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第二話 マヨヒゴの座敷童子 番外
香を聞く楽しみ
しおりを挟む私は心地の良い夢から目が冷めて、顔を洗っていた。
朝日もゆっくりと昇っている。
『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる 』
この随想程、今日の様な麗かな春の朝を美しく表現するものはないだろう。
眠気も取れて、さっぱりとした気分で伸びをする。
いつもより2時間ばかり早く起きてしまった為、部屋でゆっくりと本でも読もうと思い孫廂を歩いていた。
すると何処からか霞の様に微かだが、良い香りが漂っている。
私はその香りに惹かれてその香りのする部屋を覗いた。
するとそこには香果さんが優美に座っている。
いくつかの小さな茶碗の様なのもには灰が山の様に盛られていた。
茶碗には風流な草木が描かれえいる。
「おや。おはよう八雲君」
「おはよう、香果さん」
香果さんは私に気付くといつもの様に優しく微笑んだ。
そして「こちらにおいで」と手招きした。
「香果さん早いね。今5時だよ」
「歳をとると早起きになってしまってね」
彼は微笑んだ口に手を添える。
「歳って…」
私が見た限りではまだ20代後半だろう。
「歳をとった」なんて言う歳ではない筈だ。
それよりも香果さんが何をしているかが気になってしまっていた。
「香果さん、何をしてるの」
「これから香を聞こうと思ってね。八雲君も聞いてみるかい?」
「香を聞く?」
「嗚呼。香木と云う香りを出す木を焚いてその香りを楽しむ遊びだよ。何しろ私の朝の日課でね」
「やってみたいけど、何か難しそう……」
「そうでもないのだよ。作法とかは色々あるけど、とりあえずそう言ったものを気にしないでやってみてはどうかい?」
「それなら僕にも出来そう」
「では始めようか」
香果さんは灰の山に美しい線の模様を描く。
小さな編みの様な物を乗せるとその上に小さく切られた木のチップを載せた。
「この茶碗の様な器を香炉と云うのだよ」
彼は香炉を手に持ち私に丁寧に実践しながら香の聞き方を教えてくれる。
「この香炉を左手でしっかりともって右手で覆いをする。人差し指と親指の間から香を聞くのだよ」
香果さんは優雅に香炉を回して、手を被せて香りを楽しんでいる。
私も香果さんの見様見真似で香炉をしっかりと左手で持ち、ゆっくりと回して香りを嗅ぐ。
すると何とも言えない香りが鼻を抜ける。
「何だろう。上手く言えないんだけど、甘いけど苦くて、でも酸っぱい様な不思議な香りだね」
「八雲君、しっかりと香りが聞けているね。もっと力を抜いても良いのだよ」
そう言われたので、もっと肩の力を抜いて、もう一度香炉の香りを聞いた。
先程よりゆっくりと自然に私の心に香りが届く。
繊細で幾重にも香りが重なった不思議な香りが私の心を落ち着かせる。
琴線に触れる、きっとこう云う事を言うのだろう。
「なんだか落ち着くね」
「そうだね。朝ゆっくりと香を聞く。私にはとても幸せなのだよ」
流石は雅人、香果さんらしい。
ゆっくりとした時の中で繊細で幽玄な香りを聞く。
それだけだが現代を生きる私にも余裕と美妙な幸福を得られる様な気がした。
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