中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

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第3章

ヨーケバ城跡の悪魔 7

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ウジル川の向こう岸は黒地竜の縄張りということもあり、ターニャの提案で橋を渡る前にお弁当を食べることにした。

「ターニャさん、黒地竜って、どんな攻撃とかしてくるの?」

お弁当の大半を食べ終えたところで、アイがターニャの方に顔を向けた。

「よく知らん」

ターニャは口をモグモグさせながら、サラッと簡潔に答える。

「……え?」

アイたち3人は思わず箸を持つ手が止まった。

「以前の情報とか調べてないんですか?」

おキクが堪らず口を挟む。

「そんなメンドーなこと、する訳ない!」

「ええー!」

今日は遭遇戦ではなく討伐戦である。普通の冒険者なら、対象の特徴を下調べし万全の態勢で臨むのが一般的だ。

しかしターニャには、そんなモノは今まで全く必要なかった。溢れる才能が、凡人の努力を簡単に凌駕してしまうからである。

「ミーコ、分かる?」

仕方なくおキクはミーコに助け舟を求めた。

「了解しました」

おキクの横で丸まっていたミーコが、ムクリと顔を持ち上げた。

黒地竜はコチラの世界でいうところの「コモドドラゴン」をまんま大きくしたようなものらしい。巨大な体躯は黒く硬い鱗と厚い皮膚で覆われている。前脚を立て頭をもたげた背丈は3m程になり、頭から尻尾までの全長は10mを優に越す。口から火球を吐き、尻尾の攻撃は石造りの家を容易く粉砕する。

話を聞き終えたアイたちは、ゾッとしたように顔が真っ青になった。こんな相手に無策で挑むのか。

それから3人は、揃えたように頼みの綱であるターニャに顔を向けた。不意に注目を浴びたターニャはポリポリと頬を掻く。

「…想像よりデカイな」

そのひと言に、フランは最後の楽しみに残していた肉団子を、ポロリと地面に落としてしまった。

「心配すんな、なんとかなるって!」

ターニャは口を大きく開けて「ナハハ」と笑う。トレードマークの八重歯も、心なしか元気がないように見えた。

   ~~~

アイたちは荷馬車を対岸に残し、歩いてウジル川の橋を渡った。

ここからは黒地竜の縄張りだ。いつ襲われてもおかしくはない。しかし相手の巨体を考えれば、不意打ちを喰らう可能性もかなり低い。

とにかくその姿を見落とさないよう、警戒しながら丘を登っていった。

そうしてヨーケバ城の廃墟が目前に迫ったころ、ミーコが唐突に叫んだ。

「上です!」

その声に一同は空を見上げる。小さなトカゲの影が青い空に確認できた。しかしみるみる内に影が大きくなり、こちらに迫ってくる。

「わわっっ!」

アイたち4人は転がるように慌てて散開した。

ズダーーンと地響きが起こり、土煙が舞い上がる。その土煙の中に、ムクリと頭をもたげる巨大な影が確認できた。紅い瞳が禍々しく光輝いている。

黒地竜だ。

アイとおキクは即座に武器を呼び出す。フランも盾を背中から下ろした。

ターニャは直ぐさま「剛雷ガンボルト」「瞬雷シエンボルト」を連続で唱え、土煙の中に真っ先に飛び込んだ。

今なら黒地竜自身が巻き上げた土煙のせいで、視界が遮られているはずである。

一瞬で黒地竜の右側面に張り付くと、脇腹のあたりに渾身の右ボディアッパーを打ち込んだ。拳を中心にバリッと電撃が迸る。

黒地竜は背中側は黒い鱗に覆われているが、お腹側にはそれがない。瞬時にそのことを判断したうえでの攻撃であったが…手応えがおかしい。手首までメリ込んだ一撃は、しかし厚い皮膚を貫くことが出来なかった。

黒地竜は「グオー」と唸ると、羽虫でも払うかのように尻尾をバチンと打ちつけた。

尻尾の攻撃は、完全にターニャの死角からであったが、偶然直撃にはならなかった。しかし尻尾が地面を打ちつけた凄まじい衝撃波に、ターニャは紙人形のように吹き飛ばされる。そのまま土煙の中からボフッと飛び出し地面に叩きつけられた。

「がはっっ!」

衝撃で肺にあった空気を全て吐き出す。

「ターニャさん!」

全員が慌てて、ターニャの周りに集まった。

ターニャは「ゴホッ」と咳込みながら、ゆっくりと立ち上がる。ヨロケそうになるのをなんとか踏ん張り、心配そうに自分を見てくるC級冒険者たちに笑いかけた。

「まだまだ小手調べだ、心配すんなって」
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