透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第六章 神獣カーバンクル

191 神獣カーバンクル

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 神獣――霊獣よりも更に珍しい、まさに伝説級の魔物と言われている。
 全てが謎に包まれており、現時点で判明していることも、果たして本当かどうかは分からない。そもそも全てが作り話ではないかと言う声もあるが、意外とあり得る話だと見なされているのが現状であった。

「――ユグラシアはそう教えてくれた。実際に見たことも殆どないって」

 マキトや魔物たちに説明しているノーラは、もはやちょっとした『先生』のような雰囲気を醸し出していた。
 現に当の本人も、謎の優越感が滲み出ていたのだが、周りは気づいていない。

「神獣と霊獣の違いもハッキリとはされていない。でも分かる人には分かる。今はそれしか言えない」
「へぇー、スゲーもんだよなぁ」

 他人事のように声を上げたのは、話題の中心となっている神獣であった。

「ノーラにはそれが理屈抜きに分かるってことなんだろ? やっぱりオマエもただ者じゃねーってことだな」
「ん。別にそれほどでもない」

 そう言いながらも、ノーラの表情はあからさまなドヤ顔そのもの。しかも腰に手を当てながら軽くふんぞり返っており、それだけ嬉しいのだということがマキトたちにも見て取れる。
 これはこれでノーラらしい気はしているので、特に何も言わなかったが。

(カーバンクルが神様みたいな魔物、ねぇ……)

 マキトは改めてカーバンクルに視線を向けてみる。ロップルやフォレオから凄いんだねと賞賛され、そんなことねーぜと照れ笑いを見せていた。

(どう見ても、フォレオたちとそんな変わんない感じだけどなぁ……それだけ凄い能力を持ってるってことなのか? なんかよく分かんないや)

 そもそもカーバンクル自身、神獣という凄い存在であることを自覚しているかどうかすら怪しい。
 もっともそれは、カーバンクルに限った話ではなく、ラティやロップルたちにも言えることではあるのだが。

「あのあの、一つ気になっていたのですけど――」

 ラティがピッと手を上げながら尋ねる。

「カーバンクルさんって、封印される前のことを覚えているのですか?」
「おう。大体のことは覚えてるぜ!」

 自信満々にカーバンクルはウィンクをする。しかしすぐさま、しょんぼりとした表情とともに肩を落とす。

「といっても、ところどころ思い出せねぇこともあるんだよなぁ……」
「ん。封印された影響もあるだろうし、無理もない」
『むしろおぼえているだけでもすごいよー。ぼくなんてなにもおぼえてないし』

 頷くノーラの隣で、わたわたと手を振りながら励ますフォレオ。その声にカーバンクルは小さな笑みを浮かべた。

「ありがとよ。でもやっぱり、サリアとの思い出がいくつか消えてるのが、オレはちょっと寂しいぜ」

 カーバンクルの表情が重々しいものとなる。それだけサリアに会いたいのだろうということは、流石のマキトも分からないわけではなかった。
 なんて声をかけたらいいか、正直全く分からない。
 どことなく気まずい空気を味わう中、カーバンクルが口を開く。

「まぁ、でもしょーがねーよな。くよくよするのは、もうやめにするぜ!」

 明るい声で宣言するカーバンクルに、マキトは目を丸くする。

「またえらく開き直ったな」
「ん。でも確かに、ウジウジ悩むよりかはマシ」
「ですね。わたしはいいと思うのです」
「キュウッ」
『やっぱりたのしいのがいちばん!』

 マキトに続いて、ノーラや魔物たちも笑顔を見せる。そしてフォレオが、ぴょんとカーバンクルの前に飛び出した。

『ねぇねぇ、せっかくだからいっしょにあそぼうよ!』
「おっ、いいな。よし、行こうぜ!」
『わーい♪』

 フォレオとカーバンクルが勢いよく走り出す。

「キュウーッ!」
「ちょっと、まってなのですー!」

 そしてロップルとラティも、慌てて追いかけだすのだった。そんな魔物たちの後ろ姿を、マキトとノーラが微笑ましそうに見つめる。

「なんかもう、すっかり仲良しになったな」
「ん。とてもいいこと。カーバンクルも凄く楽しそう」
「だな」

 マキトは小さく頷きつつ、魔力スポットの傍から湧き出ている泉に近づく。そして泉の水を手ですくい、一口飲んでみる。
 スッ――と、体の奥に冷たさが染み渡っていく感触がした。
 森の魔力スポットで飲んだことのある泉の水と、明らかに何かが違う――マキトはそう思えてならなかった。

「ん。おいしい」

 ノーラも手ですくった湧き水を、一口飲んでいた。

「ここのお水、不思議な回復能力があるっぽい」
「へぇー。山の湧き水だから、種類も違ってくるんだと思ってた」
「それもあると思う。でもそれだけじゃない。魔力スポットの力が、間違いなく大きく働いている」

 魔力スポットの力――それを聞いたマキトは、一つ思い出したことがあった。

「確か、湧き水を更にキレイにしてくれているんだったよな?」
「ん。それに加えて不思議な力が染み渡っているのかも」
「そんなことあり得るんだ?」
「あくまでノーラの勝手な推測。でも、絶対にないとは言い切れない」
「なるほどね」

 色々と不思議なことが多い魔力スポットなだけあって、確かにあり得るだろうなぁとマキトは思う。
 そして、ラティたちと楽しそうに遊んでいるカーバンクルに視線を向けた。

「カーバンクルがここに封印されていたのも、何か関係があるのかな?」
「多分。そもそも封印されるには、それなりの理由があるハズ」
「確かにそうなるよな」

 マキトは腕を組みながら考えてみる。カーバンクルは何故封印されたのかと。

「フォレオの場合は、力を暴走させ過ぎたからってのが理由だったけど……もしかしてアイツも?」
「それは流石に分からない。でも、あのカーバンクルには何かがある」
「こんな山奥に封印されるようなことか……危ないヤツには見えないけど」
「ん。もし裏があるとすれば、同じ魔物であるラティたちが、真っ先に気づいている可能性が高い」
「まぁ、そりゃそうだろうけどな……」

 改めてマキトは、ラティたちの様子を見てみる。泉の水を掛け合って、カーバンクルとともに楽しそうにはしゃいでいる姿がそこにあった。

「どう見ても警戒のけの字もしてなさそうだな」
「ん。カーバンクルも、純粋に楽しんでいるようにしか見えない」
「今のところ危険はなさそうか……だとすると、アイツが封印されていた理由は、別にあるってことだよな?」
「その可能性大。今のところ言えるのは、それぐらいだと思う」
「……ひとまず様子を見るか」

 現時点であれこれ決めつけるには、材料が足りなさ過ぎる。たとえ警戒する必要性は見えなくとも、用心するに越したことはない。

「よし、じゃあボチボチこの辺を散策がてら、薪でも集めてくるか」
「ん。暗くなる前にキャンプの準備する」
「そうだな。おーいお前たち、遊ぶのはそろそろおしまいだ」

 マキトの掛け声に、魔物たちが元気よく返事をする。それぞれがプルプルと体を震わせて水気を弾き飛ばし、たくさんあそんでスッキリとした笑顔を見せた。
 やがて魔物たちが集まってきたところで、マキトが呼びかける。

「俺とラティで薪を集めに行く。残りの皆は、キャンプの準備をしておいてくれ」
「りょーかいなのです!」

 ラティが勢いよくピッと手を上げながら返事をする。そして早速、それぞれが行動を開始しようとした。
 その時――

「お前たち! こんなところで何をしておる!?」

 凄まじい怒鳴り声が聞こえてきた。マキトたちが驚きながら振り向くと、一人の老人が怒りの表情で立っていた。
 真っ白な髪の毛を後ろで一つに結んでおり、口周りも白い髭が蓄えられている。それでいてちゃんと整えられており、どことなく貫禄を感じさせていた。
 杖を持ってこそいるが、足が悪いというわけではなさそうだ。むしろ足腰は今でも健全ですと言わんばかりに力強く歩いてきており、背筋も曲がっているどころかしっかりと伸びている。
 まさに山暮らしの強いお爺ちゃんと言ったところだろうか。
 もっとも、それを感じている余裕など、マキトたちには到底なかったが。

「大方、魔力スポットにチョッカイでもかけに来たんじゃろう! この番人であるワシがいる限り、余計な悪さなど――むっ?」

 しかし老人は言葉を止める。その視線はマキトに向けられていた。

「なっ! あぁ、いや……」

 一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻す。そして老人は、目を閉じながら顔を左右に振る。
 まるで何かを一生懸命振り払うかのように。

「そんなワケがあるまい。ヤツの面影を感じるなど、気のせいにも程がある」

 老人は小さく笑いながら呟く。必死にそう自分に言い聞かせていることはなんとなく分かるのだが、マキトたちからすれば意味不明そのものであった。

(なーんか、変なじいちゃんが出てきちゃったもんだなぁ)

 急に現れて、急に怒鳴り散らして、そして急に驚き自己完結する――そんな人物に対する感想としては、実にもっともだと言えるだろう。
 すると老人は、怒りを収めた状態でマキトたちに近づいてきた。

「さっきは済まなかったな。急に大きな声を出して、さぞかし驚いたじゃろう?」

 鬼のような形相はどこへ行ったのやら、老人は優しい微笑みを向ける。

「ワシの名はクラーレ。この山で暮らしておる、ただのヒマな老いぼれじゃ」

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