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第3章

ヨーケバ城跡の悪魔 8

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モウモウと舞い上がっていた土煙が徐々に晴れ、黒地竜の紅い瞳がアイたちの姿を確認する。それからもたげていた頭部を4人の方に向き直すと、ボボボと閉じた口の端から炎が漏れ出した。

「ブレスだ!」

焦ったようにターニャが叫ぶ。咄嗟にフランが大盾を構えて先頭に立った。

黒地竜は一瞬アゴを上に反らすと、口を大きく開き火球を撃ち放つ。直径が1mにも及ぶ炎の塊が4人の元に襲いかかった。

フランが全身で支えるように大盾で受け止めるが、その瞬間火球のブレスが大爆発を起こした。

「つっっ!」

衝撃でフランが後方に吹き飛ばされる。後方のアイたち3人を巻き込んで、地面に叩きつけられた。

黒地竜は4人の生存を確認すると、紅い目を凶悪そうに細めた。再び口の端から炎が吹き出し始める。

「マズイ!」

最初に何とか立ち上がったターニャが、稲妻の余韻を残して跳躍する。一瞬で大きく開かれた黒地竜の口の前に姿を現すと、真下からそのアゴを強引に蹴り上げた。

バフンという破裂音とともに、黒地竜の閉じた口の中から黒い煙が噴き出す。その衝撃で黒地竜のもたげた頭部が一瞬グラつくが、直ぐに体勢を整え鋭い眼光で空中のターニャを睨みつけた。

それから頭部を大きく振りかぶると、ターニャを目掛けて首を横に薙いだ。

「ぎゃっ!」

真横からの凄まじい衝撃で吹き飛ばされたターニャは、遺跡の土壁に背中から叩きつけられ、そのままズルズルと座り込む。

黒地竜はゆらりと尻尾を振り上げると、紅い瞳でターニャを見下ろした。ターニャは意識が無いのか、ガックリとうな垂れたまま動かない。

「ダメーーっ!」

フランが悲鳴のような声で絶叫する。同時にフランの真横を、後方からおキクが駆け抜けた。

「カタパルトっ!セット!」

おキクの鋭い声が響き渡る。

しかしその直後、黒地竜の尻尾が強烈な勢いで地面に打ちつけられた。爆煙のような大量の土煙が、モウモウと舞い上がっていく。

時間差で、フランのそばに、何かが空から落下してきた。地面の上で、ビクビクと蠢いている。

「ひっ…っ」

フランは思わず仰け反った。しかしそれは、よく見ると黒地竜の尻尾の先端部分であった。尻尾が振り下ろされる瞬間に、おキクが両手剣で斬り飛ばしたのだ。

黒地竜の一撃は、尻尾を斬られたためターニャにギリギリ届かなかった。しかし地面を打ちつけた時の衝撃で、ターニャ自身は吹き飛ばされている。

「フラン、キュアを!」

おキクの声に、フランは思い出したようにターニャのそばに駆け寄って行った。

「このっ!」

アイはフランの援護のために、黒地竜の眼のあたりに攻撃を集中させる。

黒地竜は「グワッ」と唸ると、その攻撃を嫌ってか少し後方に間合いをとった。

「ターニャさん、かなり酷い。これじゃ時間がかかっちゃう!」

フランの声は、もはや泣き声に近い。

「動きを止めるわ!」

瞬時に状況を理解したおキクは、体勢を低く構えるとスキルで一気に加速した。一瞬で黒地竜の左後ろ脚に接近すると、両手剣を真横に薙ぎ払う。

しかし両手剣が半分程めり込んだあたりで、それ以上斬り進めなくなった。初めてのことにおキクは驚愕する。

「なんでっ!?」

「驚異的な肉厚で超音波振動が止められました。再稼働出来ません!」

おキクの足元で、ミーコが状況を素早く伝えた。

「剣も抜けない!」

ならば引き戻そうと、おキクは剣を持つ手に力を込めるがビクともしない。

黒地竜は頭をもたげ足元のおキクを見下ろすと、ゆらりと尻尾を振り上げた。先端のない尻尾がブルブルと震え、斬られた恨みも晴らさん勢いである。

「おキク、上です!」

「…え?」

ミーコの警告を受けるが、おキクは武器を置いて逃げるのを一瞬躊躇った。

その一瞬が命取りとなり、尻尾の一撃をまともにくらう。まるでスカッシュのように、勢いよく土壁に叩きつけられた。

しかしその瞬間、おキクの体で光が弾ける。

「ぎ……って、あれ?…平気」

凄まじい激痛を覚悟していたおキクは、自分の身体を不思議そうに眺めた。

「おキク、大丈夫なの?」

アイの心配そうな声が届いてくる。

「なんか…大丈夫みたい」

「追撃きます!」

「わわっ!」

ミーコの警告に、おキクは慌てて尻尾の追撃をなんとか避けた。衝撃波で少々吹き飛ばされるが、受け身をとってすぐに立ち上がる。

そのまま走って黒地竜のそばから離れるが、大事な両手剣を黒地竜の後ろ脚に残してきてしまった。

「なんとかしないと!」

おキクは思案を巡らすが、焦りで思考が思うようにまとまらない。

「おキク、一旦逃げるよ!」

そのとき後方からアイの声が響く。おキクは咄嗟に振り返ると、そこにはターニャを背負ったアイの姿があった。

「逃げるって、どこに?」

「あの建物!」

アイの指し示す先に石造りの小さな建物があった。

「あんなの絶対無理よっ!」

「いいから!」

アイとフランは既に走り始めている。

おキクは自分の武器に一瞬目を向けるが、グッと唇を噛みしめてアイの後ろ姿を追いかけていった。
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