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58 告白
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執務室に到着した私は、彼と向かい合って座った。
「一体どういうつもりなのか……閣下の口から説明していただきたくて……」
「その話し方をやめるなら説明します」
「……」
ジト目で見ると、彼がクスッと笑った。
私をからかって楽しんでいるかのような笑みだ。
本来なら不敬極まりない行為だが、今回ばかりは仕方が無い。
「……教えてほしいの、どうして私はここにいるのか」
「私が手配したからです」
「私は陛下にここへ送り出されたのだけれど」
「ええ、陛下もこのことは知っています」
ギルバートが満足そうに頷きながら言った。
(エルフレッドが知っているということは……)
「最初から陛下と手を組んでいたというわけね」
「ええ、そういうことになりますね」
ギルバートはエルフレッドと親族であり、臣下の中で唯一王である彼に進言出来る人物だった。
そんな彼なら秘密裏にそのようなやり取りをしていてもおかしくはないだろう。
「……私をここへ連れて来た理由は?」
あえて聞いてみたものの、理由は大方想像がついている。
(仕事が決まるまでギルバートが私の面倒を見る……ということかしら……)
最初ここへ連れて来られたときはだいぶ驚いたけれど、そういうことなら納得がいく。
私の身を案じたエルフレッドが信頼できるギルバートに頼み込んだのだろう。
そんな私の考えを読んだのか、ギルバートが悪戯っぽく笑った。
「リーシャ、貴方は今日からここに住んでいただきます。――もちろん、死ぬまで永遠にです」
「え……」
――死ぬまで永遠に。
その言葉の意味がどれだけ考えても理解出来なかった。
(もしかして……侍女として雇うということ?)
生まれてからずっと公爵家の令嬢として生きてきた女だ。
侍女として働くために必要なスキルなんて無い。
そんなことはギルバートだって分かっているはずだ。
意地悪を言っているのだろうか。
「何を言って……私は平民よ?ずっと居候させるつもり?一刻も早く就職先を見つけないといけないのに……」
「貴方のいるべき場所は私の隣です、――リーシャ」
そう言うと、ギルバートはスッと立ち上がった。
ゆったりとした足取りでこちらまでやってくると、私の前で跪いた。
(え、何!?どういうこと!?)
たじろぐ私の目をじっと見つめ、彼が口を開いた。
――「リーシャ、私と結婚してください」
ギルバートが懐から小さな箱を取り出して開けた。
中で輝きを放っていたのは――
「これは……指輪……?」
「はい、これを取りに行っていて遅くなったんです」
「……」
大きな一粒のダイヤモンドがイエローゴールドに輝くリングを彩っている。
指輪はエルフレッドからも贈られたことがあったが、彼が今持っている物の方がずっと美しく感じるのは何故だろうか。
箱の中で存在感を放っている指輪から目が離せなくなる。
「……本当に急ね」
「……不快でしたか?」
「いいえ、そんなことはないわ」
ブンブンと首を横に振った。
優しい顔の彼を見ると、何だか涙が溢れてきそうになった。
「正気なの?私はバツイチな上に平民よ?他に女性なんていくらでもいるのに……」
「リーシャしか目に入りません」
「……貴方、そんなこと言うタイプの人だったのね」
ギルバートはクスリと笑った。
「受け取ってくれますか?」
「……はい」
コクリと軽く頷くと、指輪を手に取った彼が私の左手の薬指にはめた。
「……すごく綺麗」
「喜んでもらえたようで良かったです、女性に贈り物をするのは初めてなので……」
「あら、本当に初めて?」
「当然ではありませんか、私を疑っているのですか?」
「いいえ、疑ってなんていないわ」
指輪をはめた手でギルバートの手をギュッと握ると、立ち上がって彼に思いきり抱き着いた。
「すっごく嬉しい……こんなに幸せなことは無いわ……」
「私もです……」
彼は私の背中に腕を回して強く抱き締め返した。
しばらく抱き合った後、ギルバートが上半身だけを離し、額を合わせた。
「愛している、リーシャ……」
「ギルバート……」
――そして、そのとき私たちは初めての口付けを交わした。
「一体どういうつもりなのか……閣下の口から説明していただきたくて……」
「その話し方をやめるなら説明します」
「……」
ジト目で見ると、彼がクスッと笑った。
私をからかって楽しんでいるかのような笑みだ。
本来なら不敬極まりない行為だが、今回ばかりは仕方が無い。
「……教えてほしいの、どうして私はここにいるのか」
「私が手配したからです」
「私は陛下にここへ送り出されたのだけれど」
「ええ、陛下もこのことは知っています」
ギルバートが満足そうに頷きながら言った。
(エルフレッドが知っているということは……)
「最初から陛下と手を組んでいたというわけね」
「ええ、そういうことになりますね」
ギルバートはエルフレッドと親族であり、臣下の中で唯一王である彼に進言出来る人物だった。
そんな彼なら秘密裏にそのようなやり取りをしていてもおかしくはないだろう。
「……私をここへ連れて来た理由は?」
あえて聞いてみたものの、理由は大方想像がついている。
(仕事が決まるまでギルバートが私の面倒を見る……ということかしら……)
最初ここへ連れて来られたときはだいぶ驚いたけれど、そういうことなら納得がいく。
私の身を案じたエルフレッドが信頼できるギルバートに頼み込んだのだろう。
そんな私の考えを読んだのか、ギルバートが悪戯っぽく笑った。
「リーシャ、貴方は今日からここに住んでいただきます。――もちろん、死ぬまで永遠にです」
「え……」
――死ぬまで永遠に。
その言葉の意味がどれだけ考えても理解出来なかった。
(もしかして……侍女として雇うということ?)
生まれてからずっと公爵家の令嬢として生きてきた女だ。
侍女として働くために必要なスキルなんて無い。
そんなことはギルバートだって分かっているはずだ。
意地悪を言っているのだろうか。
「何を言って……私は平民よ?ずっと居候させるつもり?一刻も早く就職先を見つけないといけないのに……」
「貴方のいるべき場所は私の隣です、――リーシャ」
そう言うと、ギルバートはスッと立ち上がった。
ゆったりとした足取りでこちらまでやってくると、私の前で跪いた。
(え、何!?どういうこと!?)
たじろぐ私の目をじっと見つめ、彼が口を開いた。
――「リーシャ、私と結婚してください」
ギルバートが懐から小さな箱を取り出して開けた。
中で輝きを放っていたのは――
「これは……指輪……?」
「はい、これを取りに行っていて遅くなったんです」
「……」
大きな一粒のダイヤモンドがイエローゴールドに輝くリングを彩っている。
指輪はエルフレッドからも贈られたことがあったが、彼が今持っている物の方がずっと美しく感じるのは何故だろうか。
箱の中で存在感を放っている指輪から目が離せなくなる。
「……本当に急ね」
「……不快でしたか?」
「いいえ、そんなことはないわ」
ブンブンと首を横に振った。
優しい顔の彼を見ると、何だか涙が溢れてきそうになった。
「正気なの?私はバツイチな上に平民よ?他に女性なんていくらでもいるのに……」
「リーシャしか目に入りません」
「……貴方、そんなこと言うタイプの人だったのね」
ギルバートはクスリと笑った。
「受け取ってくれますか?」
「……はい」
コクリと軽く頷くと、指輪を手に取った彼が私の左手の薬指にはめた。
「……すごく綺麗」
「喜んでもらえたようで良かったです、女性に贈り物をするのは初めてなので……」
「あら、本当に初めて?」
「当然ではありませんか、私を疑っているのですか?」
「いいえ、疑ってなんていないわ」
指輪をはめた手でギルバートの手をギュッと握ると、立ち上がって彼に思いきり抱き着いた。
「すっごく嬉しい……こんなに幸せなことは無いわ……」
「私もです……」
彼は私の背中に腕を回して強く抱き締め返した。
しばらく抱き合った後、ギルバートが上半身だけを離し、額を合わせた。
「愛している、リーシャ……」
「ギルバート……」
――そして、そのとき私たちは初めての口付けを交わした。
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