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【転移75日目】 所持金38兆1139億1130万ウェン 「…オマエら、今すっごく態度悪いぞ。」
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ドナルドが夫人のエルデフリダ様を伴って来訪して来た。
彼女は生粋の貴族である。
皇帝の孫娘として生まれ帝国の帝位継承権すら所持している。
見た目そのままに非常に気位が高く気難しい。
ヒルダ・コレットとは非常に仲が悪いので隔離していたのだが、明日教団の慰労パーティーで共に給仕をさせられるそうなので、最小限の打ち合わせだけして貰うのだ。
双方憮然としたした表情で淡々と式典マニュアルの読み合わせを行っている。
エルデフリダ様は法学部出身なので、ある程度複雑な作業もこなせるとのこと。
確かにマニュアルをめくる手つきなどは、文章を読みなれた人間特有のものである。
放っておくと喧嘩沙汰に発展する恐れがあるので、俺とドナルドは部屋の端に座って無言で監視する。
仲の悪い者との相勤をさせて申し訳ないのだが、都市国家におけるコリンズ家はキーン家の派閥に属しているので、この2人は自動的に組まされるのだ。
今日明日と我慢して貰うしかない。
==========================
「ふーーーーーーーーーー。」
ソファーにぐったりもたれ掛かっていたドナルドが、ゆっくりと溜息をつく。
ヒルダとエルデフリダ様の打ち合わせが概ね終わったからである。
高知能コンビなので、傍目で見ていてもスムーズである。
最後に衣装合わせ。
流石に同席する訳にも行かないので、俺達はドアの外に出る。
「着替えが終わり次第、すぐにこちらに声を掛ける様に。」
ドナルドってこんな冷たい声を出せる人なんだな。
少し驚く。
この男はエルデフリダ様をそこそこ大切にしているが、その理性までは信用していない。
女同士で着替えをさせると勝手に揉めるのではないか、と冷や冷やしたが、幸いにも静かに着替え終わってくれた。
尤も無言で殴り合っていた可能性もあるが、そこまでは知らん。
最後にエルデフリダ様が自由都市の正装用のティアラを母娘に装着してやってくれた。
『エルデフリダ様。
この度は妻と母へのお心遣いありがとうございます。
かくも高価な物をお貸し頂きまして、何とお礼を申し上げて良いのやら…』
一応、意思疎通を試みてみる。
だが、いつも通り一瞥されるだけで特に返事は貰えない。
早く出て行って欲しいので黙礼して見送るが。
今日に限って俺の前から立ち去ってくれない。
ただ無言で俺を凝視している。
数秒間、エルデフリダ様は無遠慮に俺を眺めてから、溜息をついて一度だけヒルダを振り返った。
そして挨拶もせずに退出し馬車に乗り込んでしまった。
ドナルドがアイコンタクトで俺に詫びて来る。
どうかお構いなく、という目線を向けると、安堵した表情でドナルドも去っていく。
==========================
『コレット。
エルデフリダ様と仲良くしてくれ。
いや、仲良くとまで行かなくとも、フレンドリーに接してくれると助かる。』
「仲良いですよー?
ねえ、お母さん。」
「そうですよー。
私とあの女は親友なので。
リンが心配する事はありませんよー。」
…オマエら、今すっごく態度悪いぞ。
まあ気持ちは分かるけどな。
俺とドナルドはかなり気心の知れた仲だ。
彼が寛容な性格だから俺の様な小僧相手でも友達付き合いしてくれている、という面もある。
だが、そこを差し引いてもかなり親密度は高い。
だからと言って母娘に、平民を露骨に差別するエルデフリダ様との友誼を強要するのは筋違いであろう。
それは十分理解している。
しかし、幾らなんでもあの態度はなあ。
『ヒルダ。
教団のパーティーは明日だけで終わるのだったか?
その間だけでもいい。
何とかエルデフリダ様と協調して欲しい。
この通りだ!』
「あらあら。
リンは心配性ですねえ。
御安心下さい。
あの女とは打ち合わせも恙無く終わりましたので。
明日はお互い補い合いますし、これからも助け合う約束も致しましたので。」
『…わかった。
くれぐれも頼む!!』
俺は母娘に深々と頭を下げる。
女同士がどうなろうと知ったことでは無いが、ドナルドと気まずくなる事態だけは避けたい。
==========================
時間が空いたので、クュ医師の到着を待ってからリハビリ運動に充てる。
相変わらず変なストレッチ。
本当にこんなモンで治るのか? と思う。
「おお、かなりいいペースでカリキュラムが進んでおりますな。
流石にコリンズ社長はお若い!
生命力の強さが伝わって参ります!」
…いや、疑ってはないよ?
でもさあ、最近同じ事ばっかり言ってない?
いやいや疑ってる訳じゃないけど。
そんな状態でグダグダやってると、招かれざる客がズカズカと踏み込んで来る。
「あ、リン君。
今、ちょっといい?」
ミュラーの甥のギュンター卿である。
どうやらノックの習慣はまだ連邦に伝来していないらしい。
コイツは自由都市と連邦の国境に張り付いてて連邦からのメッセージが届き次第、早馬を飛ばして俺に伝えに来る。
と言えばまるで精勤者なのだが、女遊びがしたいだけである。
その証拠に俺が政治的な質問をしても何も答えられない。
(というよりギュンターは政治や外交にそもそも興味が無い。)
天才的な馬術の腕を活かして、俺の邸宅と娼館に駆け付ける以外に何もしてくれない。
状況が状況なので、俺も何とか彼から政治的情報を引き出そうと試みるのだが、暖簾に腕押しである。
流石に毎日こんな茶番を続けるつもりもないので、今日は別室に待機していた軍令部のハーミット大佐と無理矢理引き合わせる。
「えー、仕事終わったじゃ~ん。
リン君も一緒に遊びに行こうよ。
割引券の期限が今日までなんだよ!
いい子揃ってんだよ!」
『ギュンター卿!
ちゃんと大佐に答礼して!』
「はいはい。」
『はいは一回!!!』
グズるギュンターを自由都市の高官達があの手この手で宥めながら、国書を無理矢理馬に括りつけて送り返す。
誰も連邦の事務処理能力に期待していないが、状況が状況だけに打てる手は全て打ちたいのだ。
舵取りを一つでも間違うと確実に首長国が自壊する。
彼らを緩衝帯として利用してきた自由都市にとっても存亡の危機。
あんな下らない奴でも頼るしかない。
==========================
《9兆7000億ウェンの配当が支払われました。》
お、時報来たな。
今度から利息アナウンスを俺の終業時間に定めよう。
明日に備えて今日は早めに就寝したい。
いや、神敵たる俺は馬車に隠れて付近に潜んでいるだけなのだが。
皆が「念の為待機していて欲しい。」と頼むので、仕方なく総本山付近まで行く。
まさか行った途端に集団リンチとかされないよな?
まさか車椅子生活の俺に暴力を振るうとかしないよな?
知財裁判はちゃんと受けて立つから、文明人同士正々堂々と法廷で決着を付けような?
その後、参謀本部がくれたお歳暮的な贈り物を3人でポリポリ齧ってから寝る。
エルデフリダ様で疲れたので、手の込んだ食事をする気力が沸かない。
『胡桃亭の頃は旨いものを喰わせてもらっていたのにな。』
寝床で俺が呟く。
「では海軍に届けさせましょう。
彼らのお歳暮は南洋名産の詰め合わせらしいので。」
あ、女将さん。
そういう事じゃないッス。
彼女は生粋の貴族である。
皇帝の孫娘として生まれ帝国の帝位継承権すら所持している。
見た目そのままに非常に気位が高く気難しい。
ヒルダ・コレットとは非常に仲が悪いので隔離していたのだが、明日教団の慰労パーティーで共に給仕をさせられるそうなので、最小限の打ち合わせだけして貰うのだ。
双方憮然としたした表情で淡々と式典マニュアルの読み合わせを行っている。
エルデフリダ様は法学部出身なので、ある程度複雑な作業もこなせるとのこと。
確かにマニュアルをめくる手つきなどは、文章を読みなれた人間特有のものである。
放っておくと喧嘩沙汰に発展する恐れがあるので、俺とドナルドは部屋の端に座って無言で監視する。
仲の悪い者との相勤をさせて申し訳ないのだが、都市国家におけるコリンズ家はキーン家の派閥に属しているので、この2人は自動的に組まされるのだ。
今日明日と我慢して貰うしかない。
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「ふーーーーーーーーーー。」
ソファーにぐったりもたれ掛かっていたドナルドが、ゆっくりと溜息をつく。
ヒルダとエルデフリダ様の打ち合わせが概ね終わったからである。
高知能コンビなので、傍目で見ていてもスムーズである。
最後に衣装合わせ。
流石に同席する訳にも行かないので、俺達はドアの外に出る。
「着替えが終わり次第、すぐにこちらに声を掛ける様に。」
ドナルドってこんな冷たい声を出せる人なんだな。
少し驚く。
この男はエルデフリダ様をそこそこ大切にしているが、その理性までは信用していない。
女同士で着替えをさせると勝手に揉めるのではないか、と冷や冷やしたが、幸いにも静かに着替え終わってくれた。
尤も無言で殴り合っていた可能性もあるが、そこまでは知らん。
最後にエルデフリダ様が自由都市の正装用のティアラを母娘に装着してやってくれた。
『エルデフリダ様。
この度は妻と母へのお心遣いありがとうございます。
かくも高価な物をお貸し頂きまして、何とお礼を申し上げて良いのやら…』
一応、意思疎通を試みてみる。
だが、いつも通り一瞥されるだけで特に返事は貰えない。
早く出て行って欲しいので黙礼して見送るが。
今日に限って俺の前から立ち去ってくれない。
ただ無言で俺を凝視している。
数秒間、エルデフリダ様は無遠慮に俺を眺めてから、溜息をついて一度だけヒルダを振り返った。
そして挨拶もせずに退出し馬車に乗り込んでしまった。
ドナルドがアイコンタクトで俺に詫びて来る。
どうかお構いなく、という目線を向けると、安堵した表情でドナルドも去っていく。
==========================
『コレット。
エルデフリダ様と仲良くしてくれ。
いや、仲良くとまで行かなくとも、フレンドリーに接してくれると助かる。』
「仲良いですよー?
ねえ、お母さん。」
「そうですよー。
私とあの女は親友なので。
リンが心配する事はありませんよー。」
…オマエら、今すっごく態度悪いぞ。
まあ気持ちは分かるけどな。
俺とドナルドはかなり気心の知れた仲だ。
彼が寛容な性格だから俺の様な小僧相手でも友達付き合いしてくれている、という面もある。
だが、そこを差し引いてもかなり親密度は高い。
だからと言って母娘に、平民を露骨に差別するエルデフリダ様との友誼を強要するのは筋違いであろう。
それは十分理解している。
しかし、幾らなんでもあの態度はなあ。
『ヒルダ。
教団のパーティーは明日だけで終わるのだったか?
その間だけでもいい。
何とかエルデフリダ様と協調して欲しい。
この通りだ!』
「あらあら。
リンは心配性ですねえ。
御安心下さい。
あの女とは打ち合わせも恙無く終わりましたので。
明日はお互い補い合いますし、これからも助け合う約束も致しましたので。」
『…わかった。
くれぐれも頼む!!』
俺は母娘に深々と頭を下げる。
女同士がどうなろうと知ったことでは無いが、ドナルドと気まずくなる事態だけは避けたい。
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時間が空いたので、クュ医師の到着を待ってからリハビリ運動に充てる。
相変わらず変なストレッチ。
本当にこんなモンで治るのか? と思う。
「おお、かなりいいペースでカリキュラムが進んでおりますな。
流石にコリンズ社長はお若い!
生命力の強さが伝わって参ります!」
…いや、疑ってはないよ?
でもさあ、最近同じ事ばっかり言ってない?
いやいや疑ってる訳じゃないけど。
そんな状態でグダグダやってると、招かれざる客がズカズカと踏み込んで来る。
「あ、リン君。
今、ちょっといい?」
ミュラーの甥のギュンター卿である。
どうやらノックの習慣はまだ連邦に伝来していないらしい。
コイツは自由都市と連邦の国境に張り付いてて連邦からのメッセージが届き次第、早馬を飛ばして俺に伝えに来る。
と言えばまるで精勤者なのだが、女遊びがしたいだけである。
その証拠に俺が政治的な質問をしても何も答えられない。
(というよりギュンターは政治や外交にそもそも興味が無い。)
天才的な馬術の腕を活かして、俺の邸宅と娼館に駆け付ける以外に何もしてくれない。
状況が状況なので、俺も何とか彼から政治的情報を引き出そうと試みるのだが、暖簾に腕押しである。
流石に毎日こんな茶番を続けるつもりもないので、今日は別室に待機していた軍令部のハーミット大佐と無理矢理引き合わせる。
「えー、仕事終わったじゃ~ん。
リン君も一緒に遊びに行こうよ。
割引券の期限が今日までなんだよ!
いい子揃ってんだよ!」
『ギュンター卿!
ちゃんと大佐に答礼して!』
「はいはい。」
『はいは一回!!!』
グズるギュンターを自由都市の高官達があの手この手で宥めながら、国書を無理矢理馬に括りつけて送り返す。
誰も連邦の事務処理能力に期待していないが、状況が状況だけに打てる手は全て打ちたいのだ。
舵取りを一つでも間違うと確実に首長国が自壊する。
彼らを緩衝帯として利用してきた自由都市にとっても存亡の危機。
あんな下らない奴でも頼るしかない。
==========================
《9兆7000億ウェンの配当が支払われました。》
お、時報来たな。
今度から利息アナウンスを俺の終業時間に定めよう。
明日に備えて今日は早めに就寝したい。
いや、神敵たる俺は馬車に隠れて付近に潜んでいるだけなのだが。
皆が「念の為待機していて欲しい。」と頼むので、仕方なく総本山付近まで行く。
まさか行った途端に集団リンチとかされないよな?
まさか車椅子生活の俺に暴力を振るうとかしないよな?
知財裁判はちゃんと受けて立つから、文明人同士正々堂々と法廷で決着を付けような?
その後、参謀本部がくれたお歳暮的な贈り物を3人でポリポリ齧ってから寝る。
エルデフリダ様で疲れたので、手の込んだ食事をする気力が沸かない。
『胡桃亭の頃は旨いものを喰わせてもらっていたのにな。』
寝床で俺が呟く。
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