37 / 166
37. 面倒臭い男
しおりを挟む塩太郎、1回目の挑戦。
「お前、またしても。俺を舐めてんな!
絶対に、お茶が冷めやらぬ内に、攻略してやんからな!」
塩太郎は、シャンティーに捨て台詞を吐いて、勢い勇んで、20階層の階段フロアーの扉を開ける。
「て、なんじゃ! コイツら!」
扉を開けて、塩太郎の目の前に現れたのは、巨大なアリンコ。
しかも、階層の廊下を埋めつくほどの大軍。
「塩太郎! 素材回収の為、関節を狙えと言いたい所だが、取り敢えず、片っ端から斬り裂いていけ!」
多分、このダンジョンの事を知っていたであろうムネオが、的確な指示を出してくる。
「関節って、関節狙わなくちゃ斬れないのかよ?」
「いや。斬れるぞい! 但し、ジャイアントアントの甲羅は、防具の素材になるから、あまり、傷付けない方が良いという話じゃ!」
「何だ、それ?」
塩太郎的に、アリンコの甲羅が防具になるとは、全く意味が分からない。
まあ、戦国時代の兜に、蟹が付いてたり兜虫やクワガタのような甲殻類の意匠が付いてる兜は見た事あるが、本物の素材を兜に付けてるのは、見た事がない。
「魔物の素材は、冒険者ギルドで売れるんじゃ!
魔物の素材は、中々丈夫じゃからのう!」
「そうなのか?そしたら、出来るだけ関節を狙うようにする!」
塩太郎は、鞘から刀を抜き、波のように押し寄せてくるジャイアントアントに飛び掛る。
ズザン! ズザン! ズザン!
「どんなもんじゃい!」
塩太郎は、関節を狙い、ジャイアントアントを殺しまくる。
「塩太郎! もっと早くじゃ! それでは、ジャイアントアントの群れにのみこまれるぞい!」
「そんなの、関節狙ってじゃ無理だろ!」
「無理に関節を狙わなくても、良いと言っておる。
そして、この課題は、『犬の肉球』に入団するのに、必ず、通らなければならない道なのじゃ!」
「もしかして、この課題、ムネオさんもやった事有るのかよ!」
「有る。儂の場合は、闘気有りで、一応、このダンジョンを攻略した。
だが、塩太郎のように闘気無しで挑めとは、シャンティー殿には、一度も言われなかったのじゃ……。
多分、儂には、剣の才能無しと判断されたのであろう……」
なんか、ちょっと、寂しそうにムネオが語っている。
「まあ、確かに、闘気有りで戦えば、誤魔化せるよな。
当たれば、アリンコ吹っ飛ぶし。
取り敢えず、やれる所までやってみんよ!」
塩太郎は、ムネオの気持ちを無視するような言葉を返してしまう。
今は、ジャイアントアントに全集中していて、ムネオの気持ちをおもんばかる余裕がないのである。
「塩太郎! 遅い!」
「チッ! 分かってんよ!」
塩太郎は、仕方が無く、関節じゃない所を木刀で斬り裂く。
「ウム。これは売り物にならんな」
ムネオは、何かの意趣返しなのか、関節じゃない所を斬ったジャイアントアントの死体を、邪魔にならない所に蹴飛ばす。
「それは、持って帰らないのかよ!」
「ん? 売り物にならんのでな」
「今まで斬ったアリンコは、大事そうに魔法の鞄にしまってたのに、体を傷をつけたアリンコは、足蹴にするって……」
「ん? そんなもんじゃろ?」
ムネオは不思議な顔をする。
「俺のプライドが許さねーんだよ!
ムネオさん。アンタに、俺が倒したアリンコを、全て、その手に持った魔法の鞄の中に入れて、持って帰らせてやるぜ!」
塩太郎は、勝手に決めて宣言する。
「だが、シャンティー殿に頼まれたのは、100体分の素材だけなんじゃが……。沢山あり過ぎても値崩れしてしまうとか、何とか言われてのう……」
「だとしても、俺はやるぜ!」
「売れ残ってもか?」
「うるせーやい! これは男の意地なんだよ!
無駄だと分かっててもやる!
それが、俺の師匠、吉田松蔭の教え!
ムネオさん。気合いが入った長州男児の生き様、その目に刻み付けてやんぜ!」
塩太郎は、ムネオに向けて宣言する。
「カッハッハッハッハッ! 塩太郎。やはり、お主は、面白い男じゃのう!
あいわかった! お主のバカバカしい生き様、この、ガリム王国 先王ムネオン・ガレリオンが、とくと見てしんぜよう!」
ムネオも、塩太郎の決断を承諾する。
そう。ムネオも、塩太郎と同じく、一々暑苦しい男なのだ。
「フン。バカバカしいは、余計だっちゅーの!」
てな感じで、塩太郎は、シャンティーに言われた課題より難しい選択をして、案の定、5分後に、ジャイアントアントの洪水に巻き込まれて、そのまま絶命したのであった。
ーーー
面白かったら、お気に入り押してね!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
227
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる