流星痕

サヤ

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結の星痕

旅立ち

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 暑さもほとんど無くなり、冬に向けて着々と寒さを増していく秋後半。
 アウラは最後の巡礼地、火の帝国ポエニーキスへ向かう事を仲間達に伝え、皆が揃うのを待っていた。
 既にアウラ、ルクバット、シェアト、そしてグラフィアスは土の天地エルタニンに集まっており、残るはベイドとフォーマルハウトの二人。
 どちらもベイドの研究所にいる為、ベイドの兄であるシェリアクが飛行船でここまで連れて来てくれるらしい。
 そのまま飛行船で火の帝国ポエニーキスまで行ければ楽だったのだが、砂塵の対策はしていないらしく、今回は使用が出来ない。
 アウラが巡礼を行っている間に改良を約束してくれているので、土の天地エルタニンに戻る際には使えるだろう。
「二人ともいつ頃来るのかな?」
「んー。今日中には到着するみたいだけど……」
 誰にともなくシェアトが呟き、アウラが明後日の方向を向いて答える。
 すると、アウラが見つめている向こうから、ルクバットが猛スピードでやってきて、アウラの前に息も絶え絶えの状態で降り立った。
「ぜえ、ぜえ……。ど、どう?」
 問われたアウラは近くに作っておいた、簡易的な日時計を見る。
 時計の中に線を引いた場所から、影が真逆の所まで移動している。
「……うん。三十分の短縮。まあ、合格かな?」
「はあ~、良かったぁ!」
 合格を告げられたルクバットはその場に大の字に倒れ込み、大きく息を吐いた。
「お疲れ様。大丈夫?」
 シェアトがルクバットの横に跪き、冷たい霧を作り出して涼を与える。
「それにしても、よく頑張ったな。この短期間で、風の王国グルミウムまでの往復を半日にするなんて」
「へへ。成長期だからね」
 アウラに褒められたルクバットは、へとへとながらも嬉しそうに笑う。
「でも、あまり一気に無理すると身体が悲鳴を挙げちゃうから、ちゃんと休憩も取ってね」
「ありがと、シェアト姉。でも俺、もっと強くならないといけないから、こんな事で休んでなんかいられないよ」
「へえ、良い心掛けだな。頼もしいよ」
「アウラ焚き付けないの。それにアウラにも言ってるんだからね?傷の治りが速いからって、無茶しすぎ。心の傷は、身体みたいに速くは無いんだから」
 シェアトにそう釘を打たれたアウラは「厳しいな」と苦笑いする。
 そんなやりとりをしていると、遠くからアウラを呼ぶ声がした。
 見ると、東区域から初老の男女二人が、手を挙げてこちらに向かって来ている。
 土の天地エルタニンに住んでいる、風の王国グルミウム出身の老夫婦だ。
「ああ、アリスさん。良かった間に合って」
「二人とも、どうしたんですか?私に何か」
 アウラが二人に近付くと、二人は走るのを止めてふーと息を吐く。
「いやね、アリスさんの五大国巡礼が、次で最後だっていうのを聞きましてね。我々も何かアリスさんの役に立てる事は無いかと思いまして。ほれ、ばあさん」
 言われたおばあさんは、手に持っていた風呂敷包みを広げた。
 そこには、真新しい衣服が丁寧に畳まれていた。
「これは……?」
「あまり役には立たんかもしれませんが、私らの魔力を込めて織ったんです。から、アリスさんを守ってくれるようにと」
「わざわざ、私の為に……?」
 両手で受け取ると、重量を感じない程に軽く、そして温かい魔力を感じる。
「ありがとうございます。是非使わせてもらいます」
「いえいえ。私らにはこれくらいのお手伝いしか出来ませんから」
「くれぐれもお気をつけて」
「お二方ともありがとうございます。巡礼を終えたら、皆で国に帰りましょう」
「ええ。応援しております。……それでは、私らはこの辺りで失礼します」
 そう言って老夫婦は頭を下げて、二人揃って家へと戻って行った。
「みんな、風の王国グルミウムに帰れるのを楽しみにしてるんだね」
 二人の背中を見送りながらシェアトが呟く。
 ルクバットは上半身を起こして嬉しそうに言う。
「なんか、本当にもうすぐって感じだよね……。良かったね、アウラ」
 アウラは、受け取った衣服を大事そうに抱えて優しく笑う。
「ああ。絶対に叶えてみせるよ。この夢は、私だけじゃない。グルミウム皆の夢だからね……。せっかくだし、これに着替えてくるよ。二人はここで待ってて」
「うん、行ってらっしゃい」
 軽く頷いて、アウラは協会の中へと入っていく。
 残された二人は協会の入口を見つめながらぽつぽつと会話をする。
「アウラ、すごく嬉しそう」
「あの人達は昔から色々と面倒を見てくれてたんだ。俺達のちょっとした家族みたいな感じかな」
「そうなんだ。でも、あの笑顔はそれだけじゃないと思うな」
「ん?どういう事?」
「夢だよ。十年近くかけたアウラの努力が、もうすぐ実を結ぶ。それを、こういった形で実感出来るのは、すごく嬉しい事だと思うな」
「そっか……。そうだよね。もう少しで、グルミウムが元に戻るんだもんね。……へへ、なんか実感無いや」
 そうは言うものの、ルクバットも嬉しそうに笑っている。
「でも本当に大変なのはこれからだよ?二人とも人の上に立つ存在になるんだから、身の振り方とかも考えなくちゃいけないし」
「え!俺もなの?」
「当たり前じゃない。アウラは王女様だからもちろんだけど、ルク君はそのアウラの一番近くにいたんだから、これからもアウラを支えていかないと」
「う~、そりゃもちろん側にいて支えるけどさ……。俺なんかが人の上に立てるかな?だって俺、知らない事沢山あるし」
 ルクバットは本当に心配そうに頭を抱える。
「大丈夫だよ。ルク君はこれまで、色んな所を巡って、沢山の経験を積んできた。それはとても大切な事で、これから先も必ず役に立つ。それに私も協力するし、一緒にアウラを支えて行こ」
「え、シェアト姉も?」
 目を丸くして驚くルクバットに、シェアトはにこりと微笑む。
「うん。他の皆はどうするかは知らないけど、私は国に戻った時に、天子様にお願いしたの。国が戻った後も、風の王国グルミウムを支えていきたいって。そしたらね、
 グルミウムとは元々大切な同盟国の一つじゃ。今後かの国との修復を図るのに、お前程の適任者は他にいまい。
 って、仰って下さったの」
 天子ネージュの声真似をして言うと、ルクバットは嬉しそうに目を輝かせた。
「じゃあ水の王国サーペンは俺達の味方をしてくれるんだね?」
「うん。これからも宜しくね」
 シェアトも微笑み、お互いに握手を交わす。
「ふん。随分と先の話をしてるじゃないか」
 穏やかな雰囲気が漂う中、何処かへ出掛けていたグラフィアスが戻ってきた。
 合流して早々この態度だが、彼の憎まれ口にはもう慣れている。
「お帰りー、グラン兄」
「そんな実現するかも分からない話より、もっと目の前にある心配をした方が良いんじゃないのか?」
「目の前って……火の帝国ポエニーキスでの巡礼の事?」
 シェアトの質問に、グラフィアスはこくりと頷く。
「確かに、あの国の巡礼は昔から一番難しいって言われてるけど、一体何をしているの?」
「さあな。巡礼の内容を知ってるのは極一部のはずだ。それに、長い間国を空けてる俺が知るわけないだろ。けど、今の皇帝になってから更にヤバくなったって話は聞いてる」
 彼の含みのある言い方に、ぞわりと悪寒が走る。
 ポエニーキス現皇帝、フラーム。
 グルミウム王国を滅ぼした張本人。
 極度の気分屋で、強い者を好む暴君との噂だ。
「フラーム皇帝。……グルミウムを滅ぼした張本人。無事に巡礼が終了したとして、彼がアウラの願いを聞き入れる可能性は、やっぱり低いのかな?」
「それこそ、俺には何とも答えられない質問だ。その時になってみないと、結果は誰にも分からないだろうな」
 腕組みをして気難しげに答えるグラフィアス。
 そんな彼の姿を見ていると、ますます不安になる。


「……何だ?まるで死人が出たみたいな雰囲気だな」
 協会の中から明るい声が聞こえ、軽やかな足音と共に着替えを終えたアウラが姿を現す。
 新しい服は今までのデザインとそこまで変わらずシンプルだが、以前よりも明らかに女性らしさが現れていて華やかだった。
 モスグリーンのノースリーブシャツの下にもう一枚重ね着しているのか、それともただのフェイクか、白に近い水色のホルターシャツが首元と腰回りから顔を覗かせている。
 以前は幅に余裕がありだぼついていたズボンを太腿まであるブーツの中に無造作に入れ込んでいた足元は、太腿の上三割程までしか生地の無いショートパンツに変わっている。
 そこから下は黒のレギンスがアウラの細い脚を包み、踝を軽く覆っているショートブーツの中へと納まっている。
 全体的に暗い色合いだが、何故か太腿の外側の側面の生地が無く、アウラの色白の肌が惜しげも無く主張されており、ホルターシャツと共に目を惹く。
 それは決して下品というものではなく、女性らしさを出したワンポイントとなっている。
「わあ、素敵な服!何だか女の子らしくなって、前のよりずっと良いよ」
「ありがとう。私も悪くないと思うよ。魔力が籠められてるからすごく軽いし、動きやすい。見た目よりずっと丈夫そうだ」
 そう言ってアウラはマントを羽織る。
 どうやらそれも戴きもらしく、新たにフードが付いている。
「ところで、ベイド卿達はまだ?」
 マントの胸元にバスターの紋章を取り付けながらそう尋ね、ルクバットが頷く。
「うん。グラン兄しか来てないよ」
 呼ばれたグラフィアスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
 それに対してアウラは、せせら笑うようにからかう。
「ああ、さっきの話。随分私の心配をしてくれるじゃないか」
「ふん、当たり前だ。お前を殺すのは俺だからな。他のに壊されたりしたら堪ったものじゃない」
「ああ、なるほど。まあどっちにしろ、私は壊されるつもりも、お前に殺されるつまりもないんだけどな」
 話の内容は物騒だが、グラフィアスなりの気遣いが感じられ、アウラは冗談ぽく笑う。
「……あ!ベイドさん達だ!」
 遠くからベイドとフォーマルハウトが歩いてくるのが見え、ルクバットが立ち上がり大きく手を振った。
「いやー。お待たせしてしまってすみません。思いの外、研究に熱中してしまいまして」
 とても嬉しそうに言うベイドを見るに、研究は順調のようだ。
「もしかして、研究が成功したんですか?」
「いえいえ。ですが、飛躍的に進みましたよ。これも彼のおかげです」
 そう言ってベイドは、欠伸を噛み殺しているフォーマルハウトの方を見る。
「ふぁ……。すみません、僕なんかでお役に立てたのなら光栄です」
 元気溌剌なベイドとは真逆で、フォーマルハウトはとても眠そうで疲れている。
「随分眠そうだな」
「研究者の生活って、凄く乱れてるんですよ。一度熱中すると食事はおろか、睡眠すらろくに取ろうとしなくて」
 グラフィアスの問いに答えている間も、何度か欠伸を繰り返す。
「ははは、申し訳ない。私も兄も、一度集中すると周りが見えなくなってしまうまのでして。ですから今回は本当に助かりました。彼がいなかったら、私はまだあの研究所に籠もっていたでしょうからね。本当にありがとうございます」
「いえ、本当に僕は大した事はしていないので」
 礼を述べられ、フォーマルハウトは恥ずかしそうに謙遜する。
 そこにアウラが少し驚いたように言う。
「ベイド卿がそこまで喜ぶなんて、よほど研究が進んだんですね」
「ええ、それはもう。結果は、最後の巡礼が終わる頃にはお見せ出来るかと思いますよ」
 かなりの自信。
「それは楽しみですね。それじゃ、皆揃った事だし、そろそろ出発しようか」
 答えを聞いたアウラは嬉しそうに言い、最後の巡礼地、火の帝国ポエニーキスへと向かった。
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