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(読まなくていい)
前日譚3 変化(12/18)
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僕らの結婚生活は、つつがなく始まった。
もともと僕は将来的に家を出る予定であったために家族と別れを惜しむことなく生家を離れ、旦那様の屋敷に迎えられた。
彼のお名前は畏れ多く僕が口にすることも憚られた。そのため、僕は彼のことを[旦那様]と呼んでいる。僕が彼をそう呼ぶと、彼はむっと眉を潜めながらも特に何も言わなかったので、彼の気には触らなかったようだ。
僕は息を潜めて生活をしていた。。
公爵家での僕の部屋は、驚くほど豪華で、華やかなものであった。上品なレースのあしらわれたベッドや、貴族令嬢が使うような姿見が部屋に置かれており、きっとここは婚約者が決まる前に準備された部屋であると推測する。
僕には似合わないそれらの調度品を使うのも恐ろしく、僕は部屋のものに手をつけられないまま、借りてきた猫のように暮らしていた。
肩身の狭い思いをしていようが、僕には何もできることがない。
旦那様は夜ごと僕の部屋にやってきた。
夜のお勤めは、旦那様に施された教育のとおりに行った。彼に従い、彼の望みのままに動く。旦那様と夜を重ねるごと、僕の心は冷えついていた。
愚かなことに、僕は本当に旦那様が好きになっていたのだ。
あの美しい人に、惚れないほうがおかしい。僕以外の人間に向ける微笑みに、優しさに、僕の心は絡め取られていた。
僕は都合のいい妻に相応しく、仲睦まじいとは言えないながらにも、大人しく旦那様と共に暮らしていた。
そんな僕たちの関係が変わってしまったのは、とある夜会でのことであった。
旦那様はいつもと同じように僕に発言を許さない。そのため、僕は普段通りに微笑んで旦那様の隣に立っていた。それがいけなかった。
旦那様が皇族に呼ばれて席を立ち、大人しくしているようにと僕に命じる。
僕には手の届かぬ皇族に呼ばれる旦那様をまた尊敬し、身不相応のこの場所に残されることに不安を感じていた。
悲しくも、僕の悪い予感は的中してしまった。
旦那様が戻られた時、僕は旦那様の部下だという男性と話していた。
旦那様の許しも得ずに。
話しかけられて無視できるほど気も大きくない僕は、許されないことだと知りつつ、その男性と話したのだ。彼は僕と同い年だという。旦那様を慕っている様子で、会話の節々で僕のことを見下しているのが感じられた。
旦那様が戻られて、僕の隣に座っていた男性に笑いかける。「コレが粗相をしなかったかい」その一言で、僕の心は凍り付いた。
旦那様はそれから僕の知らない仕事の話をはじめ、意図的に会話から僕を省いた。僕は最早、作り笑いスタ浮かべることが出来なかった。男性が横目で縮こまる僕を見る。
その目線は明らかに、旦那様の隣にいる僕を批難しているものであった。
その日からだ。
旦那様は以前にも増して僕に冷たく当たるようになった。僕のみっともない行いに、幻滅してしまったのだろう。
僕は旦那様にご納得いただけるように、彼の命令に従った。
旦那様は僕にたくさんの恐ろしいことをした。その行為で僕はベッドから起きることも億劫になって、日がな寝室で過ごすようになった。風の噂で、僕は男爵家から公爵家に嫁いで天狗になっていると嘲笑されていることを知った。以前の僕なら真っ青になっただろうに、指一本動かすのも気怠い状況だと、そんなことはどうでも良くなる。
彼のことを非道いと思う。それなのに、僕は彼にさらに溺れていった。
自分の中の何かが失われ、強制的に彼に生まれ変わらされている。
それはとても残酷で、強烈な快感を伴った。
~~~~~~~~~~~~~~
前日譚完
もともと僕は将来的に家を出る予定であったために家族と別れを惜しむことなく生家を離れ、旦那様の屋敷に迎えられた。
彼のお名前は畏れ多く僕が口にすることも憚られた。そのため、僕は彼のことを[旦那様]と呼んでいる。僕が彼をそう呼ぶと、彼はむっと眉を潜めながらも特に何も言わなかったので、彼の気には触らなかったようだ。
僕は息を潜めて生活をしていた。。
公爵家での僕の部屋は、驚くほど豪華で、華やかなものであった。上品なレースのあしらわれたベッドや、貴族令嬢が使うような姿見が部屋に置かれており、きっとここは婚約者が決まる前に準備された部屋であると推測する。
僕には似合わないそれらの調度品を使うのも恐ろしく、僕は部屋のものに手をつけられないまま、借りてきた猫のように暮らしていた。
肩身の狭い思いをしていようが、僕には何もできることがない。
旦那様は夜ごと僕の部屋にやってきた。
夜のお勤めは、旦那様に施された教育のとおりに行った。彼に従い、彼の望みのままに動く。旦那様と夜を重ねるごと、僕の心は冷えついていた。
愚かなことに、僕は本当に旦那様が好きになっていたのだ。
あの美しい人に、惚れないほうがおかしい。僕以外の人間に向ける微笑みに、優しさに、僕の心は絡め取られていた。
僕は都合のいい妻に相応しく、仲睦まじいとは言えないながらにも、大人しく旦那様と共に暮らしていた。
そんな僕たちの関係が変わってしまったのは、とある夜会でのことであった。
旦那様はいつもと同じように僕に発言を許さない。そのため、僕は普段通りに微笑んで旦那様の隣に立っていた。それがいけなかった。
旦那様が皇族に呼ばれて席を立ち、大人しくしているようにと僕に命じる。
僕には手の届かぬ皇族に呼ばれる旦那様をまた尊敬し、身不相応のこの場所に残されることに不安を感じていた。
悲しくも、僕の悪い予感は的中してしまった。
旦那様が戻られた時、僕は旦那様の部下だという男性と話していた。
旦那様の許しも得ずに。
話しかけられて無視できるほど気も大きくない僕は、許されないことだと知りつつ、その男性と話したのだ。彼は僕と同い年だという。旦那様を慕っている様子で、会話の節々で僕のことを見下しているのが感じられた。
旦那様が戻られて、僕の隣に座っていた男性に笑いかける。「コレが粗相をしなかったかい」その一言で、僕の心は凍り付いた。
旦那様はそれから僕の知らない仕事の話をはじめ、意図的に会話から僕を省いた。僕は最早、作り笑いスタ浮かべることが出来なかった。男性が横目で縮こまる僕を見る。
その目線は明らかに、旦那様の隣にいる僕を批難しているものであった。
その日からだ。
旦那様は以前にも増して僕に冷たく当たるようになった。僕のみっともない行いに、幻滅してしまったのだろう。
僕は旦那様にご納得いただけるように、彼の命令に従った。
旦那様は僕にたくさんの恐ろしいことをした。その行為で僕はベッドから起きることも億劫になって、日がな寝室で過ごすようになった。風の噂で、僕は男爵家から公爵家に嫁いで天狗になっていると嘲笑されていることを知った。以前の僕なら真っ青になっただろうに、指一本動かすのも気怠い状況だと、そんなことはどうでも良くなる。
彼のことを非道いと思う。それなのに、僕は彼にさらに溺れていった。
自分の中の何かが失われ、強制的に彼に生まれ変わらされている。
それはとても残酷で、強烈な快感を伴った。
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前日譚完
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