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第五章 迷子のドラゴン
179 語る二人、馳せる思い
しおりを挟むそれから、数日が経過した。
マキトたちは無事に、ユグラシアの待つ森へと帰還。引率者であるディオンは、ユグラシアにこれまでの出来事を全て話した。
「そう……色々と大変だったのね」
ディオンから話を聞いたユグラシアは、暖かい紅茶の入ったカップを置く。
「何はともあれ、ドラゴンちゃんが無事に帰れて良かったわ」
「えぇ。そこは本当に同感です」
ディオンも苦笑気味に頷いた。彼からすれば不完全燃焼ではあったが、それでも当初の目的は果たせたとも言えるため、なんとも表現しがたい感情が湧き出ていることは拭えない。
それも含めて彼の口からしっかりと語られており、ユグラシアも気持ちは分かると言わんばかりに笑みを浮かべてはいた。
「魔力スポットに関しては、もう後はこちらの問題です。マキト君たちは見事、務めを果たしました」
「そうね。あの子たちも立派にやってくれたわ」
ディオンの言葉にユグラシアもしみじみと頷く。その時、外から明るく賑やかな声が聞こえてきた。
重々しい雄たけびも耳に入り、思わずユグラシアは笑ってしまう。
「なんだか随分と、大きなお土産を持って帰ってきたみたいだけど」
「全くです」
ディオンもため息交じりに笑った。
「少しでも早くドラゴンの姿で飛べるようにするーとか言って、帰り道は極力ドラゴンに変身してたんですよ? 余計な騒ぎにならなかったのが奇跡でした」
「フフッ、それはそれはご苦労様でした」
軽く握った手を口元に添えながら、ユグラシアは軽く笑う。
「それでも、あの子たちの行動を制限させることは、しなかったんでしょう?」
そして澄ました表情となり、覗き込むような視線を向けつつ問いかける。それに対してディオンは、全てを見透かされているような気分に駆られた。
「……えぇ、まぁ」
どこか居心地が悪そうにディオンは目を逸らす。
「フォレオの新しい力を試す必要があることは事実でしたので。本物のドラゴンとどこまでが同じでどこからが違うのか、この目で見てみたかったですからね」
「なるほど」
ユグラシアは特に不覚追及せず、頷くだけに留めた。
恐らく彼の言っていることは本心なのだろうが、それが全てではない。マキトたちの好きにさせてあげたかった――そんな親心に等しい気持ちが働いたのではないかと思っていた。
断じてからかいではない。純粋にユグラシアがそう感じただけのことだ。
自分も同じ気持ちを幾度となく抱いたことがあるからこそ、余計にそう思えてならなかった。
「正直、マキト君たちが帰ってきた時は驚いたわ」
紅茶を一口飲みながら、ユグラシアは話題を切り替える。
「この半月弱で、あの子たちが随分と逞しくなったように見えたもの。これもディオン先生の教えが効いたおかげかしら?」
「いえ、自分もまだまだですよ」
ここは少しだけからかいが込められていた問いかけだったが、ディオンは即座に首を左右に振る。
照れ隠しなどではなく、彼の本心によるものであった。
今までずっと旅をしながら、マキトたちにその心得を教えてきた。ちょっとした試練のつもりであり、それなりに厳しくしたこともあった。
しかしそれだけではなかったと、ディオンはここに来て思った。
実は自分も試練を受けていたのだ、と。
冒険者として名が売れ、待遇が変わった。教わる立場から教える立場となり、下から頼られることが多くなった。
そこに潜む油断に対し、どれだけ問題なく対処できるか――そんな試練を、自分はこの旅で課せられていたのかもしれないと、改めて思ったのだった。
「あの子たちに自分の知識と技術を教えてやりましたが、同時にあの子たちから、色々と教えられた気もしたんです」
「そう。いい経験をしたのは、あの子たちだけじゃなかったということね」
「はい」
ディオンは頷き、紅茶のカップを手に取る。
「本当に……あの子たちの将来が楽しみですよ」
そして紅茶を飲んだ瞬間、ディオンの動きがピタッと止まる。すっかり冷めてしまっていたという、計算外な展開を味わったのだった。
◇ ◇ ◇
「グワアアアオオオォォーーーッ!」
ばさっ、ばさっ――と音を立てながら、フォレオが空を飛んでいた。
この数日で完全に順応したということがよく分かる。特に大森林には魔力が満ち溢れていることもあって、変身姿をより保ちやすい様子であった。
「フォレオのヤツ、元気いっぱいだよなぁ」
「ん。帰ってきたばかりなのに、あれだけはしゃげるのは凄い」
神殿の入り口にある階段に並んで座りながら、マキトとノーラは表の広場をぼんやりと眺めている。
森の魔物たちも集まっており、フォレオが変身の凄さを披露していた。
自在に空が飛べるようになったことを周りが驚き、フォレオはどうだ凄いだろうと言わんばかりにご機嫌な状態であった。
「しっかしまぁ、アレだよな」
吸い込まれるような青い空を見上げながら、マキトが呟くように言った。
「色々あったし大変だったけど……楽しい旅だったよな」
「ん。それは同感」
ノーラも小さく笑いながら頷く。
「特にマキトが楽しそうにしているのを見れたのが、一番楽しかった」
「えっ、そんなにだったか?」
「ん。間違いない」
深々と頷くノーラは、それ相応の自信が込められていた。
「あんなに楽しそうにしているマキトは、ノーラも初めて見た」
「そっか。そりゃ気付かなかったな」
少しだけ気恥ずかしい気持ちに駆られるマキトだったが、それを否定するつもりは毛頭なかった。
むしろ、より前面に押し出したいという思いが、膨れ上がっているほどである。
「でも実際楽しかったもんな。平原とか町とか、冒険者ギルドとか……初めて見るもんだらけだったし」
そう発言するマキトの口調は、年相応の少年のように明るく、ワクワクした気持ちが滲み出ていた。
森の中で過ごすのも確かに楽しい。しかし広い世界に飛び出すのも楽しい。
今回の旅で味を占めたのだ。
故にマキトは、帰ってきた時点で強く思っていることがあった。
「今度は自分たちの力だけでやってみたいよ。今回はディオンさんに頼りっぱなしだったからさ」
「ん。それができるようになれば、もっと旅が楽しくなる」
「だよな」
マキトはにししっと楽しそうに笑う。しかしそこで一つ思い出してしまった。
「あーでも……最後の最後は、ちょっと残念だったかも」
「何が?」
「魔力スポット」
「あー」
ノーラも改めて思い出してしまい、浮かない表情をしてしまう。
あのような状況では致し方なかったとはいえ、やはり魔力スポットを元に戻してあげたかったという気持ちはあった。
そしてマキトも、魔力スポットに対して改めて考えていることがあった。
「森の魔力スポットと何か違うのかなーって、今になって思うんだよな。環境が変わるだけで住んでる魔物が変わるんだし、魔力スポットもそうなんじゃないかって思えてくるんだよ」
「んー、あり得る気はする」
「だろ?」
やっぱりそうだよなーと言わんばかりに、マキトは満足そうな表情を浮かべる。そこにノーラが、小さく笑いながら彼のことを見上げた。
「なら、それを旅する目的にしてしまえばいい」
「――へっ?」
「世界中の魔力スポットを巡る。それを目標に旅をすればいい」
淡々と提案してくるノーラ。その言葉一つ一つが、脳に直接刺激を与える。マキトは今、不思議な感覚がしてならなかった。
「いいかもしれないな、それ……」
「ん。ついでに現地の魔物たちとも仲良くなれば、なお完璧になる」
「魔物たちと?」
マキトが問いかけると、ノーラが「ん」と頷いた。
「人と魔物の繋がりを築き上げていく。マキトならできる」
「冒険者は人と人の繋がりだって、ディオンさんが言ってたけど……それの魔物使い版みたいなもんか」
「そんな感じ」
ノーラがニコッと笑う。マキトはどことなく、胸がザワザワしていた。
そんな考え方もあるのかと思った。同時に凄く興味も沸いていた。少し想像してみただけでも、その姿が容易に浮かんでくる。
魔物たちと一緒に世界各地を飛び回り、そして走り回りながら、人が立ち入らないような大自然の中を突き進む。そして見つけるのだ。神秘という言葉がふさわしい輝ける魔力の結晶――魔力スポットを。
誰かに教えて自慢したいとかは一切ない。ただ、そうしたいだけなのだ。
魔物たちと笑い合いながら、楽しく過ごすことが大前提だ。それはこれからも決して変わらない。
(少し、魔物狩りの練習とか、本格的にしてみようかな?)
マキトはひっそりと決意を固めていた。
例え冒険者になれなくとも、生きていく上で狩りの技術は必要不可欠。旅をするのならば尚更だと。
それもこの旅で、身をもって教わったことだった。
もっと勉強してちゃんとできるようになりたい――そう思っていた。
「マスター!」
ぼんやりと物思いにふけっていたところに、ラティの甲高い声が聞こえてきた。
「マスターたちも一緒に遊びましょーよー!」
「キュウキュウッ!」
『はやくこっちきてよー!』
ロップルやフォレオ、そして森の魔物たちも呼びかけてくる。
そして――
「マキト、いこ」
ノーラも立ち上がりながら、スッと手を差し伸べてきた。
「――おぅ」
その小さな手を取ると、ノーラは嬉しそうに微笑む。そしてそのままマキトを引っ張る形で、二人は魔物たちの元へ向かって駆け出すのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回からは五話ほど幕間を展開していきたいと思います。
しばらくお付き合いくださいませ。
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