お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

文字の大きさ
52 / 128

2-19命をかけた約束をする

しおりを挟む
「ソアン、僕の病気は命には関係がない。だからもしエリクサーを見つけたら、シャールに使ってはいけないだろうか」
「………………リタ様が一つだけお約束してくれたら、私もそうしてもいいと考えています」

 少し長い沈黙の後でソアンはそう言った、どうやら彼女もシャールの境遇には同情しているようだ。だが僕は一体なんの約束をすればいいのだろうか、それは心が弱っている僕でも守れるものなのかが分からなかった。約束というものは大切なものだ、それがたかが口約束でも時には、何をおいても守らなければならないのだ。

「なんだい、僕は何を約束すればいいんだい。ソアン」

 だから僕はソアンに率直に聞いてみた、そうしたらソアンはとても真剣な顔をしていた。そう今から命をかけて戦う剣士のように、今すぐにデビルベアと戦ってこいと言われたかのように、真剣で悲壮な決意を持っていた。ソアンにとってはこの約束が何より重要なものなのだ、そう思わせるような表情でソアンは僕にこう言ってきた。

「決してリタ様はご自分の命を自ら断たない、どうか揺るぐことがない強い決心で、私にそうお約束してください」

 ソアンの言葉には心がこもっていた、僕のことを想ってくれている温かく強い心だ。ソアンはこんな心配していたのだ、僕が心の病気に負けてしまった時に、自ら命を断つ可能性を恐れていたのだ。僕は正直になところ簡単には頷けなかった、確かにこの心の病気のことをよく知らなかった頃に、僕は自分の命を軽く考えて失くしてしまってもいいと思っていたからだ。

 僕の心の病気は今は調子が良いが悪い時には本当に悲観的な想像しかできない、ソアンを僕のつまらない病気につきあわせてしまっている駄目な奴だとか、そもそもこんな心の病気になるなんて心が弱い証拠で元々の僕が駄目なエルフなのだ。そんなことを考えてしまうことがあった、だからソアンは僕に対して約束を求めているのだ、僕自身の意志で自分のこの命を大事にすると僕に言わせたいのだ。

 でも僕はソアンともう一度約束している、ソアンが追いつけないような場所に一人で行かないと約束しているのだ。今度の約束はそれをもっと具体的に言い表したものだった、ソアンの追いつけないような場所、いわゆる世界の大きな光である魂の帰る場所へ一人で行かないというものだ。僕は具体的にそう言われて少し考え込んだ、調子の悪い時の僕は本当に気持ちが落ち込んでしまうからだ。

 でもソアンが僕のことを想っていてくれるのなら、彼女が僕の心配をしてくれているのなら、そんな彼女をおいて一人でどこへも行くわけにはいかなかった。

「……ソアン」
「はい、リタ様」

「僕はやっぱり自分のことが駄目なエルフだと思う時がある、君が心配しているように自分の命を軽視しがちだ」
「そうです、リタ様。でもそれはご病気から起こる気持ちです、今だけの錯覚なのです」

「うん、だから僕自身を戒める意味もこめて、君にこう言わせて欲しい」
「リタ様は私のとても大事なお方です、ですからどんな言葉でも私は受け入れましょう」

 僕はソアンのことをそっと抱きしめた、僕のことを僕よりも理解してくれて、そうして僕を心配してくれる彼女が本当に愛おしかったからだった。僕の小さな養い子はいつの間にこんなに大きくなったのだろう、僕のことを逆に大事にしてくれるくらいにソアンは大きくなっていた。体は小さくてもその温かい心はとても広く寛大だった、それでいて僕がいなくなることに怯えてもいた、僕はそんな彼女が本当に愛おしかった。

「僕は自分の命を粗末にはしない、君の命と同じくらいに大事にすると約束するよ」
「……リタ様。どうか私の命よりも大事にしてください、それが私の幸せでもあるのですから」

「ソアンのことも僕は凄く大事なんだよ、僕にとってソアンはとても大事な存在だ」
「それはっ!? それはとっても嬉しいです。はい、リタ様も私にとって大事な存在なのです」

 僕たちはお互いに大事な存在であることを確かめ合って笑った、ソアンといるとポカポカと温かい気持ちが溢れてきて自然と笑顔になれた。それから帰り道はずっとソアンと手を繋いで歩いた、繋いだ小さな手は温かく僕はそこから勇気を貰えるような気がした。ソアンも楽しそうにお喋りしながら笑っていた、ただ最後にソアンは僕に向かってとても大事な忠告した。

「シャールさんにエリクサーをお譲りになっても構いません、でもリタ様。必ず何かそれに見合うだけの対価を貰ってください」
「エリクサーにつりあうだけの対価か、……それは大きな対価が必要だな。でも相手次第だけど僕に良い考えがあるよ、きっとエリクサーに似合うだけの大きくて素晴らしい対価になる」

 そうやって話し合って僕たちはエリクサーを見つけたらシャールに譲ることにした、他にも障害を抱えている子どもはいっぱいいるが、僕たちの知っている人間たちでそれも子どもで真っ先にエリクサーを必要としているのは彼女だったからだ。他の子どもたちにはとても申し訳ないが、僕たちは神様でも何でもないただのエルフとハーフエルフなのだ。僕たちはその日はダンジョンには行かず、ゆっくりと二人とも体を休ませることにした。その夜は僕はいつも以上にソアンを大切に抱きしめて、それからぐっすりとよく深い眠りに落ちた、夢の中では小さいがとても尊い光を手に入れている自分をみた。

 翌日も僕の体調が良かったのでエリクサー探しを再開した、黄金の本の地図を元にして建物を探して一つずつ調べていった。今日見つかったのは大勢の人々が暮らせるような建物だった、小さな山のように大きく四角くてソアンはマンションみたいと言っていた。沢山の部屋があったので調べるのに時間がかかった、おそらくは部屋の作りからして居住施設だと思っていたが、もしかしてという可能性も僅かにあったから全て調べた。

「リタ様、ここで最後の部屋です」
「時間がかかったね、ソアン」

「はい、シャールさんが心配ですね」
「そのとおりだ、早くジーニャスとも合流したいな」

 思った通りここはただの居住施設だった、風呂や寝室に台所などが各部屋に完備されているが、エリクサーとはなんの関係もない建物だった。僕たちはまた地図に×印をつけてその建物の屋上まで調べた、すると屋上から遠くにだったが剣士たちが集まっているのが見えた。あの剣士たちはジーニャスが連れているものたちに違いなかった、僕たちは出口に行くのを中止してジーニャスと合流しようとした。

 幸いなことに剣士たちは天幕を張って動いていなかった、だから僕たちが半刻の間少し走ればその剣士たちのいるところについた。僕たちはジーニャスとの面談を希望して見張りの剣士に話しかけた、その剣士は一旦天幕の中に入っていって、それからしばらくして僕たちも天幕の中へと通された。そこにはジーニャスとシャールがいた、ジーニャスは椅子にシャールは敷物の上に寝かされていた。

「ジーニャス、お久しぶりです。お話があるのですが……」
「残念だがエルフの民たちよ、お前たちの話を聞いている暇がない」

 久しぶりにあったジーニャスの顔色が悪かった、エテルノのダンジョンにこもって無理をしている、それだけではなさそうな顔をしていた。ジーニャスはそれから僕たちに一方的に話した、相手のことを思いやる彼がそんな話し方をするくらい、そのくらい事態はかなり悪い状況だったのだ。だからジーニャスは僕たちのことを信じて、こんなとんでもない話をしてくれた。

「実はな、これからここに兄上が来る」
「フォルクさんが、それでは!!」

「そうだ、たとえこの大魔法使いの俺がエリクサーを見つけても、シャールにそれを飲ませてやれないということだ」
「それで僕たちはどうしたら、何をしたらいいのですか」

 ジーニャスは僕とソアンの顔を見て、そうして何かを決意したのか真剣な表情で慎重に言葉を紡いだ。それは全く僕たちが予想していなかったことだった、それと同時にとても危険なことでもあった。だがジーニャスには他に方法がなかった、フォルクがジーニャスについて来いと言ってしまえば、その弟であるジーニャスには今のところ逆らう理由が見つけられないのだ。

「リタとソアンよ、このシャールをお前たちと共に連れていってくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

処理中です...