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013. death

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 目が覚めると切れかけた蛍光灯が男を照らしていた。ジーッという音だけが部屋の中に響いている。ここはどこだろう。いつからここにいるのだろうか。記憶が曖昧だった。身体も動かすことができず、首をもぞもぞと動かすが部屋の様子はわからない。不思議と不安はない。この場所は安全であると、根拠はないが男には感じられた。勘である。

 扉が開く音がする。相変わらず首を動かすことはできない。足音がして、身体側から女の顔が現れた。若い女だったが、白すぎるファンデーションとどぎつい赤色の口紅を付けている。白衣を着て白い帽子を被っており、女は看護師のようだった。冷たい指で男の顔に触れ、目や口などをいくらか調べた後、部屋を出て行った。

 そうか、ここは病室か。視線を動かして周囲を見渡す。薄暗いなかでもわかる白い壁。少しだけ薬品臭い室内。

 再び扉が開く音がして、今度は眼鏡をかけた初老の男が横たわっている男を覗き込む。後ろには先ほどの看護師が付いていて、二人とも無表情だった。白衣を着た男はきっと医者に違いない。分厚いレンズの眼鏡に横たわった男の顔が反射した。

「死ぬのは何回目かね」

 医者が男に聞いた。

 男にはその意味がわからなかった。医者に聞き返そうとして喉を唸らせ、それからえーっと、と答えを探す。初めて声が出せるとわかった。

「おっしゃる意味が理解できません」

 医者はため息をついて頭を振った。

「あの薬を使用したものはみな同じことを言うなぁ……」

 医者は看護師に指示をして、看護師は男が見えない範囲から姿見を運んできた。女は緩慢にその姿見を傾けて男が見る事のできる角度に変形させた。

 対面した男の喉がひゅっと鳴った。自分自身と対面する。鏡に写っているのは白いシーツの上に置かれた男の頭部だった。首から下はなく、首の先端から緑色の縫合糸がはみ出している。

 叫び声が詰まる。口が開いているのにもかかわらず、声にならない空気が喉奥で渋滞していた。その様子を見ながら医者が淡々と話しかける。

「幸いね、君は声帯が残されているからこうやってしゃべることができるけれどね」

 その身体ではもう無茶はできないだろう。よい施設を探してあげよう、そこで一生を過ごすことになるだろうがな……。

「いかんね。あの薬は、いかん。これでもう今月に入ってから七人目だよ何をしても死なない薬。反自治勢力が鉄砲玉に使用してね、こうやってどんどん身を削って働かせるんだよ。痛みもない、苦しみもない。いい働き蟻だと思わないかね? 君はここに運び込まれたからいいものの、もっとひどい人間はその恰好のまま一生特区の路地に置き去りにされることもあるらしい。もちろん死ねないまま。化け物が通っても怪異に見舞われてもそこにいるしかないんだよ。しかし……、しかし、君のように死ななくなった人間は果たしていつになったら死ぬことができるのだろうね」
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