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その美しい人に心惹かれたのは、必然であり宿命だったのかもしれない。
冴えない僕の夫となった男は、どんなに心を閉じようとしても惹かれてしまうほどの男であったから。
あの人が俺に命じた妻としての役目は、男として生まれた僕にはとても屈辱的なもので、彼に惹かれている俺には喜ばしいものであった。

初夜、一瞬で終わった結婚式にこれでは夜も過ごさないのかと思っていれば、彼は美しい肉体を顕にして似合わぬ寝着を身にまとった僕の前に現れた。男も女も経験がない僕は実技をまともにこなすことも出来ず、彼は大きな溜息を零して、僕に“指導”をした。


期待もしていない建前のための妻であっても、夜の世話くらい出来なくては困ると。
娼婦のような淫らな行いを彼に仕込まれ、心は薄暗い喜びに浸る。
忙しなく彼に尽くすことで、彼のものを頬張るのも、受け止めるのも僕だと分かったから。
反対に、僕は彼の性具以上の存在にはなれないのだと打ちのめされる。
──もし彼に本命が出来たら。──気が変わって子供が欲しくなったら。──政略結婚が望ましい状況になれば。
僕はきっと捨てられる。
だって後ろ盾のない男爵家の三男だから。
子供だって手続きを踏まないと作れない。僕との結婚に意味はない。

それでも僕は──。
「人じゃなくていい」
己の口から溢れた願望に、思わず失笑してしまった。
どれだけ彼に心酔しているのか。
人でなくていい。
オナホでいい。それで本命ができた彼に離縁されたとしても、彼の側に置いてほしい。
彼だって好きな人に、育ちのいい貴族に、僕のような扱いをできるわけもないんだから。
僕みたいな人間はいきなり消えても誰も気にしないし、だからそうなったら、彼に酷く扱われたいと思った。
本妻にできないような扱いも、僕にしてしまえばいい。そうすれば、僕は満たされるから。


「あっあっ、あぁあッ♡♡」
旦那様の執務室で、彼に跨る。揺らされれば、そのまま感極まった声を上げることしかできない。
「そんな声を上げて人が来たらどうする。恥ずかしくないのか」
「ひゃぁん♡♡」
旦那様の厳しい声に背筋がゾクゾクする。
ああ、好き。
好き、好き、好き、好き。
めちゃめちゃにして。僕を、もうこんな感情いらないから、めいいっぱい乱して。人じゃなくして──
己の中に芽生えた恋心には蓋をして、被虐心は隠さず晒すと旦那様は熱い目で僕を見る。
人を人とも思わぬような、厳しい目に晒されることに幸福を覚える。
僕は浅ましい願望を悟られぬよう、1日でも多くこの悍ましい日々が続くことを彼に尽くしながら願うのだ。

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