5 / 38
4:能力の使い方※
しおりを挟む
※若干のスカトロ(排泄)の表現があります。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お前、名はあるか?」
「タスクと申します」
「……ひとまず、移住先が見つかるまでは共にいよう」
「はい!」
兎人は森や山などの植物を主な食糧とし、母なる自然と共に生きる一種族として知られている。エルフ達や森住まいの魔族達との交流も深かった。
『ガウ!』
「!」
「夜狼!?」
ソルン帝国から、魔王城跡地へ戻る道のりで、セリアスの元へ駆け寄ってくる夜狼の群。
タスクはセリアスを守るように前に出て、夜狼達の昼活動に困惑していた。
「こんな明るい時間に……」
「……また来たのか」
「?」
『バウ! クゥン!』
すっかりセリアスに懐いてしまった夜狼達にポカンとタスクは口を開けて呆けている。
「……残さず食えるか?」
『スンスンスン……バウ!』
前回よりも群れの頭数を二十以上増やして駆け寄ってきた夜狼達に部下達の干し肉を与える。
一欠片も残さず、夜狼達は全て綺麗に平らげた。
勿論食べている間、セリアスは祈りを忘れない。
「…………もう無いからな」
収納庫は空になり、夜狼達はセリアスの足元に伏せをした。
「……送ってくれるのか。そっちの獣人も頼む」
『バウ』
「お、わわ!」
股を潜られ、背に乗せられたタスクが夜狼の背にしがみつく。
「東へ……ずっと向こうだ」
『ガウ! アオオオン!』
『『アオオオン!』』
「うわ!」
行きと同じく、猛スピードの夜狼の群によって魔王城跡地へと運ばれた。
慣れない高速長距離移動にタスクはフラフラになりながら瓦礫に手をついた。
「足裏がフワフワします……」
「ははは、歩き方がおかしいぞ」
タスクをさりげなく支えて、歩きをサポートするセリアス。
ストールは、ローブの中からぴょいんっと飛び出し、タスクの頭に乗る。
「わっ! 触手?」
「触手のストールだ」
《よろしくお願いします。タスクさん》
「よ、よろしくお願いします」
ストールに洞窟付近の植物について案内される事となったタスク。
セリアスは、疲労した心身を癒やすように、地面へ倒れ込み眠りについた。
数時間後、眠りから目を覚ましたセリアスは、後頭部が何かに沈み込んでいる感覚を覚える。
「おはようございます魔王様」
「……おはよう。膝を貸してくれたのか。ありがとう」
スッと、タスクの膝枕から身を起こすセリアスの前で魚を枝に刺して焼いているストールがいた。
《タスクさんが魚を獲ってくださいました》
「そうなのか。来て早々働かせてしまったな」
「いえ、そんな……魔王様に身売りをさせてしまった罪滅ぼしです」
「…………ストール、お前喋ったな」
ジッと睨まれたストールが身体をくねらせ、キョトンとしている。
《聞かれたので》
「はぁ……あまり勘違いするな。ただの処分だ」
《でも、食い下がってましたよね?》
「おい」
「…………お、俺、助けていただいて、本当に、嬉しかったです。救われました。けど、魔王様の大切な角や鱗に勝る価値が……あったのか不安で……」
「ほれ見たことか。無駄な心労を与えてしまった」
セリアスは、項垂れて居た堪れない感情に苛まれているタスクの頭を撫でる。
裂傷に治癒魔法をかけて、欠けた耳を治す。
「いいかよく聞け。自分を価値という状況や場面で揺れ動くあやふやな物で縛るな。私はただ、お前を死なせたくなかっただけだ。そこに損得勘定などない」
「……魔王様」
「助かった事を素直に喜べばいい。妻子への責任感は人間への憎悪に変換しろ」
「…………」
「ゆっくりでいい」
白いふわふわの髪をわしゃわしゃと撫でたセリアスは、ストールから焼き魚を受け取る。
祈りを捧げてから口に運ぶ。
「そういえば……お前達、魔法が使えたのか?」
「火起こしは魔法が無くても出来ますので」
《無い者には無い者なりの知恵と研鑽がございます》
「……ふふ、そうか」
全属性の魔法を扱えるセリアスは、魔法を扱わずに生きる者達に比べて一部の人生経験が浅く、思慮に欠ける。
「(そういえば……人間に負けたのも、そこが原因だったな)」
勇者達は決して万能な能力を持っていたわけではない。生まれながらの素質と、出来る事を極め、出来ない事は支え合って、工夫して、考え抜いて……魔王の首を取った。
魔族に比べて短命な種族である人間が、世界の支配種で在り続けているのは、知恵と研鑽による工夫と改良と発明。豊かな生活を営む裏で、魔族に対抗する兵器も日々作られている。
「(……一年……たった一年で、人類は大いに進歩する)」
セリアスはもう魔王軍を編成する気は無い。いや、魔族達にその余裕が無い。
魔王とはいえ、人類にたった一体で立ち向かっても、津波に大砲を撃つようなもの。穴が空いたとしても、次世代にその穴は埋められる。
《魔王様? お口に合いませんでしたか?》
「……いや、少し考え事をしていた。魚は美味い」
人類への対抗手段は、また後日考える事にした。
今は、ただ和やかな食事に集中する。
※※※
数日後、洞窟へ拠点を本格的に移していたセリアスの元へ、再び夜狼が訪ねて来た。
タスク達は拠点の資材集めで留守にしている。
「(今度は一頭か)」
『ガウ! アオオン!』
洞窟から出てくると、一匹の夜狼がすり寄って来る。
群れているはずの他の夜狼が見当たらない。単騎で会いに来たようだ。
「どうした?」
『キャワン!』
慌ただしく何かを伝えようとしているが、伝わらない。
「?」
『クゥン……ガウ!』
困ったようにか細い声を上げてから、セリアスの手首に噛み付いてグイグイと引っ張る。
「わかった。何処かに連れて行きたいんだな。着いて行くから離せ」
『バウバウ!』
セリアスの返事を聞けば、忽ち森林の方角へ駆け出した夜狼。
木々を掻き分けながら移動するが、そろそろ夜狼が何処へ向かっているのかセリアスは察した。
「……っ!? ……ぉ……で……」
「……なのか?」
「……す……ませ……!」
森林を越えた草原にて、切迫した話し声が聞こえてくる。それも複数人だ。そして殺気のこもった声色に自然と足取りが早くなるセリアス。
「エルフがココで何をしている!」
「何も……何も、ございません」
「魔王城に魔族が近付くという事は、疑われても仕方ないだろ」
「彼らはただ、先住の森が燃えてしまって住居の移動を」
「魔族の言葉なんぞ信じられるか!」
駆け付けた先では、十数名のエルフ達とそのエルフ達の前に出て人間と対峙しているのはストールを肩に乗せたタスクだった。
人間達は揃いの装備品を身に付けており、腕章には見覚えのある紋様が刺繍されている。
冒険者ではなく、魔王城跡地を中心に巡回している近隣国の憲兵だと気付いた。
「(まずい……兵士は迂闊に殺せん。国に帰さなければ怪しまれる。どうする……)」
姿を見せるわけにはいかない。けれど、タスクやエルフ達に向けられた矛先が彼らへ突き立てられるのに、もう一刻の猶予も無い。
「(考えろ、考えろ!)」
セリアスは、自分とバレない方法での救助方法を探り、脳をフル回転させる。
そして、ストールがポヨンとタスクの頭に移動してビヨビヨと伸び縮みを繰り返して威嚇している。
「ぷっはっは! おいおい触手ってこんな可愛かったか?」
「一匹じゃただのミミズだな」
「(……っ……そうか!)」
セリアスの閃きは、この場に置いて最適解と言える。
『シュルルルルル!』
『ズルルルル』
「うわ! んだコレ!」
「触手か!?」
憲兵達を捕らえたのは、幾本もの触手。
ギチギチと骨を軋ませる程に縛り上げられた。
その場に居る誰もが、何が起こっているのかわからず唖然としている。
《……タスクさん! 今のうちに森の中へ!》
「ぇ、あ! はい! みんな、森の中へ!」
タスクの掛け声に我に帰ったエルフ達と夜狼が森へと駆け込み身を隠した。
ストールはすぐに触手の発生源である茂みへ跳ね寄った。
《魔王様!》
「ストール……皆は」
指を触手に変化させたセリアスの肩へと移動するストール。
《無事でございます。ですが、これから如何なさいますか》
「……どうしたものか」
《…………触手として動くならば、生殖行為が基本なのですが……出来ますか?》
「仕方ない……多少後遺症が残るが、後で記憶処理を行なって国に帰すか」
ストールの指示の元、セリアスは憲兵三人を森の中へ引き摺り込み、情けとしてそれぞれの姿が見えぬように地面に縫い付ける。
《喉を破っては死にます。挿入は慎重に。痛みは媚薬で麻痺させてください》
「わかった」
遠視の魔法、遠隔望遠鏡で三人の姿を確認しながら、それぞれの口に触手を突っ込み、分泌した媚薬を注ぎ込む。
《あっあっあっ死ぬ死ぬ死ぬ! 溺死してしまいます! ストップストップ!》
「む?」
ガボガボと媚薬に溺れる三人を見て分泌にストップをかけるストール。
初めてで加減がわからないセリアスは難しい顔をしていた。
「加減がわからない」
《初めてならば、観察しましょう。ご覧ください。媚薬の反応がもう出ています》
「……ほぉ」
押さえ込まれた身体をガクガクと震わせながら、次第に肌が紅潮していく。
「ぁ……くぅっ!」
媚薬を注がれた三人の男根も反応してムクムクと勃起し始めた。
「なんで……?」
「体が……熱い」
「……うそだろ?」
困惑と混乱。そして相手が触手という恐怖で三人の顔は引きつっていた。
「ココからどうする?」
《勃起している性器を擦って、一度射精させてください》
「わかった」
三人の男根を衣服から取り出し、粘液を塗りつけるように触手を言われた通りに擦り上げる。
「うっ! あ……ぐああ!」
「ま、待って! イッ……っーー!!」
「うあ、あああ!」
ビュクッと放たれた精液で制服を汚す三人に、セリアスは特に楽しむ事もなく淡々と進めていく。
《一度射精すると感度が数段上がります。そのまま後ろに挿入してください》
「……汚くないか?」
《…………あーー……そうでした。触手が魔王様の指であった事を失念しておりました》
人間の排泄孔に指を挿れるのに抵抗があるセリアスにストールは少し考えてから提案する。
《まぁ、辱めだけでしたら挿入は不要でしょう。指を魔法のベールで保護しながら媚薬を後ろに注いでください》
「……ああ」
後孔に向けた触手に魔法のベールと言う極薄の障壁を被せ、直接的な接触を避けてグニっと中へ少し入り込む。
そして、媚薬をトプトプと注ぐ。
「……………………まだか?」
《まだまだ!》
「……………………もっとか?」
《もっともっと! もっとです!》
「(凌辱となったらやたらテンションが高いな)」
興奮気味に遠視の魔法で悶える三人を見つめているストール。
触手としての本能が、生殖行為に反応して昂っているようだ。
「…………もういいか?」
《はい! コレで触手を取っても大丈夫です》
「いいのか?」
《心が折れるので、大丈夫でしょう》
シュルリと触手の拘束を解いても、三人はその場から蹲って動かなかった。
「う……うぅ」
「なんで……こんな……」
「腹……が……」
きゅるるる……と、腹を下す様な音が響いた。
セリアスが遠視の魔法で一応様子を監視するが見ていて気持ちが良いものではない。
「ひぐっ、あ、ああ!」
「……出、る!」
「く、ぅう、んんんん!」
三人は後孔をギュウっと締め付け、込み上げる熱いものを抑えようと頑張っている。
だが、大量に注がれた媚薬により、腹痛は快楽へ、羞恥は快感へと変換されて体内に駆け巡る。
そして、堰き止めていたダムが同時に決壊する。
三人の惨めな絶叫と、媚薬で液状化した汚物が下品な音を立ててビシャビシャと地面に撒かれて土に吸収されていく。
《魔王様はあれらの様子に興奮しますか?》
「するわけないだろ。特にコレといった感想もない」
《やはり魔王様は魔王様。触手とは違います》
「(触手はアレに興奮するのか!?)」
セリアスは、無様な醜態を晒した心の折れた三人の額に触手を触れさせ、記憶改竄の魔法を施す。
エルフやタスク達との遭遇を触手に襲われた記憶へと改竄する。
記憶処理を行うと、脳の混乱により幻覚や幻聴の後遺症が残るがセリアスは気にしていられない。
「……これで気を取り戻せば国に帰るだろう。触手に襲われて醜態を晒したなどと報告もできるまい」
《羞恥心は優秀な口止め料です》
一仕事終えたセリアスが魔王城跡地へ向かうと、タスクとエルフ達が気付いて駆け寄ってきた。
「魔王様っ……ああ、生きていらしたのね」
「まだこの世も捨てたものではないな!」
「皆、ひとまず落ち着け。怪我人は私の元へ。治療の後に経緯を話す」
駆け寄ってくるエルフ達を宥めて、森林火災と人間達に負わされた傷の手当てをする。
「……タスク、火傷の薬草を煎じられるか? 子どもには治癒魔法が効きすぎる」
「はい、お任せください。動けるエルフの何方か、ヒサチ草の群生地があるので、採取を手伝ってください」
「わかりました」
菜食故に草の専門家である兎人とエルフは、薬草にも造形が深い。
治癒魔法は、肉体の治癒を魔力を巡らせ促進させる。五歳児未満の肉体は、身体本来が持つ治癒力が強すぎる為、治癒魔法はかえって過剰治癒で異常を引き起こしてしまう。
一際長寿で成長の遅いエルフは、何十年も五歳児未満だ。
薬草に詳しくなければエルフは今まで生き残れていない。
「周辺の植物を把握してるタスクが居て助かった」
「……魔王様…………ありがとうございます」
「礼はいい。村長は居るか?」
「…………いません。我々を逃す為に、数人の戦士と共に人間の足止めを」
「……そうか。よくぞ、生きてここまで来たな」
最も重傷であるエルフの元へ膝をつく。半身を覆う火傷を癒し、完治させる。
淡い空色の瞳に光が戻り、煤を払い落とせば綺麗なブロンドが日に照らされる。
「…………俺のような死に損ないの戦士より、勇敢な戦士達や村長の方が魔王様のお役に立てたでしょうに。火傷を負うようなヘマをしなければ……俺が、死んだ方がきっと」
「戦友達も村長も、生死のわからない私の為にお前達を生かしたわけではない。ただ一人でも多く守り、生き延びて欲しかっただけだ。自分が死ねば良かったなどと二度と言うな。それは命を懸けた者への侮辱だ」
「……はい」
「お前、名は?」
「ヘルクラスです」
「パパ~!」
横たわっていたエルフに小さなエルフが駆け寄ってしがみつく。
「ありがとうぉ! パパ元気になった!」
「こら、魔王様になんて口を」
「いいさ。元はと言えば、私が負けた所為で皆に苦労をかけている。散った者達に顔向け出来るように、これからまたやり直すが……まずは、エルフの避難所が要るな」
「!」
セリアスは、子どもの頭を撫でながら洞窟の拡張を思案する。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お前、名はあるか?」
「タスクと申します」
「……ひとまず、移住先が見つかるまでは共にいよう」
「はい!」
兎人は森や山などの植物を主な食糧とし、母なる自然と共に生きる一種族として知られている。エルフ達や森住まいの魔族達との交流も深かった。
『ガウ!』
「!」
「夜狼!?」
ソルン帝国から、魔王城跡地へ戻る道のりで、セリアスの元へ駆け寄ってくる夜狼の群。
タスクはセリアスを守るように前に出て、夜狼達の昼活動に困惑していた。
「こんな明るい時間に……」
「……また来たのか」
「?」
『バウ! クゥン!』
すっかりセリアスに懐いてしまった夜狼達にポカンとタスクは口を開けて呆けている。
「……残さず食えるか?」
『スンスンスン……バウ!』
前回よりも群れの頭数を二十以上増やして駆け寄ってきた夜狼達に部下達の干し肉を与える。
一欠片も残さず、夜狼達は全て綺麗に平らげた。
勿論食べている間、セリアスは祈りを忘れない。
「…………もう無いからな」
収納庫は空になり、夜狼達はセリアスの足元に伏せをした。
「……送ってくれるのか。そっちの獣人も頼む」
『バウ』
「お、わわ!」
股を潜られ、背に乗せられたタスクが夜狼の背にしがみつく。
「東へ……ずっと向こうだ」
『ガウ! アオオオン!』
『『アオオオン!』』
「うわ!」
行きと同じく、猛スピードの夜狼の群によって魔王城跡地へと運ばれた。
慣れない高速長距離移動にタスクはフラフラになりながら瓦礫に手をついた。
「足裏がフワフワします……」
「ははは、歩き方がおかしいぞ」
タスクをさりげなく支えて、歩きをサポートするセリアス。
ストールは、ローブの中からぴょいんっと飛び出し、タスクの頭に乗る。
「わっ! 触手?」
「触手のストールだ」
《よろしくお願いします。タスクさん》
「よ、よろしくお願いします」
ストールに洞窟付近の植物について案内される事となったタスク。
セリアスは、疲労した心身を癒やすように、地面へ倒れ込み眠りについた。
数時間後、眠りから目を覚ましたセリアスは、後頭部が何かに沈み込んでいる感覚を覚える。
「おはようございます魔王様」
「……おはよう。膝を貸してくれたのか。ありがとう」
スッと、タスクの膝枕から身を起こすセリアスの前で魚を枝に刺して焼いているストールがいた。
《タスクさんが魚を獲ってくださいました》
「そうなのか。来て早々働かせてしまったな」
「いえ、そんな……魔王様に身売りをさせてしまった罪滅ぼしです」
「…………ストール、お前喋ったな」
ジッと睨まれたストールが身体をくねらせ、キョトンとしている。
《聞かれたので》
「はぁ……あまり勘違いするな。ただの処分だ」
《でも、食い下がってましたよね?》
「おい」
「…………お、俺、助けていただいて、本当に、嬉しかったです。救われました。けど、魔王様の大切な角や鱗に勝る価値が……あったのか不安で……」
「ほれ見たことか。無駄な心労を与えてしまった」
セリアスは、項垂れて居た堪れない感情に苛まれているタスクの頭を撫でる。
裂傷に治癒魔法をかけて、欠けた耳を治す。
「いいかよく聞け。自分を価値という状況や場面で揺れ動くあやふやな物で縛るな。私はただ、お前を死なせたくなかっただけだ。そこに損得勘定などない」
「……魔王様」
「助かった事を素直に喜べばいい。妻子への責任感は人間への憎悪に変換しろ」
「…………」
「ゆっくりでいい」
白いふわふわの髪をわしゃわしゃと撫でたセリアスは、ストールから焼き魚を受け取る。
祈りを捧げてから口に運ぶ。
「そういえば……お前達、魔法が使えたのか?」
「火起こしは魔法が無くても出来ますので」
《無い者には無い者なりの知恵と研鑽がございます》
「……ふふ、そうか」
全属性の魔法を扱えるセリアスは、魔法を扱わずに生きる者達に比べて一部の人生経験が浅く、思慮に欠ける。
「(そういえば……人間に負けたのも、そこが原因だったな)」
勇者達は決して万能な能力を持っていたわけではない。生まれながらの素質と、出来る事を極め、出来ない事は支え合って、工夫して、考え抜いて……魔王の首を取った。
魔族に比べて短命な種族である人間が、世界の支配種で在り続けているのは、知恵と研鑽による工夫と改良と発明。豊かな生活を営む裏で、魔族に対抗する兵器も日々作られている。
「(……一年……たった一年で、人類は大いに進歩する)」
セリアスはもう魔王軍を編成する気は無い。いや、魔族達にその余裕が無い。
魔王とはいえ、人類にたった一体で立ち向かっても、津波に大砲を撃つようなもの。穴が空いたとしても、次世代にその穴は埋められる。
《魔王様? お口に合いませんでしたか?》
「……いや、少し考え事をしていた。魚は美味い」
人類への対抗手段は、また後日考える事にした。
今は、ただ和やかな食事に集中する。
※※※
数日後、洞窟へ拠点を本格的に移していたセリアスの元へ、再び夜狼が訪ねて来た。
タスク達は拠点の資材集めで留守にしている。
「(今度は一頭か)」
『ガウ! アオオン!』
洞窟から出てくると、一匹の夜狼がすり寄って来る。
群れているはずの他の夜狼が見当たらない。単騎で会いに来たようだ。
「どうした?」
『キャワン!』
慌ただしく何かを伝えようとしているが、伝わらない。
「?」
『クゥン……ガウ!』
困ったようにか細い声を上げてから、セリアスの手首に噛み付いてグイグイと引っ張る。
「わかった。何処かに連れて行きたいんだな。着いて行くから離せ」
『バウバウ!』
セリアスの返事を聞けば、忽ち森林の方角へ駆け出した夜狼。
木々を掻き分けながら移動するが、そろそろ夜狼が何処へ向かっているのかセリアスは察した。
「……っ!? ……ぉ……で……」
「……なのか?」
「……す……ませ……!」
森林を越えた草原にて、切迫した話し声が聞こえてくる。それも複数人だ。そして殺気のこもった声色に自然と足取りが早くなるセリアス。
「エルフがココで何をしている!」
「何も……何も、ございません」
「魔王城に魔族が近付くという事は、疑われても仕方ないだろ」
「彼らはただ、先住の森が燃えてしまって住居の移動を」
「魔族の言葉なんぞ信じられるか!」
駆け付けた先では、十数名のエルフ達とそのエルフ達の前に出て人間と対峙しているのはストールを肩に乗せたタスクだった。
人間達は揃いの装備品を身に付けており、腕章には見覚えのある紋様が刺繍されている。
冒険者ではなく、魔王城跡地を中心に巡回している近隣国の憲兵だと気付いた。
「(まずい……兵士は迂闊に殺せん。国に帰さなければ怪しまれる。どうする……)」
姿を見せるわけにはいかない。けれど、タスクやエルフ達に向けられた矛先が彼らへ突き立てられるのに、もう一刻の猶予も無い。
「(考えろ、考えろ!)」
セリアスは、自分とバレない方法での救助方法を探り、脳をフル回転させる。
そして、ストールがポヨンとタスクの頭に移動してビヨビヨと伸び縮みを繰り返して威嚇している。
「ぷっはっは! おいおい触手ってこんな可愛かったか?」
「一匹じゃただのミミズだな」
「(……っ……そうか!)」
セリアスの閃きは、この場に置いて最適解と言える。
『シュルルルルル!』
『ズルルルル』
「うわ! んだコレ!」
「触手か!?」
憲兵達を捕らえたのは、幾本もの触手。
ギチギチと骨を軋ませる程に縛り上げられた。
その場に居る誰もが、何が起こっているのかわからず唖然としている。
《……タスクさん! 今のうちに森の中へ!》
「ぇ、あ! はい! みんな、森の中へ!」
タスクの掛け声に我に帰ったエルフ達と夜狼が森へと駆け込み身を隠した。
ストールはすぐに触手の発生源である茂みへ跳ね寄った。
《魔王様!》
「ストール……皆は」
指を触手に変化させたセリアスの肩へと移動するストール。
《無事でございます。ですが、これから如何なさいますか》
「……どうしたものか」
《…………触手として動くならば、生殖行為が基本なのですが……出来ますか?》
「仕方ない……多少後遺症が残るが、後で記憶処理を行なって国に帰すか」
ストールの指示の元、セリアスは憲兵三人を森の中へ引き摺り込み、情けとしてそれぞれの姿が見えぬように地面に縫い付ける。
《喉を破っては死にます。挿入は慎重に。痛みは媚薬で麻痺させてください》
「わかった」
遠視の魔法、遠隔望遠鏡で三人の姿を確認しながら、それぞれの口に触手を突っ込み、分泌した媚薬を注ぎ込む。
《あっあっあっ死ぬ死ぬ死ぬ! 溺死してしまいます! ストップストップ!》
「む?」
ガボガボと媚薬に溺れる三人を見て分泌にストップをかけるストール。
初めてで加減がわからないセリアスは難しい顔をしていた。
「加減がわからない」
《初めてならば、観察しましょう。ご覧ください。媚薬の反応がもう出ています》
「……ほぉ」
押さえ込まれた身体をガクガクと震わせながら、次第に肌が紅潮していく。
「ぁ……くぅっ!」
媚薬を注がれた三人の男根も反応してムクムクと勃起し始めた。
「なんで……?」
「体が……熱い」
「……うそだろ?」
困惑と混乱。そして相手が触手という恐怖で三人の顔は引きつっていた。
「ココからどうする?」
《勃起している性器を擦って、一度射精させてください》
「わかった」
三人の男根を衣服から取り出し、粘液を塗りつけるように触手を言われた通りに擦り上げる。
「うっ! あ……ぐああ!」
「ま、待って! イッ……っーー!!」
「うあ、あああ!」
ビュクッと放たれた精液で制服を汚す三人に、セリアスは特に楽しむ事もなく淡々と進めていく。
《一度射精すると感度が数段上がります。そのまま後ろに挿入してください》
「……汚くないか?」
《…………あーー……そうでした。触手が魔王様の指であった事を失念しておりました》
人間の排泄孔に指を挿れるのに抵抗があるセリアスにストールは少し考えてから提案する。
《まぁ、辱めだけでしたら挿入は不要でしょう。指を魔法のベールで保護しながら媚薬を後ろに注いでください》
「……ああ」
後孔に向けた触手に魔法のベールと言う極薄の障壁を被せ、直接的な接触を避けてグニっと中へ少し入り込む。
そして、媚薬をトプトプと注ぐ。
「……………………まだか?」
《まだまだ!》
「……………………もっとか?」
《もっともっと! もっとです!》
「(凌辱となったらやたらテンションが高いな)」
興奮気味に遠視の魔法で悶える三人を見つめているストール。
触手としての本能が、生殖行為に反応して昂っているようだ。
「…………もういいか?」
《はい! コレで触手を取っても大丈夫です》
「いいのか?」
《心が折れるので、大丈夫でしょう》
シュルリと触手の拘束を解いても、三人はその場から蹲って動かなかった。
「う……うぅ」
「なんで……こんな……」
「腹……が……」
きゅるるる……と、腹を下す様な音が響いた。
セリアスが遠視の魔法で一応様子を監視するが見ていて気持ちが良いものではない。
「ひぐっ、あ、ああ!」
「……出、る!」
「く、ぅう、んんんん!」
三人は後孔をギュウっと締め付け、込み上げる熱いものを抑えようと頑張っている。
だが、大量に注がれた媚薬により、腹痛は快楽へ、羞恥は快感へと変換されて体内に駆け巡る。
そして、堰き止めていたダムが同時に決壊する。
三人の惨めな絶叫と、媚薬で液状化した汚物が下品な音を立ててビシャビシャと地面に撒かれて土に吸収されていく。
《魔王様はあれらの様子に興奮しますか?》
「するわけないだろ。特にコレといった感想もない」
《やはり魔王様は魔王様。触手とは違います》
「(触手はアレに興奮するのか!?)」
セリアスは、無様な醜態を晒した心の折れた三人の額に触手を触れさせ、記憶改竄の魔法を施す。
エルフやタスク達との遭遇を触手に襲われた記憶へと改竄する。
記憶処理を行うと、脳の混乱により幻覚や幻聴の後遺症が残るがセリアスは気にしていられない。
「……これで気を取り戻せば国に帰るだろう。触手に襲われて醜態を晒したなどと報告もできるまい」
《羞恥心は優秀な口止め料です》
一仕事終えたセリアスが魔王城跡地へ向かうと、タスクとエルフ達が気付いて駆け寄ってきた。
「魔王様っ……ああ、生きていらしたのね」
「まだこの世も捨てたものではないな!」
「皆、ひとまず落ち着け。怪我人は私の元へ。治療の後に経緯を話す」
駆け寄ってくるエルフ達を宥めて、森林火災と人間達に負わされた傷の手当てをする。
「……タスク、火傷の薬草を煎じられるか? 子どもには治癒魔法が効きすぎる」
「はい、お任せください。動けるエルフの何方か、ヒサチ草の群生地があるので、採取を手伝ってください」
「わかりました」
菜食故に草の専門家である兎人とエルフは、薬草にも造形が深い。
治癒魔法は、肉体の治癒を魔力を巡らせ促進させる。五歳児未満の肉体は、身体本来が持つ治癒力が強すぎる為、治癒魔法はかえって過剰治癒で異常を引き起こしてしまう。
一際長寿で成長の遅いエルフは、何十年も五歳児未満だ。
薬草に詳しくなければエルフは今まで生き残れていない。
「周辺の植物を把握してるタスクが居て助かった」
「……魔王様…………ありがとうございます」
「礼はいい。村長は居るか?」
「…………いません。我々を逃す為に、数人の戦士と共に人間の足止めを」
「……そうか。よくぞ、生きてここまで来たな」
最も重傷であるエルフの元へ膝をつく。半身を覆う火傷を癒し、完治させる。
淡い空色の瞳に光が戻り、煤を払い落とせば綺麗なブロンドが日に照らされる。
「…………俺のような死に損ないの戦士より、勇敢な戦士達や村長の方が魔王様のお役に立てたでしょうに。火傷を負うようなヘマをしなければ……俺が、死んだ方がきっと」
「戦友達も村長も、生死のわからない私の為にお前達を生かしたわけではない。ただ一人でも多く守り、生き延びて欲しかっただけだ。自分が死ねば良かったなどと二度と言うな。それは命を懸けた者への侮辱だ」
「……はい」
「お前、名は?」
「ヘルクラスです」
「パパ~!」
横たわっていたエルフに小さなエルフが駆け寄ってしがみつく。
「ありがとうぉ! パパ元気になった!」
「こら、魔王様になんて口を」
「いいさ。元はと言えば、私が負けた所為で皆に苦労をかけている。散った者達に顔向け出来るように、これからまたやり直すが……まずは、エルフの避難所が要るな」
「!」
セリアスは、子どもの頭を撫でながら洞窟の拡張を思案する。
16
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる