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第1章
異世界支援課 2
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「あんなとこにあんなポスター貼っといて、秘密も何もないと思うんですけど?」
お菊は納得いかない表情で、至極もっともな質問を口にした。
佐藤は腕を組むと「ふーむ」と思案顔になる。
「あの掲示板はね、特殊な結界が張ってあって普通の人には見えないんだ」
佐藤は正直に説明した。しかしお菊には、佐藤の誠意は伝わらなかった。
「ふざけないで!」
お菊に詰め寄られ、佐藤は右手の中指で眼鏡の眉間部分をクイっと持ち上げた。あまりに予想どうりの反応に、思わず苦笑いになる。
「お菊、落ち着いて。佐藤さん困ってる」
亜衣がお菊の頭を優しく撫でた。
「亜衣?」
「佐藤さん、お話続けて」
「信じてくれるのか?」
「んーと、逆かなぁ?」
亜衣は右手の人差し指で自分のアゴに触れながら、軽く小首を傾げる。
「こんな子どもを、門前払いもなくここまで連れてきたんだから、佐藤さんが私たちを必要としてるんだよ」
亜衣はお菊に顔を向けると、にっこり笑った。
「そんな人が、今さら私たちに嘘つかないよ」
お菊は目を見張った。亜衣のロジックは少々強引すぎる気もするが、言いたいことは伝わってきた。
この市役所に何か秘密があることは、お菊自身も感じとった事実である。そして何かは分からないが、その秘密を知る資格を自分たちは得たのだ。
お菊は佐藤に頭を下げた。
「取り乱してすみませんでした。お話を続けてください」
「ふたりとも、ありがとう」
佐藤は笑顔で頷いた。
そこで聞いた佐藤の話は、簡単には信じられないものであった。
・現在竜宮市は異世界と交流があること。
・傷つき難を逃れて竜宮市に現れた、異世界の魔法使いを保護したのがキッカケであったこと。
・市長が大層感激して、異世界への支援事業を始めたこと。
・異世界に渡るためには、ある種の資質が必要であること。
・市職員から資質のある者を集め、異世界支援課が出来たこと。
・その資質は特殊なものであり、慢性的に人手が足りないこと。
最後に、
「水戸さん。ちょっといいかな?」
佐藤は部屋で唯一、机で作業をしていた男性を呼びよせた。
「はい」
ちょっと長めの黒髪で、前髪は細い目にかかっている。年齢は40代くらいで、少し小柄なスーツ姿の男性だった。そして彼の持っている肩ほどもある長い木の杖は、先端部分がアルファベットのCの形になっており、中に青い水晶玉がはめ込まれていた。
「私はミトと言います。魔法使いやってます」
水戸はペコリと頭を下げると、杖でコツンと床を突いた。すると光のフラフープのようなものが、水戸の足元から頭の先まで昇っていく。
亜衣とお菊は唖然とした。
スーツ姿だった水戸が一瞬で、緑の長衣を身に纏い、同じく緑のつばの広い三角帽子をかぶっていたのだ。
「ああ、これ魔法使いだ」
亜衣が呆然と呟いた。
佐藤の話を信じるしかなかった。
「魔王の軍勢に襲われ、仲間は次々と倒れ、次は自分だと覚悟した瞬間、私はこちらの世界にたったひとりで立っていました」
水戸は目を閉じて、俯き加減で言葉を続ける。
「あのとき偶然通りかかった市長さんに保護してもらえてなければ、何も分からず途方に暮れていたことでしょう」
「それじゃ水戸さんにも、その特殊な資質があったってこと?」
「そうなりますね」
亜衣の質問に、水戸はゆっくりと頷いた。
「あのときの私は、異世界の存在など微塵も信じていなかったので、本当に驚いています」
水戸は亜衣の方に顔を向けると、にっこりと優しく微笑んだ。
「ただ、あの日の市長さん、一目見て私を魔法使いだと見抜いたんです」
「でしょーね」と亜衣とお菊は頷いた。
「あれは、どういう能力だったのでしょうか?」
水戸は不思議そうに首を傾げた。
「市長は子どもの頃からゲームが好きらしい」
佐藤が囁くように補足した。それから水戸の方に顔を向ける。
「水戸さん、ありがとう」
佐藤が水戸を退がらせたので、この場の人数が再び元の3人に戻った。
「薄々勘づいているかもしれないが…あの掲示板には、その資質のある人にしか見えないように結界が張ってあるんだ」
佐藤は真面目な表情になった。
「他にも見えてる人はいるかもしれないけど、実際に来てくれたのは君たちが初めてなんだ。本当に感謝している」
佐藤は頭を深く下げた。
「ちょ…ちょっと待って!」
お菊が焦ったように声を張り上げた。
「水戸さんの話を信じるなら、これって危ない話なんじゃないの?」
佐藤はお菊を見て密かに微笑んだ。
このふたり、子どもの割には頭の回転が良い。大人の話に流されない。佐藤のなかで、ふたりの評価がドンドンと上がっていった。
お菊は納得いかない表情で、至極もっともな質問を口にした。
佐藤は腕を組むと「ふーむ」と思案顔になる。
「あの掲示板はね、特殊な結界が張ってあって普通の人には見えないんだ」
佐藤は正直に説明した。しかしお菊には、佐藤の誠意は伝わらなかった。
「ふざけないで!」
お菊に詰め寄られ、佐藤は右手の中指で眼鏡の眉間部分をクイっと持ち上げた。あまりに予想どうりの反応に、思わず苦笑いになる。
「お菊、落ち着いて。佐藤さん困ってる」
亜衣がお菊の頭を優しく撫でた。
「亜衣?」
「佐藤さん、お話続けて」
「信じてくれるのか?」
「んーと、逆かなぁ?」
亜衣は右手の人差し指で自分のアゴに触れながら、軽く小首を傾げる。
「こんな子どもを、門前払いもなくここまで連れてきたんだから、佐藤さんが私たちを必要としてるんだよ」
亜衣はお菊に顔を向けると、にっこり笑った。
「そんな人が、今さら私たちに嘘つかないよ」
お菊は目を見張った。亜衣のロジックは少々強引すぎる気もするが、言いたいことは伝わってきた。
この市役所に何か秘密があることは、お菊自身も感じとった事実である。そして何かは分からないが、その秘密を知る資格を自分たちは得たのだ。
お菊は佐藤に頭を下げた。
「取り乱してすみませんでした。お話を続けてください」
「ふたりとも、ありがとう」
佐藤は笑顔で頷いた。
そこで聞いた佐藤の話は、簡単には信じられないものであった。
・現在竜宮市は異世界と交流があること。
・傷つき難を逃れて竜宮市に現れた、異世界の魔法使いを保護したのがキッカケであったこと。
・市長が大層感激して、異世界への支援事業を始めたこと。
・異世界に渡るためには、ある種の資質が必要であること。
・市職員から資質のある者を集め、異世界支援課が出来たこと。
・その資質は特殊なものであり、慢性的に人手が足りないこと。
最後に、
「水戸さん。ちょっといいかな?」
佐藤は部屋で唯一、机で作業をしていた男性を呼びよせた。
「はい」
ちょっと長めの黒髪で、前髪は細い目にかかっている。年齢は40代くらいで、少し小柄なスーツ姿の男性だった。そして彼の持っている肩ほどもある長い木の杖は、先端部分がアルファベットのCの形になっており、中に青い水晶玉がはめ込まれていた。
「私はミトと言います。魔法使いやってます」
水戸はペコリと頭を下げると、杖でコツンと床を突いた。すると光のフラフープのようなものが、水戸の足元から頭の先まで昇っていく。
亜衣とお菊は唖然とした。
スーツ姿だった水戸が一瞬で、緑の長衣を身に纏い、同じく緑のつばの広い三角帽子をかぶっていたのだ。
「ああ、これ魔法使いだ」
亜衣が呆然と呟いた。
佐藤の話を信じるしかなかった。
「魔王の軍勢に襲われ、仲間は次々と倒れ、次は自分だと覚悟した瞬間、私はこちらの世界にたったひとりで立っていました」
水戸は目を閉じて、俯き加減で言葉を続ける。
「あのとき偶然通りかかった市長さんに保護してもらえてなければ、何も分からず途方に暮れていたことでしょう」
「それじゃ水戸さんにも、その特殊な資質があったってこと?」
「そうなりますね」
亜衣の質問に、水戸はゆっくりと頷いた。
「あのときの私は、異世界の存在など微塵も信じていなかったので、本当に驚いています」
水戸は亜衣の方に顔を向けると、にっこりと優しく微笑んだ。
「ただ、あの日の市長さん、一目見て私を魔法使いだと見抜いたんです」
「でしょーね」と亜衣とお菊は頷いた。
「あれは、どういう能力だったのでしょうか?」
水戸は不思議そうに首を傾げた。
「市長は子どもの頃からゲームが好きらしい」
佐藤が囁くように補足した。それから水戸の方に顔を向ける。
「水戸さん、ありがとう」
佐藤が水戸を退がらせたので、この場の人数が再び元の3人に戻った。
「薄々勘づいているかもしれないが…あの掲示板には、その資質のある人にしか見えないように結界が張ってあるんだ」
佐藤は真面目な表情になった。
「他にも見えてる人はいるかもしれないけど、実際に来てくれたのは君たちが初めてなんだ。本当に感謝している」
佐藤は頭を深く下げた。
「ちょ…ちょっと待って!」
お菊が焦ったように声を張り上げた。
「水戸さんの話を信じるなら、これって危ない話なんじゃないの?」
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このふたり、子どもの割には頭の回転が良い。大人の話に流されない。佐藤のなかで、ふたりの評価がドンドンと上がっていった。
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