透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第六章 神獣カーバンクル

190 サリアと封印されし魔物の秘密

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「あの、マスター?」

 なんとも言えない空気が流れる中、ラティがマキトに話しかける。

「サリアって確か……マスターのお母さんの名前では?」
「あぁ。そういえばそんな名前だったっけな」

 どこか他人事のようにマキトは言う。実際のところ、未だ母親がいるという事実にピンと来ていなかった。
 父親は皆で墓参りをしたということもあり、確かにいたのだと納得している。しかし母親の場合は、単にユグラシアの口から語られたのみであり、母親がいたという痕跡が何一つ存在していない。
 果たして今も生きているのか――それとも既にこの世にいないのか。
 そのいずれも、マキトは自然な形で考えたことがなかった。
 現に今も久々に名前が出たにもかかわらず、マキトは正直言って、母親に対して考える気は全くなかった。
 目の前の喋る生き物の存在が、気になって仕方がないからだ。

「そんなことより……ん? どうかしたか?」

 コイツって魔物なのか――そう尋ねようとしたマキトは、生き物が目をパチクリとさせながら見上げてきていることに気づいた。
 すると生き物が、興味深そうにマキトに近づいてくる。

「なぁなぁ、お前の母親は、サリアってゆーのか?」
「あ、あぁ……」
「オヤジさんの名前は?」
「えっと、確かリオ……とか言ってたと思う」
「やっぱりだぜ! オマエ、あの二人の息子だったのかよ!」

 急に嬉しそうな笑顔を浮かべてきた生き物に、マキトは改めて戸惑ってしまう。しかし生き物は、それに構うことなくマキトに話しかける。

「ところでオマエ――そういやまだ、オマエの名前聞いてなかったな」
「えっ? あぁ、そうだったか」

 まだ自己紹介していなかったことに気づき、マキトは苦笑する。

「俺はマキト。魔物使いだ。こっちは、俺がテイムした魔物たちさ」
「妖精のラティなのです。どうかよろしくなのです」
「キュウ、キュウキュウキューッ♪」
『ぼくはふぉれおだよー。どうかよろしくねー』
「ラティにフォレオに、それからロップルっていうのかー。ヨロシクだぜ♪」

 三匹の簡単な自己紹介に、生き物も嬉しそうに頷く。そしてマキトは、隣に立つ少女の頭に軽くポンと手を乗せた。

「あと、コイツはノーラだ」
「ん。よろしく。マキトのお嫁さん候補だから、そのつもりで」
「そういうことだから……いやいや、ちょっと待って!」

 つい反射的に頷いてしまったところで、変な言葉が放たれたことに気づいた。これには流石のマキトも、慌てる様子を見せてしまう。

「なんだよ、そのお嫁さん候補ってのは?」
「ん。ちょっとした冗談。でも家族みたいなモノ。だからそれほど大差ない」
「いや、フツーにあると思うんだが」

 マキトがすかさずツッコミを入れる。しかしノーラは、なんてことなさげにすました笑顔を浮かべ、生き物のほうに視線を戻す。

「そんなことより、あなたがどんな魔物なのかを教えてほしい」
「えらくキレイに流してくれたな。まぁ、いいけど」

 これ以上のツッコミは不毛だとマキトは思った。生き物の正体を知りたいという気持ちも強かったため、今はとりあえず置いておくことにしたのだった。
 生き物も特に今の話題に興味はなかったため、気にすることなく質問に答える。

「カーバンクル」
「えっ?」
「オレのことを皆はそう呼んでたぜ。ちなみにラティたちと同じ魔物だ」
「へぇー、カーバンクルか。今更だけど喋れるんだな」
「おうよっ! オレにかかれば、これぐらいどうってことないぜ!」
「はは、そっかそっか」

 またどこかで聞いたような言葉だなぁと思いつつ、マキトはケタケタと笑う。その隣でノーラが神妙な表情をしていた。

「……カーバンクル?」

 小さな声で呟かれたその言葉に、マキトは気づいた。どうかしたのだろうかと視線を向けたその時――

「しっかし驚いたぜ」

 カーバンクルが興味深そうな声を出してきた。反射的に振り向いた瞬間、マキトの足元に小さな衝撃が走る。
 視線を下げると、カーバンクルがキラキラした笑顔で抱き着いていた。

「まさかマキトがサリアの息子だったとはな。どーりでなんか似てると思ったぜ」

 ニカッと笑うカーバンクルに対し、マキトは目を丸くする。

「そっくりってことか?」
「顔はどっちかってーとオヤジさんに似てる。でも雰囲気はサリアのほうだな」
「雰囲気?」
「おう。サリアはスゲーんだぜ! 精霊と仲良くなれる能力があるんだ」

 自分のことのように、えっへんと胸を張るカーバンクル。対するマキトは、軽く口を開けて呆けた様子を見せていた。

「そんな力があるのか……魔物使いとは違うのか?」
「さーな。少なくともオレは、サリアが自分で自分を魔物使いって言ってるのを、一度も聞いた記憶はねーぞ」
「そっか」

 あまり大きな反応ではないが、マキトが素直に驚いていることは間違いない。それを感じたカーバンクルは得意げな笑みを浮かべるが、すぐさまそれは疑問の表情に切り替わる。

「……てゆーか、マキトは何で知らねーんだよ? サリアの息子なんだろ? 母ちゃんから何も聞いてねーのか?」
「あ、いや……」

 実にごもっともな質問に、マキトは言葉を詰まらせる。どう答えたものかと数秒ほど考えるが、結局のところ率直な回答以外、何も浮かんでこなかった。

「実は俺、会ったことがないんだ。母親のことを知ったのも、つい最近でさ」
「そうだったのか。でも、それならそれで、一体何があったってんだ?」
「あぁ。俺もその時のことは全く覚えてないんだけど――」

 カーバンクルに尋ねられたマキトは、サラリと説明を開始する。特に隠しておく理由もなかったため、大丈夫だろうと思ったのだ。
 もっともマキトの場合は、これは魔物が相手だからこそとも言えるのだろうが。

「俺はずっと、この世界とは全然違う別の世界で暮らしてたんだ」

 それから突然、目が覚めたらこの世界に来ていたこと。アリシアというハーフエルフのお姉さんに助けられたこと、そしてラティたちと出会ったことなど――これまでの経緯を簡単に話す。
 カーバンクルは、その話の全てを興味津々で聞いていた。
 目をキラキラと輝かせており、一字一句聞き逃してたまるかと、そう言わんばかりの姿勢であった。

「――なるほどなぁ、そーゆーことだったのか」

 粗方聞き終えたカーバンクルは、納得という名の深い頷きを示す。

「おかしいとは思ってたぜ。母ちゃんであるサリアに会ったことがねぇなんてよ」
「まぁ、普通ならあり得ないことだわな」
「……悪かったな。変なことを聞いちまったみたいで」
「いいよ、別に」

 申し訳なさそうな表情を見せるカーバンクルの頭を、マキトは苦笑しながら優しく撫でる。カーバンクルはその心地良さに、思わず表情を綻ばせていた。

「あー、この感じ……リオのにーちゃんに撫でられてる時のことを思い出すぜ」
「そりゃなによりなことで」

 父親と比べられているような言い分だったが、マキトは不思議と嫌な気持ちになることはなかった。
 むしろ、魔物使いの父の血をそれだけ受け継いでいることが改めて分かり、胸の奥がじんわりと温かくなってくる感じさえする。
 それが一体何を意味するのか、マキトはまだ理解できていなかったが。

「はぁ、にしてもよぉ――」

 心地良さそうな表情から一転、カーバンクルは残念そうにため息をついた。

「折角こうして目が覚めたってのになぁ……サリアの居場所は分からねーのか?」
「分かってたらとっくに教えてるよ」
「だよなぁ。まぁ、分かんねーのはしょーがねーか」

 開き直った素振りは見せたが、カーバンクルはやはり残念そうであった。
 それだけサリアに会いたいのだろうということは、流石のマキトも分からないわけではなかった。

「それにしても、まさかカーバンクルに会えるとは思わなかった」

 ずっと黙って聞いていたノーラが、ここで口を開いてきた。まるでタイミングを計っていたかのように、どこか力強さも感じられる。

「これはとても凄いこと。普通じゃ絶対にあり得ない」
「そうなのか?」
「ん」

 問いかけるマキトに、ノーラは大きく頷いた。

「カーバンクルは霊獣よりも珍しい、カミサマを司る魔物――『神獣』だから」

 その事実を聞かされたマキトたちは、改めて目を見開きながら視線を向ける。カーバンクルはきょとんとしながら、首を傾げているばかりだった。

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