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第3章最弱魔王は修学旅行で頑張るそうです
第91話繋がれた想い
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我を忘れ、ただひたすらに泣き続けるペレン。暴走を制御する術もなければ、しようとする者もいない――。
爆発は“大広間”の中だけでなく、外でも起こり始める。盛大な爆発音。どこかが爆発し、側にある研究に使用する機械も爆発する。爆発した場所から火が立ち上ぼり、温度が上昇する。
「うぅ・・・っ。わ、私の腕がぁぁぁ・・・!」
目前で起こった爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされたガフェタ。気がつくと左腕を失くしていた。
痛い・・・痛い・・・痛い――
研究しても知ることのない痛みがガフェタを襲う。抑えても血が出るのは止まらない。
「こ、これが・・・実験の結果――」
サタンは息を飲む。血だまりになって倒れているペント。ただ、我を忘れ、全てを壊す勢いで泣き続けているペレン。左腕を失くして、床をのたうち回るガフェタ。その光景を見つめ、何もすることが出来ない。
「サタンさんっ!」
アズラに突然突き飛ばされるサタン。顔を上げた瞬間、上から巨大な瓦礫が落ちてきた。アズラに突き飛ばされなければ、サタンは潰されていた。
「アズラ! 無事か!?」
立ち込める埃でアズラの姿が見えない。
俺は死んでも生き返る・・・けど、アズラは――
「は、はい。無事です」
咳き込みながら、瓦礫の向こうから聞こえる。サタンは一先ず、ホッと胸を撫で下ろす。
サタンは瓦礫の向こうへ行くと、アズラに礼を言う。
「助かった・・・ありがとう」
「いえ。それよりも、今は――」
「ああ・・・」
サタンとアズラの頭には、この状況をどうにかしないといけないために何が出来るか――と、それしかない。しかし、どう頭を巡らせても何も思い浮かばない。
「どうしましょう・・・このままじゃ・・・ペレンさん自身も壊れてしまいます!」
アズラは暴走するペレンを同にかしてあげたいと考えている。あれだけ可哀想な話を聞いたのだ。アズラがそう思うのも無理がない。
対して、サタンはこのままではここにいる皆が死んでしまうと考えていた。
ガフェタなんてどうでもいい。けど、アズラとペントとペレンは助けないと!
サタンは必死で考える。どの方法が一番の最善かを。
俺が三人を連れて、セーラの力を使って走れば間に合うかもしれない。アズラのワープで研究所の外に出る――これも一つの方法だ。けど――
サタンが考えた、この状況を打破する二つの案。しかし、それを行うには――
ペレンの暴走を止めないといけない・・・!
少し荒いが、魔王パンチで一撃で気を失わせるか・・・
当然、女の子を殴るなどしたくないサタン。アズラにもメルにもラエルにも――ここにいるアズラだけでなく、無事に帰れたら皆から軽蔑されるだろう。
しかし――
やらないと・・・いけないんだ!
サタンは右手に魔力を集中させる。微力の調整を繰り返す。出来るだけペレンを傷つけないために。
「アズラ・・・悪いけど、少し目を閉じていてくれ・・・」
「え――」
アズラがサタンの方を向いた時だった。
サタンは、暴走を続けるペレンに、右手を掲げながら突っ込んでいく。
だが――
「くっ・・・!」
勇猛果敢に突っ込んでいったサタンだったが、連続で起こる爆発にあっけなく元いた場所にまで弾き返され、尻餅をつく。
「サタンさん!」
アズラはサタンの背に手を当てて支える。
「大丈夫・・・怪我はない。・・・・・・けど――」
近づくことすらままならない。
だったら・・・!
サタンは右手をペレンに向けて開く。ストラスの能力を使い、理屈では説明出来ない所からオレンジ色の宝石を現そうとする。
しかし、サタンがそうしようとした前にペレンに向かって幾つもの蔦が凄まじい勢いで伸びてきた。
サタンとアズラは蔦が伸びてきた方へ、目線を送る。そこには、失った左腕を蔦で代用したガフェタが立っていた。目を赤く充血させ、息を荒げながら蔦を伸ばしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・け、研究は失敗・・・早急に処分しなければこの研究所までが壊れてしまう・・・!」
ガフェタもまたこの状況をどうにかしたかったのだ。彼には彼なりの理由がある。
(この際、片腕などいらない・・・オンドラマナ様と過ごしたこの場所だけは――)
「私が守ってみせる!」
しかし、その理由もことごとく、壊されていく。どれだけの量の蔦を伸ばしても、必ずペレンの前で爆散する。まるで、爆発・・・という行為事態が意思をもっているような――
と、そこでサタンはあることに気づいた。それは――
ペントの周りだけが不思議と爆発が起こっていない・・・まだ、少しだけ意識が残っているのか・・・? それなら――
「おい・・・ペント・・・! いつまでそこで寝てんだよ・・・!」
サタンは死んだはずのペントに向かって叫ぶ。
「さ、サタンさん・・・彼はもう――」
「いいや、まだだ」
サタンを止めようとするアズラに、首を横に振り、断りをいれる。
「まだ、伝えたいことがあるんだろ・・・!? だったら、そんな所で寝てないで――起きろよ! ペント――」
サタンは呼び続けた。もうペレンを止められるのはペントしかいない。起きろ。起きて見ろ。悲しませないと決めたんだろ――っ。
(ああ・・・これが、死んだってことなのか・・・―――)
ペントは眩い輝きの中、一人ポツンと立っていた。どうしてこうなったかはちゃんと覚えている。
(俺はまた、ペレンちゃんを――)
守れなかった。
助けられなかった。
何も出来なかった。
いつもそう。誰かに手を差し伸ばしても届かない。やっぱり、弱ければ何も出来ない。
「ま・・・もう死んじゃったしな・・・」
ペントが向こうを見ると、四つの人影が見えた。自然とその人影に惹きつけられる。
近づいてその人影が誰なのか分かった。
「お母さん・・・ティーガ・・・ドグマ・・・」
そして、最後の一つだけは誰なのか分からなかった。
「ああ・・・やっと、俺もゆっくり出来る・・・」
ペントはその人影の仲間にいれてもらおうと歩いていく。
しかし、どれだけ歩いても人影には近づけない。
「どうなってるんだよ・・・近づいても遠退いていくって・・・」
すると、人影は一斉に指を指した。指した方向はペント――の、さらに奥。
「なんだよ・・・まだ、俺に何かやらせる――」
ペントはもう疲れていたが、これが最後だと思って指された方向へ向く。
そこには、まるで昔の自分と同じの泣き虫な女の子が見えた。
(ペレンちゃん・・・)
泣いている女の子が誰なのかひとめで分かった。分からないはずがない。
「俺が行かないと・・・けど――」
ペントは死んでいる。もう、ペレンの元へは行けない・・・。
しかし、そう思ているのはペントだけ。
ペントは突然、後ろから優しくふわっと押され、一歩前へと踏み出す。
急いで後ろを振り向くと、また遠退いていく人影。全ての人影は手で虫を追っ払うような仕草をしながら遠ざかっていく。
(まだ俺には来るな――って事か・・・)
ペントは軽く唇を緩ませると――
「今、行くから・・・待ってて――」
もう一度。あと一度だけ。もう、死んだんだ。怖いものなんてない。
ペントは輝きの中をペレンに向かって走り出す。
「一番怖いのはペレンちゃんがこのままどうにかなる事だ――!」
ペントは手を伸ばす――今度こそ約束を守るため。伝えなければならない事を伝えるために――。
◇
名前を呼べど、返事はこない。目覚める気配もない。暴走が止まる様子もない。
ここまで、か・・・
サタンは全てを諦めた。諦めたくなかったが諦めるしかなかった。このままでは、自分達の身も危ない。時間も既に朝になりかけている頃――
「アズラ・・・もう、逃げよう・・・ここにいたら俺達も――」
諦め、逃げるしかない選択。言いかけた時だった――
「ペ・・・レン・・・ちゃん――」
ズズッ・・・ズルズル――と、地を這いずって、手を伸ばす。あと少し・・・あと少しで――
「あぁぁぁぁああああ――」
落ちてくる涙を手ですくう。
「ペレン、ちゃん・・・! 泣かないで・・・っ!」
顔を上げて見上げる。聞こえていないのか、泣き止む気配はない。
ペントの声は、ペレンの泣き声にかき消され、届かない。
(だったら・・・)
穴があいた体を起こし、ペレンを抱きしめ耳元で名前を呼ぶ。
「ペレンちゃん・・・ペレンちゃん・・・!」
声を聞いてほしい。もう、泣くのを止めてほしい。これからはずっと笑っていてほしい――
「うあぁぁぁぁぁあああ!!」
「ペレンちゃん――っ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ――」
「っ・・・ペレン――ッ!」
したことがなかった呼び捨てをし、もう一度強くペレンを抱きしめる。お願いだから、聞いて――
心の奥底――誰にでもある闇の部分。その奥底へ深く、深く沈んでいくペレン。
もう、戻ることが出来ない・・・。壊れてしまった。壊してしまった。自分とペントを。
もう生きていても意味がない。どうせなら、全て壊して終わらせる――それが、私のせめてもの償い。
目を閉じて、どんどん沈んでいく中、あと一度だけと伸ばした光が射し込んでくる。
ペレンちゃん――と、聞こえるはずがない声がする。うっすらと目を開ける。すると、光はゆっくりと迷うことなく射し伸びてくる。
光はペレンを優しく包んでいく――
(暖かい・・・)
「うあぁ・・・ぁぁぁぁぁ・・・ああ――」
ゆっくりと収まっていくペレンの暴走。ペントの呼び掛けが届いたのかどうかは誰にも分からない。しかし、きっと届いたことだろう。想い合った二人の心が重なり――
「ペント、君・・・」
「ペレンちゃんっ!」
ペレンは未だ、泣いている。しかし、爆発は起こらない。一体何があったのかを分からず、ペントに抱きしめられたまま突っ立っている。
「どうして・・・? ペント君は私のために、こんなにも・・・?」
「なんでって・・・そんなのペレンちゃんが大事に決まってるからだよ」
「・・・・・・っ! でもっ、君は・・・っ――ペント君は一回死んじゃったんだよ!? なのに――」
「大丈夫・・・! 何となくだけど分かったんだ。多分、俺はペレンちゃんが泣き止むまで死ぬに死ねないみたい・・・」
「私、そんなメンドクサイ女じゃないよ・・・!」
どこからともなく二人に襲いかかる蔦。しかし、それは目に見えない何かに阻まれる。
「あいつ、まだ・・・!」
ガフェタはやけくそに二人を始末しようと蔦を伸ばしたのだ。
「サタンさん! 私達でやっちゃいましょう!」
いきなり強気になるアズラ。悪魔が言うと恐ろしく聞こえる。・・・が、アズラの言う通り。
「アズラが言うとなんだか怖いな・・・けど、やるか!」
「はい! あんないい感じのお二人を邪魔するなんて許せません!」
サタンとアズラはガフェタの方を向く。サタンは右手に魔力を込める。アズラはキッとガフェタを睨むだけ。
・・・あれ? アズラ何もしなくない――?
「やっちゃって下さい! サタンさん!」
「お、オオ!」
とにかく、そんなことはどうでもいい。今はガフェタを――。
「待って!」
ガフェタに突っ込もうとしたサタンをペントが止める。
「そいつだけは――俺が倒す!」
「何言って・・・お前の体はもう――」
そして、サタンはハッと気づいた。
「ペレンちゃん・・・ほんとの最後だから。ちょっとだけ待っててね・・・」
笑いかけながらペレンの目についた大粒の涙を人さし指ですくう。
「・・・チィ――ッ」
ガフェタはペントとペレンを睨む。そして、サタン同様にあることに気づく。ペントの身体中に出来た傷が再生していることに。
「ペ、ント君・・・?」
ペントに起きている異常事態にペレンも驚きを隠せない。
「何故だ・・・!? どういう事だ!? 何故、傷が治っている!?」
ペントの体の周りを、血が渦を巻くように回転する。先ほどのガフェタの蔦を弾いたのもこの謎の血。
ようやく・・・分かった気がする。これは、皆から繋がれた想いの結晶。ペントはガフェタを睨むと――
「この力は皆の想いだ! 皆の想いが俺に力をくれる!」
「皆の想い、だとぉ・・・そんなものが一体何に――」
言いかけてガフェタはハッと思い出した。ガドレアルから伝えられた7年前のとある少年の話を――
『ペレンの爆発に巻きこまれた者は全て死んだ・・・ある一人を除いてな。そいつは運が良かったのか、巻きこまれたはずなのに無傷だったのだ――』
「分かった・・・元々弱いわけではなかった・・・まだ、ちゃんと能力に目覚めていなかったということか・・・!」
身体が熱い。全身の血が沸騰して、まるで『頑張れ、頑張れ』って言われてるみたいだ・・・!
ペントの周りを渦巻く血はさらに濃くなり蒸発する。
「血継《ブラッディ・キュード》!!!」
あの輝きの中の分からなかった人影。あれは多分、知らなくて見たこともないお父さん・・・。だけど――お母さんと一緒に背中を押してくれた。
ティーガとドグマは俺の無茶につき合わなかったら死んだりすることもなかった。それなのに――背中を押してくれた。皆は死んでもまだ俺を信じていてくれている。
(お母さん、お父さん、ティーガ、ドグマ・・・俺に力を貸してくれ!)
「皆の想いを受け継いだから――俺が終わらせるんだ!」
爆発は“大広間”の中だけでなく、外でも起こり始める。盛大な爆発音。どこかが爆発し、側にある研究に使用する機械も爆発する。爆発した場所から火が立ち上ぼり、温度が上昇する。
「うぅ・・・っ。わ、私の腕がぁぁぁ・・・!」
目前で起こった爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされたガフェタ。気がつくと左腕を失くしていた。
痛い・・・痛い・・・痛い――
研究しても知ることのない痛みがガフェタを襲う。抑えても血が出るのは止まらない。
「こ、これが・・・実験の結果――」
サタンは息を飲む。血だまりになって倒れているペント。ただ、我を忘れ、全てを壊す勢いで泣き続けているペレン。左腕を失くして、床をのたうち回るガフェタ。その光景を見つめ、何もすることが出来ない。
「サタンさんっ!」
アズラに突然突き飛ばされるサタン。顔を上げた瞬間、上から巨大な瓦礫が落ちてきた。アズラに突き飛ばされなければ、サタンは潰されていた。
「アズラ! 無事か!?」
立ち込める埃でアズラの姿が見えない。
俺は死んでも生き返る・・・けど、アズラは――
「は、はい。無事です」
咳き込みながら、瓦礫の向こうから聞こえる。サタンは一先ず、ホッと胸を撫で下ろす。
サタンは瓦礫の向こうへ行くと、アズラに礼を言う。
「助かった・・・ありがとう」
「いえ。それよりも、今は――」
「ああ・・・」
サタンとアズラの頭には、この状況をどうにかしないといけないために何が出来るか――と、それしかない。しかし、どう頭を巡らせても何も思い浮かばない。
「どうしましょう・・・このままじゃ・・・ペレンさん自身も壊れてしまいます!」
アズラは暴走するペレンを同にかしてあげたいと考えている。あれだけ可哀想な話を聞いたのだ。アズラがそう思うのも無理がない。
対して、サタンはこのままではここにいる皆が死んでしまうと考えていた。
ガフェタなんてどうでもいい。けど、アズラとペントとペレンは助けないと!
サタンは必死で考える。どの方法が一番の最善かを。
俺が三人を連れて、セーラの力を使って走れば間に合うかもしれない。アズラのワープで研究所の外に出る――これも一つの方法だ。けど――
サタンが考えた、この状況を打破する二つの案。しかし、それを行うには――
ペレンの暴走を止めないといけない・・・!
少し荒いが、魔王パンチで一撃で気を失わせるか・・・
当然、女の子を殴るなどしたくないサタン。アズラにもメルにもラエルにも――ここにいるアズラだけでなく、無事に帰れたら皆から軽蔑されるだろう。
しかし――
やらないと・・・いけないんだ!
サタンは右手に魔力を集中させる。微力の調整を繰り返す。出来るだけペレンを傷つけないために。
「アズラ・・・悪いけど、少し目を閉じていてくれ・・・」
「え――」
アズラがサタンの方を向いた時だった。
サタンは、暴走を続けるペレンに、右手を掲げながら突っ込んでいく。
だが――
「くっ・・・!」
勇猛果敢に突っ込んでいったサタンだったが、連続で起こる爆発にあっけなく元いた場所にまで弾き返され、尻餅をつく。
「サタンさん!」
アズラはサタンの背に手を当てて支える。
「大丈夫・・・怪我はない。・・・・・・けど――」
近づくことすらままならない。
だったら・・・!
サタンは右手をペレンに向けて開く。ストラスの能力を使い、理屈では説明出来ない所からオレンジ色の宝石を現そうとする。
しかし、サタンがそうしようとした前にペレンに向かって幾つもの蔦が凄まじい勢いで伸びてきた。
サタンとアズラは蔦が伸びてきた方へ、目線を送る。そこには、失った左腕を蔦で代用したガフェタが立っていた。目を赤く充血させ、息を荒げながら蔦を伸ばしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・け、研究は失敗・・・早急に処分しなければこの研究所までが壊れてしまう・・・!」
ガフェタもまたこの状況をどうにかしたかったのだ。彼には彼なりの理由がある。
(この際、片腕などいらない・・・オンドラマナ様と過ごしたこの場所だけは――)
「私が守ってみせる!」
しかし、その理由もことごとく、壊されていく。どれだけの量の蔦を伸ばしても、必ずペレンの前で爆散する。まるで、爆発・・・という行為事態が意思をもっているような――
と、そこでサタンはあることに気づいた。それは――
ペントの周りだけが不思議と爆発が起こっていない・・・まだ、少しだけ意識が残っているのか・・・? それなら――
「おい・・・ペント・・・! いつまでそこで寝てんだよ・・・!」
サタンは死んだはずのペントに向かって叫ぶ。
「さ、サタンさん・・・彼はもう――」
「いいや、まだだ」
サタンを止めようとするアズラに、首を横に振り、断りをいれる。
「まだ、伝えたいことがあるんだろ・・・!? だったら、そんな所で寝てないで――起きろよ! ペント――」
サタンは呼び続けた。もうペレンを止められるのはペントしかいない。起きろ。起きて見ろ。悲しませないと決めたんだろ――っ。
(ああ・・・これが、死んだってことなのか・・・―――)
ペントは眩い輝きの中、一人ポツンと立っていた。どうしてこうなったかはちゃんと覚えている。
(俺はまた、ペレンちゃんを――)
守れなかった。
助けられなかった。
何も出来なかった。
いつもそう。誰かに手を差し伸ばしても届かない。やっぱり、弱ければ何も出来ない。
「ま・・・もう死んじゃったしな・・・」
ペントが向こうを見ると、四つの人影が見えた。自然とその人影に惹きつけられる。
近づいてその人影が誰なのか分かった。
「お母さん・・・ティーガ・・・ドグマ・・・」
そして、最後の一つだけは誰なのか分からなかった。
「ああ・・・やっと、俺もゆっくり出来る・・・」
ペントはその人影の仲間にいれてもらおうと歩いていく。
しかし、どれだけ歩いても人影には近づけない。
「どうなってるんだよ・・・近づいても遠退いていくって・・・」
すると、人影は一斉に指を指した。指した方向はペント――の、さらに奥。
「なんだよ・・・まだ、俺に何かやらせる――」
ペントはもう疲れていたが、これが最後だと思って指された方向へ向く。
そこには、まるで昔の自分と同じの泣き虫な女の子が見えた。
(ペレンちゃん・・・)
泣いている女の子が誰なのかひとめで分かった。分からないはずがない。
「俺が行かないと・・・けど――」
ペントは死んでいる。もう、ペレンの元へは行けない・・・。
しかし、そう思ているのはペントだけ。
ペントは突然、後ろから優しくふわっと押され、一歩前へと踏み出す。
急いで後ろを振り向くと、また遠退いていく人影。全ての人影は手で虫を追っ払うような仕草をしながら遠ざかっていく。
(まだ俺には来るな――って事か・・・)
ペントは軽く唇を緩ませると――
「今、行くから・・・待ってて――」
もう一度。あと一度だけ。もう、死んだんだ。怖いものなんてない。
ペントは輝きの中をペレンに向かって走り出す。
「一番怖いのはペレンちゃんがこのままどうにかなる事だ――!」
ペントは手を伸ばす――今度こそ約束を守るため。伝えなければならない事を伝えるために――。
◇
名前を呼べど、返事はこない。目覚める気配もない。暴走が止まる様子もない。
ここまで、か・・・
サタンは全てを諦めた。諦めたくなかったが諦めるしかなかった。このままでは、自分達の身も危ない。時間も既に朝になりかけている頃――
「アズラ・・・もう、逃げよう・・・ここにいたら俺達も――」
諦め、逃げるしかない選択。言いかけた時だった――
「ペ・・・レン・・・ちゃん――」
ズズッ・・・ズルズル――と、地を這いずって、手を伸ばす。あと少し・・・あと少しで――
「あぁぁぁぁああああ――」
落ちてくる涙を手ですくう。
「ペレン、ちゃん・・・! 泣かないで・・・っ!」
顔を上げて見上げる。聞こえていないのか、泣き止む気配はない。
ペントの声は、ペレンの泣き声にかき消され、届かない。
(だったら・・・)
穴があいた体を起こし、ペレンを抱きしめ耳元で名前を呼ぶ。
「ペレンちゃん・・・ペレンちゃん・・・!」
声を聞いてほしい。もう、泣くのを止めてほしい。これからはずっと笑っていてほしい――
「うあぁぁぁぁぁあああ!!」
「ペレンちゃん――っ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ――」
「っ・・・ペレン――ッ!」
したことがなかった呼び捨てをし、もう一度強くペレンを抱きしめる。お願いだから、聞いて――
心の奥底――誰にでもある闇の部分。その奥底へ深く、深く沈んでいくペレン。
もう、戻ることが出来ない・・・。壊れてしまった。壊してしまった。自分とペントを。
もう生きていても意味がない。どうせなら、全て壊して終わらせる――それが、私のせめてもの償い。
目を閉じて、どんどん沈んでいく中、あと一度だけと伸ばした光が射し込んでくる。
ペレンちゃん――と、聞こえるはずがない声がする。うっすらと目を開ける。すると、光はゆっくりと迷うことなく射し伸びてくる。
光はペレンを優しく包んでいく――
(暖かい・・・)
「うあぁ・・・ぁぁぁぁぁ・・・ああ――」
ゆっくりと収まっていくペレンの暴走。ペントの呼び掛けが届いたのかどうかは誰にも分からない。しかし、きっと届いたことだろう。想い合った二人の心が重なり――
「ペント、君・・・」
「ペレンちゃんっ!」
ペレンは未だ、泣いている。しかし、爆発は起こらない。一体何があったのかを分からず、ペントに抱きしめられたまま突っ立っている。
「どうして・・・? ペント君は私のために、こんなにも・・・?」
「なんでって・・・そんなのペレンちゃんが大事に決まってるからだよ」
「・・・・・・っ! でもっ、君は・・・っ――ペント君は一回死んじゃったんだよ!? なのに――」
「大丈夫・・・! 何となくだけど分かったんだ。多分、俺はペレンちゃんが泣き止むまで死ぬに死ねないみたい・・・」
「私、そんなメンドクサイ女じゃないよ・・・!」
どこからともなく二人に襲いかかる蔦。しかし、それは目に見えない何かに阻まれる。
「あいつ、まだ・・・!」
ガフェタはやけくそに二人を始末しようと蔦を伸ばしたのだ。
「サタンさん! 私達でやっちゃいましょう!」
いきなり強気になるアズラ。悪魔が言うと恐ろしく聞こえる。・・・が、アズラの言う通り。
「アズラが言うとなんだか怖いな・・・けど、やるか!」
「はい! あんないい感じのお二人を邪魔するなんて許せません!」
サタンとアズラはガフェタの方を向く。サタンは右手に魔力を込める。アズラはキッとガフェタを睨むだけ。
・・・あれ? アズラ何もしなくない――?
「やっちゃって下さい! サタンさん!」
「お、オオ!」
とにかく、そんなことはどうでもいい。今はガフェタを――。
「待って!」
ガフェタに突っ込もうとしたサタンをペントが止める。
「そいつだけは――俺が倒す!」
「何言って・・・お前の体はもう――」
そして、サタンはハッと気づいた。
「ペレンちゃん・・・ほんとの最後だから。ちょっとだけ待っててね・・・」
笑いかけながらペレンの目についた大粒の涙を人さし指ですくう。
「・・・チィ――ッ」
ガフェタはペントとペレンを睨む。そして、サタン同様にあることに気づく。ペントの身体中に出来た傷が再生していることに。
「ペ、ント君・・・?」
ペントに起きている異常事態にペレンも驚きを隠せない。
「何故だ・・・!? どういう事だ!? 何故、傷が治っている!?」
ペントの体の周りを、血が渦を巻くように回転する。先ほどのガフェタの蔦を弾いたのもこの謎の血。
ようやく・・・分かった気がする。これは、皆から繋がれた想いの結晶。ペントはガフェタを睨むと――
「この力は皆の想いだ! 皆の想いが俺に力をくれる!」
「皆の想い、だとぉ・・・そんなものが一体何に――」
言いかけてガフェタはハッと思い出した。ガドレアルから伝えられた7年前のとある少年の話を――
『ペレンの爆発に巻きこまれた者は全て死んだ・・・ある一人を除いてな。そいつは運が良かったのか、巻きこまれたはずなのに無傷だったのだ――』
「分かった・・・元々弱いわけではなかった・・・まだ、ちゃんと能力に目覚めていなかったということか・・・!」
身体が熱い。全身の血が沸騰して、まるで『頑張れ、頑張れ』って言われてるみたいだ・・・!
ペントの周りを渦巻く血はさらに濃くなり蒸発する。
「血継《ブラッディ・キュード》!!!」
あの輝きの中の分からなかった人影。あれは多分、知らなくて見たこともないお父さん・・・。だけど――お母さんと一緒に背中を押してくれた。
ティーガとドグマは俺の無茶につき合わなかったら死んだりすることもなかった。それなのに――背中を押してくれた。皆は死んでもまだ俺を信じていてくれている。
(お母さん、お父さん、ティーガ、ドグマ・・・俺に力を貸してくれ!)
「皆の想いを受け継いだから――俺が終わらせるんだ!」
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微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
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