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アナザールート その60 ほんの少しの希望

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今回も、エロはございません…

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昔、大金を払って気に入った芸者さんを買取って妻にする制度があった。
それを“身請け”と言っていたらしい。

僕はまさに“身請け”されるのだ。
だけど僕にとってそれは、妻なんて生優しいものではないだろう。

おそらく何をされても受け入れるしかない性奴隷として買われるのだ。

さっきまで、幸せの絶頂だったのに、今は冷たい手に心臓を握り潰されるような気がした。

「おい、時雨ぇ聞いているのか?」

電話越しの店長の声など、もう耳に入らない。

目の前が真っ暗になり、膝がガクガクと震える。
僕は薄暗い寮の玄関前で、雨に濡れながら呆然として立ち尽くしていた。

無意識に電話を切って玄関をくぐり、ふらふらと階段を登って、僕と夕立ことハルカ・・・にあてがわれた部屋のドアを開ける。

「カオル君!」

夕立・・・今はTシャツと裾の短いカーゴパンツ姿の男の子ハルカが駆け寄って来る。

「びしょぬ濡れじゃない!?何かあったの?」

そう言って部屋の中に駆け戻るとバスタオルを取って頭からかけ、そのまま僕の顔についた雨水を拭き取ってくれる。

僕はハルカにされるがままで身を任せながら小さな声で呟いた。

「僕の・・・身請け先が決まったって・・・、あの夜のお客さんだって・・・」

「う・・・そ・・・」

それを聞いたハルカの手が凍りついたように止まり、顔からすうっと血の気が引いてゆく。

「さっき・・・店長から電話があった・・・直ぐに迎えが来るって・・・」

「そんな・・・酷すぎるよ・・・」

ハルカの目に涙が浮かび、自分が濡れるのも構わずに僕を抱き締める。

あまりにも理不尽な、残酷な僕の行く末を自分の事のように悲しみ、怒り、嘆きで、ハルカの暖かな身体は微かに震えている。

そして、ハルカは僕の耳元でで小さく囁く。

「逃げよう・・・、今ならまだ間に合うから・・・一緒に逃げて警察に駆け込もうよ。
これ以上酷いことされたらホントにカオル君が殺されちゃうよ!」

その声は最初は小さく、そして、だんだん強くて決意に満ちたものになってゆく。

ああ、逃げたいなぁ・・・
だけど逃げたらきっとハルカにも迷惑をかける。
それに織田さんだってあの店の常連さんだ、二度と逢えなくなるだろう。

だから、僕はハルカの両肩に手を置いて、涙の浮かんだ瞳を覗き込んで言葉を紡ぐ。

「ハルカ、聞いて・・・織田さんが言ってくれんだ。
いつか僕が自由になったら僕をお嫁さんにしてくれるって。
だから、僕は逃げないよ、逃げずに頑張っていつか自由になるから・・・
だから、僕の為に泣いてくれてありがとう。」

「カオル君、本当にそれでいいの?」

今度は僕がハルカを抱きしめて、目を閉じてその問いに答える。

「大丈夫、ほんの少しの希望があれば・・・僕はまだ頑張れるから。」
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