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私は今これ以上無いほどの満面の笑みで婚約者の目の前にいる。
正確には学園の卒業と同時に婚約破棄する事が決まっている言わば仮初の婚約者。
今までは嫌われているのが分かっている目の前の婚約者にどう笑いかけていいか分からず無表情で接していたが…なんとこの自分勝手な婚約者はとうとう私の表情にまでケチを付け出した。
「お前は本当に笑わないな」
「笑顔の1つも見せろ」
ふっ。流石王族ですわねぇ人の表情にまで命令出来るなんて。うふふふふふふ。
いいわ!そっちがその気ならやってやろうじゃないの!なにせご命令ですものね、笑顔の1つや2つや3つ4つ朝飯前ですよ。うふふふふふふ。
「「………………」」
それまでと逆転した満面の笑みを浮かべる私と難しい顔で眉間に皺を寄せる王子。
「私がこうして笑顔で王子の前におりますのに王子がそんな顔をなさっては台無しですわ。それに昨日王子が仰られた通りこうして笑顔でおりますのに……なにかお気に召さない事でもお有りですか?因みに私のそもそもの顔が気に入らないと言う苦情でしたら受付けかねますわ、こればかりは個人の好みですし我慢していただくほか有りませんわ」
「……何もそんな事は言っていない」
「………それは良かったですわ、こうして王子のご命令通り笑顔でおりますのに文句など言われてしまっては…昼食に生のピーマンをそのまま持ってくるしか他に無くなる所でしたわ」
私のそんな言葉にギクリと身体を揺らした王子はますますその美しい眉間に皺を寄せた。
そんな王子の様子を目の前に私はこっそりため息をつく。
虐めすぎたかしらね。
「…冗談ですわ。しかしそれはそれとして…本当に私を卒業までの仮婚約者とされるのでしたらもっとそれらしくして頂きませんと意味が無いのでは?」
「分かっている」
私の言葉に王子はそれだけ言うと目を閉じて深呼吸した。
次に顔を上げた王子はいつものように笑顔をその顔に貼り付けていて………。
そんな王子を見てやっぱり王子は色々と大変なんだろうと初めて少し同情してしまった。
考えたらそうよね、あんな初めて会う令嬢達の中から婚約者を選べって……嫌にもなるか。
まぁだからと言ってあの王子を許す事は出来ないけれど。
そこまで考えて私はまた一つため息をつく。
もうこうなった以上取り繕ってもしょうがないわ。卒業まで婚約破棄は成されないのであればお互い少しでも日々を過ごしやすくしていくしかない。
「王子…」
「なんでしょうか?」
……寒々しい作り笑顔の二人……。
「…昨日言われた事は正直に申し上げまして、かなり気に入りませんし怒っておりますが卒業と同時に婚約破棄して下さるという王子の約束で無かった事に致しますわ。何度も申し上げた通り私は婚約破棄さえして頂ければそれでいいのです。王子が私の事を嫌っておいでなのは知っております、ですのでもう無理はやめに致しませんか?」
「どういう事です?」
「婚約者だからと言っていつも一緒に居なければならないと言う事はありませんし昼食も別に致しましょう。王子の酷い偏食は治した方がいいとは心の底から思いますけれど卒業までそれを我慢なさるのもお辛いでしょうし」
そもそも嫌いな者同士が顔を付き合わせて昼食を摂っている今の方がおかしいのだ。
「昼食は他の令嬢達を避ける為にお前と食べていると言った筈だが」
「ええ、そう仰っておられましたけれどそれも王子なのですからどうとでもなるのではないですか?いつものその笑顔で昼食はゆっくり食べてのでそっとしておいて欲しいと王子が仰られたら無理矢理近付いて来る者もいないでしょう」
「!それは!……そうかもしれないが……」
そこまで言って私は立ち上がった。
「では今日はこれで失礼致します」
「おい!まだ話はおわっ…!」
王子はまだ何か言いたそうにしていたが私はそのまま王子に背を向けて歩き出した。
正確には学園の卒業と同時に婚約破棄する事が決まっている言わば仮初の婚約者。
今までは嫌われているのが分かっている目の前の婚約者にどう笑いかけていいか分からず無表情で接していたが…なんとこの自分勝手な婚約者はとうとう私の表情にまでケチを付け出した。
「お前は本当に笑わないな」
「笑顔の1つも見せろ」
ふっ。流石王族ですわねぇ人の表情にまで命令出来るなんて。うふふふふふふ。
いいわ!そっちがその気ならやってやろうじゃないの!なにせご命令ですものね、笑顔の1つや2つや3つ4つ朝飯前ですよ。うふふふふふふ。
「「………………」」
それまでと逆転した満面の笑みを浮かべる私と難しい顔で眉間に皺を寄せる王子。
「私がこうして笑顔で王子の前におりますのに王子がそんな顔をなさっては台無しですわ。それに昨日王子が仰られた通りこうして笑顔でおりますのに……なにかお気に召さない事でもお有りですか?因みに私のそもそもの顔が気に入らないと言う苦情でしたら受付けかねますわ、こればかりは個人の好みですし我慢していただくほか有りませんわ」
「……何もそんな事は言っていない」
「………それは良かったですわ、こうして王子のご命令通り笑顔でおりますのに文句など言われてしまっては…昼食に生のピーマンをそのまま持ってくるしか他に無くなる所でしたわ」
私のそんな言葉にギクリと身体を揺らした王子はますますその美しい眉間に皺を寄せた。
そんな王子の様子を目の前に私はこっそりため息をつく。
虐めすぎたかしらね。
「…冗談ですわ。しかしそれはそれとして…本当に私を卒業までの仮婚約者とされるのでしたらもっとそれらしくして頂きませんと意味が無いのでは?」
「分かっている」
私の言葉に王子はそれだけ言うと目を閉じて深呼吸した。
次に顔を上げた王子はいつものように笑顔をその顔に貼り付けていて………。
そんな王子を見てやっぱり王子は色々と大変なんだろうと初めて少し同情してしまった。
考えたらそうよね、あんな初めて会う令嬢達の中から婚約者を選べって……嫌にもなるか。
まぁだからと言ってあの王子を許す事は出来ないけれど。
そこまで考えて私はまた一つため息をつく。
もうこうなった以上取り繕ってもしょうがないわ。卒業まで婚約破棄は成されないのであればお互い少しでも日々を過ごしやすくしていくしかない。
「王子…」
「なんでしょうか?」
……寒々しい作り笑顔の二人……。
「…昨日言われた事は正直に申し上げまして、かなり気に入りませんし怒っておりますが卒業と同時に婚約破棄して下さるという王子の約束で無かった事に致しますわ。何度も申し上げた通り私は婚約破棄さえして頂ければそれでいいのです。王子が私の事を嫌っておいでなのは知っております、ですのでもう無理はやめに致しませんか?」
「どういう事です?」
「婚約者だからと言っていつも一緒に居なければならないと言う事はありませんし昼食も別に致しましょう。王子の酷い偏食は治した方がいいとは心の底から思いますけれど卒業までそれを我慢なさるのもお辛いでしょうし」
そもそも嫌いな者同士が顔を付き合わせて昼食を摂っている今の方がおかしいのだ。
「昼食は他の令嬢達を避ける為にお前と食べていると言った筈だが」
「ええ、そう仰っておられましたけれどそれも王子なのですからどうとでもなるのではないですか?いつものその笑顔で昼食はゆっくり食べてのでそっとしておいて欲しいと王子が仰られたら無理矢理近付いて来る者もいないでしょう」
「!それは!……そうかもしれないが……」
そこまで言って私は立ち上がった。
「では今日はこれで失礼致します」
「おい!まだ話はおわっ…!」
王子はまだ何か言いたそうにしていたが私はそのまま王子に背を向けて歩き出した。
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