16 / 17
【おまけ番外編】キミに感謝を
2
しおりを挟む「いいえ、聞きたいです。……姉さんの話」
ねぇ聞かせて、とねだると「そう?」とようやく裕文さんが続きを話してくれる。
「由美もさ、結婚前に俺の家にご飯作りに来てくれた事があったんだけど、やけどして。その時は油をたっぷりひいたフライパンに、濡れたままのじゃがいもを勢い良く入れてね、すごい音をさせていたよ」
「――へ……えぇ…」
初めて聞く話に、笑みが零れてしまう。
幸せそうに話す裕文さんを見るのも、なんだか嬉しかった。
「その時にね、由美も言ったんだ。『考え事してたのよ』って。――ね? やっぱり姉弟でしょ?」
隣から僕を見て笑う裕文さんに、「ははっ」と笑い返した。
「ほんとだ」
「なんだろなぁー。俺が付き合うコって、『ウッカリ屋さん』が多いのかもなぁ……。前に付き合ってたコも――…」
「ストップ」
口を開けたままの裕文さんを、軽く睨んだ。
「そっちは聞きたくありません」
驚いた顔で僕を見返した裕文さんが、「ごめんね」と微笑んで薬箱に軟膏をしまう。
僕は立ち上がって、裕文さんの前へと立った。
両手を差し出せば、裕文さんも応えて両手で握ってくれる。
そうして、僕を見上げた。
「ねぇお義兄さん。聞かせて下さい。お義兄さんが愛す最後の女性は、姉さんですか?」
これからも、ずっと――。
過去は変えられないけれど。
人生のその刻々で、それぞれ愛した女性は、いただろうけれど。
それでも最後は姉さんだけだと、聞かせて欲しかった。
「うん」
僕を見上げ、見つめたままで、義兄さんは言ってくれる。
「俺がこれ以降、由美以外の女性を愛する事はないよ」
心からの言葉だと、判ったから。
僕は本当に、嬉しかったんだ。
礼を伝えた僕から片手を離して、「おいで」と僕の腰に手を回す。腰を引かれて、必然的に裕文さんを跨ぐ感じでソファに膝を付いた。
驚いて、裕文さんを見下ろす。
「そして誓うよ。俺が愛する『男』は、これまでも、これからも。浩次君だけだって」
僕を見上げ、微笑み言ってくれた裕文さんが、これ以上ないくらいに愛おしい。
この人は、まるで魔法使いの呪文のように。言葉だけで、こんなにも僕を幸せにしてくれるのだ。
頭を引き寄せられて、口付けられる。
――優しい、優しいキス。
大切なものに触れるように、ゆっくりと、丁寧に。何度も何度も唇を重ねられた。
大好きだと、あなたをこんなにも愛していると、洩れる吐息に含ませ伝える。
そのまま抱き寄せられると、暖かく幸せな想いに包まれた。
――のに。
「あ、いけない!」
漂ってきた焦げ臭いにおいに、慌てて裕文さんから離れた。
油の方は火を消したけれど、カレーの方は火を点けたままなのを忘れていた。
慌てて混ぜても、鍋底にしっかりと焦げ付いている。
「あ、焦げちゃった?」
僕の肩越しに鍋を覗き込んで笑う裕文さんには、溜め息が洩れた。
「……もう。笑い事じゃないですよ」
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
幸せのカタチ
杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。
拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
【完結】終わりとはじまりの間
ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。
プロローグ的なお話として完結しました。
一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。
別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、
桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。
この先があるのか、それとも……。
こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。
あなたと交わす、未来の約束
由佐さつき
BL
日向秋久は近道をしようと旧校舎の脇を通り、喫煙所へと差し掛かる。人気のないそこはいつも錆びた灰皿だけがぼんやりと佇んでいるだけであったが、今日は様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、細い体に黒を纏った彼がいた。
日向の通う文学部には、芸能人なんかよりもずっと有名な男がいた。誰であるのかは明らかにされていないが、どの授業にも出ているのだと噂されている。
煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに染み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが不可思議な彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。
須賀千秋と名乗った彼と言葉を交わし、ひっそりと隣り合っている時間が幸せだった。彼に笑っていてほしい、彼の隣にいたい。その気持ちだけを胸に告げた言葉は、彼に受け入れられることはなかった。
*****
怖いものは怖い。だけど君となら歩いていけるかもしれない。
太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる
きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK
高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。
花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。
親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。
両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる