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番外編
イバキ市奪還作戦 1
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アイたちが黒地竜との激戦を繰り広げていたころ、国から新しい襲撃予報が発表された。
これにより、ネヤガー市の後方での魔物の活動が激減していることが明確になり、軍は大きな作戦を実行に移す。
すなわち、イバキ市奪還作戦である。
軍の作戦は簡単明瞭であった。「黒い幻影」を主軸とした精鋭の突撃部隊を送り込み、切り拓いた道を後続の本隊が制圧していくというものだ。
今話題のブラックファントムを先陣に置くことにより、兵士の士気は上がり、冒険者たちの参集にも期待が持てる。
ネヤガー市の冒険者の詰所に軍隊からの協力要請が入ったのは、お昼を過ぎたころであった。館内に放送が流れると、待機していた冒険者たちからどよめきが上がる。名声と報奨金を獲得するための、絶好の機会となるのだ。
「ブラックファントムとお近付きになるんだ!」
「今度こそA級に上がってやる!」
冒険者たちが、思い思いの気持ちを口にする。活気が全体に満ちてきた。
実は冒険者の階級についてだが、B級からA級への昇級は、魔物の討伐数だけでは上がらない。軍隊からの推薦を得て、国家に功績を認められる必要があるのだ。
軍との共同戦線に、冒険者がこぞって集まる理由がソコにある。国が報奨金を払う以上、国家にも資格を見極める権利があるということなのだろう。
A級以上の冒険者が全体の1割程度しかいない理由が、このシステムに集約される。
ちなみにS級に認定されるには「一定以上の功績を残し、さらにカリスマ性を認められる者」となっている。
つまり、英雄と認められた者だけがなれる、特別な階級なのだ。
最近の例で言えば、もしも「黒い幻影」がA級冒険者であったならば、その階級はS級に認定されていた筈である。
~~~
「ソアラさま、すみません」
ソアラがロビーのテーブルでパーティ仲間とお茶を飲んでいたとき、詰所のスタッフが息を切らしてやってきた。
「ターニャさまをどこかで見ませんでしたか?朝はいらしたらしいのですが、見当たらないのです」
「出ていったわよ」
ソアラがお茶を飲みながら、スタッフの顔も見ずに答えた。
「…え?」
スタッフが目を丸くしてポカンとする。
ソアラはテーブルにカップを置くと、ゆっくりとスタッフに顔を向けた。
「大事な用事があるとかで、午前中のうちに」
「た、大変だぁーー!」
スタッフが涙目で、一目散に駆けていった。
現在S級に認定されている冒険者は、たったの2人しかいない。そのうちの1人が抜けたとなると、それはさぞかし大問題だろう。
「きっと、コレ以上の成果を挙げてきますわよ」
ソアラは悪戯っぽく微笑むと、再び優雅にお茶を飲み始めた。
~~~
軍のイバキ市奪還作戦が開始された。
ここ最近の、立て続けに発生した大規模襲撃が幸いした。わざわざ寄せ集めなくても、多くの人員がこの地に集結していたのだ。
人員が確保出来ているのなら、あとは隊の編成をするだけである。立案から実行までが、異例のスピードで決定した。
軍の動きに合わせて、冒険者たちも忙しなく動き始めた。元々そのつもりで集まった者たちだ。準備はとうの昔に完了している。
冒険者の詰所に情報が入ってから3時間が経つ頃には、軍の先発隊と多数の冒険者がヒクエン大橋を北に向けて渡り始めた。
先発する突撃部隊の中には、もちろん今話題の「黒い幻影」の姿もあった。
これにより、ネヤガー市の後方での魔物の活動が激減していることが明確になり、軍は大きな作戦を実行に移す。
すなわち、イバキ市奪還作戦である。
軍の作戦は簡単明瞭であった。「黒い幻影」を主軸とした精鋭の突撃部隊を送り込み、切り拓いた道を後続の本隊が制圧していくというものだ。
今話題のブラックファントムを先陣に置くことにより、兵士の士気は上がり、冒険者たちの参集にも期待が持てる。
ネヤガー市の冒険者の詰所に軍隊からの協力要請が入ったのは、お昼を過ぎたころであった。館内に放送が流れると、待機していた冒険者たちからどよめきが上がる。名声と報奨金を獲得するための、絶好の機会となるのだ。
「ブラックファントムとお近付きになるんだ!」
「今度こそA級に上がってやる!」
冒険者たちが、思い思いの気持ちを口にする。活気が全体に満ちてきた。
実は冒険者の階級についてだが、B級からA級への昇級は、魔物の討伐数だけでは上がらない。軍隊からの推薦を得て、国家に功績を認められる必要があるのだ。
軍との共同戦線に、冒険者がこぞって集まる理由がソコにある。国が報奨金を払う以上、国家にも資格を見極める権利があるということなのだろう。
A級以上の冒険者が全体の1割程度しかいない理由が、このシステムに集約される。
ちなみにS級に認定されるには「一定以上の功績を残し、さらにカリスマ性を認められる者」となっている。
つまり、英雄と認められた者だけがなれる、特別な階級なのだ。
最近の例で言えば、もしも「黒い幻影」がA級冒険者であったならば、その階級はS級に認定されていた筈である。
~~~
「ソアラさま、すみません」
ソアラがロビーのテーブルでパーティ仲間とお茶を飲んでいたとき、詰所のスタッフが息を切らしてやってきた。
「ターニャさまをどこかで見ませんでしたか?朝はいらしたらしいのですが、見当たらないのです」
「出ていったわよ」
ソアラがお茶を飲みながら、スタッフの顔も見ずに答えた。
「…え?」
スタッフが目を丸くしてポカンとする。
ソアラはテーブルにカップを置くと、ゆっくりとスタッフに顔を向けた。
「大事な用事があるとかで、午前中のうちに」
「た、大変だぁーー!」
スタッフが涙目で、一目散に駆けていった。
現在S級に認定されている冒険者は、たったの2人しかいない。そのうちの1人が抜けたとなると、それはさぞかし大問題だろう。
「きっと、コレ以上の成果を挙げてきますわよ」
ソアラは悪戯っぽく微笑むと、再び優雅にお茶を飲み始めた。
~~~
軍のイバキ市奪還作戦が開始された。
ここ最近の、立て続けに発生した大規模襲撃が幸いした。わざわざ寄せ集めなくても、多くの人員がこの地に集結していたのだ。
人員が確保出来ているのなら、あとは隊の編成をするだけである。立案から実行までが、異例のスピードで決定した。
軍の動きに合わせて、冒険者たちも忙しなく動き始めた。元々そのつもりで集まった者たちだ。準備はとうの昔に完了している。
冒険者の詰所に情報が入ってから3時間が経つ頃には、軍の先発隊と多数の冒険者がヒクエン大橋を北に向けて渡り始めた。
先発する突撃部隊の中には、もちろん今話題の「黒い幻影」の姿もあった。
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