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私が王子にお互い無理しない距離感で過ごそうと言ってから(決してそんな言い方では無かったが)1ヶ月………。
嫌がらせだろうか毎日やって来る王子………しかも昼食時。
何か言うのかと思っていても結局何も言わず、とびきりの笑顔で私の元に来て昼食を食べて去って行く。
私が何か言おうとしても変に圧のある笑顔で黙らせてくる。
「本当に何なのかしら……まさか本当に嫌がらせ?そんなに暇な方ではないと…思うのだけれど」
それにしても嫌いな人の顔を見ながらごはんを食べたいと思うのかしら。確かこれ以前も思ったのよね……折角の楽しい食事の時に嫌いな人を見るなんて……ちょっと理解出来ないわ。それともそういう趣味なのか………。いやいやそれは無いか。
なんて事を考えていると控えめに声を掛けられる。
「ロゼ様」
声のする方に振り向くとそこには王子の側近の方が。
「あら、貴方は………」
いつもいつもあの腹黒王子と一緒にいる側近の方。
「はい、そうです。王子の側近をさせて貰ってます」
あら、私声に出てたかしら?
「いえ、声には出てませんよ。だいたいこんな事を考えていらっしゃるのかなぁと思いまして」
私はびっくりして側近の方の顔をじっと見る。
「ロゼ様は正直な方ですねぇ」
……………それは、私が分かりやすいと言うことかしら。
「私どちらかと言うと無表情だと言われる方だと思いますが……」
「そんな事は無いと思いますが」
いえ、事実無表情である事が多いのですが……。
王子の側近ともなれば無表情の相手からでも気持ちを読み取らないといけないとかそんな特殊な能力を望まれるものなのかしら。それは大変すぎる……やっぱり私ではいずれ国王となる殿下の相手には不足だわ。
「で、何のご要件でしょうか?」
そんな事を考えつつ何故呼ばれたのか尋ねた。
「本当に婚約破棄をお考えですか?」
耳元で極々小さな声でそう訪ねて来る側近の方………………。
「…………………」
私は辺りに人の姿が無いことを確認して人気のない方へと歩き出す。
すると側近の方は無言で私の後を着いてくる。
やはり聡い方だわ。なのにこんな所であんな話を急にされて…何か理由が有るのだろうけどちょっと不味い。
婚約破棄を望んでいる事は本当だけど一応王子との卒業までの約束が有る。まだ他の人に聞かれる訳にはいかない。
でも王子の側近ならその辺の事も聞いて知って居そうなのに…どういうつもりかしら。
そして着いた場所は奇しくも王子と側近の方が私の話をしていたあの場所。
「で?王子に言われてきたのですか?」
私が振り返りそう言うと側近の方は少し虚をつかれたような顔をしてからさも楽しそうに笑みを浮かべた。
「いいえ、今日ロゼ様に話しかけたのは私個人の判断です」
「…そうですか。で、ご要件とは婚約破棄にまつわる事なんですね。本当に婚約破棄なんてしたがっているのかそう言ってなにか企んでいるのでは無いかとお疑いですか?」
「いえいえ、そんな滅相も無い!」
「……では?どういう事でしょうか?」
「いや~、ロゼ様が本気で婚約破棄を考えておいでなのは承知した上で何とか考え直して頂けないかなぁと思いましてね」
そう言った側近の方の笑顔はこの上なく胡散臭かった。
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