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第1章
初日の朝 2
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「基本的には君たちの冒険の楽しみを奪うつもりはないが、少しだけ前情報を渡しておく」
佐藤の言葉に、亜衣とお菊は黙って頷く。
「まずは竜宮市役所の出張所がある、ラング国のカタン市がスタート地点になる。カタン市長は現地の協力員の一人だから、最初に挨拶に行くといい」
「分かりました」
ふたりは揃って返事をする。
「それと水戸さんを見て分かるように、向こうの世界の人間も我々とそう大差ない。確かに異種族は存在するけど少数であり、異種族と一度も出会わずに人生を終える人も少なくない。アバターを作るときの参考にするように」
佐藤は特に亜衣の方を向きながら、諭すような口調になる。
「理由はもう一つ。向こうで坂下くんや浅野さんに会った時に、亜衣くんやお菊さんだと分かりにくかったら、やはり都合が良くない」
「大丈夫、分かってまーす」
亜衣は佐藤から目線を外すと、惚けた声で返事を返した。
~~~
「次は場所を移動しよう」
佐藤は亜衣の態度に一抹の不安を残しつつ、ふたりを連れて移動する。
部屋の奥のドアから外に出ると、屋上へと続く階段があった。その階段を上がって屋上に出ると、ドーム型の小さな建物が建っていた。
「ここから向こうの世界に渡るんだ!」
佐藤はふたりに力強く紹介した。それから亜衣とお菊をドームの中に招き入れる。
室内は暑くも寒くもなく、とても快適な空間であった。佐藤の話によると、中の人間がリラックス状態を維持出来るように、体調と室内環境がセーレーにより完璧に管理されている。
室内には、部屋の半分程を締める大きな機械と、4脚のリクライニングシートが壁に沿うように半円に並んでいた。
そのうち2個のリクライニングシートを、坂下と浅野が使用している。頭部には、VRゲームで使用するヘッドマウントディスプレイのようなモノをかぶっていた。
そして部屋半分を占める大きな機械が、セーレーの本体であった。
「見て分かるように、ここが異世界支援課の心臓部だ。今日から君たちも使っていくことになる」
「わー、スゴいっ!」
亜衣とお菊は瞳を輝かせながら、あちこちキョロキョロする。
「そこのシートは君たちの分だ。さっそく座ってみるといい」
佐藤がリクライニングシートを指して言った。ふたりは好奇心の赴くまま直ぐさま従う。フカフカでとても座り心地が良い。
「一番楽な姿勢になるように角度を調節しておきなさい」
佐藤の言葉を受けてふたりは試行錯誤を重ね、一番良い位置を確定していく。
「このまま始めることも出来るが…どうする?トイレに行っておくかい?」
佐藤は念のため質問した。
「あ、そうします!」
ふたりは一緒に部屋を飛び出していった。
~~~
「このディスプレイをかぶり『接続』と声をだせば、音声入力により、セーレーが時空間転位を開始する」
ふたりが部屋に戻ると、佐藤は説明を再開した。
「今日は初接続なので、まずはアバターを作成してから向こうの世界に渡ることになる。4時間が経つころにセーレーから連絡が入るので、帰りはセーレーの指示に従うといい」
「はい」
亜衣とお菊は揃って頷いた。
「君たちに与えられた役割はとても重大なものだ」
佐藤はふたりの顔を交互に見つめる。
「とはいえ、せっかくの異世界体験だ。存分に楽しんでくるといい!」
「はいっ!」
亜衣とお菊は元気一杯に返事をする。それから顔を見合わせてタイミングをとると、二人一斉にヘッドマウントディスプレイを装着した。
「接続!」
佐藤の言葉に、亜衣とお菊は黙って頷く。
「まずは竜宮市役所の出張所がある、ラング国のカタン市がスタート地点になる。カタン市長は現地の協力員の一人だから、最初に挨拶に行くといい」
「分かりました」
ふたりは揃って返事をする。
「それと水戸さんを見て分かるように、向こうの世界の人間も我々とそう大差ない。確かに異種族は存在するけど少数であり、異種族と一度も出会わずに人生を終える人も少なくない。アバターを作るときの参考にするように」
佐藤は特に亜衣の方を向きながら、諭すような口調になる。
「理由はもう一つ。向こうで坂下くんや浅野さんに会った時に、亜衣くんやお菊さんだと分かりにくかったら、やはり都合が良くない」
「大丈夫、分かってまーす」
亜衣は佐藤から目線を外すと、惚けた声で返事を返した。
~~~
「次は場所を移動しよう」
佐藤は亜衣の態度に一抹の不安を残しつつ、ふたりを連れて移動する。
部屋の奥のドアから外に出ると、屋上へと続く階段があった。その階段を上がって屋上に出ると、ドーム型の小さな建物が建っていた。
「ここから向こうの世界に渡るんだ!」
佐藤はふたりに力強く紹介した。それから亜衣とお菊をドームの中に招き入れる。
室内は暑くも寒くもなく、とても快適な空間であった。佐藤の話によると、中の人間がリラックス状態を維持出来るように、体調と室内環境がセーレーにより完璧に管理されている。
室内には、部屋の半分程を締める大きな機械と、4脚のリクライニングシートが壁に沿うように半円に並んでいた。
そのうち2個のリクライニングシートを、坂下と浅野が使用している。頭部には、VRゲームで使用するヘッドマウントディスプレイのようなモノをかぶっていた。
そして部屋半分を占める大きな機械が、セーレーの本体であった。
「見て分かるように、ここが異世界支援課の心臓部だ。今日から君たちも使っていくことになる」
「わー、スゴいっ!」
亜衣とお菊は瞳を輝かせながら、あちこちキョロキョロする。
「そこのシートは君たちの分だ。さっそく座ってみるといい」
佐藤がリクライニングシートを指して言った。ふたりは好奇心の赴くまま直ぐさま従う。フカフカでとても座り心地が良い。
「一番楽な姿勢になるように角度を調節しておきなさい」
佐藤の言葉を受けてふたりは試行錯誤を重ね、一番良い位置を確定していく。
「このまま始めることも出来るが…どうする?トイレに行っておくかい?」
佐藤は念のため質問した。
「あ、そうします!」
ふたりは一緒に部屋を飛び出していった。
~~~
「このディスプレイをかぶり『接続』と声をだせば、音声入力により、セーレーが時空間転位を開始する」
ふたりが部屋に戻ると、佐藤は説明を再開した。
「今日は初接続なので、まずはアバターを作成してから向こうの世界に渡ることになる。4時間が経つころにセーレーから連絡が入るので、帰りはセーレーの指示に従うといい」
「はい」
亜衣とお菊は揃って頷いた。
「君たちに与えられた役割はとても重大なものだ」
佐藤はふたりの顔を交互に見つめる。
「とはいえ、せっかくの異世界体験だ。存分に楽しんでくるといい!」
「はいっ!」
亜衣とお菊は元気一杯に返事をする。それから顔を見合わせてタイミングをとると、二人一斉にヘッドマウントディスプレイを装着した。
「接続!」
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