上 下
173 / 252
第五章 迷子のドラゴン

173 リスティの正体

しおりを挟む


「マジで? リスティって王女様だったの?」
「ん。これはビックリ……」

 リスティが正真正銘、オランジェ王国の王女であった――それを聞かされたマキトとノーラは、驚きの声を上げる。
 そんな二人の反応に対し、リスティは申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「隠していてゴメンね。立場的に、大っぴらには言えなかったから」
「いや、まぁ、それは別にいいんだけど……」

 狼狽えながらの答えではあったが、これはこれでマキトの本心ではあった。
 驚きこそすれど、苛立ちを感じることはない。知らなかったから何か不利益が起こったわけでもないのだ。マキトたちに怒りを抱く理由は、何一つない。

「まさにこれは、明かされた驚きの真実なのです」

 ぽけーと呆けた表情でラティは言った。

「ディオンさんは知ってたのですか?」
「勿論さ。俺も姫君が冒険者として外に出る姿は、何度か見ているからな」

 ラティの質問に、ディオンはあっけらかんと答える。

「王女が王宮を出て外の町にいるときは、お忍びでっていうのが基本だ。知っている人がそれに気づいたとしても、王女と呼ばないのがルールなんだ」
「盗賊みたいな悪者に狙われたりしないためにもね」

 ピンッと人差し指を立てながら、リスティがウィンクする。

「だから私も、本名をもじった仮の名前を使ってたんだよ。これでも振る舞いだってそれなりに変えてるんだから」
「へぇー、そうなんだ」
「なかなか気を使わないといけないのですね」

 マキトとラティが興味深そうに頷く。リスティも色々と大変なんだなぁと、素直に感心していたのだった。

「あ! そういえば、思い出したのです」

 ラティが軽く目を見開きながら声を上げた。

「途中で立ち寄った泉で、クリスティーンがどうとかって……」
「あぁ、確かに言ってたよな。それってまさか?」
「ご名答」

 リスティは肩をすくめながら、マキトたちの疑問に答える。

「それが私の本名だよ。出来ればキミたちには、これからも『リスティ』って呼んでほしいけどね。ついでに敬語はナシで」
「分かった。リスティがそうしてほしいならそうするよ」

 マキトがリスティの申し出を快く受け入れる。するとノーラが、無表情に近いながらも、どこか満足そうな笑みを浮かべた。

「ん。でもこれで納得」
「何が?」
「始めてリスティと会った時、明らかにディオンの様子がおかしかった」
「あぁ、そういえばそんなことあったっけ。忘れてたな」

 ノーラに言われて、マキトもようやくそのことを思い出す。それを見たリスティは苦笑した。
 本当に気にしていなかったんだなぁ、と思ったのだ。
 そしてディオンも、やっぱりと言わんばかりに小さく笑いながら目を閉じる。

「済まんな。さっきも少し話したとおりだ」
「リスティが王族であることを、話したくても話せなかったから?」
「そーゆーことだ」

 マキトに対して頷きつつ、ディオンはリスティのほうに視線を向ける。

「こちらの姫君は、魔法においては天才的な腕の持ち主なんだ。それに対して調子にも乗らず、日々欠かさず鍛錬を続けておられる。そしてなによりも、正義感が強いことで有名だったりするんだ」
「竜の山で異変が起きたと聞いて、居てもたっても居られなくなっちゃってね」

 なはは、と笑いながらリスティは続ける。

「それで王宮を抜け出して、あの町で調査していたの。魔力スポットが原因だと判明したけど、どうすればいいか分からなかった。そこにやって来たのが……」
「俺たちだったってワケだな」

 ディオンの言葉にリスティが頷く。
 実にタイミングの良いことであった。ヒントどころか答えを引っ提げて現れたようなものであり、それに食いつかない手はなかった。

「まさか、妖精や霊獣をテイムする【色無し】の魔物使いくんと会えるとは、流石に予想すらしていなかったけどね。ウワサでは聞いてたから、一度この目で見てみたいとも思ってたし、ホント色々な意味で驚いたよ」

 まさに全てが想定外。リスティも話しかけつつ、内心では戸惑っていた。
 しかし実際に接してみて、その戸惑いはすぐに消えた。この子たちならきっとなんとかしてくれる――そんな期待が生まれたのだ。

「キミたちは、私の期待に応えてくれた。冒険者のリスティとして、そして王女クリスティーンとしても、心から感謝しているよ。この度は本当にありがとう」

 そんなリスティの話を黙って聞いていたマキトたちは、終始口をポカン開けて呆けていた。
 無理もないだろう。ずっと見せてきたリスティとキャラが違う。今の彼女は王女としての顔を見せているのだから。
 きっと彼らは、急に王女らしい姿を見て驚いているのだ――リスティとディオンはそう思い込んでいた。
 しかしそれは、ある意味で全くの見当違いであった。

「……お姫様ってのは、皆こんな感じなのか?」
「さぁ?」

 マキトがノーラにそう尋ねるが、ノーラも首を傾げていた。
 更に――

「どうなのでしょうね?」
「キュウ?」
『わかんなーい』
「くきゅ」

 魔物たちもまた、こぞって悩ましそうにしていた。
 そもそも王女という存在を見たこと自体、今日この瞬間が初めてであり、他の比較対象を全く知らないのである。ついでに言えば王女どころか、王族に対して何かを考えたこともない。何故なら純粋に興味がないからだ。
 つまりマキトたちには、王女だと言われても反応のしようがないのだった。
 一応、皆揃って疑問を浮かべてこそいるが、殆ど形だけに等しい。考えなくてもいいと分かれば、全員揃ってすぐさま開き直ることだろう。
 それがありありと見て取れるだけに、ここで下手なことは言えなかった。

「……まぁ、この子たちらしいと言えばらしいよね」
「確かに」

 リスティの引きつった声に、ディオンは苦笑することしかできない。どこまで行ってもマキトたちはマキトたちなのだと、改めて心から思い知るのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

めちゃくちゃ馬鹿にされたけど、スキル『飼育』と『組み合わせ』は最強中の最強でした【Return!】

Erily
ファンタジー
エレンはその日『飼育』と『組み合わせ』というスキルを与えられた。 その頃の飼育は牛や豚の飼育を指し、組み合わせも前例が無い。 エレンは散々みんなに馬鹿にされた挙句に、仲間はずれにされる。 村の掟に乗っ取って、村を出たエレン、そして、村の成人勇者組。 果たして、エレンに待ち受ける運命とは…!?

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

エルフで聖女で転生者

もぶぞう
ファンタジー
シャルテはエルフの里でも変わった子だった。 3歳になった頃には転生者であると気が付いた。 5歳になると創造神を名乗る声が聞こえ、聖女になれと言われた。 設定盛り過ぎと文句を言えば知らんと返された。 聖女のお仕事はあまりしません。 登場する地名・人名その他、実在であろうと非実在であろうと諸々無関係です。

処理中です...