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第3章最弱魔王は修学旅行で頑張るそうです

第92話失ったから出来た

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「どうして…そこまで、ただ一人のためにそこまで出来る…? そいつはお前の大切な者を奪っただけでなくお前自身も一度殺されているんだぞ」

 ガフェタはようやく全てを理解した。7年前、ガフェタ自身もあの場にいたのだ。まだ、研究者として見習いだったガフェタは研修として王城の一員として遣わされていた。

 そして、見ていたのだ。ペレンが泣きながら沢山の命を奪っていく姿を。泣いていた少年も確かに爆発でボロボロにしていた事を。

 あの時――ガドレアル様が言っていた無傷の少年とはペントのこと……どうして忘れていた!? 時間が空いていたからか!? とにかく、一度確実に死んだペントはあの謎の能力で無傷で寝ていただけという事だ!


 ペレンはガフェタの言葉を聞いて、また泣きそうになる。

(私がペント君の母親だけでなく、ペント君自身も殺していたなんて……!)

「ごめっ……ごめんね――っ!」


 もう…何を聞いてもあまり驚かない。生きてきた中で、衝撃は十分な程、沢山聞かされたし実感させられた。だから――

「そんなの関係ない……っ! ペレンちゃんが俺を殺していても、お母さんを殺していたとしても……もうどうでもいい!」

「何故、そう言い切れる?」

「ペレンちゃんが今の俺の大切な人だからだ! あの日、全てを失ったから出来た今の大切な人……」

 ペントの身体から出血していて、既に固まっていた血が動き出す。真新しい血と、古い血が混じり合い、一つの赤い剣となってペントの右手に現れる。〈血剣《ブラッズ・ソード》〉

「だから――お前みたいな奴に何度もペレンちゃんを泣かされたらムカつくんだよっ!」

〈血剣〉の剣尖をガフェタに向けながら言い睨む。

「ムカつく……? 意味が分からないな。全ては爆発という脅威な能力をもって生れた運命だろ?」

 床から今までにない大量の蔦が伸び出づる。数十本の蔦はガフェタの失った左腕とくっつき、合体するように離れず、即席の義手となる。そして、左腕をペントの方へ向け、一斉に全ての蔦が襲いかかる。

 いよいよ、決着の時――

「だから、なんで分からねぇかな……好きな女の子の泣いてる顔なんて見たくないってことだからだよ!!」

 ペントは向かってくる蔦に〈血剣〉一つで飛び込んでいく。


「キャァーーーー!! 聞きました!? 聞きましたか、サタンさんっ!? 言いました! 言いましたよ、『好き』って……キャァーーーー!!!」

 何故、アズラがここまでサタンの腕に抱きつきながらテンションを上げてキャァキャァ言っているのか、サタンにはよく分からなかったが――

「と、とりあえず落ち着け。まだ、終わってもいないんだからな」

 一先ず、アズラを落ち着かせる。

 このまま、腕に胸が当たったままだと、いざというときに何も出来そうになかったら困るしな……

「そ、そうですね!」

 アズラはサタンに言われると、上がったテンションを下げ、サタンの腕から離れる。そして、ペントを見ているサタンの隣にスススっと小さく寄り添った。心臓をドキドキとさせながら――

(いつか、私もサタンさんに――)

 と、思いながら。


 はしゃぐアズラと冷静なサタン……その一方で『好き』と言われた当の本人――ペレンは膝をつきながら、茹で上がったみたいに顔を真っ赤にさせ、口をパクパクと動かせていた。

(す、すす、すすす……好きっ!? だ、誰が!? ペント君が私をっ!?)

 誰が、誰を――という事を考えて、頭から湯気を放出しながらクラクラになる。

(……思えば、いつもペント君は私を一番に考えてくれて……それに、私もペント君のことばかり考えてて……)

 いつの間にか、自分の中をペントが満たしていたことを改めて感じる。恥ずかしい……けど、それ以上に嬉しい。

 ペレンは自分の気持ちが分かると胸の前で手をキュット握り――

「ペント君頑張って……!」


「オォアアァァアア!」

 ペントは眼前の蔦を〈血剣〉で斬って、斬って、斬りまくる。〈血剣〉は斬り続ける度に、鮮度が落ちていくが、すぐに新しく出来た傷から溢れた血がくっつき、原型を崩さない。

「死ね! 死ね! 消えろ!」

 ガフェタは即席で作った義手を突き出しながらペントへ突進する。数本の蔦がガフェタの左右を飛ぶ。

「死なない! 消えない!」

 ペントの〈血剣〉とガフェタの義手がぶつかる。義手となった蔦を斬る。しかし、すぐさま再生し、再び元の戻ってしまう。

 ペントが義手を斬るのに対し、ガフェタは再生した義手でペントを掴もうと腕を伸ばす。

「く……」

 さらに、義手だけでなく、ガフェタの左右を飛ぶ蔦も襲いかかってき、ペントはなかなか致命的な一撃を与えられない。

「こっちばかり気にしてていいのか?」

 口を不気味に嗤わせるガフェタ。

「なに……っ、ペレンちゃん!」

 蔦から無数の棘だけが器用に飛び抜け、ペレンへと襲いかかる。ペントはガフェタの腹部を蹴り、急いでペレンの所まで戻ろうとする。

 しかし――

「どこへ行く?」

 ペントの足を蔦が縛りつけ動かそうとしない。

「離せっ!」

〈血剣〉で足を縛った蔦を斬るも、次々と絡みつき、時間がかかる。

(このままじゃペレンちゃんが……!)

 今のペレンに棘から身を守る術などない。……いや、今……とかそういう事ではない。元からペレンにはそんな力ありはしない。勝手に爆発の能力が発動しただけでか弱い女の子なのだ。
 それ故、ペレンは目を瞑った。しかし、次の瞬間――寸前にまで迫った棘が爆散する。

 ペントとペレン、ガフェタの三人は何が起こったのか分からない。またも、ペレンの能力が発動したのかと思うペント。しかし、当の本人も驚いた様子をしている。

 一先ず、ペレンではないことに安堵するペントだが、ならば一体誰が――と思う。

「ペントォーー!」

「サタン!?」

「こっちは任せろ! だから、お前はそっちに専念しろ!」

「なに、言って……」

 サタンの言っていることが分からない。と、思っているその時――

「立てますか、ペレンさん?」

 煙に紛れてやって来ていたアズラがペレンに手を差し出す。

「は、はい…」

 訳が分かっていないペレンは差し出された手を取って立つ。

「じゃあ、あちらに向かうので足が痛かったら言って下さいね」

 アズラはそう言ってペレンの手を優しく引いて、負荷がかからないように気を配りながらサタンの所へと連れていく。

「させるか!」

 即座にアズラとペレンに向けて、先程と同様に蔦の棘をとばすガフェタ。二人に襲いかかる棘だが、アズラは避ける素振りをしなければ急ごうともしない。自分達には当たらないと知っているからだ。

 すると、小さい――何かの破片らしきオレンジ色をした物がとんでき、棘とぶつかり爆散する。

「タイミングばっちりです、サタンさん!」

 アズラの言葉を聞いてペント、ペレン、ガフェタの三人はサタンの方を見る。そこには、何かを殴ったようなポーズをしているサタンが見えた。

 サタンは“蛇の悪魔・アンドロマリウス”の能力〈千里眼〉で棘の位置を正確に見極め、“梟の悪魔・ストラス”の能力〈宝石の星〉を使用した。理屈では説明出来ない――空間から、大きなオレンジ色の宝石を一つ出し、魔王パンチで殴り壊してとばしたのだ。

(なるほど。そういう事か……だったら――)


「ペレンさんはお疲れでしょうから座ってて下さい」

 アズラはペレンを連れて戻ると、座らせた。

「あ、の……あなた達がアズラさんとサタンさん……ですか?」

 ペレンは腰を下ろしながら二人の顔を見る。名前だけはペントが言っていたので覚えていた。

「はい! 私がアズラで、こちらがサタンさんです!」

 アズラが笑いかけながら答えていると――

「サタン、アズラ! ペレンちゃんを頼むぞ……!」

 ペントからペレンの事を任される。

「任せろ――」

 サタンとアズラは共にペレンの前に立つ。絶対に傷一つ負わせない――っ!

「必ず俺が――」
「私が――」

「守ってみせる!」
「守ってみせます!」

 サタンとアズラは同じタイミングで掌に拳をぶつけると強く言い切った。

 ああ、頼もしいな……ペントは小さく唇をゆるませると、足を縛っている蔦を連続で斬り、ガフェタを睨み――

「こっからが最終戦だ――!」

 一歩を踏み出して〈血剣〉を横に振り、ガフェタの腹部に一閃を斬り込む。

「っぅぅぅ……!」

 しかし、ガフェタの傷は浅く、少しの血が流れただけ。

「どいつもこいつも……勝手にしやがって……うざったいんだよ!」

 幸いの傷の浅さなのに、ガフェタの腹部から蔦が伸び、自ら傷を広げていく。体を半反りながら腹部から出た蔦がペントを襲う。

 ペントは後ろへジャンプし回避する。

「気持ち悪ぃ……」

「アッヒャヒャヒャヒャ……潰す、潰す潰す! 全員突き刺してやる!」

 ガフェタの気持ち悪い姿に、唾を飲む。と、四方八方から一斉に蔦がペントに向かって襲いかかる。

 しかし――

(今の俺は負ける気がしない!)

 ペントは体内の血液の巡りを感じる。足に流れる血液に力を――脚力を上げてくれ。

 ペントは襲いかかる蔦を上へ跳び、交わす。そして、着地したと同時にガフェタに向かって足を踏み出す。まるで、空を飛んでいるような感覚になるがただのジャンプ。しかし、蔦を交わしながら斜め上へと跳び上がる。

『ペントーー俺を倒したセコい技だけどな……あれは、お前の一撃必殺の技だ。だから、使える時がくれば迷わず武器を投げつけろ。必ず相手は不意を突かれるはずだからな――』

(分かってるよ……ガフェタ)

 下へ目をやると丁度対角線にガフェタがいる。ここだ、このタイミングだ――と、〈血剣〉を投げつけようとする。

 瞬間、下から蔦が伸びてくる。空中で交わすことなど出来ず、グサグサと突き刺さる。

「死ね……!」

 その光景を見ていたペレンは息を飲みながら叫びそうになる。

 しかし、ペントから飛び出た血が〈血剣〉に吸収されていく。

(よく分かんねーが痛くない……!)

 飛び出た血が全て吸収され、大剣へと姿を変える。

「今だ!」

 そして、ペントは大剣へとなった〈血剣〉を投げつけた。縦に回転しながら勢いをつけていく。

「なにっ!?」

「イッケェーーー!」

「クッ……」

 ガフェタは体を反らし〈血剣〉を交わす。〈血剣〉はガフェタの体すれすれを通り過ぎ、床に突き刺さった。

「……ふ、は、はは、ハハハハ。残念だったな。私には当たっていない!」

 高らかな笑いを上げ、左腕をペントに向ける。掌から尖端が鋭く丸い蔦が出てくる。

「これで終いだ」

「……いいや、終わるのはお前だ!」

 ペントは笑いながら右肩をおもいきり後ろへ引く。指の先を伝って流れていた血が反応し〈血剣〉を床から引き抜く。そして、引き抜かれた〈血剣〉はペントの元へ戻ろうとし、そのまま後ろからガフェタに突き刺さった。
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