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5:地下洞窟
しおりを挟むセリアスが魔王と呼ばれるようになったのは、魔族の中で一際力が強いのもあったが、誰よりも魔族の平穏を望んでいたからである。
「地下洞窟……転移門を設置し、階層を分けて多種多様な生活圏を再現しよう」
《これまた壮大な……》
「人間を滅ぼすまでの一時的な避難所だ。箱庭にはしない」
「お、俺も手伝います。何か出来る事は無いでしょうか?」
「そうだな。エルフ達にココの案内でも……そういえば、夜狼達が近頃こっちに居着いているが何故だ?」
エルフが来てから魔王城跡地に腰を据え始めた夜狼達。
生息地は別の場所にあったはずだが、現在はこちらに移っている。
《どうも、夜狼も人間に牙や爪、毛皮や肉を目的に狩られているようでして……あれほど飢えていたのも、人間から逃げ惑って食事どころではなかったからでしょうね》
「……はぁ……そうか。夜行性のわりに昼に動くようになっているのは、人間に寝込みを襲われない為か」
「…………人間は数が多いですから、いくら狩っても足りないのでしょう」
自分の白い体毛を撫でるタスクが、妻子の最後を思い返して苦々しい顔をする。
そんなタスクの背を撫でながら、セリアスは地下洞窟の設計図を書き上げた。
「今後の課題は、人間をどう減らすかだ」
『キィン』
『ズゴゴゴゴゴゴゴ!』
「じ、地震!?」
「……これぐらいか?」
地響きの後、立ち上がったセリアスにタスクとストールがついていくと……洞窟の突き当たりが無くなっており、奥にスペースが出来ていた。
「わぁ……すごい」
《一瞬で》
「転移門は……この辺でいいか」
『ズズズズズン』
石造りの門が地面から生えるように現れ、入り口に光の膜が張られる。
その膜に躊躇なくセリアスは身体を通して、消えてしまった。
慌てて二人が追いかけて、転移門へ飛び込むと……
「へ?」
「うむ、上々だ」
「……森? ココは」
「洞窟の地下に作った森の階層だ」
「…………??」
《空が……ありますけど》
地下に作ったと言われて、上を見上げると青空と雲と太陽。自然の風に戦ぐ木々と川のせせらぎ。
「空と雲は幻覚だ。光魔法で陽光を再現している。風も川も魔法で巡っている。草木は地上の一部を転送した」
「……魔法の域を越えてるような……」
《一夜で魔王城を建築された時も驚きましたが、まさか森林環境を地下に作ってしまわれるとは……》
「魔力と設計図、適性があれば組み立てられる。何度か似たような事はしてきたからな」
「…………出来る事の域が桁違い過ぎて、ついていけません」
規模の大き過ぎる地下開拓に二人がドン引きするのを苦笑いして、セリアスは地図を取り出して広げる。
「取り敢えず、ココはエルフ達の避難所だ。植木や耕作は自由。そして、果樹の世話も任せる」
「住居の方は?」
「エルフ達の希望に沿った物を生やす」
「生や……そうですか」
あっけらかんと言い放つセリアスにタスクとストールは遠い目をする。
「今は私一人で出来るが、いずれ複数人で作れるように指導する。きっと……避難所の数はもっと必要だ」
「……そう、ですね」
魔王討伐の影響力は凄まじい。人間の物量と武力兵器に対抗出来る魔族は数少ない。
人間は群としての連携も、魔法の多様性、柔軟な思考力が非常に優れており、単純な力の世界に生きていないが故に独自の生存戦略が種の中で確立されている。
《家畜にされている獣人達の解放も急いだ方が良いかと》
「ああ……」
肉屋の裏で腐っていた同族を思い出し、背筋にビリリと悪寒が走る。
「(私達も肉を食べる。動物の飼育もする。対立した魔物を狩る事もある。人間と変わらない部分も多い。結局は同じ生き物だ。増え過ぎて人里に影響が出ているという理由でゴブリン達を殺すように、人間によって齎される被害を無くす為に我々も手をうつ……お互い様だ)」
セリアスは難しい顔をして、野望遂行の策を考え始めた。
その横で、タスクとストールが階層の散策に出て、何やら見つけて駆け寄ってきた。
「魔王様~!」
「?」
「イトマキが紛れてました。栽培すれば、布が沢山作れます」
「おお、運が良い」
イトマキとは、布作りに重宝されている繊維植物である。名の通り糸巻きのようにぐるぐると花弁を巻いた大きな花。解すと薄く柔らかい糸が出来る。
「そうか。服の事をすっかり忘れていた。コレは専用の畑を作るとしよう」
《ずっとボロ布をお召しになられていますので、魔王様に新しいお召し物を着ていただける機会が出来て幸いです》
「私はまだ急がなくていい。エルフ達とタスクの服を新調しなければ」
全員ボロボロの服で生活している。
肌寒くなる前に、暖を取れる物が必要だ。
「衣服はいくらあっても足りない。そして、家畜の解放に、奴隷の解放も必要だ……まだまだ準備は終わらなそうだな」
人類を滅ぼす前に、まずは手の届く範囲で魔族の保護にあたる。
その日の翌日、エルフ達が地下に作られた森林階層にて生活を始めた。
慣れ云々の前に外と何ら遜色ないスケールに開いた口が当分閉まらなかった。
「なんと穏やかな……」
「ここなら、ゆっくり畑仕事も織物も出来る」
「魔王様、本当に……ありがとうございます! 我々に何か出来る事がございましたらなんなりと!」
大火傷を負って弱っていヘルクラスがエルフの代表としてセリアスに頭を下げる。
「何も気負わず、ゆっくりしていればいい。確かに、手先の器用なお前達に頼る事は多い。頼りにしている」
「はい!」
「逆に、何か欲しいものがあれば遠慮なく言え」
「は、はい!」
恐縮しまくりのヘルクラスにセリアスは微笑を浮かべつつ、転移門を潜り地上へ戻っていた。
「ストール、夜狼達からの何か情報はあったか」
《はい魔王様。北の大地にて、牛獣人達が極めて緊迫した状態らしいです。そして、鉱山地帯で鬼とドワーフが奴隷として死人が出る程過酷な労働を強いられているようです》
「わかった。すぐに向かう。どちらがより時間が無い」
《牛獣人の方が被害が大きいかと。流行り病で一斉駆除寸前だそうです》
思っていた以上に一刻を争う事態であった。
セリアスは、一際大きな夜狼を呼び寄せて背に跨る。
「魔王様!」
「タスク、どうかしたか?」
「そのまま行っては人間に顔がバレてしまいます。よろしければコレを」
駆け寄ってきたタスクがセリアスに差し出したのは、顔を隠す木造りの黒い仮面であった。
よく見れば表面に細やかな模様が彫り込まれており、シンプルに見えて手の込んだ細工物であることがわかる。
「おお、すまないな。有り難く使わせてもらう」
「よくお似合いです。行ってらっしゃいませ」
肩にストールを乗せ、北へと向かうセリアスを見送る。
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