私と母のサバイバル

だましだまし

文字の大きさ
上 下
2 / 17

2 意外

しおりを挟む
しばらくは平坦な落ち葉の道が続いている。
木々が生い茂っているからか下草もあまり無く歩きやすかった。

しかし荷物が重い。特にカゴ。
お母様と一旦荷物の確認をすることにした。

カゴの覆いを取るとお母様の持つお弁当のカゴにはベーコンとレタスの挟んだバゲット、そしてその下に日持ちがしそうなハードパンとバター、ジャムがそれぞれ瓶にギッシリと詰められていた。

私の持つティータイムセットだというカゴには包丁とまな板、水たっぷりの水筒が2本、鍋にフライパン、小さく切られた干し肉の入った紙袋、木のお皿が4枚、小型のバーナーとバーナーを動かす魔石が入っていた。
うん、重いはずだ。

使用人たちは私達が森に捨てられるのを知っていたのだろう。
「皆…ありがとう…」
その優しさに涙ぐむお母様…と、私。
でも、水…重い…。

私は火と風の魔法を、お母様は水の魔法が使える。
お母様に魔法の水は飲めないのか聞いてみた。

「普通はね、飲めないの」
「やっぱりそうよね…聞かないもの…」
「でもね、お母様のは飲めるの」
え?っと顔を上げるといたずらっぽく笑ってるお母様の手が光っていた。
「まさか!」
「じゃーん♪実はお母様、光魔法が使えます!」

びっくりし過ぎて声が出ない。
光魔法は怪我を治癒出来る魔法だがとても希少だ。
魔力が豊富な高位貴族や王族にたまに現れるらしいが初めて見た。

「お母様が産まれた国でも珍しくはあったんだけどね、この国ほど珍しくなくて平民でも発現する事があるの。でもどの国でも希少な属性だし旅してると危険だから座長が隠すよう教えてくれたのよ」
「お父様にも…?」
「もちろん!だって私、ずっと逃げたかったもの。この国じゃ特に珍しい属性だからこんなの持ってるなんてバレたらもっと監視が厳しくなりそうじゃない!」

それは間違いないだろう。
光属性持ちなら今回だってお母様が巻き込まれて捨てられる事は絶対に無かったはずだ。
私の驚きを余所にお母様は話し続ける。

「でね、この光魔法って治癒だけじゃなくて浄化ってのも出来るの。毒を無毒にしたり呪いを跳ね除けたり出来ちゃう力なんだけど、魔法の水ってなんで飲めないか分かる?」
「考えた事無かったから分かんない…」
「正解はー…不純物が多くてばっちいから!」

不純物という言葉に私は首を傾げる。
他の人の術を見たことあるが澄んで見えるし植木にかけたりしていたはずだ。
「魔法って魔力と自然を組み合わせて発動するでしょ?だから水魔法の水って雨水みたいなモノなのよ。沸かせば飲めるけどそのままは良くないの」
雨水…たしかにそのまま沢山飲むのは少し抵抗がある。
「そこで光魔法♪浄化かけて水を出せばキレイな飲める水になっちゃいます!お母様、一座では踊り子としてより道中での活躍が大きかったんだから!」
意外な魔法の知識に驚く私と対象的に明るく笑うお母様。
こんな楽しそうなお母様見たの、いつぶりだろう。

「てなわけで、使用人の皆には悪いけど水だけ捨てようか。重かったわよね」


幾分か軽くなったカゴを持って更に奥へ進むと岩が増えてきた。
所々に倒れた木も見るようになり人が立ち入らない深い所まで来たのだと実感する。
そろそろ休憩しようかと言っていた時にそれは立ち塞がった。

巨石の壁だ…。

巨石と言っても私の背の倍程度。
ゴツゴツした岩肌だから登れるかもしれない。
でも片手じゃキツそう…。
それにお母様に登れるかしら?
そんな事を考える私に軽く話すお母様。
「岩に登る前に先にお昼食べちゃおっか」

登る前提だった。


日持ちがしなさそうなバゲットのサンドイッチを食べながらあたりを観察する。
少し離れた所に木が倒れているが伝い登るには苔が生えていて滑りそうだ。
岩の無い所は絶壁に近い斜面。
見えないくらい離れた所は分からないが真っ直ぐにジャメリアを目指すならお母様の言う通り登ったほうが良さそうな気がする。

「食べてるうちにお母様が知ってるこの森について話すわね」
「この森について知ってる事?」
昔別宅に囲われた時に脱走したくて隣接するこの森について調べてたらしい。

本当、今日はお母様に驚かされてばかり。
だけど気持ちはとても楽しかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...