ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第二章:ゾンビ編

第70話 溶岩の川

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「おい、アレン! 邪魔だ、さっさと退け!」
「うぐっ、ぐわぁ……す、すみません、無理です!」

 屈強な身体付きのガイが遠くから、アレンに向かって大声で怒鳴っている。
 アレンは言われた通りに逃げようとするが、立ち上がるのも無理そうだ。
 痛みに負けて、すぐにギブアップした。
 情けない奴だが、そう思っているのは俺だけじゃないようだ。

「この役立たずが! 俺がやる。一人で十分だ!」
「ああ、任せた」

 片手に持った槍を大きく振り回して、怒ったガイがやって来た。
 アイツは普段は寡黙だが、戦闘中は武闘派だから仕方ない。

「ヤバイな……」

 アレンは後でヤバイが、俺は今ヤバイ。状況を素早く把握した。
 相手はBランク冒険者三人、戦って勝つのは無理だ。逃げるだけでも難しい。
 ゴーレムから降りて、事情を話すのは論外だ。ここで死ぬか、町で死ぬかの違いしかない。

 ならば、やる事は一つしかない。
 目の前に倒れているアレンを人質に使わせてもらう。
 役立たずでも、それぐらいの役には立つだろう。

「ぐっ! な、なんだ⁉︎」

 だが、動き出そうとした瞬間、また爆発音と衝撃がゴーレムを襲った。
 地面に向かって身体が背中から倒れていく。
 覗き穴を動かして、倒れる前に身体の状態を素早く確認した。
 頭と両足が破壊されていた。一体誰がやったのか考える前に、ガイの怒鳴り声が聞こえた。

「俺がやるって言っただろう!」
「時間の無駄です。アレン以外なら誰がやっても結果は同じですよ」
「だったら、俺にやらせるべきだった。勝手に倒すな!」
「瞬殺できる雑魚ですよ。戦ってもガッカリするだけです」
「それを決めるのは俺だ!」

 立ち止まっているガイがロビンを睨んで、どっちが俺を倒すかで言い争っている。
 俺の為に争わないで欲しいが、また弓矢で俺をロビンが攻撃したみたいだ。
 さっきと同じで魔力の流れは感じなかったが、距離が遠すぎる。
 普通に矢を射っただけなのか、魔法で攻撃したのかさえ分からない。

「くっ、迂闊に動いてもやられるだけか!」

 手足や頭は修復せずに、倒されたフリをして逃げる手を考える。
 逃げるなら、まずはジェノサイドトラップで周囲に岩壁を大量に作る。
 岩壁があれば、矢を防げて、身を隠せて、障害物で接近しにくい状態に出来る。
 問題はそこからだ。どこに逃げるか決めないといけない。
 逃げ道があるとしたら、三つだけだ。

 一つ目。ヴァン達が塞ぐ階段がある道だ。当然、生きて通れないから考えるだけ無駄だ。
 二つ目。鞄を放棄した行き止まりの道に逃げる。当然、行き止まりだから逃げられずに終わる。
 でも、通路を岩で埋め尽くせば、逃げられる可能性は少しはある。
 だが、そんな大規模工事をする時間を三人は与えてくれない。当然、死ぬ。

 そして、三つ目の溶岩の川の中だ。流石に溶岩の中までは追って来れない。
 普通の人間なら飛び込んだだけで溶かされるが、ゴーレムの身体ならば可能性はある。
 常に溶かされる前に身体を修復すれば、三人が諦めるまで、溶岩の中で篭城できる。
 当然、無理だったら場合は溶けて死ぬ。

「くっ、もう時間がない。やるしかないな!」

 ロビンとガイが口論を始めた瞬間から、俺の驚異的な頭脳を使っても、答えを導き出すのに約十三秒もかかってしまった。もう動かないと助からない。
 回収するのは普通サイズに戻った落ちている剣だけだ。それに攻撃されない秘策もある。

 ♢

「ごほぉ、ぐほぉ……お願いだぁ、助けてくれぇ……」
「だ、誰だよ⁉︎ 隊長ぉー! 変な男がゴーレムから出て来ましたよぉー!」

 岩仮面を着けると、ゴーレムの右足に開いた穴から這い出て、苦しそうな声でアレンに助けを求めた。
 謎の登場人物にアレンは慌てているが、ゴーレムの体内に拘束されていた人質に決まっている。
 早く攻撃しないように言ってほしいが、馬鹿には期待していない。
 主にアレンが混乱しているこの状況で、ジェノサイドトラップを発動させた。

 ドガガガガガッッ——

「ぐごぉ‼︎」
「この技は……」

 地面からヴァン達に対して、扇状に大量の岩壁が一気に迫り上がった。
 岩壁の一つがアレンを跳ね飛ばしたが問題ない。誰かが受け止めてくれるはずだ。
 俺はその間にゴーレムから出て、剣を拾う予定だが、その前にやる事がある。

「頼む! 射たないでくれ! この仮面に操られているだけなんだ!」

 剣に向かって走りながら、大声で壁の向こうのロビンに聞こえるように叫んだ。
 冷静に状況を分析するアイツなら、仮面ごと脳天を矢でブチ抜こうとは思わない。
 どうするか少しは考えるはずだ。だが、予想以上に答えはすぐに出たようだ。

「ガイ、道を作ります! 生け捕りにしてください!」
「その必要はない! 喰らえ、暴食の槍!」

 ロビンの指示が聞こえてきたが、ガイは一人でやりたいようだ。
 生け捕りは非常に素敵な提案だが、調べられると終わりだ。
 剣は拾ったので、ちょっと熱めの溶岩風呂に入らせてもらう。
 まあ、ゾンビだから熱さは感じない。

 ドガァン、ドガァン……

「んっ? なっ⁉︎」

 連続して聞こえてくる破壊音に、もの凄く嫌な予感がして少しだけ振り返った。
 岩壁が次々に木っ端微塵に砕けて、破片が宙を舞っている。
 明らかに俺に向かって、壁を突き破るように一直線に何かが向かってくる。

「くっ、捕まるかよ!」

 かなり気になるけど、今は逃げる事に集中だ。気にせずに正面を向いた。
 切断された左腕を身体に固定しているから走りにくいけど、全身に岩を纏えば魔力で飛んでいける。
 溶岩風呂まではあと少し……

「なっ、ぐがぁぁ!」

 ドガァン‼︎ 俺のすぐ近くで何かが爆発した。バランスを崩して、派手に転倒してしまった。
 すぐに立ち上がって、粉塵が舞っている場所を見た。赤色の棒が地面に斜めに突き刺さっている。

「棒だと?」
「リバース、逃げるな! 逃げれば、次は頭を貫く!」
「なっ⁉︎ 消えた⁉︎」

 赤い棒が突然消えて、ガイの怒鳴り声が聞こえた。
 声の方を振り向くと、岩壁をイノシシが破壊して通ったように、一直線に道が出来ていた。
 その道の先に赤色の柄の槍を持ったガイがいる。しかも、こっちに向かって走っている。

「違います! 俺は操られているだけです! 逃げたくて逃げているわけじゃないです!」
「待て、逃げるな! 逃げれば殺すぞ!」

 この状況は恐ろしくヤバイ。
 ガイの言葉を無視して走り出すと、自分の意思で逃げていないと強く主張する。
 捕まっても殺される、逃げても殺されるなら、逃げるに決まっている。

「こんなところで死ねるかよ!」

 溶岩の川までは残り七十メートルぐらいだ。
 飛び込んだ後は好きに流されてやる。

「止まりなさい! この技は『エンド』、射てば狙った所に必ず当たる矢です。止まらなければ射ちます!」

 何かロビンが言っているけど、何を言われても止まるつもりはない。
 俺に説得は通用しない。走り出したら、もう誰にも俺は止められない。
 射ちたければ射てばいい。ゴールはすぐそこだ。

 ヒューン、ドパァン——

「えっ? ぐはぁぁ‼︎」

 手足の感覚が突然なくなって、身体が宙に浮いたと思ったら、地面に派手に転んでしまった。
 こんな大事な時に転ぶとか信じられない。急いで立ち上がろうとしたが、それは出来なかった。
 俺の右腕と両足の肘と膝から先が、綺麗に無くなっていた。

「くそぉー‼︎ 本当に射ちやがったぁー‼︎」
「警告はしました! ガイ、今度こそ捕まえてください!」
「おい、ロビン! 生け捕りじゃなかったのか!」
「死んではいません。逃げられないようにしただけです。すぐに手当てすれば問題ないでしょう」

 その必要はない! お前達のような恩知らずの野蛮人に助けられるぐらいなら、死んだ方がマシだ。
 二人が言い争っている隙に、左腕と身体を固定している岩のギプスを、俺ごと溶岩に向かって発射した。

「ガイ!」
「しまっ——」

 ドボォーン‼︎ 勢いよく溶岩の川に突っ込んだ。
 左手に嵌めた火耐性の指輪で、生身でも少しの時間は耐えられる。
 手足と一緒に、五本の指輪と素早さの靴と斬撃の手袋は片方失ったが、命の代償にそれぐらいはくれてやる。
 もしも俺が生きていて、次に会った時は、それがお前達の人生最後の日だと思え。
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