があるんだ?」
 きょろきょろと辺りを見渡しても、特に何も無く、グラフィアスは変わらず何も答えない。
「おい、返事くらいしろ!本当に急用なんだろうな?……!」
 少し語尾を荒らげて再び質問すると、グラフィアスは唐突に背にした大剣を抜き払い、アウラへと向けた。
「ああ、勿論急用だ」
「……何のつもりだ?」
「見れば分かるだろ?今ここで、お前をぶった斬る。謁見の後じゃお前、いなくなってそうだからな」
「いなくなる?私が?」
「ただのかんだ。良いからやろうぜ。お前も、さっさと終わらせて謁見に行きたいんだろ?」
「……」
 こんな状況で、私を斬る?何をふざけた事を!……ああ、そうか。所詮こいつも、の人間か。そうやって私を、馬鹿にするんだな……。
 心の底から、暗い感情が湧き上がる。
「分かった。お前が望むなら、手加減はしない。戦うなら、ここじゃ狭すぎる。だから……」
 片手を上げて、グラフィアスに向ける。
 視界の端に、フォーマルハウトが何かを言いながら走ってくるのが見えたが、気にも止めない。
「場所を変えよう」
 そう付け加えて、グラフィアスを空中へと吹き飛ばす。
 その方向へアウラも追従し、二人してラビ砂漠まで飛ぶ。
「ぐっ」
 先に砂地に着地したグラフィアスは、バランスを崩しながらも戦闘体勢を保つが、アウラは違う。
 地に足を着ける必要など、無い。
「はぁっ!」
 勢いをそのままに、いつもの倍はある大きさのハルピュイアを叩き付ける。
 グラフィアスの大剣と激しく鍔迫り合い、火花が飛び散る。
 アウラは空中に留まったまま、何度も何度も刃を振り下ろし、その度に鋭い金属音と火花が舞う。
 壊す!壊してやる。こいつも、あの皇帝も……この国も全て、全部ぶっ壊す!
 いつもとは違う力任せの攻撃に、ロクな休養を取っていない身体が軋み始めるが、なりふり構わずがむしゃらに刀を振り下ろし続ける。
 壊シタイノカ?
 耳元で、風が囁く。
 ああ、壊してやる。何もかも、許してなるものか!これ以上、奪わせたりはしない!
 ナラバ、我ノ力ヲ貸シテヤロウカ?
 余計な世話だ、引っ込んでろ!
 ダガ、ウヌノ弱キ肉体デハ、キャツヲ壊ス前ニ、ウヌガ壊レルゾ?我ニ身ヲ委ネヨ。
 耳元で囁いていた風が身体中に纏わりつくにつれて、怒りの感情が増幅されていく。
 あいつを壊しただけでは、この怒りは収まらない。全てを、そう総てを壊さなければ……!
「何だよその戦い方はっ!」
 目の前の男が吠える。
 あいつによく似た、赤い髪。
 ……壊ス!
 刃を振り下ろし、凶暴な風をぶちまけるが、目の前の男は器用に捌き、耐える。
 そしてしつこく吠える。
「俺が倒したいのは、越えたいのは……!アウラ・ディー・グルミウムだ。お前みたいな、化け物じゃねえ!!」
「……っ!?」
 化、物……?
 こいつは、一体何を言っているんだろう?化物など、何処にも……。
 クク、コヤツニハ、更ナル恐怖ヲ与エテヤロウ。サア、我ノ器ヨ。今度コソ、我ト一ツニ!
「っぐ。が、ああ……!」
 そうか……。私が、化物か……。違、う……。私は……!
「私は、アウラ。人間だ!」
 自分と、そして男に向かってそう宣言した途端、身体が軽くなるのを感じた。
 直後、目の前にいるグラフィアスが横に武器を振り払う。
 それに合わせて後方に一回転しつつ、巨大化していたハルピユイアを解除し、同時にアイリスを生成し直し、砂地に着地する。
 銃口をグラフィアスの胸元に向けるのと同時に、相手の剣先が喉元に当てられた。
「……」
「……ち。引き分けか」
「そう、みたいだな」
 ふう、と大きく息を吐きつつ、二人ともその場に座り込む。
 成りを潜めていた汗と疲労が一気に押し寄せてきた感じだ。
「っは、……はあ。お前な。もう少し時と場所を考えてやれよ」
「ぜぇ、ぜぇ……馬鹿言うな。砂漠に飛ばしたのは、お前だろうが」
「ああ……それは、まあ」
 皮肉のつもりが返ってきた言葉は正にその通りで、何も言い返せない。
 ふと、左腕が視界に入った。
 ちょうど、うっすらと浮かんでいた鱗模様が消えていく所だった。
 マタモ我ヲ拒ムカ……。
 蒼龍の口惜しげな言葉が、そう耳元を掠めていき、深く、安堵のため息をつく。
 大丈夫。私はまだ、私のままだ。
「……なあ」
「あ?」
「ありがとう」
「はあ?意味分かんね」
 そう言うグラフィアスは、視線をこちらに合わせようとしない。
 それを見て、アウラは小さく笑う。
 あのまま謁見に向かっていたらおそらく、グラフィアスが言うようにアウラは、アウラで無くなっていただろう。
 不器用なやり方ではあるが、今は感謝の気持ちしかない。
 そんな折、遠くから二人を呼ぶ声が近付いてきた。
 そちらを振り向くと、岩の巨人ゴーレムがこちらに走ってくるのが見え、その肩にはフォーマルハウトが乗っている。
「探しましたよ二人とも。こんな所で一体何をしているんですか?」
「ああ、フォーさん。ちょうど良いところに。迎えが欲しかったところなんだ」
 すぐ近くまで来るのを待ってから、アウラはふわりと浮かんでゴーレムの肩まで飛ぶ。
「アウラさん、もしかして戦闘を?」
「あー、うん。軽くね。おかげで気分転換出来たよ」
 心配そうに言うフォーマルハウトに応えるように、彼の手を掴みながらその隣に着地する。
「ね?もう大丈夫でしょ」
「……はい。そうみたいですね」
 アウラの心を読み取ったようで、フォーマルハウトも安心したように頷く。
「おい、俺も乗せてくれ」
「あ、すみません」
 グラフィアスに促され、ゴーレムの腕を伸ばして掌に乗せた。
「では、このまま帝都に戻って大丈夫ですか?」
「うん。今度こそ、あいつと謁見だ」
 フォーマルハウトの確認に、アウラは笑顔で応える。
「分かりました」とフォーマルハウトは頷き、ゴーレムを進ませた。
 程なくして帝都にたどり着いた時、ふとグラフィアスが「最初からこうやって砂漠を渡れば良かったんじゃないか?」と呟いたのは、他の皆には内緒だ。
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