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砂のセーラー服と僕、そして彼
、そして彼
しおりを挟む妙な日だという予感はあった。
思えば朝のコーヒーだって。いつも通り、贔屓にしている5本目の裏通りの端の店のブレンドを、4年愛用してるひと揃いのドリッパーやらケトルやらで濃いめに入れた。手順に狂いはない。なのにやたら苦くかつ酸っぱいようで、首を捻って飲み干したのだ。
いつもの自動周回バスは、10メートル以内の距離に乗客を認めたら待ってくれるはずだったのに、にべもなく行ってしまった。だがその後改めて調べ直して、行き先に着くには別のバスだと気づいた。
白くてところどころが金属の主張するその建物は遠目から見るよりもより巨大で、ちょっとした冗談みたいにそびえていた。数段の階段を登り、鎮座していると言いたくなるような重厚なエントランスをくぐる。正面はほぼガラスの割に、ちまちま開く自動ドアがもはや可愛らしい。
女性の姿をした自動受付に端末に表示した郵便物の該当箇所を見せる。
3秒ほどの後、彼女は僕の端末に行き先とそこまでのキーを送ってよこした。いってらっしゃいませ、という彼女に形式的に軽く頭を下げ、奥のエレベーターに向かう。
エレベーターは勝手に僕の情報を読んで動き出し、どこかの階に止まった。この建物…国立研究施設特異棟は、外部に対して情報的にも物理的にもほとんど開かれていない。
何もない金属室の壁に挟まれた細い廊下を行き、突き当たりの扉の前に立つ。
『認証しました』
開かれた扉の向こうは一般的な診療室に見えた。一人、白衣の男が座っている。
「こんにちは」と彼は椅子ごと振り返った。
挨拶を返し、少し戸惑いながら彼の前の椅子に座る。
彼は僕を安心させるように、目尻に皺を浮かべた人の良い笑顔を向けた。
「私は純度測定検査技師のテイラーです。本日の要件は測定ですよね。ではまず、お名前と生年月日を伺ってもよろしいですか」
「レイ・トロント。409年12月6日です」
テイラーはモニターの情報を確認してから再度僕に向き直った。
「はい、ではレイさん。今回が初めての測定ですか?」
「はい」
「今の年齢は…17歳9ヶ月。結構ぎりぎりですね、来てくださって良かったです」
テイラーは親しみ深い笑顔を浮かべた。
「これからあなたを検査室に案内します。検査室内には一人で入ってもらいます。中央に椅子が一脚あるのでそちらに座り、ベルトを装着してください。この辺りの指示はその時にもお伝えします。部屋は全面がマジックミラーなので少し不思議な感じかもしれません。測定を開始すると全面が透過され、部屋の外側に造られたあなたを中心とした球形の空間が見えるようになります。全部で約15000対の、疑似意識を発生させる目を模した測定器が全方向からあなたを観察します。その状態であまり動かず楽にしていただいて、10~30分ほどで私がアナウンスしたら終了です」
15000対の目?不気味に違いない。そう思ったのが伝わったのだろう、テイラーは
「目と言ってもカメラのレンズのようなものです。たくさんの黒い丸です。集合体恐怖症の方の場合は特殊なゴーグルをしたりしますが、そうでなければ意外と大丈夫ですよ。暗いのと球形空間はかなり大きいのとであんまりよく見えません」
と言って安心させるように頷いた。
「以上が検査の概要です。何か質問はありますか?なんでも大丈夫ですよ」
「いえ…特にありません」
「わかりました。では、検査室はこちらです」
「混合ですね」
目の前の研究者の表情からは、困惑と、興奮を押し殺す様子と、公的な存在としての責任感により保たれた落ち着きが読み取れた。
それほど冷静さを欠こうとしていた。
テイラーは、あまりの説明の不足に困惑して相槌を忘れた僕を放ったまま、ディスプレイを忙しなく切り替えて何やら読み取っているようだった。
しばらくーーーーおそらく十数秒ののち、彼は小さく息を吐いてからこちらを向き直った。
「とても、めずらしい」
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