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転の流星
空の欠片
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せっかくアウラの記憶の行方が判明したというのに、そこへ行く為の術を持たない一行は途方に暮れてしまい、意気消沈といった感じで宿屋の一室にいた。
事の成り行きを報告に行ったフォーマルハウトも、これ以上の支援は望めないと通達され、罰の悪そうな顔をしている。
「すみません。僕の準備不足で。てっきり、国に渡れるものだと思っていたので」
「お兄さんは悪くないよ!悪いのは私で、私がちゃんと覚えていれば……」
「アウラだって悪くないよ!悪いのはレグルスだよ。あいつがアウラの記憶を盗らなければ、こんな事にはならなかったんだもん」
アウラがフォーマルハウトを庇い、ルクバットがアウラを庇う、意味の無い庇い合い。
そこに、シェアトが自信なさげに声を掛ける。
「あの、フォーマルハウトさん?」
「あ、僕の事はフォールで良いですよ。何ですか?」
「あ、はい。あの、他に、記憶の手掛かりって何か無いんでしょうか?」
「そうですね……欠片程度の記憶であれば、何かきっかけがあれば戻るかもしれません。でも、彼女の人格を形成してきた、人生において重要な記憶は、故郷に留まっていると思います」
彼も確証は無いようだが、それでもその説明は、事実に近い物のように感じる。
「そのきっかけというのは?」
「これは、デジアルに記憶を奪われたとかには関係なく、誰にでも起きる事です。忘れた物を思い出そうと同じ行動をとったり、それに関連した事を行う事で思い出すんです」
「……確かにそれは、欠片ですね」
普段の何気ない行動は忘れやすい。
いざ思い出そうとすると、思い出せない事など、人生の中で山ほどある。
「そんなに小さいんじゃ、意味ないな」
グラフィアスの声は明らかに落胆しており、シェアトもそれに同意する。
そんな中、アウラが口を開く。
「ねえ。そのかけらって、普段出来てた事が出来なくなるのもそう?」
「たぶん、そうだと思います。普段何気なく行っていた物なら、欠片と呼べるかと」
「なら、私やってみる!かけら、取り戻してみるよ」
勢い良く言うアウラだが、皆はその意図が理解出来ずに、互いの顔を見合わす。
「やってみるって、一体何をするつもりなんですか?」
「前にルクバットが、私が風になったみんなに話し掛けて国の外に出してもらったって言ってたでしょ?だから、風の声の聞き方を思い出せば、中に入れるよね?」
シェアトの問にアウラは真剣に答える。
彼女なりに、責任を感じているのかもしれない。
その案に、ルクバットは大きく頷いて賛成する。
「そっか。グルミウムから出た時の記憶は取り戻せなくても、普段から聞いてた風の声の聞き方なら思い出せてもおかしくないよね。なら俺も一緒にやるよ!俺も覚えたいんだ」
「分かった。それじゃ一緒にやろ。外に出て、風がよく吹くとこに行こ!」
「おっけー!」
二人して勢い良く立ち上がり外へ向かうが、忘れ物でもあったのか、アウラは一度立ち止まり、こちらを振り返った。
「お兄さん。私、お兄さんの事はフォーさんて呼ぶね」
「え?」
「だって嫌だもん。#落ちこぼれ_フォール__#なんて。じゃあね!」
それだけ言い残して、アウラは風のように去っていく。
……彼女らしいな。
フォーマルハウトが自分の事を落ちこぼれと卑下した時、シェアトも戸惑いを覚えたが、あれこれ詮索するのはよそうと考える事を止めてしまった。
しかしアウラは、そんな事は関係ないといった風に、自分の気持ちをしっかりと伝えた。
私も、もっと見習わないとな。
「私、あの子達の側についていますね、フォーさん」
そう笑顔で告げて、シェアトもアウラ達の後を追う。
「なら俺達は、他に方法が無いか探してみるか」
残された男達は、お互いの顔を見合わせ、更なる話し合いを始める。
「そうですね。上手く記憶が戻る確証もありませんし」
「仮に、アウラ王女が記憶を取り戻せたとしても、彼女の声が風の民に届く場所まで近づけないと意味が無い」
「船だと、どこまで行けるんだ?」
グラフィアスの問いかけに、フォーマルハウトはスケッチブックを取り出し、簡単な絵を描きながら分かりやすく説明する。
「以前、僕達が調査する為に向かった時は、東端の港ネティックスを出て二刻半……。大体グルミウムと中間くらいですね。ここで大きな渦潮に遭遇しました。一度はそれを避けて進もうとしたんですけど、急に波まで高くなって転覆しかけたので、断念したんです」
「その時の風の具合は?」
「ほとんどありません。天気も良くて、海だけが荒れていました」
最後に、何度行っても状況は同じですと付け加えて、首を捻らせる。
「その波や渦潮は多分、侵入者対策で、グルミウムの風が起こしてんだろうな。……その様子だと、あいつが話し合えるとは思えないな。くそ、忌々しい」
腕を組んだまま、苦々しげに舌打ちをするグラフィアス。
そんな中、聞き覚えのある電子音が唐突に流れた。
「ダッタラ、空カラ向カウノガ一番良インジャナイカナ?」
それは、音というにはあまりにも鮮明な声だった。
「この声……。まさか、一体どこから?」
すぐに反応したグラフィアスは辺りを見回し、フォーマルハウトは何が起きたのか理解出来ずに、グラフィアスを見つめる。
そして、一人落ち着いた様子のベイドが何でもなさそうに、
「ここですよ」
と、自身が身に着けているヘッドフォンをコツコツ、と指で軽く叩き、話し掛けた。
「今の兄の性質上、これで会話が出来るんです。……やはり兄さんもそう思いますか?」
声の正体は、原子分解再構築の研究で、肉体を失ったベイドの兄、シェリアク。
ベイドはヘッドフォンを耳から外し、皆にも聞こえるよう机に置いた。
「アア。ソコカラ入国マデ出来ルトハ思ワナイケド、風ノ影響ヲ受ケル所迄行ケレバ良インダロ?」
「そうです。後はアウラ王女に、交渉してもらいますから」
「おいあんたら。そんな下らない話してる場合か?空から行く?飛べない俺達がどうやって行くんだよ?何かアテでもあるのか?」
当たり前のように話を進めていく兄弟に現実を突き付けるも、シェリアクは当たり前のように答える。
「飛行船ヲ作レバ良イサ。理論ハ組ミ上ガッテイルシ、設計図モアル」
「何だと?」
そこに、今まで置いてけぼりになっていたフォーマルハウトが、ようやく身を乗り出すように加わってくる。
「す、すみません。今話をしているのはもしかして、シェリアクさんですか?」
「ええ。研究過程で肉体を失ってはいますが、この通り元気ですよ」
「そ、そうですか……」
元気、という表現に戸惑いを覚えたようだが、それでも彼はシェリアクに話し掛ける。
「シェリアクさん。僕、奏任六等官のフォーマルハウトと言います。覚えていますか?」
「アア。以前伺ッタ時、アクベンス殿ト一緒ニイタ子ダネ。勿論、覚エテイルヨ」
「お久しぶりです。それで、今の話なんですけど、飛行船というのは、空を飛ぶ乗り物を開発したという事なんですか?」
「研究シテイタト言ウノガ正シイネ。興味本位デ始メタガ、途中デ原子分解再構築ニ、夢中ニナッテシマッタカラネ」
あはは、といかにも楽しそうに笑うシェリアクに、ベイドが問題点を突き付ける。
「ですが兄さん。あれは動力源に問題があって、計算上でも数分しか飛ばないんじゃなかったんですか?」
「ソレガネ、今ノ私ナラ動カセルト思ウンダヨ。ベイドガ旅立ッテカラ暇潰シニ図面ヲ見テイタンダガ、私自身ガ動力源トナッテ、連結部ノ反応ヲ早メレバ、上手クイキソウデネ。手狭ダカラ拡張スル必要ガアルシ、色々手ヲ加エルツモリダケド、期待シテクレテ良イヨ」
はっきりとそう断言するシェリアクからは、確固たる自信が伝わってくる。
「すごいな……。空を飛ぶ乗り物なんて、夢物語だと思ってました」
「今ダッテ十分ソウダヨ。タダ私ノ身体ガ、変ニ役立ッタダケサ」
運が良かったと、シェリアクは謙遜する。
一方グラフィアスは半信半疑といった感じで確認を取る。
「今一信用ならねーが……とりあえず、グルミウムには空から向かう事で決まりだな?」
「そうですね。他に方法も浮かびませんし、それでいきましょう。兄さん、私達はこのままネティックスに向かいます。そこで合流しましょう」
「了解。ソレジャ、急イデ作業ニ取リ掛カルヨ」
最後にベイドが合流場所を決め、シェリアクが了承すると、そこで通信は途絶えた。
「ようやく、次の目的地が決まったな」
「はい。上手くいくと良いんですが」
やれやれと肩の荷を下ろしたグラフィアスに、先を案じるフォーマルハウト。
そして、帽子を綺麗に被り直したベイドが腰を上げた。
「さて、ここにいる必要は無くなりました。アウラ王女が記憶を取り戻すのを待ちつつ、ネティックスを目指しましょう」
事の成り行きを報告に行ったフォーマルハウトも、これ以上の支援は望めないと通達され、罰の悪そうな顔をしている。
「すみません。僕の準備不足で。てっきり、国に渡れるものだと思っていたので」
「お兄さんは悪くないよ!悪いのは私で、私がちゃんと覚えていれば……」
「アウラだって悪くないよ!悪いのはレグルスだよ。あいつがアウラの記憶を盗らなければ、こんな事にはならなかったんだもん」
アウラがフォーマルハウトを庇い、ルクバットがアウラを庇う、意味の無い庇い合い。
そこに、シェアトが自信なさげに声を掛ける。
「あの、フォーマルハウトさん?」
「あ、僕の事はフォールで良いですよ。何ですか?」
「あ、はい。あの、他に、記憶の手掛かりって何か無いんでしょうか?」
「そうですね……欠片程度の記憶であれば、何かきっかけがあれば戻るかもしれません。でも、彼女の人格を形成してきた、人生において重要な記憶は、故郷に留まっていると思います」
彼も確証は無いようだが、それでもその説明は、事実に近い物のように感じる。
「そのきっかけというのは?」
「これは、デジアルに記憶を奪われたとかには関係なく、誰にでも起きる事です。忘れた物を思い出そうと同じ行動をとったり、それに関連した事を行う事で思い出すんです」
「……確かにそれは、欠片ですね」
普段の何気ない行動は忘れやすい。
いざ思い出そうとすると、思い出せない事など、人生の中で山ほどある。
「そんなに小さいんじゃ、意味ないな」
グラフィアスの声は明らかに落胆しており、シェアトもそれに同意する。
そんな中、アウラが口を開く。
「ねえ。そのかけらって、普段出来てた事が出来なくなるのもそう?」
「たぶん、そうだと思います。普段何気なく行っていた物なら、欠片と呼べるかと」
「なら、私やってみる!かけら、取り戻してみるよ」
勢い良く言うアウラだが、皆はその意図が理解出来ずに、互いの顔を見合わす。
「やってみるって、一体何をするつもりなんですか?」
「前にルクバットが、私が風になったみんなに話し掛けて国の外に出してもらったって言ってたでしょ?だから、風の声の聞き方を思い出せば、中に入れるよね?」
シェアトの問にアウラは真剣に答える。
彼女なりに、責任を感じているのかもしれない。
その案に、ルクバットは大きく頷いて賛成する。
「そっか。グルミウムから出た時の記憶は取り戻せなくても、普段から聞いてた風の声の聞き方なら思い出せてもおかしくないよね。なら俺も一緒にやるよ!俺も覚えたいんだ」
「分かった。それじゃ一緒にやろ。外に出て、風がよく吹くとこに行こ!」
「おっけー!」
二人して勢い良く立ち上がり外へ向かうが、忘れ物でもあったのか、アウラは一度立ち止まり、こちらを振り返った。
「お兄さん。私、お兄さんの事はフォーさんて呼ぶね」
「え?」
「だって嫌だもん。#落ちこぼれ_フォール__#なんて。じゃあね!」
それだけ言い残して、アウラは風のように去っていく。
……彼女らしいな。
フォーマルハウトが自分の事を落ちこぼれと卑下した時、シェアトも戸惑いを覚えたが、あれこれ詮索するのはよそうと考える事を止めてしまった。
しかしアウラは、そんな事は関係ないといった風に、自分の気持ちをしっかりと伝えた。
私も、もっと見習わないとな。
「私、あの子達の側についていますね、フォーさん」
そう笑顔で告げて、シェアトもアウラ達の後を追う。
「なら俺達は、他に方法が無いか探してみるか」
残された男達は、お互いの顔を見合わせ、更なる話し合いを始める。
「そうですね。上手く記憶が戻る確証もありませんし」
「仮に、アウラ王女が記憶を取り戻せたとしても、彼女の声が風の民に届く場所まで近づけないと意味が無い」
「船だと、どこまで行けるんだ?」
グラフィアスの問いかけに、フォーマルハウトはスケッチブックを取り出し、簡単な絵を描きながら分かりやすく説明する。
「以前、僕達が調査する為に向かった時は、東端の港ネティックスを出て二刻半……。大体グルミウムと中間くらいですね。ここで大きな渦潮に遭遇しました。一度はそれを避けて進もうとしたんですけど、急に波まで高くなって転覆しかけたので、断念したんです」
「その時の風の具合は?」
「ほとんどありません。天気も良くて、海だけが荒れていました」
最後に、何度行っても状況は同じですと付け加えて、首を捻らせる。
「その波や渦潮は多分、侵入者対策で、グルミウムの風が起こしてんだろうな。……その様子だと、あいつが話し合えるとは思えないな。くそ、忌々しい」
腕を組んだまま、苦々しげに舌打ちをするグラフィアス。
そんな中、聞き覚えのある電子音が唐突に流れた。
「ダッタラ、空カラ向カウノガ一番良インジャナイカナ?」
それは、音というにはあまりにも鮮明な声だった。
「この声……。まさか、一体どこから?」
すぐに反応したグラフィアスは辺りを見回し、フォーマルハウトは何が起きたのか理解出来ずに、グラフィアスを見つめる。
そして、一人落ち着いた様子のベイドが何でもなさそうに、
「ここですよ」
と、自身が身に着けているヘッドフォンをコツコツ、と指で軽く叩き、話し掛けた。
「今の兄の性質上、これで会話が出来るんです。……やはり兄さんもそう思いますか?」
声の正体は、原子分解再構築の研究で、肉体を失ったベイドの兄、シェリアク。
ベイドはヘッドフォンを耳から外し、皆にも聞こえるよう机に置いた。
「アア。ソコカラ入国マデ出来ルトハ思ワナイケド、風ノ影響ヲ受ケル所迄行ケレバ良インダロ?」
「そうです。後はアウラ王女に、交渉してもらいますから」
「おいあんたら。そんな下らない話してる場合か?空から行く?飛べない俺達がどうやって行くんだよ?何かアテでもあるのか?」
当たり前のように話を進めていく兄弟に現実を突き付けるも、シェリアクは当たり前のように答える。
「飛行船ヲ作レバ良イサ。理論ハ組ミ上ガッテイルシ、設計図モアル」
「何だと?」
そこに、今まで置いてけぼりになっていたフォーマルハウトが、ようやく身を乗り出すように加わってくる。
「す、すみません。今話をしているのはもしかして、シェリアクさんですか?」
「ええ。研究過程で肉体を失ってはいますが、この通り元気ですよ」
「そ、そうですか……」
元気、という表現に戸惑いを覚えたようだが、それでも彼はシェリアクに話し掛ける。
「シェリアクさん。僕、奏任六等官のフォーマルハウトと言います。覚えていますか?」
「アア。以前伺ッタ時、アクベンス殿ト一緒ニイタ子ダネ。勿論、覚エテイルヨ」
「お久しぶりです。それで、今の話なんですけど、飛行船というのは、空を飛ぶ乗り物を開発したという事なんですか?」
「研究シテイタト言ウノガ正シイネ。興味本位デ始メタガ、途中デ原子分解再構築ニ、夢中ニナッテシマッタカラネ」
あはは、といかにも楽しそうに笑うシェリアクに、ベイドが問題点を突き付ける。
「ですが兄さん。あれは動力源に問題があって、計算上でも数分しか飛ばないんじゃなかったんですか?」
「ソレガネ、今ノ私ナラ動カセルト思ウンダヨ。ベイドガ旅立ッテカラ暇潰シニ図面ヲ見テイタンダガ、私自身ガ動力源トナッテ、連結部ノ反応ヲ早メレバ、上手クイキソウデネ。手狭ダカラ拡張スル必要ガアルシ、色々手ヲ加エルツモリダケド、期待シテクレテ良イヨ」
はっきりとそう断言するシェリアクからは、確固たる自信が伝わってくる。
「すごいな……。空を飛ぶ乗り物なんて、夢物語だと思ってました」
「今ダッテ十分ソウダヨ。タダ私ノ身体ガ、変ニ役立ッタダケサ」
運が良かったと、シェリアクは謙遜する。
一方グラフィアスは半信半疑といった感じで確認を取る。
「今一信用ならねーが……とりあえず、グルミウムには空から向かう事で決まりだな?」
「そうですね。他に方法も浮かびませんし、それでいきましょう。兄さん、私達はこのままネティックスに向かいます。そこで合流しましょう」
「了解。ソレジャ、急イデ作業ニ取リ掛カルヨ」
最後にベイドが合流場所を決め、シェリアクが了承すると、そこで通信は途絶えた。
「ようやく、次の目的地が決まったな」
「はい。上手くいくと良いんですが」
やれやれと肩の荷を下ろしたグラフィアスに、先を案じるフォーマルハウト。
そして、帽子を綺麗に被り直したベイドが腰を上げた。
「さて、ここにいる必要は無くなりました。アウラ王女が記憶を取り戻すのを待ちつつ、ネティックスを目指しましょう」
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