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13 過去の記憶

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そんなこんなで一週間が経過した。
あれからエルフレッドとクロエにはほとんど会っていない。


お茶会に誘われることは何度かあったか、全て断った。
もう茶会に誘わないでくれと言ったにもかかわらず、何故かクロエは諦めずに私を招待しようとしてくるのだ。
そしてエルフレッドもまた、何度か私の部屋へと訪れた。


(どうして二人ともこうも私に関わってこようとしてくるのかしら……)


毎回毎回断るのにも疲れる。
二人はそのことを不満に思っているかもしれないけれど、他人の目など気にせず、三度目の人生を自由に生きたかった。


(三回目くらい放っておいてほしいわ……)


「王妃様、もうすぐ開かれる舞踏会のドレスはいかがなさいましょう」
「舞踏会……ドレス……」


侍女にそう言われて近いうちに舞踏会が開かれるということを思い出した。
そして、それと同時に私はあることに気が付いた。


(そうだわ……もうすぐ”あの舞踏会”が開かれるんだわ……!)


――過去二度の人生において、私の立場を無くしたあの忌まわしき舞踏会が。






***





クロエが側妃になって三ヶ月が経過した頃。
王宮では国王主催の舞踏会が開催されることとなる。


一度目の人生では、側妃クロエとドレスの色がかぶってしまうというアクシデントが起きた。


『王妃様と側妃様のドレス、かなり似ているわ』
『まぁ、何てこと……!こういうときは身分が下の側妃様が気を遣って別のドレスに変えるべきでは?』
『それが、側妃様のあのドレスは陛下がプレゼントされたものだそうよ』
『あら、でも側妃様にとてもよく似合っているわね』


王が贈ったものであれば、誰も側妃を悪く言えない。
むしろ、側妃より地味なドレスを着ている私を嘲笑する声の方が多かった。


(どうして……どうしてこんなときにまで……!)


それに腹が立った私は、クロエのドレスにワインをかけてしまうのだ。
エルフレッドから贈られたドレスが汚れてしまったことにクロエは涙し、この舞踏会での一件から周囲は私に蔑みの目を向けるようになった。


私の悪評が社交界に広まるようになったのはちょうどこの頃からだった。


二度目の生では、別のドレスを選んだ。
出来るだけ謙虚に生きようと、全てをクロエに譲ったのだ。


しかし、そこでも私は貴族たちの嘲笑の的にされてしまう。


『私のことはお気になさらないで、側妃様と楽しい時間をお過ごしください』


舞踏会が開かれる直前、二人に対してそんなことを言ってしまったせいか、私は会場で惨めな思いをした。
この言葉のせいで私は本当に夫に放っておかれ、壁の花となったのだ。


夫であるエルフレッドは最初のダンスをクロエと踊り、その後もずっと彼女と行動を共にした。
隅で一人ポツンと孤立している私を彼は気にも留めなかった。


(それでも、彼が幸せならと我慢していたけれど……)


今回はそうするつもりは無い。
彼ら二人のことなど全く気にせず、ただ私のことだけを考えていればいい。


どうせどんなに努力したところで、彼の愛が私に向けられることは無いのだから。
それなら少しくらいは好きにしたって良いはずだ。


(それにあんな人とのダンスなんて、こっちからお断りね)


今回は誘われても断ってやる。
そう心に誓った私は、最悪な記憶の残る舞踏会へ向けて動き出した。





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