魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

21.動き始める歯車

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プラーデラにある賢者の塔の遺跡…黄の塔の調べは粗方終了した。

最上層は、塔全体を占める魔石の色合いの名が付くこと多く、その色合いに従って塔の総称として使う色合いも名付けられる事が多いようだ。
黄の塔と名付けられているが、決して全体が黄色に輝くわけではない。

調査で手間取っていたのは地下であり、地下だけは真円状であった。
その広間の壁に扉が配され13の扉がある。
其々の扉毎に錠と封印のための結界陣が施されていた。
開けるだけで難儀だった扉は、その先にある小部屋へと繋がっていて、その中にある様々な物にも更に同様の処置がされていた。

扉のうち7つは資料などが保存される部屋のようで、6つは転移陣を内に持つ部屋であった。
転移陣は2つが復元できないほど物理的に破壊されていたが、1つは修復可能と思われれた。残りの3つは、ヴェステの赤の塔の錠口ポータル、インゼルの白の塔、サルトゥスの緑の塔へ繋がっていると思われる。
上層の塔の作りはエリミアと同じ作りであり、3層…4階に最上層への転移陣が配置されていた。

『エリミアの青の塔にも、地下への入り口が隠されていると言うことだろうか…』

ニュールは塔の構造や機能に関する記憶の記録…情報礎石を検索するが、本能より奥底にあるような記録の閲覧は難しかった。
だが、本能が…その奥底から繋がる見えない深淵から… "事の運びを急ぐべき" そう働きかける思いの様なものを受け取る。

『自分の記録があてにならないんじゃ、探すしかない…』

唯一確認できた "記したモノは存在する" と言う記憶の記録がニュールを動かし、綴られ残るであろう文書による記録を探す…だが見つからない。

『城に運ばれたと言う資料の中か…面倒なのはヴェステへ運ばれた場合か…』

「どちらにせよ一度プラーデラの王宮にも赴かねば…」

確認するように呟くのであった。



白の将軍カルソネラ・ルディアイラは王宮にて王を守るのが第一任務である。
そして、王宮の後背を守る鉄壁の砦…白尾と呼ばれる部分の王宮砦を拠点として活動する。
王は固定した者たちに守られるのを厭うため4将軍で分担し王を守護しているが、本来なら常に付き従い背後に控えていたいと思っていた。自身が一番の忠臣であると自負する。
故に先日の無礼千万極まりない万死に値するような無頼の輩が、自分達が守りを受け持つ時に侵入した事を大変恥じるとともに危惧していた。

『あの様な不心得者を王の至近に行かせてしまったこと、悔いても悔やみきれぬ…』

その方策として信頼できる配下の者と話し合い、対応策のための下調べをしていたが…本日、結果報告が上がってきた。

「調べた所、すぐに連れて来られる、影響持つ関係者は少ないようです」

白の将軍がニュールを排除…又は制御するために有益な人物を探させた調査結果だ。諜報活動に長けた影を今回は使用しなかったので、雑な内容だった。
影が使えないのは、裏切り者となった赤の将軍ディアスティスが率いていた故に信用ならないため…現在、黒の者が引継ぎ確認調整中だ。
思うところはあるが、今は其れ処では無い。

「ヴェステ国内在住者では、親族及び成年時勤務していた砦の唯一の生き残りの女ぐらいです。女は現在タラッサへ出国中のようです。親族は砂漠の民ゆえに移動しながらの生活のようであり、探すのに少々時間がかかります。タラッサにはプラーデラを共に旅した者、及び勤務先の商会長等もいますが、この商会長は戦闘力高く向かないです。エリミアの」

「…条件に会うような者は存在しないのだな」

だらだらと続く報告に思わず遮ってしまった。

「いえっ、全くと言う訳ではなく、不確かな情報ですが…数刻前にエリミアからの陣による渡航申請者の中に、繋がりがあると報告されている者が入っているとの情報がありました」

「ほうっ」

ようやく少し興味を持てるような報告だった。

「昼時の予約ですので、後1つ時ほどで到着になると思われます」

「因みにその情報元は何処だ」

「バルニフィニカ公爵です」

「うん、その情報は有望だ。是非お迎えして、詳しく話を聞かせて頂こう」

指示を出し、王立魔石研究所へと使者を送る。

「予想よりは、良い情報が手に入ったようだ…」

1人その場に残り、ほくそ笑むのであった。



プラーデラともヴェステとも判別つきかねるような辺鄙な荒野…賢者の塔と言われる遺跡が無ければ、人が通ることさえないような場所だった。

そんな場所に、前の週より離れ近づきを繰り返しつつ、荷車襲う程度の武力で細々と攻撃を繰り返すプラーデラの者達がいた。嫌がらせにさえなってないような攻撃に、攻撃している本人達さえ疑問を呈す。

「この攻撃って意味があるのか?」

既に完璧な防御結界陣が組みあがっている塔の周囲で攻撃を繰り返し1の週以上の日数が経過している。繰り返す日常的なものとなった攻撃は、最早攻撃とさえ言えないような腑抜けたモノになっていた。
仕掛ける者達の気が抜けてしまい、言ってはいけない言葉を口にする者が多くなる。

「何か無駄だよな…」

「いやぁ、続ける事に意味がある…的な?」

「でも危険だよな…」

「確かにな、俺たち捨て駒的な?」

この小さな攻撃を命じられ仕掛け続ける者たちの背後に、密かに潜む者が会話に加わる。

「だったら、止めておかない? お前ら自身が少し考えて行動した方が良いかもよ?」

「「「わぁああ!!!」」」

驚き飛び退くプラーデラの兵達。そして塔に向けるべき砲撃を至近に表れた人物へ向ける。

「警告に来ただけなのにそりゃないでしょ?」

あまりに近くからの砲撃と、取り乱し武器振り回し攻撃してくる者達に手加減は…しなかった。

「オレが出るのが一番穏便だと思って出てたんだけどなぁ…」

ミーティは呟く。
周囲からの頻発する攻撃に対処するのが面倒な大物達から押し付けられた…と言うのもあるが、良心…と呼べるようなモノが残っているミーティとしては、小さな攻撃如きで無差別な殲滅は行いたくなかった。
大物達が出てきたら、確実に問答無用で何も聞かずに瞬殺…と言う結果になってしまうからだ。
だから言われるがまま周囲からの続く攻撃に対して、お片付けを引き受けた。
だが、結局結果は変わらなかった。

『そもそも命令下すだけ下して出てこない愚かな上層部を何とかしない限り、こんな所で敵に遭遇しちゃったら攻撃返しちゃうよな…』

その場に佇み、もの語らなくなった者達を見て、末端にいる者の悲哀を悼む…。
鉱山を襲いに来たような明らかに悪意ある敵とは違う上、実力差甚だしいのに…簡単に処理してしまった。
お互い様と言えばお互い様であるが、ミーティは自身の心がそれ以上は感じない魔物になっている事に気づく。

「オレはどうしたかったんだろう…」

答えの出そうもない悩みを抱えるのだった。
戻ってきたミーティの表情と、外の状態感知しニュールが語り掛けるともなく告げる。

「そろそろ行くべきだな」

他の者たちも何処へと尋ねることは無かった。
これから赴く予定のプラーデラ王宮に、ニュールは何か所か終点を登録してあった。

「あの日に登録しておいたのか?」

ミーティが問う。

「あぁ」

短い返事がニュールから戻る。

「用意周到だな」

そのミーティの感嘆の声にピオが答える。

「先を考え準備するのは、戦う者にとっては当然の行動です。逆にそれが出来ずに生き残ってきたことが信じられません」

相変わらずミーティには手厳しいピオ。ミーティはそんな返しを気に留めず、ニュールに再度問う。

「どこに出るの?」

「行けば分かる」

そのミーティの再びの質問への答えと同時に、ニュールが転移陣の起点築く。
無言で陣の上に移動し皆を待ち、皆が乗った瞬間魔力流し転移陣が青く輝く。

「行くのなら正面中央、城のど真ん中ですよね」

嬉々として語るピオの言ったように、転移後に現れた景色は中央広間だった。天井高く、簡素なプラーデラの王宮で唯一の絢爛な場所だ。

「青い不明の輝きが広間にあります!」

近くにいたシシアトクスはその報告から、急ぎ向かう。その光の中に求める者と思われる姿を確認した時に思う。

『定めがやってきた…』

手の中にある運命を握りしめ、喜びを味わう。

『もう1つの運命は手に入らなかったけれど、こちらは我が目の前に降りてきた…』

妄執…と言えるようなそれは、最早自分で手放すことが出来なくなっていた。

『何者かに委ねるのなら、その中にある1つの執着へ…求める者へと繋がり、この命を渡したい』

僅かに残る正常な思考が選択する…自身で描く葬送を求め王は光ある広間中央へ近づく。
王の周囲で見守る、転移陣を体験した事のある者達は動揺する。
予め陣ある場所ではないのに、突如転移陣の青い光が現れた事に驚愕し、実際に転移完了しつつある者達が出現した事に驚嘆する。
あの運命の再開の日に幻想繰り広げられた大広間に、背後に傑物引き連れ葬送司るに相応しき威厳を帯び、その者は現れた。
王はこの成り行きに満足して思う。

『自身の運命を捧げるにふさわしき者と場所…』

転移陣完了した名残の光の中より、先頭に立つニュールだけが王の前に進み出る。
10メルの距離に迫り止まった時、プラーデラ王シシアトクス・バタル・クラースが声を掛ける。

「久しいな…ほんの少し前の事だと言うのに途轍もない日々を過ごしたような気がするよ…」

「もう止めにしないか?」

無表情に…だが平和的な提案をニュールは申し出るが、プラーデラ王によって棄却された。

「私は決着を求めているんだよ…」

若干残る正気が王を突き動かす。
鞘から剣を抜き放ち、抜身の剣を手に下げ一歩ずつニュールへ向かって距離を縮める。相手が応じるとは分からない状態なのに、魔力なしの刀剣による勝負をしかける。
魔力に頼らず成り立とうとする国を率いた、頂点に立つ者の矜持。

確かに意図理解し、しっかりと応じてくれたニュールと渡り合う事はできた。
だが其れは模擬試合…と言うだけで勝負とは言えなかった…。

「お前の華やかな死に場所作る事を、オレに求められても困る…」

ニュールに苦言呈されても立ち止まらない。
必死の攻撃が続く。
シシアトクスは全身に絡みつく糸のように抜け出られない責苦に苛まれ続けていた。周囲を巻き込んでしまっている事も、十分理解していた。
それでも坂道を転がる樽のように、最早止めることは難しかったのだ。

「無意味な殺生は面倒だ…だが立ち塞がると言うのなら最期の望み叶えてやろう…」

片手をゆっくりと上げるニュールの周囲に、体内魔石から導き出された魔力が渦巻く。
相手に向けて手を振り下ろす。すると、その魔力は咄嗟に防御結界作り出したシシアトクスへと移動し、まるごと包み込む。そこに一本の黄緑の輝き放つ、天へ繋がりそうな結界柱が出来上がり閉じ込める。
刹那その柱は狭まり、物体が潰れる音と断末魔の叫びのみ残し、一本の細い赤い柱へと変化し…消えた。

見届けた者はその残忍さに絶句する。
そして、かつて賢王であった者の末路に…誰もが憐れみを覚えた。

王の周囲を取り巻いていた者達の、立ち行かぬ雰囲気…先を見ることなく足踏みする雰囲気が一気に消えた。
憎しみと言う負の感情下ではあるが、一斉に前を向く。

『この者を成敗するまでは国も命も絶やせぬ…』

それは生きるため…前進するための灯となり、このままでは王共々腐り果てたであろう国の中枢を動かす者達の先へ向かう力となり導く。

「願いは叶ったか…」

小さくニュールが呟くのだった。
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