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Tartathan~タルトタタン 後編
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「でも、いつ帰ってきたの? というか、外にいたメイドがよく通してくれたわよね」
ルーク君の胸をグイグイ押しながら、照れ隠しに質問をしたのだけど。
外には父の命令で待機しているメイドがいる筈。結婚を控えた令嬢と、執事助手とはいえ、男性を二人きりになんてさせないだろう。いったい、どうやってここに現れたのか不思議で、そんな質問をしたら、ルーク君はニヤリと悪巧みをしているような悪い笑みを唇にのせて口を開く。
「ああ、簡単ですよ。空間転移で来たのですから」
「は?」
待って。ちょっと待って。今、空間転移とか言っちゃった?
「え……だって、前はそんな事できなかったわよね?」
「私の話は信用できませんか?」
「信用してないって訳じゃないけど……」
詳しくは知らないけど、ルーク君は膨大な魔力保持者にも拘らず、彼が使ってたのは生活魔法よりも少し高度なものばかりだった。
だからこそ、魔道士の中でも一部の人しか使えない魔法を、ルーク君がこともなげに使ってみせた事に驚きを隠せなかったのだ。
って、ルーク君ってこんなに色気ダダ漏れさせて言うタイプの人だっけ?
外見十代だけど、精神年齢はアラサー越してアラフォーの域まで行ってる私でも、ドキドキしちゃうんですけど!
覗き込んでくるように首を傾げて告げるルーク君の、伏したまつ毛の合間から見える透明な水色の瞳が潤み、何か期待しそうな淡く開いた唇は薄いながらも男性味を感じさせ、顕になった首筋にはらりと一筋の髪が白い肌とコントラストになっていて、もう鼻血でそうなんですが。
これって、好きって欲目も加味されてるのかもしれない……。ああ、もう。
男と女。所詮は他人同士なんだから、本心なんて理解できない。人は絶対裏切るんだから。それに、口に出して訊くなんて、大人の恋愛としてはダメじゃない。
前世の私は、薄々気づきながらも、恋人と自分の後輩が大人の関係になってるのでは、と問いただしもしなかった。ううん、しようとも思わなかった。
勝手に浮気した恋人を恨み、恋人にすり寄った後輩を妬み、ボロボロになった私のこんな運命に巻き込んだ神を謗《そし》り。
この世界に産まれた事に気づいた瞬間、私は恋をすることを諦め、身を心を壊す愛なんて見なかった事にして、今日まで生きてきた。
(ごめん。過去の二人。恋って自分の意思ではどうにもならないね)
前世の言葉に『恋に堕ちる』ってあったけど、今はよく理解できる。
私は、恋をしないとうそぶくその裏で、ずっとルーク君に対して『恋に堕ちて』いたのだ。だけど事実を認めるのが嫌で、私は否定を続け、そうしてルーク君から想いを告げられ、姿がなくなった事により表面上に現れ、私の心を完全に壊してしまった。
「ルーク君」
「はい。クロエお嬢様」
私はつい、と顔を上げて真っ直ぐにルーク君を見つめる。
ルーク君は目を細め、何かを期待するかのように笑みをうっすらと唇に刷いている。
間に流れるのは、これまでの少し距離を置いたかのような義務的な空気ではなく、どこか甘みを含んだそれ。
ドキドキする胸を鎮めるよう手を当てながら口を開く。
「そろそろタルトタタンの続きをしてもいいかな?」
濡れた林檎の水分を吸収するのを見越して、少し固めのタルト生地を捏ねていると、隣に立つルーク君は留守にしていたというのに、これまた慣れた手つきで型に林檎を敷いていく。花が開くように並べる姿に、私はバレないように口元を緩ませる。
(さっきのルーク君の顔……)
私から恋の囁きでもあると思ったらしいルーク君は、止まってしまった作業の続きを促す言葉に、まるで鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くしていた。
普段の冷静沈着な彼にしては、大きな感情の変化を目の当たりにしながらも、のろのろしていたら、外にいるメイドが様子を窺いに来るかもしれないと言えば、ルーク君は「そうですね」と納得を口にしたけど、顔はあからさまに不服に歪んでいたのだった。
「なにを思い出し笑いをしているんですか」
不機嫌が滲む声が隣から聞こえ、私はにっこりと微笑む。
「そんな事ありませんわ。ただ、できれば殿方の方から想いを口にしてくれた方が嬉しいのは、女性全般の切なる願いなのよ?」
基本高貴なる者は、男性側から女性側に向けてプロポーズをするのが主流である。この世界は常に女は待つ存在で、家を守るのが美徳とされている。
まあ、魔王の統治する国では、現王妃が魔王に求婚したとの噂があるけども……。
前世ならちょっと珍しい程度の逆プロポーズも、こちらの世界では醜聞扱いされても仕方ない行動だったりするのだ。
だからこそ、ルーク君への想いに気づいてから、こうして姿を目の当たりにする短い間に、彼から私を求める言葉を期待しているのだけれども。
(なにかきっかけがないと難しいのかしら。長年主従関係だったからね)
ルーク君が並べてくれた林檎の上に伸ばしたタルト生地を乗せ、そのまま温めておいたオーブンへ。焼きあがるまでは人の手は必要ないため、使った器具を洗い終えて、次にお湯を沸かす。
タルト生地が焼けるのにそこまで時間もかからないから、今のうちにお茶の準備をしようと、ルーク君へと振り返った私は、彼の真剣な眼差しに射すくめられてしまった。
「ルーク……くん?」
今まで見たことのない真っ直ぐな視線に、私は息が止まりそうになる。
たまに冷然とした目をしてるのを見たことがあるけど、今のルーク君の眼差しは、瞳の奥に青い炎を燻らせてるような、どこか熱を感じさせるものだった。
「ルー……」
「クロエお嬢様」
「ひゃいっ」
緊張でうまく舌が回らず滑稽な返事をしたら、ふっ、とルーク君は瞳の色を柔らげながらも、私との距離を詰める。そうして、伸びてきた腕が私の体を絡めると、頬にルーク君の鼓動がはっきり聞こえる程密着していた。
ドクドクと聞こえてくる心臓の音は、ルーク君のものなのか私のものなのか分からないくらい、重なり合った鼓動の音色に耳を傾ける。
昔はよくこうやって抱き締めてくれて宥めてくれたっけ……。
いつしかなくなった二人だけの秘密も、お互いの環境が変わっていく内に現在のそっけない距離となってしまっていた。
当時は少し寂しい気持ちになったりもした。もうあんな風に慰めてくれる人がいなくなってしまったから。
だけど、そんな時間がなかったように密接している私とルーク君。
壊れ物に触れるような包む腕。愛おしげに私の髪の中を泳ぐ長い指。耳元で感じる熱い吐息。
恥ずかしいのに、それ以上に嬉しい気持ちでいっぱいになる私。
(ああ……。私は自覚するよりもルーク君の事が好きなんだ)
「クロエ・シャルパンティエ嬢。ずっと貴女が好きです。これからも一緒にいてくれますか?」
「でも……私……、もうじき結婚を……」
「今は、僕が好きか嫌いかだけでいいです。貴女の本当の気持ちを聞かせて」
「私は……」
言ってしまってもいいのだろうか。ルーク君が好きだって。本当は結婚するならルーク君の方がいいって。
「私は、ルーク君が好き、だよ。ずっと一緒にいてくれるなら、ルーク君じゃなきゃ駄目なの。だけど……」
「大丈夫です。貴女の本音をやって聞けて嬉しい」
鼻先に届く嗅ぎ慣れた香りに包まれ、強く強く抱き締められ、幸せを噛み締めていた。
その後、焼けたタルトタタンに手紙を添えて、父に言伝《ことづて》をメイドに頼んだ後、ルーク君の空間転移によって向かったのは黒の王都。
魔族と呼ばれる亜人たちが住まうその光景に、何度か魔力酔いした私はダウンし、数日感ルーク君の自宅で寝込む羽目に。
そう。最初はルーク君の実家に行くものばかりだと思っていた私は、一介の執事見習いである筈の彼が持つには豪邸と称するに相応しい屋敷を見て、思わずルーク君に尋ねてしまっていた。
なんか悪どい事でもしていたの──と。
当然、怒られましたよ。それはもう背中に羅刹を背負って。本気で怖かった……。
なんでも、父はルーク君に元々彼が目指していた王宮魔導士の道を条件に、私とフランツ殿下との引き合わせを提示したそうだ。
まあ、そのあたりはお父様が示唆してたから、彼を責めるつもりはない。
「じゃあ、どうしてシャルパンティエ家を離れたの?」
ルーク君がメイドさんを押しのけて淹れてくれたハーブティーを飲みつつ、なんとなしに質問したんだけど。おや?
なぜかルーク君は口元に手を当てたまま、顔を背けてしまったのです。でも、何か言ってるのかくぐもった小さな声が聞こえ、耳を澄ましていると。
「僕の愛おしい人が誰かの物になるなんて耐えれなかったんです。だから、僕の母の親族を頼って、黒の王に謁見してこの国の魔導師になるよう説得したんです」
ブツブツ言ってたけど、割と重要な内容じゃない!
「つ、つまり、私って黒の王お抱え魔術師の奥さんになるって事!?」
「お、おく……っ!」
私の発言に、ルーク君は声を詰まらせながら顔を林檎のように真っ赤にさせたのでした。
黒の王都随一とされる魔導師ルーク・カタリア侯爵は、冷徹な性格もあることから、氷の魔術師と称されていた傍ら、愛妻家としても有名であった。
隣国では公爵家の令嬢だったという夫人は、カタリア侯爵と駆け落ち状態で黒の王都に来た為、結婚当初は慣れない生活と実家との軋轢で苦労を重ねたそうだが、彼女の作る珍しい菓子はカタリア侯爵家のみならず、黒の王や王妃を虜にしただけでなく、王都中の民にも受け入れられるようになった。
菓子で外交をした夫人は、第一子の誕生を機に両親と和解。隣国のフランツ王とも懇意にするようになったそうだ。
彼女は今、自分を溺愛してくれる夫と、二人の間に産まれた宝物と一緒に幸せに楽しく人生を送るのだった。
ルーク君の胸をグイグイ押しながら、照れ隠しに質問をしたのだけど。
外には父の命令で待機しているメイドがいる筈。結婚を控えた令嬢と、執事助手とはいえ、男性を二人きりになんてさせないだろう。いったい、どうやってここに現れたのか不思議で、そんな質問をしたら、ルーク君はニヤリと悪巧みをしているような悪い笑みを唇にのせて口を開く。
「ああ、簡単ですよ。空間転移で来たのですから」
「は?」
待って。ちょっと待って。今、空間転移とか言っちゃった?
「え……だって、前はそんな事できなかったわよね?」
「私の話は信用できませんか?」
「信用してないって訳じゃないけど……」
詳しくは知らないけど、ルーク君は膨大な魔力保持者にも拘らず、彼が使ってたのは生活魔法よりも少し高度なものばかりだった。
だからこそ、魔道士の中でも一部の人しか使えない魔法を、ルーク君がこともなげに使ってみせた事に驚きを隠せなかったのだ。
って、ルーク君ってこんなに色気ダダ漏れさせて言うタイプの人だっけ?
外見十代だけど、精神年齢はアラサー越してアラフォーの域まで行ってる私でも、ドキドキしちゃうんですけど!
覗き込んでくるように首を傾げて告げるルーク君の、伏したまつ毛の合間から見える透明な水色の瞳が潤み、何か期待しそうな淡く開いた唇は薄いながらも男性味を感じさせ、顕になった首筋にはらりと一筋の髪が白い肌とコントラストになっていて、もう鼻血でそうなんですが。
これって、好きって欲目も加味されてるのかもしれない……。ああ、もう。
男と女。所詮は他人同士なんだから、本心なんて理解できない。人は絶対裏切るんだから。それに、口に出して訊くなんて、大人の恋愛としてはダメじゃない。
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私は、恋をしないとうそぶくその裏で、ずっとルーク君に対して『恋に堕ちて』いたのだ。だけど事実を認めるのが嫌で、私は否定を続け、そうしてルーク君から想いを告げられ、姿がなくなった事により表面上に現れ、私の心を完全に壊してしまった。
「ルーク君」
「はい。クロエお嬢様」
私はつい、と顔を上げて真っ直ぐにルーク君を見つめる。
ルーク君は目を細め、何かを期待するかのように笑みをうっすらと唇に刷いている。
間に流れるのは、これまでの少し距離を置いたかのような義務的な空気ではなく、どこか甘みを含んだそれ。
ドキドキする胸を鎮めるよう手を当てながら口を開く。
「そろそろタルトタタンの続きをしてもいいかな?」
濡れた林檎の水分を吸収するのを見越して、少し固めのタルト生地を捏ねていると、隣に立つルーク君は留守にしていたというのに、これまた慣れた手つきで型に林檎を敷いていく。花が開くように並べる姿に、私はバレないように口元を緩ませる。
(さっきのルーク君の顔……)
私から恋の囁きでもあると思ったらしいルーク君は、止まってしまった作業の続きを促す言葉に、まるで鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くしていた。
普段の冷静沈着な彼にしては、大きな感情の変化を目の当たりにしながらも、のろのろしていたら、外にいるメイドが様子を窺いに来るかもしれないと言えば、ルーク君は「そうですね」と納得を口にしたけど、顔はあからさまに不服に歪んでいたのだった。
「なにを思い出し笑いをしているんですか」
不機嫌が滲む声が隣から聞こえ、私はにっこりと微笑む。
「そんな事ありませんわ。ただ、できれば殿方の方から想いを口にしてくれた方が嬉しいのは、女性全般の切なる願いなのよ?」
基本高貴なる者は、男性側から女性側に向けてプロポーズをするのが主流である。この世界は常に女は待つ存在で、家を守るのが美徳とされている。
まあ、魔王の統治する国では、現王妃が魔王に求婚したとの噂があるけども……。
前世ならちょっと珍しい程度の逆プロポーズも、こちらの世界では醜聞扱いされても仕方ない行動だったりするのだ。
だからこそ、ルーク君への想いに気づいてから、こうして姿を目の当たりにする短い間に、彼から私を求める言葉を期待しているのだけれども。
(なにかきっかけがないと難しいのかしら。長年主従関係だったからね)
ルーク君が並べてくれた林檎の上に伸ばしたタルト生地を乗せ、そのまま温めておいたオーブンへ。焼きあがるまでは人の手は必要ないため、使った器具を洗い終えて、次にお湯を沸かす。
タルト生地が焼けるのにそこまで時間もかからないから、今のうちにお茶の準備をしようと、ルーク君へと振り返った私は、彼の真剣な眼差しに射すくめられてしまった。
「ルーク……くん?」
今まで見たことのない真っ直ぐな視線に、私は息が止まりそうになる。
たまに冷然とした目をしてるのを見たことがあるけど、今のルーク君の眼差しは、瞳の奥に青い炎を燻らせてるような、どこか熱を感じさせるものだった。
「ルー……」
「クロエお嬢様」
「ひゃいっ」
緊張でうまく舌が回らず滑稽な返事をしたら、ふっ、とルーク君は瞳の色を柔らげながらも、私との距離を詰める。そうして、伸びてきた腕が私の体を絡めると、頬にルーク君の鼓動がはっきり聞こえる程密着していた。
ドクドクと聞こえてくる心臓の音は、ルーク君のものなのか私のものなのか分からないくらい、重なり合った鼓動の音色に耳を傾ける。
昔はよくこうやって抱き締めてくれて宥めてくれたっけ……。
いつしかなくなった二人だけの秘密も、お互いの環境が変わっていく内に現在のそっけない距離となってしまっていた。
当時は少し寂しい気持ちになったりもした。もうあんな風に慰めてくれる人がいなくなってしまったから。
だけど、そんな時間がなかったように密接している私とルーク君。
壊れ物に触れるような包む腕。愛おしげに私の髪の中を泳ぐ長い指。耳元で感じる熱い吐息。
恥ずかしいのに、それ以上に嬉しい気持ちでいっぱいになる私。
(ああ……。私は自覚するよりもルーク君の事が好きなんだ)
「クロエ・シャルパンティエ嬢。ずっと貴女が好きです。これからも一緒にいてくれますか?」
「でも……私……、もうじき結婚を……」
「今は、僕が好きか嫌いかだけでいいです。貴女の本当の気持ちを聞かせて」
「私は……」
言ってしまってもいいのだろうか。ルーク君が好きだって。本当は結婚するならルーク君の方がいいって。
「私は、ルーク君が好き、だよ。ずっと一緒にいてくれるなら、ルーク君じゃなきゃ駄目なの。だけど……」
「大丈夫です。貴女の本音をやって聞けて嬉しい」
鼻先に届く嗅ぎ慣れた香りに包まれ、強く強く抱き締められ、幸せを噛み締めていた。
その後、焼けたタルトタタンに手紙を添えて、父に言伝《ことづて》をメイドに頼んだ後、ルーク君の空間転移によって向かったのは黒の王都。
魔族と呼ばれる亜人たちが住まうその光景に、何度か魔力酔いした私はダウンし、数日感ルーク君の自宅で寝込む羽目に。
そう。最初はルーク君の実家に行くものばかりだと思っていた私は、一介の執事見習いである筈の彼が持つには豪邸と称するに相応しい屋敷を見て、思わずルーク君に尋ねてしまっていた。
なんか悪どい事でもしていたの──と。
当然、怒られましたよ。それはもう背中に羅刹を背負って。本気で怖かった……。
なんでも、父はルーク君に元々彼が目指していた王宮魔導士の道を条件に、私とフランツ殿下との引き合わせを提示したそうだ。
まあ、そのあたりはお父様が示唆してたから、彼を責めるつもりはない。
「じゃあ、どうしてシャルパンティエ家を離れたの?」
ルーク君がメイドさんを押しのけて淹れてくれたハーブティーを飲みつつ、なんとなしに質問したんだけど。おや?
なぜかルーク君は口元に手を当てたまま、顔を背けてしまったのです。でも、何か言ってるのかくぐもった小さな声が聞こえ、耳を澄ましていると。
「僕の愛おしい人が誰かの物になるなんて耐えれなかったんです。だから、僕の母の親族を頼って、黒の王に謁見してこの国の魔導師になるよう説得したんです」
ブツブツ言ってたけど、割と重要な内容じゃない!
「つ、つまり、私って黒の王お抱え魔術師の奥さんになるって事!?」
「お、おく……っ!」
私の発言に、ルーク君は声を詰まらせながら顔を林檎のように真っ赤にさせたのでした。
黒の王都随一とされる魔導師ルーク・カタリア侯爵は、冷徹な性格もあることから、氷の魔術師と称されていた傍ら、愛妻家としても有名であった。
隣国では公爵家の令嬢だったという夫人は、カタリア侯爵と駆け落ち状態で黒の王都に来た為、結婚当初は慣れない生活と実家との軋轢で苦労を重ねたそうだが、彼女の作る珍しい菓子はカタリア侯爵家のみならず、黒の王や王妃を虜にしただけでなく、王都中の民にも受け入れられるようになった。
菓子で外交をした夫人は、第一子の誕生を機に両親と和解。隣国のフランツ王とも懇意にするようになったそうだ。
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