ラジメカ~スキル0ですがメカニック見習いはじめました~

もるまさ

文字の大きさ
2 / 17

第二話 駐車場にて

しおりを挟む
「で、新人。お前、何ができんの?」

 休憩室で、目の前のツナギ姿の女性が見た目に似合わないハスキーボイスで僕に聞いてきた。
 彼女の名前は『秋月 美鶴』。この自動車整備会社『オートサービスラジアル』の先輩社員に当たる。年齢は僕とそんなに変わらないくらいだろうが、片方の指先には火の着いたタバコが握られていたので、成人はしているのだろう。ウェーブのかかった長い黒髪を無造作に後頭部で纏めていた。顔立ちにかわいらしさの残る小柄な女性だが、シュッと上がったやや太めの眉はとても凛々しい。
 ここでは社長に代わり整備全般を担当しているらしい。
 腕組みをしながら問いかける彼女に対し、何があるのだろうかと少し考えたが、残念なことにスキルゼロと言っていい僕には、自分のできる事など何も思い浮かばなかった。

「さ、さぁ……?」

 改めて自分の能力の無さを再確認した結果、妙に自分が情けなくなり力が抜けてしまい、「なんでしょうね?」まで言葉が続かなかった。

「チッ。しょうがねぇ。ついてこい」

 少しの間の後、秋月さんは舌打ちし、持っていたタバコをテーブルの上にある灰皿で揉み消すと、休憩室から工場内へと続くアルミ製のドアを開いた。

「ここがあたしらの仕事場。手前にリフトが三台。奥にフレーム修正機とテスター、さらにその奥に塗装ブースがあるから」

 ラジアルは、敷地中心にある駐車スペースを囲うように、道路から見て左側に事務所、正面から右側までL字型の工場が建っていた。
 秋月さんが壁のスイッチを操作すると、真っ暗だった工場内が水銀灯の光で照らし出される。工場内はここから全体を見通すことはできないが、確かに小さいながらもそれなりの設備が整っているようだった。

「お前、十八歳だっけ?働いた事は?資格は?」
「いえ、全然なくて……」
「マジか。社長、何考えてんだ……」

 僕から目をそらすように横を向いた秋月さんはあきれたような口調でそう言った。
 一呼吸おいてから僕に顎で「ついて来い」と命じると、正面駐車場へと繋がるシャッターの前へ向かった。
 壁に埋め込まれたスイッチを操作すると、閉じられたシャッターが錆び付いたような音を立てながら開き始め、隙間から刺すような朝陽が工場内へと差し込んできた。
 そして開いたシャッターの目の前、そこには僕の自転車が置いてあった。中学生の時からの愛用品だ。

「なんだこれ?誰の自転車だ?」

 怪訝そうな顔をする秋月さんに、僕は言った。

「すいません。それ僕のです」
「はぁーっ!? なんでこんなトコに止めてんだよ! 邪魔だろうが! 事務所の裏に置いて来い!」
「すっ、すいません!」

 怒声に近い秋月さんの声に僕は驚いて、慌てて自転車を事務所裏に移動させる。朝から失敗続きのような気がした。このわずかな時間で秋月さんの機嫌が少しずつ確実に悪くなっているのが、初対面の僕でもわかったからだ。

 自転車を押しながら事務所を迂回するようにして回ると、裏手に続く隣の敷地との間に車両を運搬するための積載車と、古いクロカンタイプの軽自動車が並んで止まっていた。おそらくこの軽自動車が秋月さんの車だろう。朝はここに回る前に社長に呼び止められたので気が付かなかったが、ここが従業員用の駐車スペースのようだった。
 積載車と軽自動車の間をすり抜けるとさらに後ろにスペースがありそうだったので、そこに自転車を置くことにした。

 車の間をすり抜け奥へ進む。積載車の後ろに廃棄部品などの産業廃棄物を入れて置くための金属製コンテナ容器、いわゆるバッカンと呼ばれるものが置いてあるなと、脇を見ながら歩いていると、ジャラリと前方で金属が擦れるような音がした。
 目をやると、事務所の陰から現れたであろう、鎖につながれた灰色の毛むくじゃらの生き物が唸り声をあげながらこちらを睨んでいた。

「ひぃっ」

 目が合うや否や、同時にその灰色の肉食獣は自身の獰猛さを証明するかの如く牙をむき出しにして僕へ飛び掛かってきたのだ。

 『ワンッ』と鳴きながら。

 とっさに身の危険を察知した僕は自転車を放り出し、ちょうど自分の斜め後ろあたりにある積載車の荷台へと慌てて飛び乗った。
 幸い積載車まで鎖の長さが足りず、その牙がスロープへしがみついた僕へと届くことはなかった。しかし、それでもなお灰色の肉食獣は、鎖を引きちぎらんばかりの勢いで牙を見せながら足元で吠え続けていた。

 荷台の後端にある、跳ね上げられた車両用スロープにしがみつきながら「ひいいいいっ」と情けない声を上げていたその時だった。

「おい新人! 自転車止めるのにいつまでかかってんだよ!」

 まだ出社して三十分ほどだろうか。秋月さんの、本日二回目の怒声が飛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

処理中です...