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第三十一話 ピーちゃんが帰ってきた

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「お父さんのことは嫌いになってもいい。お母さんのことは嫌いにならないでくれ。必ず人間に戻れる方法を探してくるから……」

 そんなことを言って、お父さんが悲しそうに出発した。
 お父さん。お父さんのことが嫌いになったんじゃないよ。
 お父さんの血を無理矢理飲まされるのが嫌だっただけだよ。

『ピーちゃん、まだかなぁ~?』

 来てほしい時に限って現れない。
 昨日、頑張って捕まえた小さな魚を見て暇潰しだ。
 僕が指で突くコップの中を一匹の小さな魚が泳いでいる。
 大きな魚なら血も吸えそうだけど、小さすぎてこれは無理だ。

『あっ、来た!』

 窓が叩く音が聞こえた。
 すぐに窓が開いて青い小鳥が部屋に入ってきた。

『ただいま。魔物倒してきた。楽勝だった』
『そう、それは良かったね』

 今回は激しい戦いじゃなかったみたいだ。
 元気なピーちゃんが窓枠に止まると報告してきた。

『それでどんな魔物倒してきたの?』

 ヨダレを我慢して、ピーちゃんに聞いた。
 待ちに待った料理の到着だ。
 僕の期待に満ちた目に負けて、ピーちゃんが語り出した。

 ♢♢♢

 家を出発したピーちゃんはバターナイフの購入元に向かったそうだ。
 街に到着すると冒険者ギルドの扉を開けて入った。
 受付に止まると言った。

『試し斬りしたい』

 ピーちゃん、それだと言葉が足りないよ。
 受付のお姉さん、殺すつもり?

「えっと……ああ、【バードスペシャル】のことね」

 察しのいいお姉さんでよかったね。
 あのバターナイフの名前【バードスペシャル】って言うんだね。
 クソダサいね。ピーちゃんが考えたの?

『そう、それ。騙されてないか、本当に切れるか試し斬りしたい』
「あら、やだぁ! 私がピーちゃん騙すわけないでしょ。どちらかというと、私の方が悪い男によく騙されるのよ」
『ふぅ~~ん、そうなんだ。試し斬りできる場所ある?』

 早く試し斬りしたくて、全然お姉さんの話、聞いてないね。
 僕も聞くつもりないから、この辺りの話は省略していいよ。
 本当に騙された人は騙されたって気がつかないから。
 ピーちゃんみたいにね。

「ピーちゃんの冒険者ランクはGだから、難易度GかFのダンジョンがいいと思うんだけど、ピーちゃんはどっちがいい?」

 結局、最後は男の方が騙された話を聞かされると、お姉さんが聞いてきた。

『う~~ん、両方行く』

 ちょっと考えてから、ハッキリ言った。

「フフッ。やる気十分ね。倒した魔物を持ってきてくれたら買取らせてもらうわね」

 お姉さんが笑いながら言うと買取りの説明をしてくれた。
 買取れる素材だけを持ってきてくれれば、解体費用は請求されないそうだ。
 でも、素材が損傷していたら買取り金額が減らされてしまう。
 解体に自信があるなら自分でやって、自信がないならお任せだ。

 キチンとお姉さんの買取り、ダンジョン、魔法具の説明を聞くと、ダンジョンの場所が書かれた地図を貰って、ピーちゃんはようやく出発した。
 目指したのは難易度Gのダンジョンだ。人間一人で倒せる強さの魔物が出るそうだ。

『ここかな?』

 森の中にある、小さな岩山に開いたダンジョンのトンネルを抜けると、明るく広い草原に出た。
 空は岩で塞がれていて、大地には緑色の細長い葉っぱが生えている。
 天井と地上との距離は百メートル以上離れている。

 そんな室内草原ダンジョンには二匹の魔物が生息している。
 草原を飛び跳ねる『鎧ウサギ』と、草原を駆け抜ける『一角オオカミ』だ。

 鎧ウサギは頭、前脚、背中が岩のような肌をしていて、それ以外が白い毛で覆われている。
 一角オオカミは黒色で、額に二十センチぐらいの白い角が一本生えている。
 どう考えても僕一人で倒せるとは思えない。三人ぐらいで倒したい。

『試し斬りの始まりだ』

 収納袋から取り出したバターナイフをクチバシで咥えると、ピーちゃんの狩りが始まった。
 空から鎧ウサギの背後に高速接近して、気づかれる前にバードストライクで首を狙った。
 体当たりはせずに刃だけで首を狙った。

『‼︎』

 空気を切るようにそのまま通りすぎると、鎧ウサギが地面に倒れた。

『まずは一匹。次はお前だ』

 どっかで聞いた台詞だけど気にしない。
 小鳥だけど今のピーちゃんは強い鳥のタカだ。
 魔力を流したバターナイフで鎧ウサギと一角オオカミを次々倒していく。

『クククッ。僕の敵じゃない』

 ピーちゃん、覚えていると思うけど、倒すのが目的じゃないからね。
 収納袋に回収するんだよ。倒した魔物は僕の所に持って帰るんだよ。

 ♢♢♢

 頑張って魔物の回収を済ませると、ピーちゃんは次のダンジョンに向かった。
 難易度Gだと弱すぎると、次はあの新生ダンジョンに向かった。
 今は普通のダンジョンに変わっていて、難易度Eに認定されている。

『子供ドラゴン倒してやる』

 ピーちゃんの目的はオオトカゲだ。
 子竜山のオオトカゲを倒すと怒られるので、こっちのトカゲで腕試しだ。

 でも、身体の大きな相手にバターナイフが通用するとは思えない。
 どんなに切れ味が凄くても、小さな針で戦うようなものだ。
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