私と母のサバイバル

だましだまし

文字の大きさ
上 下
3 / 17

3 滑落

しおりを挟む
「この森ね、この岩から先は強い魔物も出るらしいの」
シレッと恐ろしいことを言い出した。
「具体的にはアックスベアって熊の魔物とグリフォンっていう動物と鷲が混ざったような魔物よ。でもラッキーなのはゴブリンとコボルトはいないらしいの!」

ゴブリンもコボルトも冒険者になりたての者が狩る魔物で有名だ。
そんな初心者向けの魔物ならむしろ自分たちでも対処できそうではないか。
「なんでその2つが居ないのがラッキーなの?」
「どちらも好戦的でしつこいからよ」

お母様曰くゴブリンは知能こそ低いが武器も使うし卑怯で残酷な性質の為、一番厄介だそうだ。
だから生息地は気を付けなきゃいけないし討伐依頼も直ぐに出されるのだという。

コボルトは犬型なだけあって逃げても隠れてもニオイを辿ってどこまでも追いかけてくるらしい。

「この森で多いのはニードルディアっていう鹿の魔物よ。角から針を飛ばしてくるわ」
これなら私も知っている。
食用の魔物で有名だ。
「お母様、ニードルディアが多いって分かったから逃亡を諦めたの…」
「そんなに強いの!?」
メジャーな食用肉で冒険者が気軽に狩るイメージだった。怪我を治癒できるお母様が逃亡を諦めるほどなんて…。

「ニードルディアはね、そこそこ好戦的な上に素早いの。お母様の魔法は水魔法でしょ?攻撃しても中々当てられないのよ。しかも針を飛ばしてくるじゃない?コレも水じゃ上手く弾けないの。光魔法じゃ雷魔法みたいに素早く閃光とか出せないし…だから1人じゃ相性悪すぎて死ぬのよ~」
そう言って私をピッと指さす。
「てなわけで出たら頑張ってね?風魔法で針は吹き飛ばせるから♪」
ニコニコと言われたら「頑張る」としか返せない…。


食事で体力が少し回復したのか見た目以上に登りやすそうな岩に安堵しながらしがみつく。
半分近くまで登った所でお母様は大丈夫か目をやるといない。
「今カゴを受け取りに行くからねー♪」
なんと既に登りきっていた。
降りてくる様を見ているととても軽やかでステップでも踏むようにタンッタタンッと飛び降りている。
一番下まで下りると今度はトンットンッと飛ぶように足場を移動しあっという間に登ってくるではないか。
「下りる時止まれないのよ~」
そう言いながらカゴをヒョイと取り「あら、思ったより重かったのね!」とか言いながらまた登っていき…折り返してきた。
「下りて!すぐ!」
やっと私も登りきりそうだというのに鋭くそう言い下りていくお母様。

登るのを止め、疑問に思い視線を岩の上に何となくやった時にそれと目が合った。
大きな熊によく似た魔物、アックスベアだ。
熊と違い牙が鋭く出ている。
視界に入った腕から斧の様なものが生えていた。

恐怖が頭を過ぎり冷や汗がどっと出る。
大きく動揺したせいだろう。
ズルッと手が滑り、体が岩肌から離れる。
次の瞬間、バランスを崩し宙に放り出された。

周りの景色がやけにゆっくりに見え、落ちていくのを実感する。
目を見開き、私を受け止めようと身を翻すお母様が見えた。

あぁ、私、落ちて死ぬんだ。
お母様、ごめん。


頭と背に息が出来なくなるほどの衝撃を受け、私の意識は途切れた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...