3 / 17
第三話 聞くは一時の恥って言うけど
しおりを挟む
「さっさとしろよ! 時間ねぇんだぞ!」
秋月さんは怒鳴りながら近寄ってきた。その怒声に呼応するかのように、灰色の猛獣はさらに興奮し吠え続けた。
「こらうるさい!」
秋月さんに一喝された猛獣は、舌をペロリと出すとその場に座り静かになった。
「アッシュ、こいつはウチの従業員だから吠えたらダメだぞ」
アッシュと呼ばれた猛獣は、フンと鼻を鳴らした。まだ警戒しながら僕を睨みつけるその目は「吠エナケレバイインデスヨネ?」と、言ってるような気がした。
頭をなでられたアッシュは「次ハココヲナデテ―」と言わんばかりに即座にお腹を見せ転がった。
「おい、降りて来いよ」
「は、はい。怖い番犬ですね……」
「そうか? こんなに人懐っこいぞ?」
積載車の荷台にしがみついていた僕にそう言いながら秋月さんはしゃがんでアッシュのお腹をなでていた。見た所、雑種の中型犬のようだ。
事務所の建物裏には丈夫な金属製のドアがあった。このドアがタイムレコーダーの置かれた廊下へとつながっているらしい。面接のときに社長が言っていた裏口ドアとはこれのことだろう。そしてそのドアの脇には、アッシュの犬小屋が置いてあった。
アッシュは秋月さんに撫でてもらうと、満足したのかそそくさと自分の小屋に戻ってしまった。
自転車を適当な場所に止め工場内に戻った僕は、秋月さんから車のリモコンキーを受け取った。
「そこにあるウチの代車二台のキーな。駐車場の邪魔にならない隅のほうにでも適当に出しといて」
そう言いながら事務所とは反対側にある駐車スペースを指さしていた。ふと見ると、リモコンキーは二台分がキーリングで纏めてあった。
おそらく、僕に工場内にある軽自動車二台を動かせということだろうと思うのだが、躊躇していた。
「なんだよ? さっさとやれよ?」
「あのですね……実は……、車の免許まだ持ってないんです……。運転してもいいんでしょうか?」
そう、実は僕は車の免許を持っていない。正確に言えば取得している最中で、今現在も教習所に通っているのだ。一応履歴書の資格欄は原付免許しか書いていなかったし、社長には口頭でも伝えておいたのだが、秋月さんは初耳だったようだ。大きな目をさらに見開いてこちらを見ている。
「はぁ~っ!?」
大きく息を吸い込んでからそう声を上げると、一瞬黙り込んだ後、事務所のほうへ走って行ってしまった。
勢いよく事務所のドアが開けられる音が響く。
そして、僕が免許を持っていないことを社長に報告している秋月さんの声も。
「あいつ、地雷どころか地雷としても機能しなさそうなんだけど!」
地雷だとか不発弾だとか、なんかそんな感じで言われているのが聞こえてきた。と言うか、この短い時間で秋月さんにとって僕は地雷のようなものと認識されてしまったようだった……。
しばらくして工場内に戻ってきた秋月さんは、やや諦めたような表情をしているように見えた。
「しょうがない。とりあえず、掃き掃除、な。それくらいはできるだろ」
「は、はい」
掃除用具のしまってある場所を教えてもらい、ひとまず床掃除から始める。
その間、秋月さんはお客さんの車を運び入れ、二柱リフトと呼ばれる機械で車を持ち上げ、慣れた手つきでタイヤを取り外していく。圧縮空気で作動する、インパクトレンチのホイールナットを緩める作動音が工場内に響く。
しばらくすると僕は事務所から顔を出した社長に呼ばれた。業者が補充用の部品を持ってきたらしく、段ボールに入った部品を受け取った。
「秋月さん、荷物が届いたんですが……」
「ええっ!? あ~、そこの棚に並べておいて!」
作業中の秋月さんに聞くと、少しイライラした様子で返事があった。
ダンボールの中にはそれぞれが同じデザインの小箱に収められた部品が十個ほど入っていた。指さされた棚の中段にも同じパッケージデザインの小箱がいくつも並べてあった。
「ここに全部並べればいいのか……」
段ボールから取り出してみると、小箱の大きさにいくつか種類があるようだった。確認しようかと思ったが、ホイールハウスに頭を突っ込んで忙しそうに作業している秋月さんに聞くのも気が引けたので、小箱の大きさだけそろえて棚に並べることにした。
並べ終えて床掃除を再開させ、しばらく経ってからのことだ。秋月さんが僕を呼んだ。
「お前これ、エレメントの品番がバラバラじゃねぇか!」
先ほど棚に並べた部品は、エレメントと呼ばれるものだったようだ。どうも、というかやはり大きさだけで揃えたのはまずかったようだ。パッケージには品番ラベルが貼られていて、それを基準に並べなければならなかったのだ。
「勘弁しろよー!」
「す、すみません!」
朝から何度も謝っているような気がした。
秋月さんは怒鳴りながら近寄ってきた。その怒声に呼応するかのように、灰色の猛獣はさらに興奮し吠え続けた。
「こらうるさい!」
秋月さんに一喝された猛獣は、舌をペロリと出すとその場に座り静かになった。
「アッシュ、こいつはウチの従業員だから吠えたらダメだぞ」
アッシュと呼ばれた猛獣は、フンと鼻を鳴らした。まだ警戒しながら僕を睨みつけるその目は「吠エナケレバイインデスヨネ?」と、言ってるような気がした。
頭をなでられたアッシュは「次ハココヲナデテ―」と言わんばかりに即座にお腹を見せ転がった。
「おい、降りて来いよ」
「は、はい。怖い番犬ですね……」
「そうか? こんなに人懐っこいぞ?」
積載車の荷台にしがみついていた僕にそう言いながら秋月さんはしゃがんでアッシュのお腹をなでていた。見た所、雑種の中型犬のようだ。
事務所の建物裏には丈夫な金属製のドアがあった。このドアがタイムレコーダーの置かれた廊下へとつながっているらしい。面接のときに社長が言っていた裏口ドアとはこれのことだろう。そしてそのドアの脇には、アッシュの犬小屋が置いてあった。
アッシュは秋月さんに撫でてもらうと、満足したのかそそくさと自分の小屋に戻ってしまった。
自転車を適当な場所に止め工場内に戻った僕は、秋月さんから車のリモコンキーを受け取った。
「そこにあるウチの代車二台のキーな。駐車場の邪魔にならない隅のほうにでも適当に出しといて」
そう言いながら事務所とは反対側にある駐車スペースを指さしていた。ふと見ると、リモコンキーは二台分がキーリングで纏めてあった。
おそらく、僕に工場内にある軽自動車二台を動かせということだろうと思うのだが、躊躇していた。
「なんだよ? さっさとやれよ?」
「あのですね……実は……、車の免許まだ持ってないんです……。運転してもいいんでしょうか?」
そう、実は僕は車の免許を持っていない。正確に言えば取得している最中で、今現在も教習所に通っているのだ。一応履歴書の資格欄は原付免許しか書いていなかったし、社長には口頭でも伝えておいたのだが、秋月さんは初耳だったようだ。大きな目をさらに見開いてこちらを見ている。
「はぁ~っ!?」
大きく息を吸い込んでからそう声を上げると、一瞬黙り込んだ後、事務所のほうへ走って行ってしまった。
勢いよく事務所のドアが開けられる音が響く。
そして、僕が免許を持っていないことを社長に報告している秋月さんの声も。
「あいつ、地雷どころか地雷としても機能しなさそうなんだけど!」
地雷だとか不発弾だとか、なんかそんな感じで言われているのが聞こえてきた。と言うか、この短い時間で秋月さんにとって僕は地雷のようなものと認識されてしまったようだった……。
しばらくして工場内に戻ってきた秋月さんは、やや諦めたような表情をしているように見えた。
「しょうがない。とりあえず、掃き掃除、な。それくらいはできるだろ」
「は、はい」
掃除用具のしまってある場所を教えてもらい、ひとまず床掃除から始める。
その間、秋月さんはお客さんの車を運び入れ、二柱リフトと呼ばれる機械で車を持ち上げ、慣れた手つきでタイヤを取り外していく。圧縮空気で作動する、インパクトレンチのホイールナットを緩める作動音が工場内に響く。
しばらくすると僕は事務所から顔を出した社長に呼ばれた。業者が補充用の部品を持ってきたらしく、段ボールに入った部品を受け取った。
「秋月さん、荷物が届いたんですが……」
「ええっ!? あ~、そこの棚に並べておいて!」
作業中の秋月さんに聞くと、少しイライラした様子で返事があった。
ダンボールの中にはそれぞれが同じデザインの小箱に収められた部品が十個ほど入っていた。指さされた棚の中段にも同じパッケージデザインの小箱がいくつも並べてあった。
「ここに全部並べればいいのか……」
段ボールから取り出してみると、小箱の大きさにいくつか種類があるようだった。確認しようかと思ったが、ホイールハウスに頭を突っ込んで忙しそうに作業している秋月さんに聞くのも気が引けたので、小箱の大きさだけそろえて棚に並べることにした。
並べ終えて床掃除を再開させ、しばらく経ってからのことだ。秋月さんが僕を呼んだ。
「お前これ、エレメントの品番がバラバラじゃねぇか!」
先ほど棚に並べた部品は、エレメントと呼ばれるものだったようだ。どうも、というかやはり大きさだけで揃えたのはまずかったようだ。パッケージには品番ラベルが貼られていて、それを基準に並べなければならなかったのだ。
「勘弁しろよー!」
「す、すみません!」
朝から何度も謝っているような気がした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる