ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められた下級冒険者はゾンビになって生き返る⁉︎

もう書かないって言ったよね?

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第二章:ゾンビ編

第71話 間話:ジャンヌ

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「ほら、飲め飲め!」
「グガァ、グガァ!」
「よし、どんどん飲ませるぞ!」

 ピラミッドがある二十階に到着すると、階段口の側でイジメが行なわれていた。
 長方形の岩の塊から頭だけ出した男が、小瓶の水を飲まされている。
 見ないフリをしてもいいけど、ちょっと気になったので、二人組の冒険者に話しかけた。

「何をやっているの?」
「んっ? ああ、このゾンビに聖水を飲ませているんだよ」
「そうそう元人間らしいから、たくさん飲ませれば治るだろうと思ってな」

 なるほど。この男はゾンビらしい。顔色が悪いのは水責めが原因ではなかったようだ。
 聖水を持ってないから、イジメの協力はできないけど、調べる事は出来る。
 二人の後ろから、ゾンビをよく見て調べてみた。

【名前:ジェイ 年齢:18歳 性別:男 身長:174センチ 体重:58キロ 状態異常:ゾンビ化重度】

 地下十階で会った男が言っていた通りのようだ。
 多分、カナンと一緒にいた冒険者で間違いない。

 でも、聖水を三十本以上もガブ飲みさせられて、『聖耐性LV1』のアビリティを習得している。
 これ以上は何本飲ませても効果はないけど、赤色魔石で作った聖水を飲めば人間に戻れると思う。

「ゾンビじゃなくて、ジェイという人間みたいよ」
「んっ? 姉ちゃん、分かるのか?」
「いいえ、ただの女の勘よ。それよりもこのゾンビを預けた人はどこにいるの?」

 正体を教えると面倒なので、女の勘で誤魔化しておいた。
 二人は「女の勘かよ」と笑ってから、知らないと答えた。

 知らないなら、ピラミッドの中にいる冒険者達に聞くしかない。
 下に下りながら、出会った冒険者達に話を聞いていく。だけど、答えは同じだった。
 でも、ピラミッドの底まで行くと、負傷して動けない冒険者達を見つけた。

「うぐっ、仮面の男なら知っている。太陽石を渡せと言ってきて、いきなりブン殴ってきた」
「頭のイカれた野朗だから、女のあんたは近寄らない方がいいぜ。何されるか分からねぇ」
「そうですか……」

 目撃者というか、被害者を見つけてしまった。十一時間ぐらい前に襲われたそうだ。
 太陽石だけを狙う強盗は珍しいけど、被害者は冒険者カードも盗まれたらしい。
 ゾンビ化した人間を岩に閉じ込めたりと、どうも愉快犯の匂いがしてきた。
 被害者達の情報を頼りに下の階に向かった。

 ♢

 二十階と二十一階の階段内には、たくさんの負傷者が倒れていた。
 その数は合わせて百四十人を超えていた。
 どんな凄腕凶悪犯かと思ったら、二十二階の大広間でロープで拘束されていた。

「だから、俺達は違うって言ってるだろう!」
「そうだ! 俺達はいきなり襲われただけだ!」
「嘘を吐くな! 残りの仲間を教えろ!」

 二十人程の冒険者に囲まれた容疑者二人は、犯行を強く否定している。
 二人の顔には殴られた痕がハッキリ見える。キツめの訊問を受けているみたいだ。
 十時間以上も暴行する方もヤバイけど、これだけやられても否定する方もヤバイ。

「あの二人が犯人なんですか?」
「んっ? ああ、間違いない。盗まれた物を身につけていた」
「へぇー、そうですか……」

 取り囲んでいた人に話を聞くと、盗まれた物を持っていたから間違いないそうだ。
 それだと落ちていた物を拾っただけでも、犯人になってしまう。
 何とも無理矢理な感じだけど、真犯人が捕まらない限り、無実を証明するのは難しい。

「だから、俺達を襲った奴が犯人なんだよ! そいつを探せよ!」
「そうだ! 俺達を犯人にしたいなら、顔に包帯を巻いた男を連れて来いよ!」
「包帯?」

 だけど、容疑者二人には真犯人の心当たりがあるようだ。
 包帯男を出せと言われて、囲んでいる冒険者達がかなり焦っている。

「くっ! おい、包帯の男は本当に見つからないのか?」
「それが階段を下りたのか、包帯を取ったのか分からないだよ。この中にいるかもしれない」
「服が水浸しだったんだ! この中にいたら見逃すはずがない! 下に逃げられたんだよ」
「どうすんだよ? めちゃくちゃ殴ったぜ。今更、間違いでしたとは言えねぇからな」

 なるほど。容疑者二人は無実の可能性が高そうだ。
 それは取り囲んでいる冒険者達がよく分かっていると思う。
 二人は真犯人に襲われて、罪をなすりつけられたとしか思えない。

 だとしたら、その包帯男を探さないと何も分からない。
 ここにいる人達は誰も探したくないみたいだから、私が下に探しに行ってあげよう。

 ♢
 
「包帯男? ああ、そういえば、高額で命結晶を買いたいという怪我した男がいたな」

 下の階に下りると、包帯男の目撃情報は意外とたくさんあった。
 お金と交換に命結晶を買取っているらしい。
 しかも、相場の買取り価格よりも高い値段でだ。

 やっぱり仮面男も包帯男も行動に謎が多い。
 お金を持っているのなら、町の換金所で普通に購入すればいい。
 それが出来ないなら、ギルドの犯罪者リストに載っている冒険者の可能性が高い。
 犯罪を犯した冒険者は賞金首として、名前や顔写真、アビリティが公開される。
 顔を執拗に隠していた理由が賞金首なら納得できる。

 とにかく、顔を隠している冒険者が容疑者なのは間違いない。
 包帯男の目撃情報を頼りに、どんどん下の階に下りていった。

 地下二十八階……

「ああ、顔に血まみれの包帯を巻いた男なら見たよ。左腕を大怪我したのか土で固めていたな」
「あんたの仲間か? 一応止めたんだけど、『痛くないから大丈夫だ』って言って下りていったぜ。五時間ぐらい前だったかな?」
「ありがとうございます。追いかけてみます」

 二十八階の階段に座っている冒険者に話を聞くと、左腕を怪我している事が分かった。
 二十七階の階段では左腕は怪我してなかったから、二十七階で冒険者かトレントにやられたようだ。

 だけど、トレントに負傷させられたのなら、今までの強さから考えて少し不自然な気がする。
 冒険者にやられたと見た方が正解だと思う。ここに来て、また襲い始めたようだ。

「それにしても……どんだけ体力あるのよ?」

 仮面男が二十階に現れてから、二十六時間は経過している。流石に探すのが面倒くさいなってきた。
 私が十六時間も探しているのに、全然追いつけない。不眠不休で行動しているようだ。
 それだけのやる気があるなら、真面目に冒険者をやればいいのに。

「あぁー、疲れた。そろそろ追い抜きたい」

 文句を言いつつも、下の階を目指して頑張っている自分を褒めてあげたい。
 階段での目撃情報が無くなった時が犯人を追い抜いた時だ。
 あとは階段でゆっくり休憩しながら、犯人が来るのを待つだけでいい。

 ♢

「本当ですか!」
「ああ、仮面や包帯を顔に着けた男は通ってないと思う。他の冒険者にも聞いて確かめてみればいい」

 三十階の階段で初めて包帯男の目撃情報がなかった。二十九階で追い抜いたみたいだ。
 念の為に他の冒険者にも聞いてみたけど、誰も見てないという答えだった。
 これでやっと休憩する事が出来る。

「はぁー、これでやっと休めるよぉー」
「何か知らんが良かったな」
「はい。あっ、あのぉ、図々しいお願いなんですけど……」
「んっ?」

 包帯男との戦闘や帰り道の事を考えると、流石に寝ないと駄目だ。
 四人組の四十代の小父様冒険者達に可愛いくお願いしてみた。

「ああ、そのぐらいならいいぜ! でも、二時間で勘弁してくれよ」
「すみませーん。じゃあ、二時間だけお願いしまーす!」

 やっぱり私が可愛い女の子だから断られなかった。
 紳士の小父様達が心良く引き受けてくれた。
 これで安心して眠る事が出来る。

 五時間後……

「むにゅ……へへっ……んっ……ハッ! おじさん達がいない⁉︎」

 目を覚ますと、自分でも寝過ぎた自覚はあった。でも、人を信じる心は大切だと思う。
 身体にかけてあった毛布を退けると、急いで時計を見た。もう五時間も経過していた。
 
「毛布の優しさとかいいから、起こしてよぉー」

 口元のヨダレを手の甲で拭き取ると、急いで階段を下りていく。
 でも、途中で階段を下りるのをやめた。階段に負傷した人達がたくさん倒れている。
 その中にはおじさん達四人もいた。駆け寄って声をかけた。

「おじさん、どうしたんですか!」
「うぐっ、姉ちゃんか……起こしに行けなくて悪かったな。強いゴーレムが暴れているって聞いて、他の冒険者の応援に行ったんだ。そしたらこのザマだ。まったく情けねぇ」

 かなりボロボロだけど、おじさん達は笑う余裕はあるようだ。
 でも、これだけの冒険者を負傷させるレッドゴーレムがいるとは思えない。
 赤い宝箱から七個の石を集めた進化種かもしれない。

「それでそのゴーレムは倒せたんですか?」
「いや、この通りボロボロにやられたよ。でも、安心しな。ゴーレムはBランクパーティに倒されたからよ」
「それは良かったですね」

 どうやら、私の出番はないようだ。でも、こんな偶然があるだろうか。
 もしかすると、仮面男が石を七個集めているのは、人為的に進化種を作る為なんじゃ……

「あぁー、そういえば、ゴーレムの身体から仮面を着けた男が出てきたとか言っていたな」
「えっ? えぇー、その男はどうなったんですか⁉︎」

 私が真剣に仮面男の恐ろしい目的を考えていたら、おじさんがサラッと重要な事を言ってきた。
 そういう重要な事は一番最初に教えてほしい。

「まあまあ、落ち着けよ。溶岩の中に自分から飛び込んで死んだらしい」
「そんなぁ……」
「安心しろ。倒したヤツらから話はしっかり聞いている」

 せっかく頑張って、ここまで追いかけて来たのに、死んだとか信じられない。
 落ち込んでいる私におじさん達は、Bランクパーティから聞いた仮面男の情報を話してくれる。

 何でも落ちている手足を調べたら、『ゾンビナイト』という新種のモンスターだったらしい。
 一人だけ負傷者していた銀髪の男が、戦利品だと言って、腕を見せてくれたそうだ。
 でも、ちょっと待ってほしい。それはあり得ない事だ。

「あれ? でも、死んだモンスターの身体は素材以外は消えますよね?」
「確かにそうだな? ハハッ。まだ溶岩の中で生きているのかもしれないな」
「……」

 私の疑問におじさん達が笑って答えた。
 火耐性が高いマグマスライムでも溶岩の中では生きられない。

 でも、可能性はある。むしろ、千切れた手足が消えてないなら、生きている可能性の方が高い。
 おじさん達はどこでゴーレムが倒されたのか知らないみたいだけど、三十階を探せば見つかる。
 念の為にもうちょっとだけ探してみよう。
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