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砂のセーラー服と僕、そして彼

ボーダー f beast

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これは白い部屋に、彼といた灰色の獣だ。
最高純度モス・ハイピュリティと最も長くいたあの灰色。
白と黒の混ざった灰色。
獣は誰も死なない最高の都市の、外側で生きていた。
彼もまた、死を知らなかった。
彼の記憶。







けたたましい金属音が響いた。
金物が薄汚れた高架下のアスファルトに散らばってはねた。
一匹のネズミが人混みの合間を駆け抜ける。
後を追う男と女、数人も人にぶつかり浴びせられた罵声を気にも留めずに必死の形相だ。
「舐めるな、ネズミ風情が!」
1人の女が叫び、次の瞬間猫に姿を変えた。
後ろの男はネズミに姿を変え、さらに後ろを追っていた男は舌打ちをして、怒りを滲ませ「任せた!」と怒鳴った。
追われるネズミは追手の様子を確認し、ネズミが入れる程度の排水口らしき穴を見つけて飛び込んだ。
暗く、湿った、酷い匂いの穴を駆け抜ける。
後ろ足、前足、全身の筋肉が燃えるように熱い気がした。
後ろから気配が迫る。追ってきている。
広い地下道の壁の穴につながっていたらしく、飛び降り今度は地下道を走り出す。
後ろを見ると2匹のネズミが壁の穴から飛び降りるのが見えた。
「猫がネズミになれねえわけねえだろ!馬鹿が!」
叫ぶ女の声がトンネルにこだまする。
女は再び猫に姿を変え、みるみる距離を縮めた。
ネズミは迫る猫を認識しつつ、全力で駆けた。
(もう少し…)
ネズミは賭けに出ていた。
(あと…6、5…)
猫は既にネズミに追い付いていた。ネズミは右へ左へ不規則に進路を変え、猫の爪をすんでのところで躱す。
(1…まだか!)
「うらあ!」
猫が叫びながら伸ばした腕の軌道がネズミを捕らえた。
ネズミの黒い瞳に鋭い爪が弾いた蛍光灯の光が映る。
しかし、予想に反して鈍い呻きとともに体をのけぞらせたのは猫だった。
後ろを追っていたネズミも倒れ痙攣している。
「あっぶねえ」
追われていたネズミは呟き、耳を震わせた。
目の前で苦しみ暴れる猫とその向こうのネズミを冷静に見やる。
「お…まえ」
猫が血を吐き、地面を掻き毟りながらネズミをこれ以上なく憎らしげに見た。
「なぜ…ネズミごときが…」
ネズミは猫の顔の正面に立ち、肩を竦めた。
「なぜって…じゃないからさ。大方、があったとしても猫の自分は大丈夫だと思ってたんだろ?残念だったな、このトンネルは先々週あたりから清掃強化区域だ。覚えとけよ」
猫は牙が折れそうなほど歯軋りをし、力を振り絞ってネズミに向かって爪を振り抜いた。
ネズミは涼しくそれを躱すと猫に背を向けた。
「じゃあな。後ろのネズミにもよろしく伝えといて」
そう言ってトンネルを歩き出したネズミは数メートル先で足を止めた。
「そうだ。冥土の土産ってやつにしてよ。ネズミごときじゃないならなんなのかっていうと、そうだね…」
ネズミは灰色の獣に姿を変えた。猫よりずっと大きく、大きな耳と大きな尾を持つ、狼のように見える。
「犬ごとき?かな?」
灰色の獣は控えめな笑い声を置いて、歩き去った。







レベルがある。希少なほど高い。何にもなれない人間もいる。
世界は荒れている。あちこちにスラムがある。獣になれる人間の方が生きやすい。
何にもなれない人間は疎ましく思っているが、表立って迫害しようとすると叶わないので事実上は共存している。混ざり合っている。

各地に避難所のような共同生活のための大施設がある。服や食べ物を配ったり、粗末で狭い寝るための場所を提供している。

たまに獣化による事件がある。
強い獣になった人間が暴れ、横暴な要求をしたり、突然大型動物になった人間が錯乱して破壊行動をしたり。
急な獣化により人への戻り方がわからない人もしばしば生じ、元の暮らしに戻れず(とは言ってももとも大した暮らしではないが)露頭に迷うことになる。

獣化はおそらく獣の頭数に応じて起こる。
家畜の出産期になると豚、牛になる人間が急増する。
大概は姿を切り替えられるようになるので生活に問題はないが、獣の姿を得た人間は大概、程度に差はあれその獣を食肉の対象とすることに抵抗を感じ、菜食主義に寄る。また畜産の廃止を求める運動を起こす人もおり、無視できない声の大きさを持ってきている。


ピュリティ、とかいうのが関係しているらしい。名前しか知らない。外の連中はみんなそうだろう。
なんにせよ、あの最高最悪な都市が、目に見えないあらゆるものの根本を歪ませたらしい。
あの中には死がないんだとさ。
目に見えないが時折虹色に歪むあのフィールドが、外と中を強靭に、それこそ原子レベルよりも厳密に隔てている。
ピュリティが少し高いと、ふとした弾みで、近い生命…今んとこは哺乳類らしい…の肉体と重なる。
高いほど、希有な生命に重なることができるらしい。
人は知性体、感情体、肉体で、他の哺乳類は感情体と肉体。肉体はレベルとして最下位で、一番ぶれやすいらしい。直感とは少し異なるが。
いずれも波動で、ぶれるし重なる。
そんだけ。
へー。
理解も想像もできねえな。
ひとまず、現実はある。
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