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朝まで時間もあるから、ゆっくりお休み

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「……んぅ」
「あ、起きた?」

 何か、先程も同じようなやり取りをしたな、と思いつつ、柚希はぼんやりと目を覚ます。

「れいいちさん?」

 声のした方に体を動かそうとしたが、まるで鉛を飲み込んだかのように重怠く、身動ぎひとつできない。
 それでもあれだけ互いの精液や汗でベタベタだった体もシーツもサラリとしていて、処理を嵯峨がやってくれた事に罪悪感やら感動やらの感情が綯交ぜとなる。

「無茶させちゃったね」

 嵯峨は眉尻を下げ、心底すまなそうな顔をしつつも、柚希の髪を優しく撫でてくれる。
 さっきは本当に食われるかと思った。
 それ程に人間としての理性を放棄したような交わりだった。
 故に柚希の体にはかなりのダメージを受けたものの、激しく自分を求めてくれた嵯峨に、今まで以上の愛情がこみ上げていた。

「いいえ。体はちょっと辛いけど、その分、零一さんがオレを愛してくれてるのが、凄くわかったので……」

 正直、気持ちを口にするのは、かなり恥ずかしい。それでもすんなりと言葉が出たのは、嵯峨が自分を見つめる眼差しに愛情があるから。
 目から、表情から、柚希を愛してる、と言ってくれるから。柚希はそれに応えようと思ったのだ。

「柚希は可愛いなぁ。また抱きたくなっちゃうけど、これ以上無理させたら、本当に壊れちゃうからね。まだ雨は降ってるみたいだし、朝まで時間もあるから、ゆっくりお休み」
「ふふ。また体が良くなったら、オレを愛してくださいね、零一さん。……おやすみなさい」

 柚希のさりげない反撃に、嵯峨の顔にはぱっと朱が散る。大人な嵯峨が見せる子供のような表情に、柚希は彼の胸に顔を埋め、そっと目を閉じる。
 疲労のせいか、トロリとした眠りがすぐに訪れ、柚希は夢の世界へと落ちていった。



 嵯峨は柚希が完全に眠ってしまうのを認めてから、そろりとベッドから降り、傍にあったバスローブを羽織る。腰紐を結んでないせいで、鍛えられた肢体や立派な性器が惜しげもなく隙間から晒されているが、嵯峨は気に留める事もなくリビングコーナーのソファへと腰を下ろし、自分のスマートフォンを掴んだ。
 すっ、すっ、と画面に指を滑らせ、アドレスから一人の人物を見つけると、すかさず電話するためタップする。
 多分、向こうも盛んな時間だろうが、今日電話する事は伝えてあるから、そんなに間を置くことなく出てくれるだろう。

 ……と、思っていたのは甘かった。

『何かな、零一』
「何かな、じゃないよ蓮也れんや。かれこれ一時間コールし続けたんだけど?」
『だから言っておいたじゃないか。真唯まいを抱いてる間は電話には出ないって』

 不機嫌に相手に毒づけば、向こうも新婚を理由に言いたい事を返す。
 電話の相手、千賀ちが蓮也は、嵯峨の従兄弟であり、嵯峨が以前居た会社の同僚だった男だ。最近、一目惚れした女性の会社へと専務として入り込み、運良く今嵯峨が居るラブホテルで囲い込みが成功したのち、短期間で婚姻へと持ち込んだ人物である。

『ところで、そっちの首尾は成功したのか?』
「当然。やり方が蓮也と一緒で面白くないけど、ちゃんとその辺りは成功したかな」
『で、相手は寝てるのか?』
「うん。指で一回、寝てる所をナカに三回出して、その後結腸で出したし、柚希もその間に空イキ何度もしちゃったからね。流石に体が休息を求めてるみたいで、今はぐっすり眠ってるよ」
『……俺も大概だと思ってたけど、上には上が居るって納得したわ』

 ふうう、と何故か深い溜息を吐かれ、呆れたような声が耳に入ってくる。これはさりげなくディスられているのだろうか、と嵯峨は眉間に皺を寄せた。

「喧嘩売ってるの、蓮也」
『いや? 抱き潰すの限度をさっくり突破してて驚いてる』

 それを世間では喧嘩を売ってるとは言わないのか、と不機嫌になりつつ、ソファにもたれ脚を組み直す。肌蹴たバスローブの裾が座面へと広がる。

「それで、この間お願いした話なんだけど。向こうの社長は何て言ってた?」

 嵯峨の一言で、蓮也も茶化していた口調を改め、ビジネスマンとしてのものへと変化する。

『ああ、出向してる会社も、派遣会社の方も比較的真面目な社員として評価をしてるようだな。ただ、別のルートで面白い話を耳にしてな』
「面白い話って?」
『あいつ、裏で男女関係なくウリの斡旋をやってるらしい。一般の人間でそんな事をやろうものなら裏の人達が何かしようとするだろうが、どうにも、巧妙に隠してるようだが四次団体の下っ端として在籍してるようだな』
「へえ。それなら潰しても問題ないかな。で、中枢団体はどこ?」
采邑会さいゆうかい。あの人、ああいった売春とか嫌いみたいだから、すぐに処分してくれると思うよ』

 嵯峨は蓮也の言葉に頷き、後の采配を託すと通話を終了させる。

 朝までまだ数時間。
 深く長い吐息を漏らし、嵯峨はソファにもたれて目を閉じた。
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