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28 優しい人
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「――王妃陛下、ヘンリー公爵が陛下にお会いしたいと……」
「公爵が?」
エルフレッドと最後になるであろうお茶をした翌日。
突然、ギルバートが私の元を訪れた。
(どうして彼が急に……)
あんなことがあった後で本当なら誰かと会う気になどなれなかったが、ギルバートには借りもあるため、部屋へ通すことにした。
「――王妃陛下」
「ヘンリー公爵……」
彼はすっかり覇気の無くなった私の顔を見て、心配そうに声をかけた。
「陛下、何かありましたか?」
「……どうして急にそんなことを聞くの?」
「いえ……ただ、エルフレッド……国王陛下の様子が変だったので王妃陛下と何かあったのかと思いまして」
「陛下が……」
ギルバートの話によると、エルフレッドは私と同じで抜け殻のようになっているらしい。
仕事も手に付かず、物思いに耽ることが多くなったと。
意味が分からない。
クロエだけを愛してる彼が、どうしてそのようになるのか。
理由はよく分からないが、ギルバートの真面目な表情からして彼が嘘をついているとも思えない。
(いっそ嘘だった方が気楽だったでしょうに……)
従兄弟として、幼い頃からエルフレッドと親しくしていた彼になら昨日のことを話してもいいだろう。
そう考えた私は、重い口を開いた。
「陛下と……お別れをしたの」
「そうでしたか……だからあんなに落ち込んでいたんですね」
「……」
一人で抱え込むことに限界を感じていたせいか、包み隠すことなく本心を伝えた。
「後悔はしていないわ……陛下に対して悪いとも思わない……むしろ肩の荷が下りた気分よ」
「陛下……」
「あんな人に未練なんて無いわ。あんな、私のことを人間だとも思わないような人……」
一度吐き出したら止まらなかった。
溢れ出しそうになる涙をグッと堪え、ただただ心情を吐露する。
そんな私を、ギルバートは何も言わずにじっと見つめていた。
「王妃陛下は、国王陛下のことを少々誤解していらっしゃる」
「……どうしてそんなことが言えるの?」
私が二度の人生においてどれだけあの人に傷付けられたか。
彼は何も分かっていない。
いや、知らなくて当然だ。
だからこそ、このようなことが言えるのだろう。
「貴方は何も知らないからそんなことが言えるのよ……!」
「――いいえ、他の誰よりも分かっているからおっしゃっているのです」
「え……?」
驚いて顔を上げると、彼が座っている私のすぐ傍まで来ていた。
そして私の肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。
「陛下……運命は……変えられると思います……」
「公爵……」
「そう不安にならないでください。私は陛下の味方ですから。貴方が今回どのような選択をしようとも……」
「……」
生まれて初めて言われた温かい言葉に、目から一筋の涙が流れた。
そしてそれと同時に、彼に抱いていたある疑念が確信へと近付いた。
(今回……もしかして、彼は本当に……)
気付けば、口が勝手に動いていた。
「ねぇ……貴方……もしかして、前世の記憶があるの……?」
「……」
私の問いに、彼は少し黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「――はい、私はこれまで二度の人生を生きてきました」
「……!」
驚きすぎて言葉が出なかった。
私と同じで過去に戻って来た人が他にもいたということが信じられなかったからだ。
「私、聞きたいことがたくさんあるの……!私が死んだ後、陛下が……クロエが……家族たちがどうなったのか……そして、貴方のことも……」
「……」
ギルバートは前回もその前も私よりずっと長生きしていたはずだ。
だからこそ、私が死んだ後の世界についてを知れるかもしれない。
前世のクロエやエルフレッドがどのような結末を迎えたのか。
私にとって残酷なこともたくさんあるだろうが、彼が知っていることは全て知りたかった。
「知りたいですか?貴方が亡くなった後の世界を」
「ええ……ずっと気になっていたの」
「……」
彼は口を噤んだまま、結局私からの質問に答えることは無かった。
「今は……まだ言えません」
「それは一体どういうこと?」
「ですが、いつか必ずお話します……そのときまで待っていてくれませんか……」
「公爵……」
真剣な瞳で真っ直ぐ見つめられ、私はただ頷くことしか出来なかった。
「公爵が?」
エルフレッドと最後になるであろうお茶をした翌日。
突然、ギルバートが私の元を訪れた。
(どうして彼が急に……)
あんなことがあった後で本当なら誰かと会う気になどなれなかったが、ギルバートには借りもあるため、部屋へ通すことにした。
「――王妃陛下」
「ヘンリー公爵……」
彼はすっかり覇気の無くなった私の顔を見て、心配そうに声をかけた。
「陛下、何かありましたか?」
「……どうして急にそんなことを聞くの?」
「いえ……ただ、エルフレッド……国王陛下の様子が変だったので王妃陛下と何かあったのかと思いまして」
「陛下が……」
ギルバートの話によると、エルフレッドは私と同じで抜け殻のようになっているらしい。
仕事も手に付かず、物思いに耽ることが多くなったと。
意味が分からない。
クロエだけを愛してる彼が、どうしてそのようになるのか。
理由はよく分からないが、ギルバートの真面目な表情からして彼が嘘をついているとも思えない。
(いっそ嘘だった方が気楽だったでしょうに……)
従兄弟として、幼い頃からエルフレッドと親しくしていた彼になら昨日のことを話してもいいだろう。
そう考えた私は、重い口を開いた。
「陛下と……お別れをしたの」
「そうでしたか……だからあんなに落ち込んでいたんですね」
「……」
一人で抱え込むことに限界を感じていたせいか、包み隠すことなく本心を伝えた。
「後悔はしていないわ……陛下に対して悪いとも思わない……むしろ肩の荷が下りた気分よ」
「陛下……」
「あんな人に未練なんて無いわ。あんな、私のことを人間だとも思わないような人……」
一度吐き出したら止まらなかった。
溢れ出しそうになる涙をグッと堪え、ただただ心情を吐露する。
そんな私を、ギルバートは何も言わずにじっと見つめていた。
「王妃陛下は、国王陛下のことを少々誤解していらっしゃる」
「……どうしてそんなことが言えるの?」
私が二度の人生においてどれだけあの人に傷付けられたか。
彼は何も分かっていない。
いや、知らなくて当然だ。
だからこそ、このようなことが言えるのだろう。
「貴方は何も知らないからそんなことが言えるのよ……!」
「――いいえ、他の誰よりも分かっているからおっしゃっているのです」
「え……?」
驚いて顔を上げると、彼が座っている私のすぐ傍まで来ていた。
そして私の肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。
「陛下……運命は……変えられると思います……」
「公爵……」
「そう不安にならないでください。私は陛下の味方ですから。貴方が今回どのような選択をしようとも……」
「……」
生まれて初めて言われた温かい言葉に、目から一筋の涙が流れた。
そしてそれと同時に、彼に抱いていたある疑念が確信へと近付いた。
(今回……もしかして、彼は本当に……)
気付けば、口が勝手に動いていた。
「ねぇ……貴方……もしかして、前世の記憶があるの……?」
「……」
私の問いに、彼は少し黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「――はい、私はこれまで二度の人生を生きてきました」
「……!」
驚きすぎて言葉が出なかった。
私と同じで過去に戻って来た人が他にもいたということが信じられなかったからだ。
「私、聞きたいことがたくさんあるの……!私が死んだ後、陛下が……クロエが……家族たちがどうなったのか……そして、貴方のことも……」
「……」
ギルバートは前回もその前も私よりずっと長生きしていたはずだ。
だからこそ、私が死んだ後の世界についてを知れるかもしれない。
前世のクロエやエルフレッドがどのような結末を迎えたのか。
私にとって残酷なこともたくさんあるだろうが、彼が知っていることは全て知りたかった。
「知りたいですか?貴方が亡くなった後の世界を」
「ええ……ずっと気になっていたの」
「……」
彼は口を噤んだまま、結局私からの質問に答えることは無かった。
「今は……まだ言えません」
「それは一体どういうこと?」
「ですが、いつか必ずお話します……そのときまで待っていてくれませんか……」
「公爵……」
真剣な瞳で真っ直ぐ見つめられ、私はただ頷くことしか出来なかった。
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