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2-20幼い子どもでも知っている

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「リタとソアンよ、このシャールをお前たちと共に連れていってくれ」
「それは構いませんが、どこへ連れていけばいいのですか」

「領主の館だ、最期くらいは兄上のいない場所で、静かに過ごして欲しいからな」
「なるほど、シャールさんは彼に怯えていましたね」

「正室の母から生まれて兄にとって、同腹の俺はともかくシャールは憎い存在なのさ」
「分かりました、シャールさんを預かります」

 僕はそう言ってシャールさんのところにいった、彼女は力尽きて深い眠りについているようだった。このところずっとエテルノのダンジョンにいたからだろう、僕はとても軽い体のシャールを背負っていくことにした。さぁ早くしなければフォルクがここに来てしまう、だから僕とソアンはジーニャスに見送られて素早く天幕を出てエテルノのダンジョンに戻った。

「俺は途中で何があってもお前たちを咎めない、今のシャールはそのくらい状態が悪いんだ」
「ジーニャス、できるだけ早く領主の館に、彼女を無事に連れていきます」

 ずっと遠くから馬に乗った集団が近づいてくるのが分かった、僕たちはその集団を避けて大きく迂回して出口を目指した。その集団を率いているのがきっとフォルクだからだ、他にあんなに大きな集団はなかった。冒険者たちが組んでいるにしてはその集団は大きすぎた、思っていたとおりに遠くにフォルクの姿が見えた。僕とソアンは決して見つからないように、そう注意しながらエテルノのダンジョンの出口を目指して走った。

「うぅ、……リタしゃん? ……ソアンしゃん……」

 その途中のことだったシャールが気がついたのだ、そして僕とソアンを見てとても驚いていた。でも彼女には僅かに動くだけの体力しか残っていなかった、大きな世界の光に導かれて遠い世界にいつ旅経っても不思議ではなかった。僕は無駄かもしれないと思いながら光の精霊に呼びかけた、今少しでも彼女を救えるのはその精霊しかいなかった。幼い子どもを哀れに思ったのだろうか、僕の呼びかけに光の精霊は応えてくれた。

 そして光の精霊の力がシャールを包み込んだ、するとシャールの顔色が良くなりしっかりと目も覚めたようだった。しかしこれは一時的な治療に過ぎないと光の精霊からそう感じた、シャールの心臓はやはり生まれつきの奇形でどこか問題があるのだ。光の精霊は傷ついたものを癒せるが、最初からある傷ではないものは治せなかった。

「リタさん、ソアンさん、また会えて嬉しいでしゅ」
「ええ、シャール様。僕も貴女にまた会えて嬉しいです」
「私もです、またお会いしたいと思っていました」

「でも、ジーニャスお兄さまはどこれしょ?」
「シャール様を助けるために、まだエテルノのダンジョンをまわっています」
「私たちはシャール様をジーニャスさんから預かりました」

「それでは私はこれからどうなるのでしょ?」
「ジーニャスから無事に貴女を、お家に帰すようにそう言われています」
「シャール様、今は家である領主の館に帰りましょう」

 シャールは幼いなりに僕たちの話を一生懸命に聞いていた、そして納得したのか大人しく僕の背中にしがみついた。僕は再び彼女を背負って立ちあがった、光の精霊はまだ僕についてくれていた。シャールはキラキラと僕とシャールの周囲を舞う光に見入っていた、僕とソアンはそんなシャールを不安にさせないように、それと他の誰かにみつからないように気を配りながら出口に向かった。

 幸いなことに魔物の襲撃を受けることもなく、エテルノのダンジョンの出口までこれた。シャールはそこで一度後ろを振り返っていた、彼女がその時に何を考えていたのかは分からなかった。ジーニャスがシャールにもローブを着せてくれたから、エテルノのダンジョンを出ても僕たちは目立たずに行動できた。そうして、無事にシャールを領主の館まで連れてくることができた。

 入り口の剣士に声をかけてシャールの姿を見せると、すぐに中に通されて執事が僕たちに会いに来た。シャールは僕の背中から降りて、その執事に向かっていき足元に抱き着いた。ジーニャス以外の家族から疎外されているシャールにとって、使用人たちもきっと大事な家族のようなものなのだ。僕たちは役目を果たして帰ろうとしたら、シャールに服を引っ張られて止められた。

「リタさん、ソアンさん、この間の歌と踊りを見せてくだしゃい」

 僕はその時はエテルノのダンジョンに行く格好をしていた、だからハープを持っていなかったのだが、さすがに領主の館だけあってもっと大きなハープが置いてあった。執事や他の使用人たちからもすすめられて僕は以前に歌ったことのある曲を披露した、ソアンはその曲に合わせてシャールの前で元気良く踊ってみせた。僕についてきていた光の精霊も、キラキラと輝いて僕たちの周囲を飛び回った。

「ありがとうございましゅ、リタさん、ソアンさん。私はこの瞬間をきっと一生忘れましぇん」

 僕はそのシャールの言葉を聞いて彼女が自分の病を理解していると分かった、ジーニャスが自分を助けようと努力してくれたことも彼女は分かっていた。そしてジーニャスがシャールを手放したということは、彼のその努力は実らなかったのだと彼女には分かったのだ。たかが5歳だと思ってはいけない、子どもは時に大人よりも鋭い目を持っているのだ。

「シャール様、きっとまたお会いしましょう」
「はい、リタさん。そうしましょ」

「私ともお約束しましょう、シャールさん」
「ええ、ソアンさん。約束れしゅ」

 僕とソアンはシャールとそして領主の館にいる執事や使用人から見送られてそこを去った、こうなったらなんとしてもあの子にはエリクサーが必要だった。不思議なことに光の精霊は僕についてくることなく、シャールの傍に残ったまま精霊の世界に帰らなかった。どうして光の精霊がそんな行動をとったのかは分からなかった、そのくらい精霊たちは気まぐれで僕たちとは考え方が違う存在なのだ。

「ソアン、僕はシャールのために。どうしても、エリクサーが欲しくなったよ」
「ええ、リタ様。私も同じです、あんなに小さな子が自分の死を覚悟しているなんて辛過ぎます」

 そうして僕たちは今日はもう遅くなっていたので宿屋に帰った、いつもどおりに過ごして眠ることになったが、僕は良く眠って翌日も動けるように願いながら眠りについた。僕の病気はいつ症状がでるのかその日になってみないと分からない、だが今はシャールの為に自由に動かせる体が欲しかった。だからできるだけ睡眠をとって体と心を休ませて、次の日もエテルノのダンジョンに行く為に備えた。

 幸いなことに僕の病気の症状は翌日は出なかった、だから僕とソアンはまたエテルノのダンジョンに行くことにした。それは良かったのだが他に気になることができた、宿屋から僕たちのあとをつけてくる人間がいたのだ。僕はソアンに声には出さずに合図して、二人していきなり走りだした。そうしたらその人間もついてきたので、人が滅多に通らない路地に誘い込んでから僕たちは振り向いた。

「どなたです、僕たちに何の用事ですか?」
「チッ、お前に用はない。用があるのはそっちの小娘だ」

「私に!? 私は貴方なんかに用はありません」
「俺にはあるんだよ、ある高貴なお方がお前をご希望なんだ」

 そのセリフを聞いて僕は彼がフォルクの手先の者だと分かった、あのフォルクという男はソアンに執着していた。きっと昨日の領主の館から僕たちはつけられていたのだろう、そう考えていると男がしびれをきらしたのか、ナイフを持って僕のほうに襲い掛かってきた。その動きは決して悪くはなかったが、僕は大剣を持つソアンに素手なら勝つくらいには強い、だから短剣も抜かずにその男の攻撃を避けた。

 そうしてそのまま男自身の力を利用して壁に叩きつけた、男は吟遊詩人の僕が戦えると思っていなかったのかとても驚いていた。だがら思わずだろう落としたナイフを僕に蹴り飛ばされて、それを拾おうとして男は体勢を崩してしまったから、僕にそのまま激しい勢いで近くの壁へ叩きつけられた。僕はその男が持っている情報を聞き出そうとした、このまま街の警備隊につきだしてやっても良かった。

 でもそれ以上に何か男が情報をもっていないか、それがエテルノのダンジョンに関係しないかと思った。それにジーニャスやシャールに害がないか、僕はそのことがとても気になったのだ。

「このまま警備隊につきだしてもいい、きっとフォルクはお前を捨てて放っておくさ」
「うっ、それは止めてくれ!!」

「じゃあ、話せ。僕がお前を警備隊につきださなくてもいい、そんな僕にとって良い話をな」
「フォルク様は!? もうエリクサーのありかを知っている!!」

「……まさかそれはないだろう。エリクサーの場所を知っているなら、もう彼が手にいれているはずだ」
「む、昔からある本に書いてあったんだ、でもそこには今は誰も入れないのさ!!」

 僕は壁に押し付けていた男を一時的に解放した、そして今度はソアンが男に大剣をつきつけて更に話をさせた。ソアンの大剣を見て男は恐怖を感じたのだろう、更に続けてフォルクの情報を喋り続けた。それは僕たちが知らないことだった、僕たち以上にフォルクはエテルノのダンジョンの情報を手に入れていた。おそらくは領主の館に昔からある本、その本を書いた人物に関係があるのだ、きっとエテルノのダンジョンを以前に見つけた者がいたのだ。

「あそこはデビルベアの巣穴なんだ、だからきっとジーニャスは今頃デビルベアの餌さ」
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