魔心を持つ大賢者の周りの子~一度出直して来いって本気?

3・T・Orion

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16.2つの内包魔石

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ミーティは暗闇の淵に沈んだラオブを引き戻し、自らは倒れていた。
自身が身代わりとなり、闇石から導きだされる穢れた魔力が持つ執着を一身に引き受けたのだ。
一度導いた繋がりは保たれ、今も溢れ出る穢れた魔力をその身に集め続けている。

しっかりとミーティの中に封じ込められつつある其の魔力は、いつの間にか外からも結界施され…周囲に漏れ出る事なく…人々に影響及ぼさぬ状態になっている。
だが、賢者以上の目を持つ者達は感じ取る。
其所に嫌悪感もよおすような…穢れた…大きな魔力が…ミーティの内側で増え続け蠢くのを…。

「…自ら器となったミーティを聖域へ…浄化の間へ運べ…」

ミーティにより闇石の力に満たされた空間が浄化された後、外から結界施したのはアクテの指示で動く語り部達。
青ざめながらも語り部の長としてアクテは淡々と処理していく。
イラダも我が子が陥っているこの忌むべき状況に悲痛な表情を浮かべながらも、想定されていた事態として速やかに次期語り部の長として役目を果たす。

モーイだけが目の前で起きた現実味のない出来事に呆然としていた。

其所に倒れているのがミーティであるのが未だ信じられなかった。
語り部や語り部補佐が冷静に、指示通り行動しているのを見守るしか出来ない。
まるで意識なき人形に戻ったように、自分の心が切り離され…自分を制御する者が消えたような気分になるのだった。
最後まで残っているモーイにアクテが声をかける。

「まだ終わってない。ミーティのこれから先が続くかは、我ら次第…お前さんが協力することも必須なんじゃ! 例外はないだい」

そして背中をバシリと叩かれモーイは思い出す。

『ミーティは可能性を捨てたりしない。いつでも小さな希望を繋ぎ合わせ、最善を探し出す達人。なら、アタシも決して諦めない…』

モーイも自らの思いを取り戻し、ミーティの意思とアクテの行動に従い動き出す。


ミーティは意識を失った体から得る雑音を捉えながら、意識下で揺蕩う。
そして意識下で耳にした雑音は亡き父の言葉に置き換わる。

「ミーティ…此れは父さんと母さんと3人だけの秘密だよ」

坑道へ父さんと2人で行き、石授けごっこをしていて初めて取り込みが成功した時…父さんと交わした約束。
取り込んだのは青くて黒くて尖っているカッコいい魔石だった。

ミーティの石授けの儀は、4歳になると同時に…母と祖母と集落の語り部に見守られながら、街ではなく…集落で儀式を受けた。
ミーティの母イラダが、集落を去る時にした約束の一つだった。

樹海の中で生活する者は、濃い魔力の影響を受けるため魔石を内包することが当たり前と言われている。特に樹海深部にある集落では、高位魔石を内包する者も多い。
集落での儀式は街で行うのとは少し異なり…必ず一番最初に手に乗せられる魔石がある。其れは集落で一番重要な魔石とされていた。

青黒い魔力を発する空間魔力持つ黒曜魔石…闇石。
それが集落にとって特別な魔石である。

集落が成り立つようになってからずっと同じように行われてきた慣習であり、語り部への適正を見るための儀式。
穢れる前の黒曜魔石を手にし、変化があれば適正あり…と見なされ、次代の語り部としての修行を受けることになる。
変化とは、手にした黒曜魔石の魔力を動かせること…若しくは、黒曜魔石を内包することだ。
黒曜魔石…闇石の内包は滅多に起こらない、百の年に一度と言われる貴重な出来事。

故に、集落より去る者の子は集落での儀式を受けること…それが課された義務であり、能力持つ者の流出を阻止するための手段であった。
もし内包した者が現れたなら…次期語り部の長となることが確定する。


儀式の時、語り部の長であり祖母であるアクテから、直接にミーティの手の上に黒曜魔石を乗せられた。

「さぁ、魔力を動かしてみるだ…」

「これ嫌! 怖い! 違う」

幼いながらも好みのハッキリしているミーティは主張した。

「ほうっ、そうなのか…ではどれが良いんだい?」

「これ!」

ミーティは自ら選んだ魔石を手のひらに置いてもらい、望んだ魔石の魔力を動かし…内包した。
内包したのは柘榴魔石であった。

いわゆる…雑魚魔石とも呼ばれる生活魔石の1種であった。熱を司り攻撃魔石を扱うための親和力を獲得できる魔石の内包である。決して悲観するような魔石では無いし…標準的な力持つ…使い勝手の良い魔石の1つであり、内包できた事を周囲は普通に祝う。
ミーティ達の年には、黒曜魔石に適正のある、魔力動かす者も…内包する者も…現れなかった。
既に70の年程…アクテの内包以来、集落で用意する黒曜魔石を内包する者は皆無である。

ミーティの石授けの儀に父ドムスが参加できなかったのは、ミーティの母イラダとの婚姻が駆け落ちに近いものだったからだ。
ミーティの父ドムスは元はサルトゥス王国の騎士であり、仕事関係で母イラダと出会った。
騎士を辞めスウェルに定住したのは、イラダと結婚し暮らすことを望んだから…。
その為にドムスは共同経営で鉱山主となることを決断し、樹海の住民となる道を選んだのだ。

鉱山主となって4年、ミーティが生まれてから3年。
ミーティがしっかりと坑道を歩けるようになってから、父ドムスは仕事がてら…頻繁に坑道を連れ歩き魔石に触れさせていた。
自分に合った魔石や希望する魔石を内包出来るように導くため、魔石慣らしを行うと言う。貴族の…比較的親馬鹿な者は、石授けの儀の直前まで自身の家で各種魔石用意して子供に触れさせる…と聞いていた。
同様のことを…鉱山関係者の親は、幼い頃から子供を仕事場に連れ歩くことで環境を利用して行うと言う。鉱石のまま魔石に親しませ、慣らしを行うと聞き…ドムスも試すことにしたのだ。
父ドムスは結構な親馬鹿であるようだった。

2の月後にミーティの石授けがある…という頃。
ドムスは鉱山へ赴くが、いつものようにミーティを連れ歩く。
ミーティは時々落ちている魔鉱石の欠片を拾っては手に乗せ、魔力動かす訓練のように力をいれて石授けごっこをしていた。

「父さん…動かない! ボク動かせるのかな?」

6歳ぐらいまでは、余程相性の良い魔石でもない限り普通は魔力を動かせない。徐々に慣れることで、生活魔石なども使えるようになっていく。

「あぁ、感覚掴めるまでは難しいよな。でも色んな魔石に触れてると動かせそうかなっ…て思えるのが出てくるから、ミーティが気に入ったのを色々と試してごらん。魔力が動かなくても内包出来る物はあるから、上手くいったら見せておくれ」

ドムスが鉱石調査の仕事をする同じ場所で、ミーティは転がっている屑魔石で遊ぶ…日常的な行動だった。
ただ、今回来た横穴は、安全性だけ確認できている未知の区域だった。
岩盤そのものは崩落の危険性等も無く、探索では獣や魔物が入り込んでいることもなかったので安心していた。その為、含有する鉱物の内容はあまり気にかけていなかったのだ。

「父さん!!」

ミーティが嬉しそうにドムスに走り寄る。
ドムスは調査中の鉱石から顔を上げミーティを見ると、満面の笑みを浮かべていた。

「ほら見て!! 棘っとしてて格好良い石みつけたらね…出来たの!」

ミーティは嬉しそうに広げた手の中にある魔石の魔力を動かし…手の上の魔石の魔力が流れると…スルリと消えた。

「!!!!」

ドムスは驚愕する…そして自身の浅慮を悔いた。
ミーティが得意げに見せた内包、父は驚き喜んでくれると思っていたのに…喜んでもらえなかった。
そして父ドムスの醸し出す…恐怖のような…落胆のような…無念のような…なんとも言えない雰囲気に、ミーティは少し寂しさを覚える。

「…ボク…できたんだよ?」

「…あぁ、そうだな…凄いぞ! …うんっ、偉かったな!」

父は、心ここに在らずな状態だったが笑顔で応じてくれた。だが何故か複雑な表情で…でも思い直したかの様に、今度は楽しそうな感じでミーティの興味を引くように挑戦…の様な提案を持ち掛ける。

「他にも動かせるのが無いか試してみよう。色々なのを試した方が楽しいだろ! もっと大きくて凄いのがあるかもしれないぞ!! 今度は凄く大きいのとかでも、出来るか試してみような!」

「うん!」

ちょっと楽しそうな父の提案にワクワクして、ミーティは直前に父が見せていた様子など頭から消え去る。

「その黒い石を見つけた所に案内してくれるかい?」

ミーティが案内してくれた場所にあったのは、黒い輝きの中に…青く輝く魔力を持つ黒曜魔石…それは、空間魔力を持つ闇石の原石だった。
幸い、穢れた魔力を含まぬ空の状態のものだった…そうでなければ痕跡が残り、周囲に発覚していたであろう。

大概は魔石内包できればどんな魔石であっても僥倖…と言われることが多い。

だが内包率の高い、樹海の様な場所に住む者や…賢者の塔周囲に建っている王宮に住む上位王族などは、満足のいく魔石でない場合…2種目の内包魔石を探すことがある。
子供のうちなら、1種以上の魔石を内包できることが…極稀にあるのだ。


その日から、ドムスは周囲から親馬鹿っぷりを嘲笑われようが気にせず…多種多様な魔石を集めた。そしてミーティにひたすら触れさせ、魔力を動かし内包出来そうな他の魔石…可能性のある2種目を探していく。

「そんなに簡単願い叶うわけないわよね…」

ミーティを寝かしつけている横で、囁きのような呟きをドムスに向けてもらし…表情曇らせるイラダ。

「自分は逃れたと言うのに、この子に背負わせてしまうんじゃ…親として最低よね…」

苦々しげに…自身の出身である樹海の集落から完全に逃れられてない自身を思い悩むのだった。
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