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第62話

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「ほら、これでこの間道の魔物は全種類制覇したぞ。俺の言った通り雑魚だっただろう? まあ、雑魚女には何でも強敵に見えるから仕方ないか。まあ、頑張れよ」
「くぅっっ~!」
 
 得意げな顔で、僕は女剣士に聞いてみた。
 強敵だと言っていた魔物を小石を投げつけて倒したのだ。
 女剣士は悔しそうな顔を浮かべるだけで、反論するのを必死に我慢している。

 でも、右拳がブルブルと震えている。
 殴りたいなら、殴ってもいいけど、今度は黒革のハーフパンツをズリ下ろすよ。

「さてと……」

 パァシャ♪ と木の上で死亡しているカラフルキャットをカメラで撮って収納した。
 どうやら、蜘蛛の糸は収納できないようだ。

 念の為に木の枝にベッタリと付いている蜘蛛の糸を単独で撮ってみた。けれども、収納できなかった。
 やっぱり蜘蛛糸トラップを永久使用する事は出来ないようだ。
 毒の小石と一緒で、幻のアイテムになってしまった。

「今の編成のままで行くしかないのか……」

 前衛三(僕・女剣士・ツーハンドスネーク)、支援一(サソリ蜘蛛)、飛行二(虎蜂二匹)が今の編成だと思う。
 ここから、これを二組に分けて、経験値稼ぎを始めたいと思っている。

 動きの遅いツーハンドスネークは当然、僕と一緒に行動させる事になる。
 女剣士も魔物だけに任せるのは心配だ。となると、前衛二人と前衛一匹で組むしかない。
 完全な前衛よりのチームはちょっと心配だ。ここは慎重に時間をかけるしかない。
 つまりはチームは作らずに、全員で移動しないといけないという事になる。

「行くぞ。夜までにレベルアップさせてやる」

 とりあえず、この中で一番の足手纏いは女剣士だ。レベル12で替えの利かない人間だ。
 この女に強くなってもらわないと、安心して一人で行動させられない。
 だが、そんな僕の親心というか、親切心というか、やる気を女剣士は打ち壊した。

「えっ~~、一日十匹でいいよ。あと四匹倒したら、今日は休もう」
「一日十匹だと? そんなんだから、雑魚のままなんだぞ。一日三十匹は倒さないと駄目だ。休みたいなら、レベルアップするまでだ。さっさと行くぞ!」
「やだ、やだ、疲れた。もぉー、休む!」

 ブチッ! 十匹なんて二時間もあれば、倒せる数だ。こんな森の中でチマチマと一週間もかけて、女剣士のレベルを18程度に上げるつもりはない。
 地面に寝っ転がって動こうとしない女剣士をツーハンドスネークに持たせると、僕は次の魔物の所までノロノロと移動した。これだから、女は嫌なんだ。

 ♦︎

「すぅー、すぅー……」
「もう寝てる。夜はこれからだろう」

 レベル12からレベル13になった事で、女剣士は強制休憩を要求してきた。
 青色の収納ボックスから簡易テントと夕食を取り出して、設置して、食べると、直ぐにテントの中で寝てしまった。僕の分の夕食とテントはどこにあるのだろうか? ちょっと教えて欲しい。

 まあ、冗談は置いておいて、朝まで女剣士の寝顔を黙って見ているつもりはない。
 人気ひとけのない森の中で、若い男女がやる事といえば、一つしかない。プロレスか、柔道だ。
 決して、エッチな事ではない。邪魔な服を脱いで、プロレスをするだけなんだ。
 去勢されるようなエッチな事じゃないはずだ。

「ゴクリ……いや、まだメインディッシュには早いか」

 テントの中の無防備な女剣士を襲うには、いやいや、無防備な女剣士とプロレスするのは、まだ早い。
 抵抗する女剣士のズボンを脱がして、無理やりするなんて、十五年間という長い月日を一緒に乗り越えて来た息子に対して申し訳ない。
 そんな下衆な方法で簡単に終わらせるのは、かなり勿体ない。もっと記念すべき時にやるべきだ。
 息子の晴れ舞台なんだ。息子には裏口入学なんかさせずに、正門から堂々とビンビンに胸を張って入ってもらいたい。それが親心というものだ。

「よし、イーノがレベル20になった時の僕へのお礼という事で、メチャクチャエッチな事をしてもらおう。自主的に」

 うん、うん、それが良い。女剣士は強くなって、僕も正々堂々と胸を張って卒業できる。
 それにレベル20という響きもいい。まるで成人の仲間入りみたいな感じがする。
 あっ、でも、男は十八歳、女は十六歳で結婚できるから、女剣士がレベル16になった時でもいいんじゃないのか? うん、良いと思います。よし、レベル16まで上げたら、お礼を貰おう。もちろん自主的に。

「そうと決まれば、まずが僕がレベル18にならないといけない。今夜は大人の準備に忙しくなりそうだぜ♡」
 
 少し頑張れば、明日の夜には僕のレベルは18になる。息子にはもうちょっとだけ我慢してもらおう。
 虎蜂二匹に女剣士の警護を頼むと、僕は夜の森に出掛けていった。
 テントの周囲にいる魔物を倒して行けば、女剣士を襲う事が出来る魔物は存在しなくなる。
 警護の魔物は最低限いれば問題ない。

 ♦︎

「〝吹き抜けろ、風の閃光〟」

 暗い森の中を移動しながら、僕は初級風魔法『ウィンドアロー』の習得を目指していた。
 これを習得できれば、四属性は完全制覇だ。次からは呪文詠唱から魔法詠唱で使えるように頑張らないといけない。まあ、習得の方法は分からないけど、女剣士か、ペールラブの街の魔法使いに聞けばいいはずだ。
 
「町から家出して、もう二日目か……女神様からは電話はかかって来ないし、普通にアイテムは買えているし、気にしているのは、僕だけなのかもしれないな」

 我慢できずに僕は神フォンから防具を買ってしまった。
 購入したのは、『妖精のコート』と呼ばれる綺麗な若草色のロングコートで、フードも付いていた。
 値段は2900エルと少し高く、その分、物理防御力279+魔法防御力100と優れた性能を持っている。
 どうしても、ツーハンドスネークの投擲攻撃を防ぐには必要だった。
 この妖精のコートのお陰で、投石ダメージが1になったのだから……。

「こうなったら、武器も新調しよう。5300エルだから、お金は全然足りないけど」

『神フォン使わずの誓い』を早くも破ってしまっているけど、これは仕方ない。
 だって、こんな長袖白シャツは防具じゃない。
 それに、この村人から盗んだ剣は攻撃力が低いし、神フォンに収納できない。
 神フォンで買おうとしている剣は、この剣の攻撃力の三倍もある。
 もう替え時はとっくに過ぎている。

【ピロリン♪ 条件を達成しました。
 初級風魔法『ウィンドアロー風の矢』を習得しました。
 詠唱呪文は『吹き抜けろ、風の閃光』です。
 消費MP=10。魔法攻撃力=知性×三倍】

「ふぅー、やっと習得できた。どれどれ……」

【ピロリン♪ 条件を達成しました。
 特技『属性眼』を習得しました。
 魔法攻撃、魔法耐性の識別しきべつが可能になりました。】

「えっ……」

 まだ読んでないのに、次のボードが出現した。こんな事が起きるとは聞いていない。
 属性眼? ようするに魔法の流れみたいなのが分かる能力みたいな感じかな?
 とりあえず確かめてみるか。

「蜘蛛、蛇、出て来い」
『シュピー!』
『スネッ!』

 呼びかけると、影の中から二匹の魔物が飛び出して来た。
 この二匹の魔物で大体の能力は分かるはずだ。

【サソリ蜘蛛。弱点属性・水(中)】
【ツーハンドスネーク。得意属性・火(中)。弱点属性・水(強)。】

 二匹のステータスに新しい項目が増えていた。つまり二匹は水魔法が弱点だという事だ。

「この属性の魔法で攻撃すれば、HPダメージがアップするという訳か……なるほど。ダメージ量の調整に使えるのか」

 一応は使える特技なのは分かった。
 一撃で倒したい時や瀕死の状態にしたい時と、状況に合わせた使い方が出来るはずだ。
 とりあえず風魔法は習得したし、レベル16になった。今日はこの辺でテントに戻ろう。
 女剣士が寂しがっているかもしれない。
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