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第三十話 お父さんが帰ってきた
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ピーちゃんの帰りを特訓しながら待つつもりだったんだけど……
コンコン、コンコン。
「レナス、お父さんだよ。……入ってもいいかい?」
『うん、いいよ』
お父さんが先に帰ってきた。
部屋の扉を叩いて、小さな声で聞いてきた。
「くぅっ!」
部屋に入るなり、フードローブで全身を隠した僕を見て苦しそうに顔を歪めた。
この服は吸血鬼のお兄さんに貰ったもので、めちゃくちゃ着心地がいい。
その代わり、見た目が怪しくなるのが難点だ。
『お父さん、どうしたの? 顔色が悪いよ』
僕のファッションチェックはどうでもいい。お父さんに聞いてみた。
前に会った時よりも顔がげっそりとやつれている。
そんなお父さんがベッドに座ると聞いてきた。
「お父さんのことはいい。それよりも身体の調子はどうだ? 痛いところや苦しいところはないか?」
『うん、全然ないよ』
ごめん、お父さん。実は筋肉痛で痛いし苦しいです。
でも、この痛みが強さに変わるのなら我慢できる。
「そうか、それはよかった。何かあったらお父さんとお母さんにいつでも言うんだぞ」
『うん、分かった』
これで話は終わりかな?
あとは夕方までぐっすり寝て、地獄の猛特訓だ。
今日は小川に行こうと思う。小さな魚が泳いでいたから、あれを手掴みで捕まえる。
水中を素早く動き回る小さな魚を捕まえられるようになれば、ピーちゃんの動きにも対応できる。
身体が特訓で熱くなったら、冷たい小川でひと泳ぎだ。
「それでレナス……聞きにくいことなんだが、血が飲みたいと思ったことはないか?」
楽しい川遊びに胸を膨らませていたら、お父さんが聞きにくそうに聞いてきた。
まだ話は終わりじゃなかった。
『えっ、どうして?』
「レナスを治してくれた吸血鬼の人に言われたんだ。吸血鬼は定期的に血を飲まないと衰弱していくって。血を飲まないと死んでしまうって」
『そ、そうなんだ』
全然知らなかった。知っているのは魔物の血を飲めば強くなることだけだ。
もしかするとピーちゃんと戦った時、僕は衰弱していたのかもしれない。
それなら腹パン一発で負けたのも納得できる。
「だからお父さん、レナスの為に料理を作ってきたんだ!」
『えっ?』
負けた理由が分かって、ホッとしていたらお父さんが謎の液体を取り出した。
透明なガラス瓶に入れられた緑色のそれは、見ようによってはカレーにも見える。
正直に言えば【腐ったドブ水】にしか見えない。
「安心していいぞ。使ったのはお父さんの血だ!」
胸を叩いて言われても、絶対に食べたくない。
「ほら、遠慮せずに食べなさい。お父さんは大丈夫だから」
僕が大丈夫じゃない。お父さんがグイグイドブ水をすすめてくる。
こんなの飲んだら逆に衰弱する。地獄の猛特訓だとしても、これ飲んでも強くなれない。
『いいよぉ……ピーちゃんに魔物を持ってくるようにお願いしたから』
「魔物だって⁉︎ そんなのよりもお父さんのを飲みなさい! ほら、直でもいいぞ!」
『うぐっ……!』
断ったのにお父さんが諦めない。二の腕を僕の口に押し当ててきた。
可愛い女の子に「飲んで飲んで」と積極的に頼まれたら、五分ぐらい悩んで『ちょっとだけ』と飲むかもしれない。
でも、お父さんは一秒もいらない。お父さんの血を飲むぐらいなら死んだ方がマシだ。
もちろんお父さんの身体を心配してじゃない。僕の身体の方を心配している。
『もうやめてよ、お父さん! お父さんの血なんか飲みたくないんだよ!』
「レ、レナス、ど、どうしたんだ⁉︎」
勢いよくベッドから立ち上がった。
まさか腕を払い退けられると思ってなかったみたいだ。
お父さんが激しく動揺している。
悪いけど、息子に自分の血をすすめるお父さんの方がヤバいからね。
『いい! お父さんの血、美味しそうに見えないだよ! 僕から見たらドブ水なんだよ! 生理的に受け付けないんだよ! 分かったら、そのドブ水、窓から捨ててよ!』
「ひ、酷い、レナスの為を思って頑張ったのに……!」
窓を指差して、強い口調で言った。
口を手で押さえて、お父さんが泣きそうな顔になっている。
よく見たら指先に白いテープを巻いている。お父さんも地獄の特訓したみたいだ。
でも、それはそれ。僕は僕だ。飲みたい血は自分で決める。
『お父さん、二度とドブ水飲ませようとしないでよね! お母さんにも言っといてよね!』
「うぅぅぅ……」
これだけキツく言えば分かってくれるはずだ。
お父さんが泣きながら窓からドブ水を捨てている。
そして、空の瓶を持って部屋から出て行った。
『はぁー、疲れた』
ベッドに寝転んだ。あの様子だと料理に隠し味で使いそうだ。
血の匂いが少しでもしたら、『こんなもん食えるか!』と皿ごと投げつけやる。
これが本当の【反抗鬼】だ。
コンコン、コンコン。
「レナス、お父さんだよ。……入ってもいいかい?」
『うん、いいよ』
お父さんが先に帰ってきた。
部屋の扉を叩いて、小さな声で聞いてきた。
「くぅっ!」
部屋に入るなり、フードローブで全身を隠した僕を見て苦しそうに顔を歪めた。
この服は吸血鬼のお兄さんに貰ったもので、めちゃくちゃ着心地がいい。
その代わり、見た目が怪しくなるのが難点だ。
『お父さん、どうしたの? 顔色が悪いよ』
僕のファッションチェックはどうでもいい。お父さんに聞いてみた。
前に会った時よりも顔がげっそりとやつれている。
そんなお父さんがベッドに座ると聞いてきた。
「お父さんのことはいい。それよりも身体の調子はどうだ? 痛いところや苦しいところはないか?」
『うん、全然ないよ』
ごめん、お父さん。実は筋肉痛で痛いし苦しいです。
でも、この痛みが強さに変わるのなら我慢できる。
「そうか、それはよかった。何かあったらお父さんとお母さんにいつでも言うんだぞ」
『うん、分かった』
これで話は終わりかな?
あとは夕方までぐっすり寝て、地獄の猛特訓だ。
今日は小川に行こうと思う。小さな魚が泳いでいたから、あれを手掴みで捕まえる。
水中を素早く動き回る小さな魚を捕まえられるようになれば、ピーちゃんの動きにも対応できる。
身体が特訓で熱くなったら、冷たい小川でひと泳ぎだ。
「それでレナス……聞きにくいことなんだが、血が飲みたいと思ったことはないか?」
楽しい川遊びに胸を膨らませていたら、お父さんが聞きにくそうに聞いてきた。
まだ話は終わりじゃなかった。
『えっ、どうして?』
「レナスを治してくれた吸血鬼の人に言われたんだ。吸血鬼は定期的に血を飲まないと衰弱していくって。血を飲まないと死んでしまうって」
『そ、そうなんだ』
全然知らなかった。知っているのは魔物の血を飲めば強くなることだけだ。
もしかするとピーちゃんと戦った時、僕は衰弱していたのかもしれない。
それなら腹パン一発で負けたのも納得できる。
「だからお父さん、レナスの為に料理を作ってきたんだ!」
『えっ?』
負けた理由が分かって、ホッとしていたらお父さんが謎の液体を取り出した。
透明なガラス瓶に入れられた緑色のそれは、見ようによってはカレーにも見える。
正直に言えば【腐ったドブ水】にしか見えない。
「安心していいぞ。使ったのはお父さんの血だ!」
胸を叩いて言われても、絶対に食べたくない。
「ほら、遠慮せずに食べなさい。お父さんは大丈夫だから」
僕が大丈夫じゃない。お父さんがグイグイドブ水をすすめてくる。
こんなの飲んだら逆に衰弱する。地獄の猛特訓だとしても、これ飲んでも強くなれない。
『いいよぉ……ピーちゃんに魔物を持ってくるようにお願いしたから』
「魔物だって⁉︎ そんなのよりもお父さんのを飲みなさい! ほら、直でもいいぞ!」
『うぐっ……!』
断ったのにお父さんが諦めない。二の腕を僕の口に押し当ててきた。
可愛い女の子に「飲んで飲んで」と積極的に頼まれたら、五分ぐらい悩んで『ちょっとだけ』と飲むかもしれない。
でも、お父さんは一秒もいらない。お父さんの血を飲むぐらいなら死んだ方がマシだ。
もちろんお父さんの身体を心配してじゃない。僕の身体の方を心配している。
『もうやめてよ、お父さん! お父さんの血なんか飲みたくないんだよ!』
「レ、レナス、ど、どうしたんだ⁉︎」
勢いよくベッドから立ち上がった。
まさか腕を払い退けられると思ってなかったみたいだ。
お父さんが激しく動揺している。
悪いけど、息子に自分の血をすすめるお父さんの方がヤバいからね。
『いい! お父さんの血、美味しそうに見えないだよ! 僕から見たらドブ水なんだよ! 生理的に受け付けないんだよ! 分かったら、そのドブ水、窓から捨ててよ!』
「ひ、酷い、レナスの為を思って頑張ったのに……!」
窓を指差して、強い口調で言った。
口を手で押さえて、お父さんが泣きそうな顔になっている。
よく見たら指先に白いテープを巻いている。お父さんも地獄の特訓したみたいだ。
でも、それはそれ。僕は僕だ。飲みたい血は自分で決める。
『お父さん、二度とドブ水飲ませようとしないでよね! お母さんにも言っといてよね!』
「うぅぅぅ……」
これだけキツく言えば分かってくれるはずだ。
お父さんが泣きながら窓からドブ水を捨てている。
そして、空の瓶を持って部屋から出て行った。
『はぁー、疲れた』
ベッドに寝転んだ。あの様子だと料理に隠し味で使いそうだ。
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