上 下
16 / 30

15.闇の意思に浸り

しおりを挟む
穢れた魔力に切っ掛けを与え、ラオブは自身を器にすべく導いた。
其れ自体が1つの意思持つモノであるかの様に、一斉に動きラオブを目指し…その中へと集約し始める。

「私如きでは、呑み込まれるだけかもしれません…それでも可能性と、貴方が引き受けざるを得ないのではないかと言う2つの希望に掛けます。2つとも願いが弾かれるのなら…自分に運が無かったと諦めます」

ラオブの捻じ曲がった信念は周囲を巻き込み、歪んだ希望を叶えるべく賭けに出る。

闇石が持つ魔力は、死者の意思残る穢れた魔力である。
大概は生物の死後、魔力と意思は分かたれる。

但し強い思い抱き逝った者は魔力の中に思いが残る。良き思いも悪しき思いも…絡みつき、分かたれぬ魔力は執着や指向性を生む。
そして生きている者へ関わろうと纏い付き、掻き乱す。

通常、穢れた魔力は空間に漂い続ける事で意思と魔力が薄まり分離拡散するか、往古の機構に取り込まれるかして循環に戻るのが最良の帰結である。
そして、闇石に取り込まれ、永遠に意思残したまま留まるのが最悪の状態である。
魔石が風化して消滅しない限り、純粋な悪影響持つ力として残るであろう。魔力であるのは変わらないので留まる魔力の利用も可能であるが、穢れを分離せず扱う事は難しい。

魔力が貯蔵されて間もない闇石は、賢者であれば多少の危険と不快感伴うが通常の攻撃魔石と同様に扱える。
だが、魔力多く含むものは一部の者しか扱えない。
更に多くの魔力含む、満ちた状態の闇石は大賢者でも扱いは慎重になる。

大賢者は機構の代わりをなし、分離して意思は意識下の奥底へ流し入れ彼方へ送り、魔力は体内魔石である賢者の石に蓄積する事が出来る。
賢者は器となることは可能であるが、扱う事は難しい。
1名の…器となる者の犠牲を覚悟すれば、魔力に宿る意思を切り離し犠牲者の魂と共に見送り、魔力だけ取り出すことは可能である。
内包者や非内包者ならば、跡形もなく呑み込まれるだけであろう。

ラオブは、この場所で仕掛けることを決めていた…そして、巧みに誘導しミーティだけが此の部屋の中に残る瞬間を狙っていたのだ。

「引き受けるって…何でこんなことしてるんだよ!」

ミーティはラオブに向かって叫んでいた。

「貴方に…責任…と言う…ものを、味わって欲…しかったから…です」

言葉切れ切れに語るラオブ。魔力が集まり苦しさが増しているようだ。

「何で此れが責任に繋がるんだ? それに…だからって、此処でこんなことしなくても…」

「意図…して起こした事…ではなくても、導き…起こしたのなら逃げ…るべきではありません。…受け取った…のなら責任果…たすべきです」

「逃げてなんて…」

「逃…れる…のは美し…くないで…す」

「わっけ分んねぇよ!!」

こうしてラオブと会話している間にも、闇石の魔力がラオブに集約していく…それをミーティは見守るしかできなかった。


この異変に周囲の者達は気付いたが、気付いた時には既に手出しすることが出来ない状態だった。
ラオブはこの転移陣繋がる部屋を巧みに利用し、狭間の空間を作り上げた。それを外界と隔てる結界として利用し、周囲の空間と繋がりを絶ち切っていたのだ。

外界と繋がるのは、ラオブの内に繋がる闇石の力のみ。
周囲が目にした時の光景は、ラオブとミーティが閉じ込められた空間に闇石の力が注ぎ込まれ…ラオブにその力が集約されつつある…と言うものだった。
内からも外からも何が起きているか、お互い見えはするが音は漏れぬようだった。
再度周囲に人が集まり叫んでいるように内からは見えた。


ミーティはこんな状態なのに、目に入ってきたモーイの姿に見とれていた。
黒髪ばかりの樹海の民の中で、光の女神のように輝く金髪と透き通る青い瞳が貫くようにミーティを見つめている。
その表情には、不安以上に信頼のようなものが含まれていた。
こんな状況でも打破する機転や根性がミーティにはあると期待する瞳。

「あぁ、やっぱり奇麗だなぁ…しっかりとモーイに告白して…もっと2人で色々と先に進みたいなぁ…」

呑気さ全開のミーティ…ある意味最強である。
流石にモーイに今の状況で、この心の内が知れたならモーイから飛び蹴りの1つや2つぐらい食らうかもしれない。

「あぁ、もっと前に告白して口付けとか…とか…しとけば良かったなぁ。このままじゃ、無念の思い抱えて闇石と一体化しちまいそうだよ」

こんな状況下で余裕なのか現実逃避なのか…ミーティが思わずぼやきまくる。
未だ穢れた魔力に飲み込まれる事無く苦痛に耐え力を溜め込んでいるラオブだったが、耳にしたミーティの呑気な呟きに苛立ち毒を吐く。

「腹立…たしい!! 随分…と余…裕がある…のだ…な。…お前に先がある…とは思え…ないが…な」

「先へ繋げるか決めるのは自分自身。それこそお前が決めることじゃないよ!」

ミーティはキッパリと意思強く言い切る。

「この状況…打破で…きるものならして…みるが良い!! …取り…入れた穢れ…た力に更に私の…憎悪…を追加し…て進呈しよ…う」

「出来るならソンナモノ貰いたくない!」

ミーティは素直に遠慮してみた。

「腑…抜けが…この…状態で…も逃れようと…するのか!」

「当たり前だよ! 普通、何でオレがっ…て思うでしょ」

「ふっ、そろ…そろ…十分満ち足り…てきた…何とか…意思保ち、お前に…私の手…で…責任取ら…せること…ができて…僥倖よ!!!」

「なんでそんなにオレを恨むの? 何かしたっけ?」

全く身に覚えのない…最近関わり合うことの無かったラオブからの個人的な恨みに思い当たることは無かった。
ラオブが言うように、ミーティが語り部の長である祖母アクテを巻き込み転移陣使った事については、集落の損失になるとは思うし、祖母に対する負い目とはなっていたがラオブは関係ない。
ラオブ自身が直接的な…際立った行動取るような原因が見えなかった。

「…逃げた…時点…で万死に値…する。それにお前が消えれば…記憶…の譲渡の…」

恨み…と言うより、妬み…の可能性をミーティは悟った。
それに、語り部の記憶の継承についても何かある…と言う事も察することが出来た。
ミーティは先へ繋がる道筋目指し、まずラオブの感情揺さぶるために…妬み…から追及していく。

「…もしかしてラオブも此処から逃げたかったの?」

「…!!!」、

一瞬魔力が揺らぎ、強い動揺を感じる。

「わっ…私…は逃げる…よう…な卑怯な…真似はしない!」

強く憤り怒る感情が跳ね返ってきた。
複雑に絡まりあう事情はあると思われるが、妬み…が大きな要因になった事はラオブの態度からも明らかだった。

「気持ち曲げられない程の…遣りたくない事や場所から抜け出ることは、逃げじゃないよ! ラオブだって我慢して留まってそんなんなっちゃうぐらいなら脱出したほうがましだよ!」

「お前の…お前のような…無責任…な者がいるから…!! がはっっ!!!」

ラオブの中の溜まっていた魔力は激しい怒りによって暴走し始める。

「ラオブ!!!」

ラオブは身の内で暴れる魔力が身体の負担となり、倒れ込む。
溜まった魔力を攻撃魔力に変換し放つ前に、穢れた魔力がラオブを飲み込み意識を奪ったのだ。
ラオブの状態は気になるが、これがミーティが目指した状況だった。

「オレには夢も希望もあるんだ! だから周りを巻き込まず切り抜け脱出するために足掻いてみるよ」

そう呟き、汚れた魔力に飲み込まれ闇石そのものになったかのような意識のないラオブの体に近づき手を触れる。

「お前が押し付ける責任はとれないし、お前に討たれてやる気は毛頭ないけどな…! オレが自分で道を決めて進んでいくんだから、お前が望んだ気が晴れる結果は望めないとは思うけど…」

そしてラオブの中にある魔力を動かす。

「その力、希望通り引き受けてやるよ!!」

ミーティは自身の中にラオブの中に溜まっていた穢れた魔力を…導き入れた。

ラオブが意識奪われ倒れたことで、転移陣利用しラオブによって作られていた狭間にできた空間は元の場所に戻る。
ラオブに取り込まれていた穢れた魔力は消え去り、手に持つ闇石からも綺麗さっぱり負の魔力は消えていた。

尤も一度闇に落ちたラオブの心や回路はズタズタに引き裂かれ…意識戻るかさえ危うい。
だが、存在そのものを飲み込まれ肉体ごと消失しても可笑しくない状態からの生還…それだけでも奇跡と言えよう。

ラオブが意識を持ち結界張っている間、結界内は闇石が引き込んだ穢れた魔力で溢れている状態であるのは外からでも確認できていた。

だが、結界が消え…中の者たちが現れたその空間には、一切の穢れた魔力は存在しなかった。
結界が消失する前にミーティは全ての負に傾いた魔力を自身の内へと導き…空間を浄化したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています

榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。 そして運命のあの日。 初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。 余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。 何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。 打ち所が悪くておかしくなったのか? それとも何かの陰謀? はたまた天性のドMなのか? これはグーパンから始まる恋物語である。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...