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第五章 ヴェステ王国編
20.動き飛び立つ
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「フレイ、僕は君が心配なんだ…だから、ごめんね…」
フレイリアルが王宮の私室へ戻る道、リーシェライルが手を取り青の間から送っていく。
「お願い…今度君が居なくなったら、僕はもう耐えられないかもしれない…」
そう言って引いていた手に口付けると、フレイリアルが自室の中に入り扉閉まるまで見送る。
そうして、リーシェライルはフレイリアルを幽閉した。
幽閉したと言っても、錠や結界陣作り閉じ込めるわけでもなく…言葉と人で閉じ込める。扉を守るのは大賢者リーシェライルより言い含められた者達。
皆、何らかの失敗を犯し…次が無い者達が言いつけられてフレイリアルの私室の扉を固める。
「王女様…すんません。ワシら王城での職を失ったらもう生きていく場所がないんですぁ…」
扉を守る兵がすがるように願い出る。
「頼みます…此処に居て下さい…貴女さえ、ここに居て下されば私共は無事に暮らしていけるのです」
もう一名も助命嘆願するように跪き頭下げ請願する。
強者により命握られているかの様な行動だった。
リーシェライルはフレイリアルがどの様な状況で動けなくなるか熟知していて実行する。そして時間が空いた時には度々フレイリアルを訪れ、リーシェライル自身が願い求める。
「僕は君が一緒にいてくれない世界には、もう何の魅力も未練も感じないんだ…」
そして秀麗な顔をフレイリアルに寄せ、甘く優しく囁き…乞い願う。
「君だけが僕の心を救ってくれる存在なんだ…」
優しく切ない言葉で神経を痺れさせ感覚を無くし、従わない事への罪悪感を深く刻み込む。
フレイリアルにリーシェライルの放つ甘い毒をじわじわと浸透させ、本来の自分自身の希望が薄れるぐらいに…溺れさせ漬け込み甘美に心を縛り上げる。
「僕は君を決して傷つけない…僕は誰からも傷つけられないけれど、君だけは僕を傷つけられるんだ…」
美しい灰簾魔石色した瞳を向け訴える。
「僕を殺せるのは君だけだよ…」
全てが本心であり、真実入る言葉ゆえにフレイリアルの心に響く。
立ち止まるフレイリアルの心に、野ばらの棘の如く絡み突き刺さり抜けなくなる。
リーシェライルは、フレイリアルをやさしく抱きしめ冷んやりした指を頬に置きそっと撫で繋ぎ止め…止めを刺す。
熱い思いを込めた口付けを送り、柔らかで甘やかな優しい毒を注ぎ込む。
自分本来の心にある希望と、求められ希望に答えようとする自分。
相反する願いは心と体を疲弊させ、フレイリアルはすべてを忘れそうになるぐらいに深く沈んでいく。
魔石を使った薬による強制力でもなく、魔力による拘束力でもなく、物理的に制限されるわけでもない…それなのに今のフレイリアルはインゼルで囚われていた時以上に雁字搦めに捕らわれている。
数日をこの状態で過ごしただけなのに、塔に自由に出入りしていた時と異なり疲弊し心が動かない。
甘い蕀で出来た檻は意志を溶かし志を奪う。
モモハルムアがフレイリアルを訪ねた時、"フレイリアルを出すな” …とは指示されていたが、誰かを入れる事に規制は掛けられていなかった為すんなり部屋へ入ることが出来た。
窓辺に佇むフレイリアルの姿を目にしたとき、幽鬼のように影薄く魂のみでさ迷う者の様な、か弱き様子に驚いた。
「フレイ…リアル様…フレイ…」
モモハルムアにとって、いつの間にか自然に愛称で呼び掛けられるようになった者の1人。気高い雰囲気が、垣根作り…作られてしまうモモハルムアにとって貴重な存在である。
共に過ごした時間は多くないのに、抱き締め労わりたくなるような友…そう思えるような人であり、モモハルムアが心から慕うニュールが守護者契約を結んでいる、エリミア王国第6王女フレイリアル・レクス・リトス。
最初はニュールに守られるフレイリアルが少し羨ましかった。
だけど今、自分の心が望み求めるモノは違うと言うことが分かっている。
『私は守られる人になりたいのではなく、ニュールと一緒にこの方を守る立場で居たい…ニュールもモーイも此所に居ない今、私が守る…』
今この方を目にして湧き上がる、間違いない思いだった。
「モモ…ハルムア様…モモ…?」
此所に人が現れた事を不思議そうに見ていた。
モモハルムアを見つけ認識すると、本当に心から嬉しそうにフレイリアルは邪気なく微笑む。
小動物のように籠に入れ閉じ込め、そこしか場所が無いように思わせ…外から受ける情に容易に喜ぶような状態を作り上げる。
無条件で親愛の情を示し微笑むフレイリアルは、モモハルムアさえも気持ち暖かくし心癒す。
『大賢者様が手の内に抱え閉じ込めておきたくなる気持ちもわかりますわ…』
「…それでも、自由奪い、意志を潰し従わせるこのやり方は間違っています」
自分の意志を伝えるともなくモモハルムアは思い…そして呟く。
リーシェライルの気持ちは理解しつつも、閉じ込め他との繋がり断たせる強引なこのやり方には怒りを覚える。
だけど気持ちを戻すためフレイリアルに厳しめの声で問い掛ける。
「フレイ…フレイリアル様、貴女は此処で何をなさっているのですか? 何をなす訳でもなく此所にいて何となりまして?」
そのモモハルムアの言葉に、フレイリアルは心に押し込めていた自分自身の情けなさ至らなさに口惜しさ…様々な思いが甦る。
モモハルムアはその反応に手応えを感じさらに言葉続ける。
「貴女の知っているリーシェライル様は、この様になっている貴女を放っておく方でしたか?」
その問に首を振るフレイリアル。
「では貴女の大切なリーシェライル様は何処へ行ったのでしょう?」
フレイリアルが目を見開き、モモハルムアを見る。
「貴女がしっかりしなければ、貴女の大切な本当のリーシェライル様が心の何処かに閉じ込められているかもしれないのですよ」
完全に思考が覚醒した。
自分の意志を放棄することは、救える者を奈落の底に埋めてしまうのに匹敵する可能性あると気づく。
意志を取り戻したフレイリアルは、前向き進む力も取り戻しモモハルムアに答える。
「モモ…ありがとう、目が覚めたよ。いつもモモには助け起こしてもらってばかりだね」
「フレイにはいずれ返してもらえるときに返してもらいますのでご安心ください」
元気を取り戻したフレイリアルにモモハルムアは悪戯っぽく答える。
「ちょっと怖いけどモモになら頑張って返すよ」
にへらっと、まるで何事も無かったかのように微笑むフレイリアル。
『何だかんだ最強なのはフレイなのかもしれませんね…』
無意識に巻き込み、全てを引き連れて運命をも薙ぎ倒しそうなフレイリアルの力強さに改めて感心するモモハルムアであった。
フレイリアルが心の活力取り戻した後、ニュールやモーイの近況やリーシェライルの動向などをモモハルムアと共に語り、お互いが知っている内容を摺り合わせた。
「ニュールが魔物と融合し、モーイはお人形…」
モモハルムアはそこまでの情報は得ていなかったようでフレイリアルが告げた内容を繰り返し茫然とする。
美しい紫水晶魔石の瞳に潤みが入る。
「モモ…」
フレイリアルは、モモハルムの悲しみ迷う表情にそれ以上の言葉を掛けられなかった。
「自分の目で確かめてみない事には状況は分かりません…」
そう言葉を絞り出し、自分を鼓舞するようにモモハルムアは更に述べる。
「…それでも、横に立つために前を向き挑戦してみるしかありませんわ」
モモハルムアは進む覚悟をする。
「私は昼に陣に乗りヴェステへ向かいます、フレイは…」
「私も一緒に行かせて!」
モモハルムアの今後の行動に同行したいと、フレイリアルが勢いつけ申し出た。
そして動き始める。
「ご予約のお時間はこちらで間違いないでしょうか?」
「ええ」
そして、名を刻まれた黄玉魔石で出来た認証魔石で確認し、賢者が転移陣ある部屋の扉を開く。
「では、モモアルムア・フエル・リトス様、此方の部屋へお進みください」
そしてモモハルムア達は一歩を踏み出す。
前にインゼルに向かった時のように隠蔽魔力纏いフレイリアルは潜む。
その場所へ至る前に、フレイリアルとモモハルムアは詳細な話し合いをした。
まずフレイリアルが抜け出すことで影響を及ぼす、扉を守る者たちの処遇。
「私が抜け出すと此処の扉を守る者たちが王城から追い出されると言うのです…」
「それは解決できますわ。その方達はまとめて私の家が管理する都市へ移動して頂きます。そうすれば生活には困らないはずですわ」
「ありがとう、モモ…本当に…」
フレイリアルの枷が1つ外れる…モモハルムアの気前の良い対応に感謝するばかりだった。
「でも、大賢者様は多分…甘くないと思います。だから覚悟が必要だと思います」
モモハルムアは、今のリーシェライルへの警戒感高めることを自身とフレイリアルに対し念を押した。
一応の心積もりはしていたつもりだった…。
だけど実際に対峙し、告げられた言葉にモモハルムアは戦慄を覚えた。
「君は僕の敵なの?」
陣のある部屋に入ると、其処には嫣然と輝く笑みを浮かべるリーシェライルが待っていた。
鮮烈な宵闇色の瞳から光を抜き取り闇を濃くした瞳を向け、モモハルムアへ告げる。
「僕からフレイを奪う者は、僕に敵意を向けたとみなすよ…」
その言葉と共にリーシェライルが自身の内から取り出した膨大な青い魔力を纏う、一瞬で空間の温度が下がったように感じた。
その場にいた、陣を管理する賢者が青い顔で膝を折り震えている。
綺麗に微笑みは、雲間に輝く月のように冴えわたり辺りを照らす。
その笑みと対照的に、その場所を生物が生存するに耐えられぬような空間とするためか…と思われるような魔力で圧力生み出し万物を踏み潰す。
防御結界を予め纏うように展開しておいたモモハルムアだが、流石に苦しさ増し苦悶の表情が浮かぶ。
その時、急に圧力消え体が軽くなったとモモハルムアは感じた。
フレイリアルが隠蔽魔力を解きモモハルムアの前に立ちリーシェライルに向かっていた。そして不思議な魔力で空間を仕切る結界のようなモノを展開し、リーシェライルの魔力を遮断した。
「リーシェやめて…」
「何故? 僕が一緒に居て欲しいとお願いしているのに行ってしまうの?」
其処には、子供の様な純粋さ持ち美麗な面差しを曇らせるリーシェライルがいた。
「やっぱり、ニュール達が気になるから行きたい…でもちゃんと帰ってくるから…」
「もう、待つのは嫌なんだ…僕はもうこれ以上耐えられない…」
「本当にすぐだから待っていて…」
ぐずる駄々っ子に言い聞かせるように諭しつつ、転移陣の魔力動かし飛ぼうとするが魔力が動かない。
「!!!」
「フレイがどっか行っちゃいそうだから、止めておいたんだ…」
にんまりと悪戯っ子の様に子供っぽい表情浮かべ笑み、綺麗な顔を歪ませる。
「それに、この空間の魔力と全てを連動しておいたから、無理やり転移陣を動かすと暴走して王宮が消し飛ぶよ…」
「こんなことお止めください!」
モモハルムアも口を挟む。
「君は僕からフレイを奪う敵なんでしょ? 僕からフレイを奪うものはフレイ自身でも許しがたいな…」
モモハルムアには容赦なく冷たい笑みを浮かべ鋭く突きさす視線送り制止する。
まだ魔力は暴走してないが、気持ちが…暴走している。モモハルムアはその寒気するような渦巻く魔力が自分へ向かってきそうなのをフレイリアルの横で眺めるしかなかった。
「…ここに留まってしまったら、私が私でない者になってしまう。だから、リーシェが良く知っている私でいるために、私は行くよ」
フレイリアルは何者にも揺らがぬ決意を述べた。
そして異質な魔力がフレイリアルを中心に広がり、モモハルムアをも包む。
「モモ、行くからね…」
フレイリアルの声掛けにモモハルムアは頷く。
「リーシェ…ちゃんと戻ってくる。何処にいても一緒だから…リーシェは大丈夫だよ。…いつでも大好きだよ」
そうしてフレイリアルは言葉通りヴェステへ向かい消えた…新しく手に入れたフレイリアルの転位によって。
異質な空間築き上げた上でその中からの、他の魔力に干渉しない異質な…転移陣とは違うフレイリアルだけが持つ転位による移動。
そしてリーシェライルは取り残された。
「くっくっくっ…滑稽だな…散々すがり、我儘言い引き留めた挙句、出て行かれちゃうなんて」
魔力を納め、自身に唾棄し自嘲する様に笑う。
「あぁ…本当に全て…全て空っぽだ」
其処には何処かに穴がポッカリと開き、空虚となってしまったリーシェライルが佇むのだった。
フレイリアルが王宮の私室へ戻る道、リーシェライルが手を取り青の間から送っていく。
「お願い…今度君が居なくなったら、僕はもう耐えられないかもしれない…」
そう言って引いていた手に口付けると、フレイリアルが自室の中に入り扉閉まるまで見送る。
そうして、リーシェライルはフレイリアルを幽閉した。
幽閉したと言っても、錠や結界陣作り閉じ込めるわけでもなく…言葉と人で閉じ込める。扉を守るのは大賢者リーシェライルより言い含められた者達。
皆、何らかの失敗を犯し…次が無い者達が言いつけられてフレイリアルの私室の扉を固める。
「王女様…すんません。ワシら王城での職を失ったらもう生きていく場所がないんですぁ…」
扉を守る兵がすがるように願い出る。
「頼みます…此処に居て下さい…貴女さえ、ここに居て下されば私共は無事に暮らしていけるのです」
もう一名も助命嘆願するように跪き頭下げ請願する。
強者により命握られているかの様な行動だった。
リーシェライルはフレイリアルがどの様な状況で動けなくなるか熟知していて実行する。そして時間が空いた時には度々フレイリアルを訪れ、リーシェライル自身が願い求める。
「僕は君が一緒にいてくれない世界には、もう何の魅力も未練も感じないんだ…」
そして秀麗な顔をフレイリアルに寄せ、甘く優しく囁き…乞い願う。
「君だけが僕の心を救ってくれる存在なんだ…」
優しく切ない言葉で神経を痺れさせ感覚を無くし、従わない事への罪悪感を深く刻み込む。
フレイリアルにリーシェライルの放つ甘い毒をじわじわと浸透させ、本来の自分自身の希望が薄れるぐらいに…溺れさせ漬け込み甘美に心を縛り上げる。
「僕は君を決して傷つけない…僕は誰からも傷つけられないけれど、君だけは僕を傷つけられるんだ…」
美しい灰簾魔石色した瞳を向け訴える。
「僕を殺せるのは君だけだよ…」
全てが本心であり、真実入る言葉ゆえにフレイリアルの心に響く。
立ち止まるフレイリアルの心に、野ばらの棘の如く絡み突き刺さり抜けなくなる。
リーシェライルは、フレイリアルをやさしく抱きしめ冷んやりした指を頬に置きそっと撫で繋ぎ止め…止めを刺す。
熱い思いを込めた口付けを送り、柔らかで甘やかな優しい毒を注ぎ込む。
自分本来の心にある希望と、求められ希望に答えようとする自分。
相反する願いは心と体を疲弊させ、フレイリアルはすべてを忘れそうになるぐらいに深く沈んでいく。
魔石を使った薬による強制力でもなく、魔力による拘束力でもなく、物理的に制限されるわけでもない…それなのに今のフレイリアルはインゼルで囚われていた時以上に雁字搦めに捕らわれている。
数日をこの状態で過ごしただけなのに、塔に自由に出入りしていた時と異なり疲弊し心が動かない。
甘い蕀で出来た檻は意志を溶かし志を奪う。
モモハルムアがフレイリアルを訪ねた時、"フレイリアルを出すな” …とは指示されていたが、誰かを入れる事に規制は掛けられていなかった為すんなり部屋へ入ることが出来た。
窓辺に佇むフレイリアルの姿を目にしたとき、幽鬼のように影薄く魂のみでさ迷う者の様な、か弱き様子に驚いた。
「フレイ…リアル様…フレイ…」
モモハルムアにとって、いつの間にか自然に愛称で呼び掛けられるようになった者の1人。気高い雰囲気が、垣根作り…作られてしまうモモハルムアにとって貴重な存在である。
共に過ごした時間は多くないのに、抱き締め労わりたくなるような友…そう思えるような人であり、モモハルムアが心から慕うニュールが守護者契約を結んでいる、エリミア王国第6王女フレイリアル・レクス・リトス。
最初はニュールに守られるフレイリアルが少し羨ましかった。
だけど今、自分の心が望み求めるモノは違うと言うことが分かっている。
『私は守られる人になりたいのではなく、ニュールと一緒にこの方を守る立場で居たい…ニュールもモーイも此所に居ない今、私が守る…』
今この方を目にして湧き上がる、間違いない思いだった。
「モモ…ハルムア様…モモ…?」
此所に人が現れた事を不思議そうに見ていた。
モモハルムアを見つけ認識すると、本当に心から嬉しそうにフレイリアルは邪気なく微笑む。
小動物のように籠に入れ閉じ込め、そこしか場所が無いように思わせ…外から受ける情に容易に喜ぶような状態を作り上げる。
無条件で親愛の情を示し微笑むフレイリアルは、モモハルムアさえも気持ち暖かくし心癒す。
『大賢者様が手の内に抱え閉じ込めておきたくなる気持ちもわかりますわ…』
「…それでも、自由奪い、意志を潰し従わせるこのやり方は間違っています」
自分の意志を伝えるともなくモモハルムアは思い…そして呟く。
リーシェライルの気持ちは理解しつつも、閉じ込め他との繋がり断たせる強引なこのやり方には怒りを覚える。
だけど気持ちを戻すためフレイリアルに厳しめの声で問い掛ける。
「フレイ…フレイリアル様、貴女は此処で何をなさっているのですか? 何をなす訳でもなく此所にいて何となりまして?」
そのモモハルムアの言葉に、フレイリアルは心に押し込めていた自分自身の情けなさ至らなさに口惜しさ…様々な思いが甦る。
モモハルムアはその反応に手応えを感じさらに言葉続ける。
「貴女の知っているリーシェライル様は、この様になっている貴女を放っておく方でしたか?」
その問に首を振るフレイリアル。
「では貴女の大切なリーシェライル様は何処へ行ったのでしょう?」
フレイリアルが目を見開き、モモハルムアを見る。
「貴女がしっかりしなければ、貴女の大切な本当のリーシェライル様が心の何処かに閉じ込められているかもしれないのですよ」
完全に思考が覚醒した。
自分の意志を放棄することは、救える者を奈落の底に埋めてしまうのに匹敵する可能性あると気づく。
意志を取り戻したフレイリアルは、前向き進む力も取り戻しモモハルムアに答える。
「モモ…ありがとう、目が覚めたよ。いつもモモには助け起こしてもらってばかりだね」
「フレイにはいずれ返してもらえるときに返してもらいますのでご安心ください」
元気を取り戻したフレイリアルにモモハルムアは悪戯っぽく答える。
「ちょっと怖いけどモモになら頑張って返すよ」
にへらっと、まるで何事も無かったかのように微笑むフレイリアル。
『何だかんだ最強なのはフレイなのかもしれませんね…』
無意識に巻き込み、全てを引き連れて運命をも薙ぎ倒しそうなフレイリアルの力強さに改めて感心するモモハルムアであった。
フレイリアルが心の活力取り戻した後、ニュールやモーイの近況やリーシェライルの動向などをモモハルムアと共に語り、お互いが知っている内容を摺り合わせた。
「ニュールが魔物と融合し、モーイはお人形…」
モモハルムアはそこまでの情報は得ていなかったようでフレイリアルが告げた内容を繰り返し茫然とする。
美しい紫水晶魔石の瞳に潤みが入る。
「モモ…」
フレイリアルは、モモハルムの悲しみ迷う表情にそれ以上の言葉を掛けられなかった。
「自分の目で確かめてみない事には状況は分かりません…」
そう言葉を絞り出し、自分を鼓舞するようにモモハルムアは更に述べる。
「…それでも、横に立つために前を向き挑戦してみるしかありませんわ」
モモハルムアは進む覚悟をする。
「私は昼に陣に乗りヴェステへ向かいます、フレイは…」
「私も一緒に行かせて!」
モモハルムアの今後の行動に同行したいと、フレイリアルが勢いつけ申し出た。
そして動き始める。
「ご予約のお時間はこちらで間違いないでしょうか?」
「ええ」
そして、名を刻まれた黄玉魔石で出来た認証魔石で確認し、賢者が転移陣ある部屋の扉を開く。
「では、モモアルムア・フエル・リトス様、此方の部屋へお進みください」
そしてモモハルムア達は一歩を踏み出す。
前にインゼルに向かった時のように隠蔽魔力纏いフレイリアルは潜む。
その場所へ至る前に、フレイリアルとモモハルムアは詳細な話し合いをした。
まずフレイリアルが抜け出すことで影響を及ぼす、扉を守る者たちの処遇。
「私が抜け出すと此処の扉を守る者たちが王城から追い出されると言うのです…」
「それは解決できますわ。その方達はまとめて私の家が管理する都市へ移動して頂きます。そうすれば生活には困らないはずですわ」
「ありがとう、モモ…本当に…」
フレイリアルの枷が1つ外れる…モモハルムアの気前の良い対応に感謝するばかりだった。
「でも、大賢者様は多分…甘くないと思います。だから覚悟が必要だと思います」
モモハルムアは、今のリーシェライルへの警戒感高めることを自身とフレイリアルに対し念を押した。
一応の心積もりはしていたつもりだった…。
だけど実際に対峙し、告げられた言葉にモモハルムアは戦慄を覚えた。
「君は僕の敵なの?」
陣のある部屋に入ると、其処には嫣然と輝く笑みを浮かべるリーシェライルが待っていた。
鮮烈な宵闇色の瞳から光を抜き取り闇を濃くした瞳を向け、モモハルムアへ告げる。
「僕からフレイを奪う者は、僕に敵意を向けたとみなすよ…」
その言葉と共にリーシェライルが自身の内から取り出した膨大な青い魔力を纏う、一瞬で空間の温度が下がったように感じた。
その場にいた、陣を管理する賢者が青い顔で膝を折り震えている。
綺麗に微笑みは、雲間に輝く月のように冴えわたり辺りを照らす。
その笑みと対照的に、その場所を生物が生存するに耐えられぬような空間とするためか…と思われるような魔力で圧力生み出し万物を踏み潰す。
防御結界を予め纏うように展開しておいたモモハルムアだが、流石に苦しさ増し苦悶の表情が浮かぶ。
その時、急に圧力消え体が軽くなったとモモハルムアは感じた。
フレイリアルが隠蔽魔力を解きモモハルムアの前に立ちリーシェライルに向かっていた。そして不思議な魔力で空間を仕切る結界のようなモノを展開し、リーシェライルの魔力を遮断した。
「リーシェやめて…」
「何故? 僕が一緒に居て欲しいとお願いしているのに行ってしまうの?」
其処には、子供の様な純粋さ持ち美麗な面差しを曇らせるリーシェライルがいた。
「やっぱり、ニュール達が気になるから行きたい…でもちゃんと帰ってくるから…」
「もう、待つのは嫌なんだ…僕はもうこれ以上耐えられない…」
「本当にすぐだから待っていて…」
ぐずる駄々っ子に言い聞かせるように諭しつつ、転移陣の魔力動かし飛ぼうとするが魔力が動かない。
「!!!」
「フレイがどっか行っちゃいそうだから、止めておいたんだ…」
にんまりと悪戯っ子の様に子供っぽい表情浮かべ笑み、綺麗な顔を歪ませる。
「それに、この空間の魔力と全てを連動しておいたから、無理やり転移陣を動かすと暴走して王宮が消し飛ぶよ…」
「こんなことお止めください!」
モモハルムアも口を挟む。
「君は僕からフレイを奪う敵なんでしょ? 僕からフレイを奪うものはフレイ自身でも許しがたいな…」
モモハルムアには容赦なく冷たい笑みを浮かべ鋭く突きさす視線送り制止する。
まだ魔力は暴走してないが、気持ちが…暴走している。モモハルムアはその寒気するような渦巻く魔力が自分へ向かってきそうなのをフレイリアルの横で眺めるしかなかった。
「…ここに留まってしまったら、私が私でない者になってしまう。だから、リーシェが良く知っている私でいるために、私は行くよ」
フレイリアルは何者にも揺らがぬ決意を述べた。
そして異質な魔力がフレイリアルを中心に広がり、モモハルムアをも包む。
「モモ、行くからね…」
フレイリアルの声掛けにモモハルムアは頷く。
「リーシェ…ちゃんと戻ってくる。何処にいても一緒だから…リーシェは大丈夫だよ。…いつでも大好きだよ」
そうしてフレイリアルは言葉通りヴェステへ向かい消えた…新しく手に入れたフレイリアルの転位によって。
異質な空間築き上げた上でその中からの、他の魔力に干渉しない異質な…転移陣とは違うフレイリアルだけが持つ転位による移動。
そしてリーシェライルは取り残された。
「くっくっくっ…滑稽だな…散々すがり、我儘言い引き留めた挙句、出て行かれちゃうなんて」
魔力を納め、自身に唾棄し自嘲する様に笑う。
「あぁ…本当に全て…全て空っぽだ」
其処には何処かに穴がポッカリと開き、空虚となってしまったリーシェライルが佇むのだった。
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